EP 57
試着室で着替えてから、そろりとカーテンの隙間から出る。
「やだあ、似合うじゃない!」
ブラックのドレスの中は補正下着で見れたものじゃないけれど、そのお陰もあってサイズもぴったりで、なんとか着ることができた。
鏡に映る自分の姿。
まだ微ぽっちゃりなのかもしれないけれど、私はそれでも満足だ。ぽっちゃりだったときの自分。みんながそれでも白ちゃんは白ちゃんだよと言ってくれて。
けれど、痩せると決めて一念発起したこと、毎日欠かさず地道にダイエットを頑張ったこと自体が重要で、私はついに頑張った結果がこれなんだと実感すると、じわじわと嬉しみが湧いてきた。
「いーよ!! はい、あごを少し引きながら、目線は斜め上へ。手は階段の手すりに。ゆっくり降りてきて……はいオッケー!!」
撮影は順調に進み、そしてあとはポスター用の撮影を残すのみとなった。
10着目に着替えたポスター用の洋服は、シルク生地のホワイトブラウス、首元にリボン。澄んだ湖のようなペールブルーのスカート。爽やかコーデだ。足はまだ自信がなかったので、ロング丈にしてもらった。
(ビフォーアフターの写真はトレーニングウェアだから足が出るのは仕方がないけど……)
そして、そのままポスター撮影を終え、みんなで画像チェック。ひとつのテーブルの上、パソコンを囲んで、柳田さん、リリさん、監督の星野さん、カメラマンの斉藤さん、そして私。
「わあ、優里ちゃん! すっごく可愛いわよ」
リリさんがパソコンに取り込んだ画像を一枚一枚見ながら、そう言ってくれた。
「な! 思った通りの出来映えだよ。ブラックのドレスも良いねえ。俺の目に狂いはなかった」
「ねえ昴、私のエステサロンでもこのカット使わせてもらってもいいかしら?」
「もちろん、と言いたいところだけど、許可取りは直接優里さんにお願いしないと」
「私は別に大丈夫です……私で良ければ」
映像のテーマは『さなぎから蝶へ』。柳田さんが考えてくれたものだ。
「これにBGMやエフェクトを加えて完成ですよ」
この映像がどんな風に加工されるのか、とても嬉しくて楽しみで。
痩せた自分。頑張った自分。蝶に変身したかもな自分。
(自分には無理だと思っていたことが、みなさんのお陰でこんなにも……)
映像の中の自分を見る。リリさんにウォーキングを教えてもらったためもあるけれど、なかなかに前を向いて堂々と映っている。
じわりと涙が出そうになった。それぐらい、感動していた。
そのとき。
私のビフォーアフターの写真が画面に現れた。構成として、これを最初に持ってこようとの話だった。
「この部分でビフォーアフターの比較画像を入れて……」
ビフォーアフターの画像を使うということは、事前に承知をしていたし、皆で和気あいあいと、こっち向きが良いんじゃない? などと話している中、突然それは遮られた。
星野さんが「アフターの体型にもう少し加工入れましょう」と言ったからだ。
その言葉は、今までの清涼だったはずの流れを一気に変えた。空気が一気に淀みへと変わってしまったのだ。
え? と思ってしまった。
でも直ぐに理解。そうか。自分ではまあまあ痩せたと思っていたけれど、まだまだ加工しないといけないんだな、と。
胸に少しの痛みがあった。