EP 28
『……そんな、わざわざ悪いです。風邪がうつってしまってもいけないですし、食べる物はありますから』
「なにがあるの?」
『えっと……ば、バナナ……?』
「優里さん、こんなこと言うのもなんだけど、バナナなんて遠足で300円以内に含まれるべき、おやつだよ(←個人的意見)。いいから大人しく待ってて」
そして俺は近くのスーパーへと走った。
店内は夕ごはん時ということもあってか、程よく混雑している。カゴを掴むと、店内をうろうろし、商品を吟味した。
「風邪をひいた時は……胃腸が弱っているからな。うーん。なにを食べさせればいいんだ」
筋肉に良いとされる食べ物なら理解しているが、病気のときはどうしたら良いのか?
キョロキョロしながら、これならと手を伸ばしたものは。
『納豆』。
そして『おかゆさん』のレトルト。
また風邪と言ったら『プリン』だ!
少しお高めの高級プリンを手に取る。他にも色々買い物カゴへ放り込むとレジへと並んだ。
*
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴り響いた。
「はーい」
ん? 声が異様に野太い。ドアがガチャと開くと、白井さんではなく男性が出てきた。イケメンだ。
「あの……ここは白井優里さんのお宅ではないですか?」
俺が狼狽えながら言うと、アイドル系イケメンは「そうです」となんなく答えた。
「白ちゃんは今、風邪で寝込んでますけどなにかご用ですか? ご用件は俺、滝沢がお聞きします」
滝沢だと? なんか嫌な雰囲気だ。上から目線の申し出に、なんとなくマウントを取られている気がして、俺はすかさず言った。
「風邪なのは知ってますよ。だからこうして私、柳田がお見舞いに来たんじゃないですか」
「そうですか。なら俺、滝沢がそちらのお見舞いを預からせていただきます」
カチン。
「優里さんの顔も見たいので、直接この柳田が手渡しますし、どんなご関係かは知りませんけど、しゃしゃるのやめてもらえます?」
「そちらこそ」
名前を主張し合う謎の展開、そしてマウント合戦が勃発した。
俺は相手の不遜な態度に、さらにムカっときてしまった。
すると、奥からバタバタと足音をさせて、白井さんがやってきた。
「柳田さん!」
「優里さん! 具合はいかがですか?」
「ごめんなさい。遠路はるばる来ていただいて……もうずいぶんと良くなりましたけど、まだ少し咳が残ってて。でも食欲もあるし、もう大丈夫です。ジムもお休みしちゃっててごめんなさい。黒田さんにも明日か明後日には行きますとお伝えください」
腕組みをしたまま、身体を斜めにし、玄関の壁にもたれかかっている滝沢という男をちらっと見やると、まあその不機嫌な顔ったらない。白井さんの部屋に堂々と上がり込んで、この男いったい何者なんだ?