EP 33
(えぇー嘘でしょどうしよう)
の、無限ループ。どう頭を捻っても、思考をリセットしても、少ししたらまたぐるぐるぐるぐる。
考えてもいなかった。たっちゃんとは、仲が良い方だとは思っていたけれど、職場の同僚のそれ以上でもそれ以下でもない。そんな位置付けだったから。
(とりあえず今日は帰ってもらったけど……)
コホコホとまだ咳が少しだけ出る。ベッドに潜り込んで、私は頭の中を整理しようとしていた。
「はあぁ。明日、仕事どうしよっかな……」
たっちゃんからの告白を受け、顔を合わせにくいということもある。
「もーなによあの突然の凸り方はあ。彼女と別れたばっかじゃないの。それに告ってすぐキスはない。失恋のショックで頭沸いちゃってんのかなあ。はー仕事もう一日、休も……」
休むと決めたら気持ちも落ち着いてきた。すると、柳田さんの笑顔が次々に頭に浮かんでくる。
「なんでお見舞いに来てくれたんだろう。心配してくれてるのかな……」
恋人のフリはジムだけで良いはずで。あれからLINEでも、『ゆっくり眠ってね』とか『安静にしてるんだぞ』とか送ってくれる。それも心が弱っている絶妙なタイミングで。
『バナナも食べてもいいけど、プリンの方が100倍美味しいからね』
笑ってしまった。100倍って。くすくす。バナナへの限りない敵対心。
「バナナの皮で滑って骨折したことがあるとか……あの柳田さんがそれはないか。ふふふ」
笑いを収めてから改めて思った。
「明日はジムに行こ」
仕事は休むのに許されるかなあ。苦笑しながら、私はベッドの上、目を瞑った。
*
「白井さん、好きです。僕と付き合ってください」
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ど? いうこと?
「僕、ずっと色々アドバイス続けてましたけど、白井さん、いつもちゃんと僕の話を聞いて努力してくれてて。結果が出てるってのもまあ嬉しいんですけど、白井さんのこと真面目で良い人だなってずっと思ってて。で、最近ぐっと可愛いくなったし」
「かかか可愛いってことはないと思うんですけど」
ジム『stone』更衣室横、フロントからは死角となっていて、壁伝いにある、人ひとり入れるくぼみがある。
そこで私は正真正銘の『正統派壁ドン』に遭遇している。
お相手は、ダイエット街道をひた走る私に、いつも食事面や筋トレについて適切なアドバイスをくださっていた、ジムスタッフの黒田さん。
一度過去に、壁ドンならぬ鏡ドンを経験したが、それはマイクロファイバー雑巾で鏡の汚れを落としていたという、吉本のようなオチだったけど。
けれどこれは。本物?
「白井さんは可愛いですよ。僕ずっとあなたのことを見てきましたから」
「はあ。その申し出は大変ありがたいのですが……」
そうなのだ。ここ最近、柳田さんと柳田筋肉くんのことで頭の中はいっぱいで、誰かと付き合えるとか、これっぽっちも考えてなくて。
たっちゃんの告白も丁重にお断りしようと思っていた矢先。
どうしたん、私? エステのフルコースのおかげ? それともジムでの筋力アップや食事改善のおかげ?
なんかわからないけど、モテてる!
「今度の土日に食事にでも行きません?」
グイグイくるけど、たっちゃんのようにいきなりキスとか強引ではなく、ちゃんと段階を踏んでいる部分に好感が持てた。
これは、黒田さんが紳士すぎて、たっちゃんが変態に見える事案かな? トリックアート的な?(2度目)
「すみません、今度の土日は柳田さんのお姉さんのところで撮影があって……」
「あーそっか。ブランディング動画撮るって言ってましたもんね」
「はい。私のエステ体験とか、ビフォーアフターを」
「そのうち『stone』のも撮るんですよね?」
え?




