EP 50
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(う……嘘でしょ)
私は包装紙を破って出てきたプレゼントに震えていた。
筋肉の抱き枕。もとい柳田 ’ s シックスパックのプリントが施された抱き枕。
そう。私は柳田氏のシックスパックの写真を毎日拝んでいたため、これがモノホンの柳田 ’ s シックスパックとすぐに理解したのだった。
(嘘でしょ、これを抱っこして眠っていいってこと? ま、毎日毎夜、柳田さんと一緒に寝てもいいってこと? 嘘でしょ!?)
感動で打ち震えている。けれど、内心ヨダレたらしながら狂喜乱舞していることが知れたら、柳田さんは引いてしまうかもしれない。
筋肉が好き。
この程度にしておかねば。
しかも、これから柳田さんのお宅へと向かい、シックスパック完全版のお写真を撮影させてくれると言う。
タクシーに乗り込み、その狭い車内、足組みをしている柳田さん。まじでかっこよ。
ちらっと横顔を盗み見る。
鼻は高く、まつげも長い。目は窪んでいてその上すぐに眉毛。外国人のような彫りと言っても過言ではない。
「あ、あの……柳田さんってもしかしてハーフとかですか?」
つい訊いてしまった。
「ん? ああ、クォーターかな。父方の祖父がスウェーデン人なんだ」
「やっぱり! リリさんもお綺麗ですし、そうかなって思ってました。北欧だなんて素敵です」
「残念ながらスウェーデン語は話せないんだ。英語は仕事上必要だから勉強したけどね」
「英語が喋れるなんて、すごい」
「独学だから、完璧じゃないよ」
「I've arrived, sir.」
急に西田ドライバーさんだ。すご、西田さんも英語喋れるんだ。
「thank you I will pay」
「good luck」
「of course」
ははは! と笑い合っている。なんなんめっちゃ仲良いな?
ガチャとドアが開き、柳田さんと私はそこで降りた。
見上げるとそこには首を痛めること必至なタワーのようなマンション。エントランスはホテルのロビーのように受付があり、コンシェルジュが在中のようだった。
「お帰りなさいませ、柳田さま」
「うん、ただいま」
すすすっと柳田さんの後について、エレベーターへと乗った。
「すごいマンションでビックリしてます。さすが柳田さんですね」
「階は違うけど姉貴もここに住んでいるよ」
「そうですか。ほんと高級感があります」
エレベーターの内装もシャンデリアだったり、鏡ばりだったりして一目でその価値がわかる。
(こんなところに住んでるんだ。本物のお金持ちなんだなあ)
チンとエレベーターを降り、廊下を進む。柳田さんはカギを開け、そして中へと誘ってくれた。
「わああぁ! すごい! ステキ!」
広々としたアイランドキッチンに、何十畳あるかわからない広いリビング。大きな窓から見渡せるのは、街の夜景。
「綺麗な夜景が見えるなんて最高ですね」
「それが売りだったからね」
柳田さんはカギをテーブルへとぽんと放ると、手首の腕時計を外し、首元も緩めた。
その立ち居振る舞い。
完璧だ。
グループ企業の御曹司。わかる。
そんなお金持ちのイケメンで筋肉の神様が、私を好きだと言ってくれた。
(まだ信じられない。夢みたい)
そして、柳田さんはその流れで、シャツのボタンに手を掛け、ひとつ、ひとつと外していく。
「わわわ、や、柳田さまっっ」(←神様だから)
「ん? シックスパックの写真を撮るんだよね?」
首をこてんと傾げたさまは、まるで手の届くアイドル。神の位から降りてきてくださった。ただやはり神々しい。
「はい。一生のお願いでございます」
柳田さまは、ばっと白シャツを脱ぐと、鍛え上げられた上半身があらわになった。
まぶ、まぶし……神よ。