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4話 愛のない結婚はお断り。

うさぎの小さい体だからか、すぐにお腹は満たされた。

ここの家のマフィンは昔から好物なのだ。

ご機嫌になった私とは対照的に、エドガーはデスクの上に広げた地図に何やら印を付けながら、難しい顔をしている。


『怖い顔をして、何を悩んでいるの?』


プーと音を立てると、エドガーはクレアを地図が見える位置まで持ち上げ、思案していた内容を教えてくれた。

動物にもこんなにマメだったとは。

しかも、これだけ意思疎通が図れるなら私がクレアだと気付きそうなものなのに、エドガーはそこには相変わらず気付かずに地図を眺めながら話している。


「今日、ボーデン家を襲った強盗団が逃げ込んだ場所を特定できないかと考えていた。捕らえた奴らにはもちろん騎士団が尋問している最中だが、逃げおおせた奴らを捕まえて、少しでも早くクレアを見つけ出してやりたい」


卓上ランプの揺らぐ光に照らされたエドガーは、光の加減もあってか疲れた顔をしているように見える。


それはそうよね。

強盗と戦って、更に行き先知れずの私を捜し回っていたんだもの。


エドガーが使用人に説明していた内容によると、彼はクレアに騎士学校の卒業を伝える目的でボーデン家に顔を出したところだったらしい。

そこで屋敷が強盗に襲われているのを発見し、すぐさま応戦。

従者に騎士団を呼びに行かせ、クレアが誘拐されたことがわかると、その後は逃げた強盗団を追跡する騎士団に加わり、捜査に参加ーー。

しかしまだ騎士学校を出たばかりで正式な騎士ではない為、早々に帰らされてしまったそうだ。


『なんだかせっかく会いにきてくれたのに、変なことに巻き込んでごめんね。私もどうしたら元に戻れるか真面目に考えてみるから』


クレアはすでに学園の卒業が決まり、後は卒業パーティーを残すのみの退屈な毎日を送っていた。

それもあってか、突然うさぎに変身し、久しぶりに再会したエドガーに構われることを正直楽しく感じてしまっていたのだ。


いけないわよね。

みんなに心配をかけているのに、私ときたら自分ばかり楽しんでしまって……。

ちゃんと元に戻る方法を見つけないとね!!

ーー明日からは。


出先から戻った家族や使用人が心配しているだろうことはわかってはいたが、好奇心旺盛なクレアは、憎まれ口ばかり叩いていた幼馴染みのプライベートを、この機に少しだけ覗いてみたいと思ってしまったのである。


『そんなに思い詰めないで。今日はもう寝たほうがいいのではないかしら? 私が眠くなっただけだけどね』


うさぎの手でエドガーの服の袖口をパシパシしていたら、背後から胸の高さまで抱き上げられてしまった。

顔は見えないが、エドガーからは呆れたような溜め息が聞こえる。


「うさ、お前俺を元気付けようと見せかけて、ただ単に自分が眠くなっただけなんじゃないか?」

『おっしゃる通り! よく見破ったわね。さすがエドよ。さあ、私のベッドを用意してちょうだい』

「ったく。お前のクリクリした赤い目は、クレアにそっくりなんだよ。伝えたいことがすぐわかる」

『あらそう? 私、素直なの』

「ハイハイ、昔から貴族令嬢っぽくなかったもんな」

『失礼ね!』


クレアは背後にいるエドガーに向けて、後ろに足を蹴りあげてやった。


「うわっ、うさはメスなんだからもう少しおしとやかにしないと嫁に行けないぞ?」

『大きなお世話よ! あんたこそお嫁に来てくれる人なんていないくせに!!」


今度は両足でバタバタと蹴りを入れていたら、「よしよし、大人しくしろ」と強く抱き込まれてしまった。


「クレアなら俺が嫁に貰ってやるから安心しろ。うさとも長い付き合いになるんだから、これから仲良くしような」


はぁ?

エドったら何を言い出すのよ!?


クレアが衝撃を受けている間に、エドガーはてきぱきと『うさの寝床』ーー自分のベッドの枕の横に、クッションやタオルで簡易的に作ったものーーを準備し、終わるとシャワーを浴びに部屋を出ていった。

「俺はうさぎ相手に何を言っているんだろうな。早くクレア自身に伝えないと……」などと、ブツブツ独り言を言いながら……。


……ええっ?

エドは本当に私と結婚するつもりなのかしら?

そんな素振り、今まで見せたことなかったじゃない!

あ、お互い独り身だとみっともないから、相手がいない者同士丁度いいってことかしら?

うん、きっとそうに決まってるわ!


作ってもらった寝床はフカフカで気持ちが良かった。

だんだん眠くなってきたクレアは、半分働かない頭で考える。


私は、私のことが好きで堪らない人と結婚するんだから。

愛の無い結婚なんて、断じてお断りよ。

相手が誰でもいいエドとなんか……結婚なんて……してやら……ない……わ……。


気付いたら眠っていたようで、頭を撫でられる感触で目が覚めた。

どうやら朝のようだ。


「おはよう、うさ。俺はもう出かけるからな。餌は置いといたから、勝手に食べろよ。敷地内なら自由に動けるようにしてある。じゃあな」


慌ただしく出ていくエドガーを、フンフン鼻を揺らして見送った。

自由に動けるのはありがたい。

やはり女の子だし、トイレはこっそり済ませたかったからだ。


いつの間にか朝だったわ。

私って、何処でも寝られそうね。

トイレは後でお庭の隅っこを借りるとしてーー朝起きたら人間に戻っているパターンかと思っていたのだけど、予想がはずれたわね。


どこをどう見ても白いモフモフ、うさぎ姿のままである。


今日こそ真面目に戻ることを考えましょう。

……あら?

今気付いたけれど、私はエドのベッドで寝ていたってこと……よね?


なんだか急に恥ずかしくなって、クッションに顔を埋めた矢先、クッションの飾りの紐が触れて鼻がムズムズしてしまう。


『ハックシュン』


俯くようにしてくしゃみをしたクレアは、すぐに異変に気付いた。


見慣れた足が見えるわ。

毛のないいつもの私の足……。


なんとクレアは人間に戻り、あられもない下着姿でエドガーのベッドの上に座っていたのだった。


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