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5話 私のことが好きなのかしら?

『キャッ』という声が喉元まで出かかったが、自分の手で咄嗟に口を塞ぐと、なんとか堪えた。

こんな下着姿でエドガーのベッドにいるところを使用人に目撃でもされたら、大変なことになってしまう。


まずは落ち着かないと……。

とりあえず人間には戻れたようね。


自分の体を確認してみるが、うさぎに変身する前のクレアの体に相違無い。

何故かワンピースだけが脱げた状態なので、コルセットにドロワーズという心許ない格好ではあるが。


どうして下着だけは残ったのかしら?

まあ、エドに下着が落ちているのを見られなくて済んだのだから、むしろ助かったのだけど。

そんなことより、問題は変身した原因よね。

でもどう考えてみたってーー


下着姿でいたからだろうか、肌寒さを感じてまたもやくしゃみが出てしまった。


「ックシュン!!」


……やっぱりね。

そうだとは思ったわよ。


クレアはまたしてもモフモフのうさぎの姿に変わっていた。


はぁ。

くしゃみが原因なのは確実だろうけれど、この変身は一体いつまで続くのかしらね。

ーーま、戻れるならいいか。


前向きなクレアは考えるのを止めると、花瓶に飾ってあった花についている葉っぱをブチッと1枚拝借する。

この葉で鼻をモゾモゾすれば、いつでもくしゃみが出来て人間に戻れるという寸法だ。


ふっふっふ、これで自由自在に人間とうさぎを行ったり来たり出来るってわけよ。

私って天才!


しかし、使用人には見つかりたくない為、しばらくの間トイレの時以外はうさぎの姿で過ごすことにした。


からくりは全く理解できないものの、うさぎに変身するきっかけがわかり、一時的でも戻る方法が見つかったことに気を良くしたクレアは、退屈凌ぎに屋敷内を探検することにした。

ピョコピョコと移動していると、クレアを目にしたマクレーン家の侍女や庭師などが寄ってきて、すぐに囲まれてしまった。

白いうさぎのクレアは、いつの間にかマクレーンのアイドルになっているようだ。


「『うさ様』と言うのですって! モフモフで可愛らしいわ~」

「赤い瞳だからか、クレア様にソックリなうさぎだな。これはエドガー様も放っておけないわけだ」

「それはそうよ。ずっと大切に思っていらっしゃるんだから。クレア様が早く見つかるといいんだけど」

「大丈夫だ。クレア様を無事に発見して、若奥様としてお迎えする日が待ち遠しいな」


はいぃ?

私、エドに大切に思われているの?

いつも揶揄われては、言い返しての繰り返しなのだけど。

まあ、幼馴染みとして少しは気を遣われているのかもしれないわね。

それにしても、屋敷の人たちまで妥協して、幼馴染みの私と結婚させようとしているとは……。


勝手に解釈すると、またエドガーの部屋に戻ってきた。

やはりいつくしゃみが出るかと思うと気が気でなく、ゆっくり楽しめなかったのだ。

せめて戻った時に下着姿でなければまだ良かったのに。


ふぅ~。

しばらくはエドの部屋でのんびりしましょうか。

……ん?

あのカーテンは何かしら?


ふとデスクの後ろ、部屋の奥の片隅にカーテンで不自然に目隠しをされ、仕切られている箇所を発見してしまった。


あんなところに、隠し部屋?

エドにはきっと変な趣味とか収集癖があって、こっそり隠しているに違いないわ。

こんなの見るしかないじゃない。

そして、これをネタにエドを揶揄うのよ!


好奇心から心が弾み、実際ピョンピョン跳ねながらカーテンの下へと潜り込む。

口に咥えて布を横に移動すれば、カーテンが開いて隠されていた物が露わになった。


そこはガラスがはめられた飾り棚になっていて、クレアの目の前の一番下の段には、綺麗に畳まれた包装紙とリボンがいくつも重ねてあるのが見える。


エドにとって特別な物が仕舞われた棚なのかしら?

でもこの包装紙とリボンには見覚えがあるわね。

下の方の包装紙なんて、かなり昔に見たような……。


少し棚と距離をとり、上の方を眺めると、棚の中身がはっきりと確認出来た。


あ!

あのくまのぬいぐるみは、まだ子供の時に誕生日プレゼントとして私が贈ったものじゃない?

その下の似顔絵は、昔ふざけてエドを描いてあげたものだと思うし、図鑑は街でお揃いで買った記憶があるわね。


あれもこれも、クレアの思い出の中にも残る、見知った物ばかりだった。


なんでこんなところに懐かしの品々をまとめて仕舞っているのかしら?

古い物まで綺麗にとってあるし。

エドはああ見えて物持ちがいいのよね。

プレゼントに使われた包装紙まで律儀に保管してあるなんて。


しかし、自分が関わった物を大事に扱ってくれていることは単純に嬉しかった。

エドガーは自分が考えている以上に、クレアのことを大切に思ってくれているのかもしれない。


もうっ、少しは私自身にも普段からわかりやすい優しさを見せてくれたらいいのに。

そしたら私だってエドにときめいて、結婚相手として意識してたかもしれなーーん?

もしかして、エドって少しは私のことが好きなのかしら?


…………キャーーーッ!!


白いモフモフの頭が、ボフンと一気に赤く染まった気がした。

湯気まで立っているかもしれない。


どうする? どうしたらいいの?

いやいや、落ち着いて!

あのエドだもの、私の妄想なだけでそんな訳がないじゃない。

……でもお嫁に貰うって昨晩言ってたわよね?

あれがもし本気だったとしたら?

ああ、なんだか心臓がドキドキして苦しいのだけど、私ったらどうしちゃったのかしら。


異性として見られているかもしれないーー

そう思うだけで、何故か嬉しく感じてしまう自分の心に、クレアは動揺していた。


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