EP 27
*
これでどうだ? そう。俺はこの結果にひじょーに満足していた。
「あ! 優里さん、君にはこのダンベルは重すぎるよ。もう一つサイズダウンするといい。はい、君にはこれね」
「は、はい……」
恋人宣言から二週間が経った。
例の三羽烏は遠巻きに俺たちの様子を見ている。なにかぶつぶつ文句を言っているようだが、気にしなーい。目からビームでも出てそうな強烈な視線だが、これも気にしなーい。
とにかく白井さんに被害がなければそれでいいのだ。
「優里さん。ちゃんとシャワー浴びてから帰ってる?」
建前上そのように訊いてはみるが、俺はすでに西田のおばちゃんから確実な情報は得ていた。
「あんたぁ、いったいどんな魔法を使ったんだい?」
「魔法って。ただ白井さんとお付き合いします宣言しただけですよ」
「ははーん。なるほどねぃ。それであの悔しがりようだったわけかぃ。あれから意地悪はぴたりとなくなってね。あー良かった。これで安心安心せいせいしたってもんだよ!」
「効果はバツグンのようですね。またなにかあったら連絡くださいね」
「はいよ」
さあもうこれで大丈夫なはずだ。
と高を括っていたわけだが。
「はい。シャワー浴びて帰れるのはありがたいです」
「そうだね。また風邪をひいてしまってもいけないしね。この前みたいに寝込んでしまうと大変だから」
「…………」
嫌がらせ問題は解決したと思ったのだが、白井さんはあまり嬉しそうではないのだ。あの笑顔が見れると思っていたのに、想像とは違った微妙とも言えるこの表情。
そして実を言うと、あの恋人宣言の次の日、白井さんはジムをお休みした。
(あれ? 計画は上手くいったはずなんだが……)
そして次の日もその次の日も休み。
(まさか勝手に宣言してしまったから怒っているのだろうか……やばい!)
慌てて姉貴に電話した。
『え? 優里ちゃんのLINE? 知ってるけど。ってかあんたが知らないってどういうわけ?!』
「ははは。今まであまり必要がなかったから」
『でも今は電話に出られないかもよ』
「なんで?」
『知らないの? 少し前から風邪ひいててね。ここ2、3日は仕事もお休みしてるわよ』
「え!? そうなの? それ早く言ってよ!」
『だっててっきり知ってるかと……』
「知らなかったよ!!」
俺は慌てて電話した。
『はい?』
「あ俺」
っと知らない電話番号からのオレオレ詐欺ww
「失礼。ジムでご一緒の柳田です。勝手に姉貴に連絡先を聞いちゃってごめんな。風邪引いたって聞いたから居ても立っても居られなくて。優里さん大丈夫??」
『だいじょぶです』
白井さんの声はガラガラで、全然大丈夫そうではない。
「もし良かったらなにか食べるもの買っていくよ。家はわかるから。待っててくれないか」
以前にタクシーで送ったことがある。
「住んでいるところですか? 柳田さんなら知られても全然オッケーです」
個人情報に厳しいこの時代に、なんと住んでいるアパートを教えてくれたのだ。単純に嬉しかった。信頼を勝ち取っている、そう思えたからだ。