EP 47
「じゃあ誰なの? 営業の人? どんな人なの? 顔は? 年収は? 筋肉は?」
はい。ここはもう妄想の彼ってことでいいでしょうか?
「それはその……顔はカッコよくて、しかも筋肉もすごくて、私をひょいっと持ち上げることができて、」
「俺だってできるよ」
立ち上がって、私の方へ。そして、「失礼」と、いきなりもいきなり、体操座りしていた私の足の隙間に腕をずぼっと入れ、ぐいっと持ち上げた。お姫さま抱っこだ。
「ちょちょちょ、柳田さんっっ、どうしたんです、なにをやってるんですかっっ」
動揺した。軽々だ。私を抱く柳田さんの腕に力が込められている。
私は恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になっていく。ひいいぃぃ。
「おおおおろしてくださいぃぃ」
ぎゅっと縮こまっていると、柳田さんが、「優里さん」とこれ以上ない優しい声で、名前を呼んでくれた。そして顔を覗き込んでくる。柳田さんも、お顔が少し赤らんでいるようだ。
早馬のようにドドドっと胸が高鳴っていった。
「優里さん、俺ならお姫さま抱っこでもなんでもできるよ。あとは年収? 年収は1億近くあるし、今はジムとカフェを経営してるけど、いずれは父の柳田ホールディングスを継ぐことになる。顔はまあまあな自覚ありで、背も高いと自負してるし、なにより……」
どっと心臓が鳴った。ヤバイ。このまま気絶しそう。
「なにより、俺は優里さんのことが好きなんです」
どかーーーん。
夢?
これ夢?
「優里さん、その職場の方も優里さんが好きになるくらいな人だから、きっと素敵な人なんだと思うけど。でも俺にしませんか? 俺に……してくれませんか?」
「わわわ私はその……ぽっちゃりでその……自分に自信もないし……柳田さんに私なんかが合うわけないと、」
すとんと優しく降ろされた。
「優里さん、私なんかがなんて言わないで。俺、ずっと優里さんの頑張り見てきたんだよ。実を言うとね、正直、最初は優里さんに宣伝モデルになって欲しい気持ちがあった。でもね、カフェでパフェや料理を美味しそうに食べるキミの姿を見て、ああなんて幸せそうに食べるんだって。その頃から優里さんに惹かれていたんだと思う」
そして、肩をぎゅっと抱かれ、私は柳田さんの胸に包み込まれた。
(ふぉわー!!)
まだ信じられません。どきどきして、顔から火が出そう!
「じゃあ、柳田さんは私のこと、痩せる前から……」
「うん。今まで自分の気持ちに気づかなかっただけで、好きになっていたんだと思う。だって、最初からすごく好感が持てたし、滝沢バナナや黒田くんにすごくヤキモチ焼いていたからね」
「え! そうだったんですか?」
「うん。それであのタクシーのときの態度だよ。あのときはキミを傷つけてしまって本当にごめんね。自分でも呆れるくらい、嫉妬で頭が沸いちゃってて」
「いえ、全然! 全然です!」
「俺と付き合って欲しい。返事は待つよ。その間、お試しでデートだけでもいい。ただ、その間は他の誰ともデートして欲しくないんだ。本当に胸が苦しくなるからね」
頭が許容範囲を超えてパンク寸前だったので、私はとりあえず返事を返した。
「は、はい」と。
「はは。ホッとしたよ、ありがとう」
そして、帰っていった。バナナが入った魚グリルの方を、厳しい眼差しでしばらく、じぃっと見つめてから。
そのまま西田夫妻(え?)お迎えのタクシーに乗って。




