EP 44
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「俺の筋肉が役に立って、良かったよ」
白井さんの家を後にしたとき、最後についぽろりと言ってしまった言葉が自分へと重くのしかかってくる。
「そっか……俺、筋肉としか見てもらえてなかったんだ……」
告白する前に結果がわかってしまって、とても苦しかった。姉貴とのやりとりで、白井さんに対する自分の気持ちに気づき、その勢いだけで来てしまったので、その勢いのある自分を止めることに、苦慮してしまった。
「それに、俺が『stone』の宣伝のために、優里さんに声をかけたって、薄々感じたんだろうな」
醜い自分を知られたと思って、日和ってしまったということもある。
「こんなんじゃ、告白なんてできないよ!!」
バシンとドアを叩いた。
「あんたっ! なにしてんだいっっ器物損壊で訴えるよ! 大事な旦那の商売道具、壊してんじゃないわよっっ」
あれ? 今はタクシーの中のはずが……西田の? ジムの掃除のおばちゃん? いつのまに助手席に?
「旦那から連絡もらってね、前代未聞の大捕物だっつぅから、こりゃえらいことになったってね。そんで駆けつけたってわけ。で? うまくいったんかい?」
運転手の西田さんもこちらをチラチラ見ている。ただ、俺の落ち込んだ様子を見て、なにか察したのかもしれない。
「ややや、おい母ちゃんや、あとは若いもんに任せてだな」
「なに言ってんのよぅ。ここからが重要なんだってのよ。で? どうなったん?」
「はあ。まあ。告白できずにすごすごと戻ってまいりましたよ」
「「えぇ!?」」
タクシーはブゥーと、俺の家へと向かう。
「ってか、軽くフラれたって感じですよ。だって俺、自分の筋肉に負けたんですよ? 完敗ってやつですよ。あー情っさけないったらありゃしない」
「「筋肉??」」
んー声が揃ってるぅ。仲のいい夫婦だな。羨まし。
「あーあ、このままだと優里さん、黒田くんとデートしちゃうんだろうな……」
独り言のように呟いた。
すると。
「はぁ?? ( ;´Д`) 黒田だって? 優里ちゃんとデートだって? あんた!! なにやってんだい!! そんなことじゃ、あの優男の仮面を被った悪男の毒牙にかかっちまうよぉ!」
「???? どういうことです????」
俺は、西田のおばちゃんが座っている助手席のシートに食らいついた。
「あんた知らんのかぃ? あの男はね、ジムの女の子を喰い散らかしてはポイ捨てを繰り返してる、悪っっい男なんだよ」
「えぇ!? そうなんですか!?」
「あの三羽烏以外の女の子は、黒田にアプローチされててねぇ。気持ち悪いったらなぃよ」
三羽烏以外ってww