EP 24
*
「あれ? カギがある?」
更衣室の一角、シャワー室の入り口、荷物置き場にある棚には、短めチェーンの先についたナンバーキーの山と『ご利用ください』の一言。
(これ助かるかも。間違えて持っていかれることもなくなるし)
自前のカゴ。その中にはシャンプーやコンディショナー、ボディソープやクレンジングのもろもろが入っている。カギをカゴに取り付け、ナンバーを回した。
更衣室のロッカーに戻り、着替えをする。
ジムでひと汗流してからシャワー室に戻ると、カゴはちゃんとそこにあった。
(良かった。更衣室のロッカー小さくて狭いから、カゴごとは入らないし、カギ使わせてもらえるの助かるな)
どんなものにも使える。化粧ポーチでも自前のドライヤーやヘアアイロンでもカギをつけていれば盗まれることもない。
ホッとした。
カギを外してからカゴを取り、服を脱いでからシャワー室へと入る。筋トレでほてった身体にシャワーをかけると、それだけでスッキリした。
だがシャンプーを取るが、いやに軽い。最近買ったばかりだから、新品の重みがあるはずで、嫌な予感がした。
シャンプーボトルを傾ける。
「あれ? やっぱり中身がない……」
どうやら中身を捨てられてしまったようだ。これは間違いない、というか間違えようがないのだ。
カゴにカギをつけて持っていかれないようにしても、確かに中身は取り放題だ。
けれど皆、カゴごと持ち歩いているので、中身だけを持ち出すなんて、誰かに見られて不審がられること間違いなしだし、まさかそこまでするなんて思ってもみなかった。
身体を洗剤で洗うのは諦めて、私はタオルで身体を拭き、着替えを済ませた。
がっくりした。とても嫌な気分だ。嫌がらせを受けているのかもと、薄々わかってはいたが、そこではっきりと認識せざるを得なかった。
「はあ……私のなにが気に入らないんだろう?」
もうシャンプーやボディソープは諦めよう。シャワーだけ流して、家に帰ってからまたお風呂に入れば良い。
そう思ってその日は帰宅した。
が、待って?
次に『stone』へ行ったら、全シャワー室にシャンプーコンディショナーボディソープの三種の神器が、完備されていて。
「あれ? お客様のお声的なご要望が神的なこのタイミングで?」
わけがわからなかったが、これはちょいラッキー。
「ありがたいな! 遠慮なく使わせていただこう!」
その頃には、私が『stone』に通い始めて、半年が経っていた。
*
「なんだって? 今度はタオルを盗まれただって!?」
お掃除のおばちゃんの西田さんが、俺にこっそりと耳打ちをしてくる。
「あたし見たの。とうとうシッポをつかんでやったわよ!」
「西田さん! やりましたね、お手柄ですよ!」
「ふふ。あたしをみくびってもらっちゃ困るね。あんたの予想通り、あいつらだったよ。あのいつもいるやかましい女たち、三羽烏だったね。シャワー使ってる白井さんの荷物置き場の棚からタオルをそっと持ち出したところを、この目でしかと見たってことさ」
「タオルなしで白井さんはその後どうしたんですか?」
「ん。あまりに不憫になっちまったもんでねえ。思わずジムの有料タオルを貸しちまったんだよ」
「それで結構です。しかしなんて卑劣な行為を……」
「なんとかしてやっておくれよ。あたしゃ可哀想でこれ以上は見てらんないよ。だってこれだけじゃないんだよ? タオルをべっちょべちょに濡らされたり、自前のシャンプーを空にされたり、嫌がらせにしてはあまりに酷すぎるよ。見てらんない。あー! 見てらんないよ!」
俺はわかりましたと答えて、その日は西田さんを帰した。
「これは許されることではないぞ。看過できないな」
色々とその都度対応してきたが、これでは焼け石に水だ。やはり悪の元を絶たねばなるまい。
俺はどうやって解決するか、模索し始めた。