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40/60

EP 40

「まあ、以前はそうでしたね。でも黒田くん始め優秀なスタッフの方が教えてくれますよ」

「いやん、柳田さんに教えてもらいたいんですっ」

そして、右腕に両腕を巻きつけてきて、胸をむにっと押し付けられた。

うわ。これはあまりに酷い。

俺がすっと腕を抜くと、今度は左側の女性が食らいついてくる。

「すごぉーい筋肉。さすが柳田さん!」

「ねえねえ柳田さんのシックスパック拝見したい!」

と、シャツに手を掛けようとしてくる。俺はその手をぐいっと掴むが、「きゃあ! 柳田さんが手を握ってくれたわ! 嬉しい!」などと言って話にならない。

俺は貞操の危機を感じ、食らいついてくる魔の手を振り払って、すくっと立ち上がった。

「すみません。これ以上は私の恋人がヤキモチ焼いちゃうんで。それでは皆さんも引き続き頑張ってくださいね」

ヤキモチを焼くだって?

これは我慢ならない。

断固として、我慢ならない!!

ずんずんと歩いていく。トレーナールームに入ると、黒田くんの前に立ち、そして。

「黒田くん、申し訳ないけど、俺は優里さんとほんとに付き合いたいと思ってる。正真正銘の恋人同士にね。だから悪いが、食事の約束は破棄してもらえないか」

「えぇぇ。恋のライバルってことですか? 僕も負けられないんすけど。まあ白井さん本人からそう言われたら諦めますけど……」

「そうか。わかった」

そして俺は更衣室へと飛び込むと、直ぐに着替えて、タクシーを呼んだ。

「そっか。あんちゃん、ようやく彼女さんちに謝りにいくってわけね」

「はい」

自分でも驚いたが、力がこもった腹からの声が出た。あれは我慢ならない。黒田くんとあんな風に触ったり触られたりなんて、到底容認できない!

ブゥーとタクシーは進む。

窓の外の風景を見ながら、俺は姉貴とワインをがぶ飲みして記憶を失った日の、翌日の朝のことを思い出していた。

「二日酔いで記憶がないだと? 知らんがな。でもさ、これがあんたの本心。動かぬ証拠よ」

スマホのボイスレコーダーをONにする。すると。

『あんた、優里ちゃんのこと好きなんでしょ?』『ん? ……うん』

『黒田くんやバナナヤロウに取られたくないわけでしょ?』『ん? ……うん』

『黒田くんとデートして欲しくないんでしょ?』『ん? ……うん』

自分の本心だ。なんで俺そこ『ん?』 毎回入れるん?

地獄は続く。

『それ、ちゃんと言わなきゃね』『ん? ……』

『で、謝罪』『ん』

『ちゃんと目を見て、酷いこと言ってごめんなさい。言える?』『ん? ……いえ言え言えるぅ』

しっかりせい! 俺!

すると姉貴の絶叫が。

『ちょっっと! 昴ったら、こんなとこで土下座したって仕方がないでしょっっ。謝る相手が違うっての。もう良いって。わかったから、ほら立って!!』

もう良いからっっと言いつつ、ここで動画を撮り出す姉貴。ピロンって音入ってっから。

「とにかくこれがあんたの本音よ。優里ちゃんのこと、大好きなくせにねえ」

自覚。

すべてが腑に落ちた。

黒田くんにもバナナマンにも、白井さん、いや優里さんは渡せない。

俺はタクシーの窓を少し開けた。風がすうっと入ってきて、俺の髪に絡みつく。

俺はタクシーの運転手さんの名札を見た。そして。

「西田さん、俺、ちゃんと彼女に告白してきます」

「あーね。それが良い」

「ありがとうございました!」

ってあれ? 名前。西田って。

「ジム『stone』にも運転手さんと同じ名前の方がいらっしゃいますよ」

「おう、掃除のね? あれ、うちの女房」

ほわっつ? ここに善良な夫婦、爆誕!! 奇跡が歴史に名を残した瞬間だった。


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[良い点] 追い付きました! めくるめくクライマックスを待ってます!
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