EP 31
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滝沢達也もといたっちゃんは同じ職場の同僚だ。入社は1年違ったけど私と同じ歳で『権現株式会社』では営業の星。アイドル系爽やかイケメン。
「白ちゃん! オカダさんところの案件、もぎ取ってきたよ!」
「え! すごい! オカダさん、あんまり良い返事してくれなくて、やきもきしてたのに」
「あーね。ずいぶん粘ったんだ。で、粘り勝ちね。これ、企画書に起こしておいてくれないか」
「了解です! お疲れ様!」
それが。
「彼女にフラれちった」
ある日、耳を垂らしながらショボン(´・ω・`) と出社してきた。
私と違ってポジティブ陽キャなたっちゃんは、周りまで明るくしてくれる太陽みたいなキャラだ。だから、そんなたっちゃんをフルだなんて、初めは信じられないくらいだった。
「え! どうしてなの? たっちゃんみたいな良い人なんでフルかな」
「んーーーなんかわからんけど、浮気されたあぁ」
「嘘! そんなのひどいじゃない! たっちゃんは全然悪くない。ねえ元気出して。少し休養してまた新しい恋に向かおう!」
「サンキューな、白ちゃん」
どこから聞きつけたのか、そこへ権現社長が請求書などの書類を持って、ひょっこり現れた。
「よし滝沢! 今日はヤケ酒決定だ。美味しいものでも食べに行こうぜ」
「社長のおごりですか?」
「……(この間無言1分)んんーーま、それでもイイけど、安い店にしてね」
「わーい! なに食べようっかな〜」
「ん? 白ちゃんは自腹だよ。おごるのは滝沢の分だけだから」
「えー!? なんでですかあ」
けれど、たっちゃんの気が晴れればと思い、数人でヤケ酒に付き合った。
安いうまいと評判の居酒屋を出て、「お疲れ様〜」とそれぞれ解散になったが、たっちゃんと私は住んでいるアパートが近いから、自然と二人一緒に歩くことになる。
「たっちゃん元気出して。たっちゃんにぴったりな女の子は、これからだってたくさんいるはずだよ」
「あーね。浮気はショックだったけど、とりま仕事を頑張るわ」
「ね!」
二人で少しだけ千鳥足で歩いていると、「白ちゃんさあ」と話し掛けてきた。
「なんかダイエット頑張ってんじゃん」
「うん。こんなんでもずいぶん痩せたんだよ」
「ん。見ればわかるよ。前はさ、白ちゃんのぽっちゃりに、みんなが癒されてて、そのままの白ちゃんでいいんじゃないかって言ってたけど……痩せるって決めてからさ、すごい鋼鉄の意思でさ、頑張ってんじゃんって」
「自分でも驚くほどね……なんかわかんないけど力がみなぎってくるんだ」
それはこの場では言わなかったけれど、柳田さんのおかげという部分が大きかった。痩せてすらっとなって、柳田さんの隣で自信を持って立ちたかったということもある。だからかな、嫌がらせを受けても頑張れたのは。
「白ちゃん、ほんとすごい」
「ありがとう」
私は隣を歩くたっちゃんに、にこと笑いかけた。単純に褒められるのは嬉しい。けれど、ここでも柳田さんのお顔が目に浮かぶ。
「白ちゃん、細っそりして可愛くなったよ」
「えぇー! まじで嬉しい!」
きゃっきゃと喜んでいると、それぞれの家路に分かれる道へと出た。横断歩道の歩行者用信号が青から赤に変わろうとしている。急がなきゃ!
「それじゃまた来週!」
私が手を振って横断歩道を渡ろうとすると、たっちゃんが「あ! あのさ!」と叫んだ。
振り返ると、上げた手を頭の上へとやり、バツの悪そうな顔をしている。
「なに?? ( ? _ ? )」
けれど、「ごめん! なんでもない! 気をつけて帰れよ、じゃあな〜」と言って、私とは反対方向へ向かってずんずんと歩いていってしまう。
「なんだったんだろう……」