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【問】と【解】

【問】次に使用する歯磨き粉を選べ

作者: うかびぃ

気分転換に。引っ越し作業全然進まなくてしんどい。

 ぶぴょっ


「げっ」


 手元の惨事に思わず声が出た。休日の朝からツイてない。いや、手とかにベットリ付いてるけど。

 なんて馬鹿みたいなことを思いながら、最後であったろう飛び散った歯磨き粉を拭き取ってからしゃこしゃこと歯を磨く。カーテンを開ければ快晴。しかし風が強く窓から見える大きな木がしなっている。


「買い出しめんどくさ」


 脳内に留めておいた買い出しリストに歯磨き粉を追加しながら文句を垂れるが、一人暮らしなので返事などはない。

 クローゼットから服を出してその辺に放り、スマホで電車の遅延情報を確認する。いつも使う路線は強風でしょっちゅう遅延したり運休するのでコマメなチェックが欠かせない。案の定運転見合わせをしていた。


 ピコン


 車で買い出しかと考えていたところに通知音が鳴る。メッセージが届いたようで、見れば懐かしい名前。


『暇』

『仕事は?』

『今日休み』


 平日のこの時間に連絡を寄越すなんてと思って聞けば、風が強くて外の仕事が進められず急遽休みになったらしい。


『昼飯』

『別にいいけど何処で』

『いつものとこ』


 友人が全滅だったんだろう。自分を誘うなんてよっぽどだ。


『了解』


 さて電車を使うのが確定してしまった。駅に到着するまでに運転再開してるといいんだけど。



 ◆◇◆



「おまたせ」


 大幅な遅延だったけどなんとか10分前に到着すれば、改札横で暇そうにスマホをいじる姿が。声を掛けると眠そうな目が自分を捉える。

 途端にブワッと全身が熱くなる。懐かしい思い出が過ぎって泣きたくなったけど、奥歯を噛み締めて耐えた。


「久しぶり」

「うん。1年半とか?」

「いや2年じゃね?」

「そっか。いつものってラーメンでしょ?」

「そう」

「アタシ居なくても1人で良くない?」

「……」


 目的地までの道のりを並んで歩く。意外と続くじゃんなんて思った会話はあっという間に終わってしまった。

 まぁそれもそうだろう。最後に会ったのはこの人が言った恐らく2年前。自分達が破局してから今日まで連絡すらとっていなかったし。

 いつものって言ったって、それは彼がよく行っているというのを知っているだけで自分は一度一緒に行っただけだ。


「……臨時休業…」

「あら残念ね。どうする?」

「んー…なんかある?」

「駅前のカフェでいいなら」


 入り組んだ細道の先にひっそりあるラーメン屋はシャッターが降りていて、でかでかと4文字だけ書かれた紙が風にはためいてる。

 正直このまま解散でも良かったけど、彼にその気は無いようなので来た道を戻る。交際時代待ち合わせに遅れてくる彼を待つ際に使ってたカフェのメニューを思い出してみる。多分彼の食欲を満たす何かはあったはず。


「はいメニュー」

「てんきゅ」


 ランチが始まったばかりの時間だったからか、すんなり案内された席で向かい合ってメニューを覗き込む。距離が近くてどうにも落ち着かない。

 そういえば。今朝使い切ってしまった歯磨き粉、彼のそれと同じだったな。当時彼が泊まりに来た時に使えるようにって買っておいたやつ。別れた後に新品のそれを捨てるのは勿体無くて使い始めて、なんだかんだ今日まで同じものを買い続けていた。


「そんで?なんでアタシに声掛けたの?」

「特に理由はないけど」

「普通何年も前の元カノを誘おうなんて思わないだろうけど」

「元気かなーって。これ見つけたからかな」


 ポケットから出して渡されたのは、いつの間にか無くなっていたお気に入りの指輪だった。社会人になって初めて買った思い入れのあったやつ。無くした当初はだいぶ凹んだけど、そうか、彼の部屋で外した時にそのままだったのか。


「懐かしいなぁ。もう諦めてたし、捨ててくれても良かったのに」

「大事にしてたじゃん。だから」

「…そっか」


 手のひらに置かれた指輪にかつて着けていた指を通す。久しぶりなのにしっくりきてちょっとだけテンションが上がった。


「ねぇ」

「なに?」

「俺達、やり直さない?」


 あっという間に下がってしまったけど。


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