10話 幼馴染みからの甘い告白。
『明日は逃がさない』と昨夜から宣言していた通り、一度覚悟を決めたエドガーに怖いものはないようで、いまだかつてないほどグイグイと攻めてくる。
先手を取られたクレアは、始めからすでに負けているも同然だった。
「俺にとってクレアとの思い出は全て大切だし、クレアが強い男が好きだと言うから、騎士学校にも通って鍛練を重ねた」
え?
確かにアイリーンに軽い気持ちでそんな冗談を言ったことがあったけれど、進路を変えたのは私のせいだったの?
クレアは目を丸くしたが、エドガーは目元を赤く染め、愛情が駄々漏れな熱の籠った瞳でクレアを覗き込んでいる。
クレア以外を映そうとしないその瞳を見れば、いくら鈍感なクレアでもエドガーに愛されていることは理解出来た。
「強い男になるまではと断腸の思いで会わずにいたのに、やっと告白出来ると思って会いに行ったら、服だけ残して消えていたんだぞ? どれだけ俺がショックだったかわかるか? もし俺以外にクレアに触れた奴がいたら、斬り刻んでいたところだ」
エドガーの指に力が籠り、居もしない男に憤っているのが伝わってくる。
思いのほか独占欲が強かったらしい。
「そんなの、言われないと気付けないわ……」
「鈍感なクレアも可愛いから構わない」
キッパリと言い切られ、幼馴染みの甘い豹変にクレアは戸惑うしかなかった。
「でも私、うさぎに変身しちゃうんだよ? そんな気持ち悪い相手なんて嫌でしょ?」
「どこが? クレアは人間でもうさぎでも誰よりも可愛い。今思えば、俺の腕の中で大人しく撫でられていたうさぎがクレアだったなんて、愛おしすぎて震える」
「もう、さっきからずっと何を言っているの? エド、おかしくなっちゃったんじゃない? 私にそんな甘い台詞ばかり言って……」
今まで告白されたこともなければ、エドガー以外の男性と親しく接したことのないクレアに、男らしくなったエドガーの怒濤の口説き文句に付いて行けるはずもなくーー今にも腰が抜けそうで半泣き状態である。
しかし、それは決してクレアがモテなかった訳ではなく、エドガーが目を光らせてクレアを守っていたからに他ならないのだが。
「確かにおかしくなったのかもな。クレアが攫われたと思った時、どうしてもっと早く好きだと伝えて、俺のものにしておかなかったのかと自分を恨んだ。だからこれからは、クレアも覚悟をしておいてくれ」
「な、なんの覚悟よーーっ!!」
「俺に愛される覚悟?」
首をコテンと傾けながら、いけしゃあしゃあと答えるエドガーに、クレアは段々悔しくなってきた。
エドってば、予告も無く一方的に攻め込んでくるなんて卑怯よ!
こんなの騙し討ちじゃないの。
私が黙って愛されるような女だと思ったら大間違いなんだから!!
クレアはテンパりすぎておかしくなっていた。
人生で聞き慣れない口説き文句を、喧嘩友達から過剰に浴びせられたのだから致し方ない。
「なんで私が大人しく愛されなきゃいけないのよ? 私にも結婚相手を選ぶ権利があるのよ!!」
「ふーん。どんな相手がいいんだ?」
「そんなの、私のことが好きで好きで堪らない人よ!!」
「それは……俺だよな?」
はぁっ!?
ーーでも確かにそうかも。
愛の無い結婚なんて嫌だったけれど、愛があるのだったらいいのではないかしら……。
「いやいやいや、そう! 大切なのは私の気持ちよね。私が好きになった人じゃないと駄目よ!」
「クレアは俺のこと好きじゃないのか?」
「思い上がらないでちょうだい。嫌いではないけれど、好きとまでは……」
「『うさ』の姿の時はあんなに懐いていたのに? クレアは好きでもない男から撫でられたり、お菓子を食べさせられたり、同じベッドで寝たり出来るってことか?」
「そんなこと出来るわけないでしょ! 鳥肌が立つわ……」
あら?
じゃあなんでエドなら許せたのかしら?
…………認めたくないけれど、私もエドのことが好き?
そうだわ。
大切に思われて嬉しかったのは、そういうことだったのよ。
……本当に私って鈍感だわ。
「クレア?」
握っていた手を離し、エドガーはクレアの頬を撫でた。
うぅぅ、恥ずかしいわ。
上目遣いでクレアの赤い瞳がエドガーを捉えると、エドガーが息を呑んだのがわかった。
「可愛い……。クレア、大好きだ。好きで好きで仕方ない」
まだ慣れない甘ったるい口調に、クレアも誤魔化すのはやめることにした。
「私もエドが好きよ?」
小さい声で囁くように告げれば、エドガーは理性が弾けたようにクレアを抱き締めた。
「クレア!! 嬉しい。もう離さない。絶対幸せにする!!」
クレアもエドガーの背に腕を回すと、そっと力を込める。
「今度三年も放っておいたら、浮気しちゃうんだから」
照れ隠しでクレアが言うと、エドガーが笑った。
「そんなことするはずがないだろ。もう一日だって手離せないのに。あ、早く式の準備をしないと!」
早速結婚式の計画を立て始めるエドガーに、機嫌良く揺れる狼の尻尾が見える気がして、クレアは苦笑するしかなかった。




