EP 55
倉庫の入り口を見ると、滝沢バナナがこちらへ向かって、つかつかと歩いてくる。
なるほど今日は営業帰りということもあり、スーツ姿か。まあ強イケメンの部類に入れてやるが、容赦はしないからな。
はっと優里さんの顔を見た。まさか目が♡になってはいないだろうか。それを確認しにきたってのもあるからね。
バナナはずんずんとやってきて、俺の正面に座っている社長の隣に、どかっと座った。
俺は、「なぜ出来ないと決めつける?」とクールな姿勢を崩さず、こう問うてやった。
すると。
「おまえは白ちゃんの良いところをぜんっぜん理解していない。白ちゃんの魅力を引き出すことなんか、できないに決まってる」
「まあ、その辺は動画の監督とカメラマンに委ねることになるとは思うが……けれど、この件は白井さんにもOKをもらっているんだ。横から口出ししないでもらいたい」
そう言い切ってから、優里さんの顔をチラッと見た。
よし目は♡になってはいないな、おっk。
「白ちゃんはいいんかよ!? もしかしたら、水着になれとか、ぬぬぬぬヌード(小声)になれとか言われるかもしれねえぞ」
「はあ!? それはない! それはないから安心して?」
俺は急いで訂正した。なんか斜め上からイチャモンつけてくるなあ。イヤミなヤツだ。
俺はさらに畳み掛けた。
「今の時代、そんなことしたら一発でセクハラ退場だっつうの! そんな古臭い考えしかできないバナナは黙っていてくれ」
俺はさっそくストレートにパンチを繰り出した。
「ははっ!! あんた知らないのかよっっ。バナナはな、少し古くなって茶色のシュガースポットが出るころの方が、甘みが増して美味しくなるんだよ」
「それくらい知ってるわっっ」
「なあ白ちゃん、俺、今ね、バナナのごとく追熟してるところなんだ。もう少し、もう少しだけでいい、完熟する俺を見ていてくれないか」
バナナが暴走しやがった!
「たっちゃん、今日はそういう話じゃなくて……」
「そうだそうだ、まだ熟す前の青二才のくせに、黄色になって、さらにシュガーポットが出るまで待てだと!? いったいどういう了見で、優里さんにそんなことを懇願してくるんだ。いい加減にしないか」
「なんだと!? 誰が青二才だって? 俺はもう熟した立派なバナナなんだよっっ」
俺がぎりぃっと睨みを効かせると、滝沢もぎりぃっと睨み返してくる。仁義なき戦いに発展した。
そんな二人の間で、優里さんがオロオロしながら、手で制しようとしている。
「二人ともこんな低レベルな争い……やめ、やめてください」
そこで。
次に入ってきた決定打によって、争いに終止符は打たれた。
「滝沢くん、まあ落ち着きたまえ。今は商談中だということ、またこの話が会社にとって大変重要だということを分かって、君はそんなことを言っているのかな? この商談をぶち壊したいというのであれば、キミのその鼻にかけたご大層なバナナ論の披露を続けてもらってもいいのだがね」
社長のナイフのような切れ味の鋭い返しが、炸裂した。
そして、バナナは陥落したのだった。