EP 15
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「姉貴が迷惑をかけたようだね」
ジムで柳田さんに声を掛けられたのは、柳田さんのお姉さんにエステに連れていかれてから、数日経ったころだった。
「いえ、迷惑だなんて……逆に感謝しなければいけないくらいで……」
そうなのだ。数万円もする全身コース。なぜかリリさんは「いーのいーのいーの」と工藤シズカさまのように、1ミリだってお代を支払わせてくれない。私からしたらキツネにつままれたような面持ちしかしないのだが。
「リリさん、どうして私なんかにこんなにも良くしてくださるんですか?」
パシャパシャと私の周りでポラロイドカメラの撮影しながら、リリさんは「こちらこそよ!」と言う。
「昴ってね、なんかいっつもつまんない顔してんのよ。その昴が、あなたの前では、ちょい人間らしい顔をするの」
確かに柳田さんは彫刻のように美しい顔をしている。
が、人間? 人間らしい? 人間だったの?
あまりの筋肉美に、筋肉の神様くらいに崇めてた!
「だから優里ちゃん。昴をよろしくね!」
ニコと優しげな眼差しを投げかけてくる。
ちょっと意味はわからないが、「わかりました」と返事をしてしまった。
そんな顛末。
「なんかうちの姉貴、優里さんのこと気に入ったみたいでさ」
あのカフェの一瞬で、気に入ってもらえる要素あったっけかなあ。
「またエステサロン行ってやってよ」
「はあ。それが……」
私はポケットから紙をガサガサと取り出して、柳田さんに見せた。
「なんかみっちり予約されてて」
「え? なにこれ、週3ペースじゃない?」
「はい。ジムが週3、エステが週3、なかなか埋まってます。私のスケジュール」
「ええー迷惑じゃない?」
「迷惑ではないんですけど、なぜか無料でって。タダでやっていただくのは心苦しいです。だからせっかくのご好意で恐縮ですが、お断りしようと思ってて」
「え、あ、や、でも姉貴、せっかく優里さんと仲良くなれたって喜んでたからなあ、はははは」
「そうなんですか?」
「モニターっていうか気楽に? 優里さんにエステの感想とか聞きたいんじゃないかな」
「そういうことなら……」
本当にいいのかな。
と、そこで「柳田さぁん、筋トレのプログラムの相談に乗って欲しいんですけどぉ」と女性会員が駆け寄ってきて、話は打ち切りになってしまった。
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「白井さん! ダイエットなかなか良い具合に進んでいるじゃないですか!」
スタッフの黒田さんが、ジム備品の一眼レフを構えながら、私の全身写真を撮ってくれている。