EP 16
「ほんとですか? 嬉しいです!」
カメラの画像を見せてくれると、
「ビフォーアフターを並べてみますね。ほら、これが3ヶ月前、そしてこれが、今日」
「ほんとだ! 車幅が少し狭くなってます!」
黒田さんと顔を見合わせて、やったやったと小躍りする。黒田さんは、私のリストを取り出して、さらに褒めてくれた。
「ほら、ここで体重が緩やかに減り始めて……で、今ここですもん。順調に減ってますよ。あと筋肉量も増えてますし。白井さん、マジで頑張ってますよね」
「嬉しい。もっと頑張ります」
「職場の方たちも、もう痩せなくていいなんて言わないでしょ?」
「はい。今では職場をあげて応援してくれてます。うちわとか応援グッズまで作ってくれて。スイーツ、私に隠れてこっそり食べてくれますもん」
ははっそりゃスゲ〜っすねと声を上げて笑い、黒田さんはリストを小脇に抱えた。
「それは白井さんの人徳ですね。愛されキャラですよ。白井さん」
黒田さんが少しだけ、距離をつめてきた。
「そ……そうでしょうか」
私もその拍子に後ずさる。背後には鏡。
黒田さんはその鏡に右手をつくと、さらに近づいてきた。
「可愛いですもんね、白井さんは。肌もすごく綺麗だ」
壁ドンならぬ鏡ドン。
私は内心焦りながらも、「ええぇエステのおかおかおかげですよ」と言った。
ドキドキが止まらない。これが噂の、男性からの壁ドン。
痩せると決めてから、ちょいモテてる気がする。気のせいかもしれないけど、ちょいだけどモテてる気がする。
もちろん、柳田さんはカウントしてません。そこまで思い上がりっ子ではございません。
が。黒田さんなら……(←失礼の極み)
胸は高鳴り、顔は火照り、冷や汗がたらたら。
と?
黒田さんが右手を上下に動かし始めた。
「あれこの鏡の汚れ、なかなか取れないな」
はーん。なるほどそういうことっすね。よく見たら、マイクロファイバークロス持ってた!
前言撤回。私のドキドキ返してください。
けれど、この壁ドンがのちにひと波乱を巻き起こすことに、私は気づいていなかった。