EP 38
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反省? そりゃするだろ、反省。
白井さんはタクシーから飛び出して、その後自宅へと帰ったようだ。
「あんちゃんさあ。三股っつーのはひでぇよな。だって考えてみ? あの彼女さんがそんなことするような人かってね?」
「……ですよね」
タワマン前。タクシーはゆっくり減速し、歩道近くに車を停めた。カッチカッチカッチというハザードの音がやけにデカくて、胸に響いてくる。
「もうちょい冷静になってさ。そんでもう一度考えてみ?」
「はい」
タクシー代を支払い、そしてタクシーを降りる。タワマンの入り口でふと、部屋番号を忘れ、立ち尽くす。なんとか思い出した部屋番号を入れ、そして暗証番号を忘れて立ち尽くす。
そんなことをしているうちに、姉貴が帰ってきて、俺は回収された。
「それで? なにがあったのよ」
ワインをグラスに注ぎ、渡してくる。俺はそれを受け取ると、ぐいっと一気に飲み干した。
「……優里さんに酷いことを言ってしまったんだ」
「順を追って話してくれる?」
俺は姉貴にタクシーの中であった事の顛末を話し始めた。ワインボトルが空になるころ、話が、いや姉貴がヒートアップしてしまった。
「なにやってんのよ、このバカ弟はあぁ?」
「わかってる」
「いーや! アンタはなんにもわかってない!」
「どういうことだよ」
むすくれながら、ワインの2本目を開ける。ポンっとコルク栓が抜けて、ふわっとブドウの芳醇な香りが、リビングに漂った。
姉貴がそのワインをくれと、グラスを突き出してくる。
「あんたが今、人生初のヤキモチを焼いてるってこと! 人生初! 乾杯!!」
「ヤキモチだって? そんな単純な話じゃないよ」
「単純な話なのっ。あんたは黒田くんや、その……バナナヤロウ? に嫉妬してるってわけ」
「はあ? なんであの二人なんかに嫉妬なんかするんだよっっ!! 俺にだってプライドがあるっての!! 黒田くんはともかく、あんなバナナ信奉者のどこに嫉妬する要素があるんだよ?」
俺はムカムカっときながらも、姉貴の言葉を待った。
「違うって! その嫉妬じゃないっての。まったくあんたってば、今までどんな女と付き合ってきたのよ」
「意味がわからない」
「優里ちゃんは今まであんたが付き合ってきた女と、全然違うでしょ?」
確かに白井さんは、ブランドのバッグやジュエリー、はたまた現金をくれとは言ってこないし、自分が食べたものは自分が払うと言ってきかないし、はたまた「ちょっとそこのスタッフゥ! このお料理のお味はガマンならないわ! シェフを呼んでちょうだい」とも言わないし、「ここからここまで全部買うわ。昴さん、クレカ貸して」と手を差し出してきてブラックカードよ! などと店員に対して高飛車にも言わない。
「……あんたのお付き合いって散々ね」
「優里さんが明らかにそういう女性とはジャンルが違うってことはわかるけどさ。それがなんだってんだよ?」
「はあ (;´д`) まったくこのニブチン野郎がっっ」
姉貴が俺をディスりながら、ワインをぐいぐいと注いでくる。お代わりを飲んでいるうちに、俺は結構な勢いで酔っ払っていった。