EP 21
ふと見ると、白井さんのミニパフェも最後の一口にまできている。メーターで言えば、10のうちあと1ってところだろう。
一口でイケる。その一口で、最高の笑顔が出ると確信している。
「あー美味しかったぁ」
出た。
白井さんは俺が予想した通りの笑顔を見せてくれた。しかも、最後の最後の最後の残りをスプーンでかき集め、スプーンの先っちょにクリームを乗せて……
その瞬間に俺は「ちょっとすみません!!」と、店員に向かって手を上げてしまっていた。信じられないかも知れないが、無意識に、だ。
え?
あれ?
俺、なんで店員呼んだ?
白井さんが怪訝な表情で、「なにか追加注文されるんですか?」と問うた。
はっとした。自分でも信じられないが、白井さんにもう一つミニパフェを持ってきて! みたいな感覚で手を上げてしまったということのようだ。
「あ、や、違う!」
けれど、店員ってやつは呼ばれたら来ちまうんだよ。(←当たり前)
「はい。ご注文ですか?」
「彼女に……」
俺はぎりっと唇を噛んだ。ここで、彼女にミニパフェをもう一つと言いたい気持ちをぐっと抑えて言った。
彼女にウォーターを、と。
店員は去っていった。そして水のお代わりを持ってきてくれた。優秀な店員だ、もちろん君はそれでいい。
「柳田さん」
白井さんに名前を呼ばれ、ドキッとした。俺の揺れ動く気持ちを見透かされたのではないか?
「柳田さん、お水を頼んでくれてありがとうございました。パフェで口の中が甘すぎちゃって、ちょうどお水が飲みたかったんです」
にこっと笑う。
「……どういたしまして」
ちくりと胸が痛んだ。
その後、俺はレジで「今度は払います! 払わせてください!」と食らいついてくる白井さんをいなし、支払いを済ませた。
さて。問題はショーケースだ。
だが夕方のこの時間、レジ横のショーケースには、ランチの残りのお惣菜が陳列してあり、白井さんは今日のショーケースのラインナップには興味を持たなかったようだ。わかりやすっ。
ただ、そのショーケースの横には、オリジナルクッキーが置いてある。そのクッキーをちらちらチラ見していたあたり、危険がまったくなかった、とは言えないだろう。
あのオリジナルクッキーは、オーナーである俺の指示で作らせたが、すぐに撤去させよう。目の毒だ。
「あのう……本当にご馳走になってしまっていいんでしょうか……」
ほっぺを苺大福にしながら、白井さんが言う。
(あーあ。あのオリジナクッキー全部、お持たせで持たせたいくらいだなあ)
邪な気持ちにはっとし、俺はそんな気持ちを振り払うように、かぶりを振った。
「いや全然! 全然良いよ! むしろ姉貴の代わりに付き合ってくれて、恐縮です。もうちょっとでぼっち飯になるところだったからね。こちらこそありがとう」
タクシーは呼んであるし、財布も持っている。
俺は少しだけ浮かれた気持ちで、到着したタクシーへと乗り込んだ。