EP 42
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「こんばんは。あの……急に訪ねてきてごめん。少しだけ話がしたくて……」
了解です。ブランディングモデルのご依頼ですね。
私はドアを開けて、バツの悪そうな顔をした柳田さんを迎え入れた。
「どうぞ。散らかってますけど」
「ありがとう。お邪魔します。良かったらこれ食べて」
すっと差し出されたものを受け取ると、それはカフェ『vegeta』のショーケース横で販売されていたオリジナルクッキーだった。
「わあ! ありがとうございます! これ食べてみたかったんです」
「うん。そうかなって思ってた」
柳田さんの表情は暗い。当たり前か。私、怒ってタクシー飛び降りちゃったもんな。ちゃんと謝らなきゃ。
リビングに置いてある、冬はコタツに早変わりなローテーブルに座ってもらい、インスタントのコーヒーを出した。
「ほんと突然ごめん。一応LINEしたんだけど……」
スマホを確認した。
「えっ! あっ! ほんとだ。すみません、全然気づかなくて。さささっきまで、お写真見てたのでっ」
わかりやすく動揺してしまった。先ほどまであなたさまの筋肉をじゅるり堪能しておりました。お許しを。
「そ、うなんだ、そっか……」
柳田さんはホッとした様子で、マグカップを手に取り、コーヒーをふうふうさせてから、ひと口飲んだ。そして、すううぅぅふうぅぅっと奥深い深呼吸をしマグを置くと、急に正座になって姿勢を正し、頭をがくっと下げた。
「優里さんっっ。この前は酷いことを言ってしまって、本当にごめんなさい!!」
「え? あっっ? あっづづぅ」
驚きのあまり、熱々のマグカップを持つ手の腕の筋肉がピクッと飛び上がり、コーヒーで唇を火傷してしまった。
唇をぺろぺろしながら、「いえっ私もあんなところで急に帰ってしまって。危ないですよね、すみませんでした」
「あれは俺が絶対的に悪いよ。優里さんを傷つけた」
「だ、大丈夫ですよ。そんな気にしてませんから」
気にしてますけど、柳田さんに拝謁できて、もう十分でございます。はい投げ銭。
それに直接謝りに来てくれたんだ。だからもう、それだけで。
「あの、さ。それでさ……」
少し歯切れが悪くなる。
ああ。と私。察し。
「は! 話が! あるんだけど!」
意気込み強め。
了解しております。あの件でございましょう?
「はい。ブランディングモデルの件ですよね。OKです。もちろん!」
「え????」




