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EP 54

「ほう。なるほど。これが今回の撮影で使う洋服ですか? 可愛い系が多いですね。優里……白井さんに似合いそうな服ばかりです」

数着の可愛らしいセットアップを前にして、俺はすでにうきうきしていた。

『権現株式会社』の倉庫の一角、応接セットに通され、優里さんと俺、権現社長とあと数人のスタッフで会議に臨む。

(さあ。とうとう乗り込んでやったぞ。これを機に敵陣視察だ。バナナはどこにいるんだ?)

「優里さん、今日は滝沢バナナは出勤かい?」

声をひそめて、優里さんに問うた。

「はい。そのうち顔を出すって言ってました」

なんなんだヤツめ。来なくていい! と声を大にして言いたいが、バナナがまだ優里さんを諦めてなく未練たらたらならば、ここで一発かまさなければならないだろう。

敵の出方を窺うことにした。

「いやあ、この度はうちの白井を起用してくださり、ありがとうございます! 洋服もお任せいただいて本当に嬉しい限りですよ!」

なるほどこの人が頭頂部が寂しいと噂の、権現社長か。よっぽどな案件だったのか、うはうはな雰囲気がダダ漏れだ。こんなにも感情をあらわにする社長で、大丈夫なんかな、この会社。

「それで、協賛ということでうちのブランド名を出してくださると?」

「はい。まあ、アパレルのどこかにはお願いしなければいけないと思っていたところ、白井さんにご縁をいただきましたのでね」

「ご縁! いやはや良いご縁でございますよぉ。これからもよろしくお願いしますっっ!! ありがたやありがたやぁははっっ」

「……あの、ちょっとお訊きしてもよろしいでしょうか?」

そろりと優里さんが手を挙げる。

「はい。どうぞ」

「あの……ブランディング動画って、ビフォーアフターの画像を用いて動画にするんですよね?」

「まあ、それも起用するつもりです」

「それなのに、こういった洋服は必要なんでしょうか?」

数着、ハンガーラックに掛かっているセットアップを指差す。指した人差し指がちょこんと立っていて、くうぅぅ可愛すぎっっ。

「良い質問ですね」

俺は両手を組み、そして口元へ。視線を少し厳しめに細め、表情は変えずに、そして言った。

「今回の動画はただビフォーアフターの写真を並べるだけ、という単純なものにはしたくないんです。白井さんは、うちのジム『stone』でダイエットに励み、そして見事サナギから蝶になった。それをコンセプトに動画にストーリー性を持たせ、いわゆるミュージシャンのミュージックビデオのようなクオリティを目指したい、そう思ってます」

「はあ」

「ええ」

「そうですか」

反応薄っす。けれど、構わず俺は熱弁した。

「白井さんをそのままモデルデビューできそうなくらい、美しくしてみせますよ」

「そんなことあんたに出来るわけないだろう!!」

権現株式会社の倉庫に、高らかな声が響いた。

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