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EP 34

今なんて言ったの?

「じゃあその次の土日はどうですか? 僕、土曜日はフットサルありますけど、それ以外はうちにいるし。イタリアンの美味しいお店があるんです。僕が料理についてもアドバイスしますし、気楽にごはん行きましょうよ」

思考が停止。黒田さんはスマホでスラリスラリとスケジュールを確認している。けれど、食事のことは1ミリだって考えることができなかった。

今、なんて言いましたっけ?

それから私は、なんとか声を出して「あの……私、ジムのCMの話は……聞いてないですけど」と言う。

すると、黒田さんは「あれ? でも宣材写真撮ってますよね? オーナーが自ら写真撮影してたから、僕てっきり白井さんをモデルさんに抜擢したもんだと……違ったんですか?」

「お、オーナーって……?」

「え? 柳田オーナーのことですけど……あれ? 知らなかったんです? 柳田オーナーとよく話してみえたし、恋人のフリとかして遊んでたでしょ? だからてっきり知っているもんだと……あ、これ内緒ですよ。柳田ホールディングスの次期社長なんて知れたら、ジム中がパニックになって収集つかなくなっちゃいますからね」

「そ」

「そ?」

「そう……だったんですね」

私はショックで、壁ドンな今の状況が吹っ飛んでしまった。爆!

「白井さん? デートの返事は?」

頭の中は真っ白で、心臓の部分もぎゅっと握られたような苦しさがある。

柳田さんがなぜ私に親切なのか、こんな風に唐突にわかってしまって、私は現実を受け入れられない。

(あの優しさは、わ、私の……ビフォーアフターを手に入れるためだったんだ……)

呆然としてしまって、視線が定まらない。黒田さんの胸筋のあたり、Tシャツの『WHATS』のロゴをぼんやりと見ながら、まじでこれはどういうことなの? まじでふぉわっつだわと自らツッコミを入れている。が。それすら頭に留まらない。

(だから、あんなにも親切に……)

ツンと鼻の奥が痛み、目尻に涙がじわっと浮かぶ。

その時、

ほわっと両頬が温もりに包まれた。

「あ、あの……」

黒田さんは手が痺れてきたのか、壁ドンしてた手を離し、そして私の頬を両手で包み込んでくる。さっき外したばかりの滑り止めグローブの香りがふわっ鼻腔をくすぐっていき、ようやく私は正気に戻ることができた。

「白井さん、可愛いです。まずは食事からでいいんで、デートしてもらえませんか?」

結果。私はショックのあまり、「はい」と返事をしてしまった。

それでも頭の中は柳田さんのことばかりだった。

「なんだって? 今なんて言ったんだ?」

「白井さんとデートの約束を取り付けたんですよ」

「でも黒田くん、前に白井さんは範疇外って言ってただろ?」

「はい。ぽっちゃりさんはどうも……でも最近の白井さん、一皮向けて『微ぽっちゃり』って感じじゃないですか。すっごく痩せたし可愛いですよね?」

「それはそうだけど……」

胸がもやもやとしてしまった。マーブル模様のように、色んな感情が混ざり合う。

「確認ですけど、オーナーとは付き合ってないんですよね? 僕、あの恋人宣言のときはまじでビックリしましたけど、嫌がらせ対処でフリだって言ってましたもんね」

「まあそうだけど」

嫌な気持ちになった。こんな気持ちになるくらいなら、フリだなんて言わなくても良かったんじゃないか?

けれどそれでは本物の恋人になってしまう。もとよりそんな深い関係ではない。

(ただ、ぽっちゃりの白井さんには、うちのジムで痩せてもらって、それで後々うちの広告塔に……)

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