動画世界のバスタオラー! ~昭和レトロを語る弱小動画配信者は、ギリギリ? まで挑戦する~
変態的な動画をみる。
肌色一色の背景に絆創膏が二枚だけ置かれた、不可思議な縮小見本画像。タイトルには『昭和コスプレ』のキーワードも入っている。
見慣れない動画配信者で、登録者数も多くはなかったものの、あなたは暇潰しにこの動画を観ることに決めた。
「昭和レトロクイズのお時間がやってまいりましたぁ!」
画面内で高々と喋るのは、黒髪を二本の細長い三つ編みにした少女だった。この少女は童顔ではあるが、背丈の高さから推測するに、小学生ではないだろう。
あなたがすぐに変だと感じたのは、この少女が薄い黄色のバスタオルで首から下を隠している点だった。バスタオルを密着して巻いているのではなく、単に両手で上部両端を持っているだけである。
「私は今、昭和の女学生の、あるコスプレをしております。一体どのような格好でしょうかぁ? どうぞ当ててみて下さいねっ!」
自室で撮影していると思われる彼女は、あなたに挑発的な目線を向けていた。
「……どうですかぁ、分かりますかぁ? ヒントは、もろちん……ではなく、もちろん、昭和レトロですよぉ~。昭和っぽい、長いスカートのセーラー服ぅ? いいえ、違います。それなら、スカートの裾がはみ出ているはずですから」
少女の膝から下はタオルで隠れていない。学生用の上履きと白い靴下を着用しているのが分かる。
「裸足ではないことから、スクール水着でもないのはご理解頂けますよね。スク水でないなら、もう一つの典型的な昭和レトロ、いわゆるブルマ姿をご想像されたでしょうか? いいえ、それも違います」
スク水とブルマ体操着。昭和の学生コスプレと聞いて連想するような代表格は、どちらも彼女の口から否定されてしまう。
「もしかしたら、下はブルマで上はセーラー服という、変則的な格好かもしれないと疑いましたかぁ? 残念ながら、それも違いますよ。――正解はこちら!」
彼女は両手を放し、固定していたバスタオルが一気に落ちる。
あなたは目を疑った。彼女が白い下着姿だったからである。
「上はシミーズで下は木綿パンツ!」
両手を頭の後ろで組んで、彼女は下着を見せつける。
この下着少女にシミーズと呼ばれた木綿の肌着は、丈が長い。袖はなく、肩紐は太めだ。
彼女はシミーズの裾を両手でたくし上げて、隠れていたショーツを丸見えにする。おへそからお尻全体までを厚手の生地でしっかりと覆った、子供っぽいショーツだった。
「これは何の格好か、お分かり頂けますかぁ~?」
上下の下着ともに、リボンやレースのような装飾が一切ついていない。体のラインや美しさを強調するような下着とは完全に真逆であった。
「正解は、『昭和の身体測定の格好』、でしたぁ!」
恥ずかしがることなく、むしろ笑顔で彼女は答えを発表した。
それから数秒が経過し、彼女は裾を元に戻す。あなたに背中を向けて立ち止まった。実用的な白い肌着に垂れる、左右の黒い三つ編みが印象的に映る。
「懐かしき昭和の生徒さん達は、高学年でもこのような下着姿で、体重計などの測定の列に並んでいました。当時はとても恥ずかしい思いをしたでしょうね。今では考えられません」
彼女は再びこちらを向き、画面に近づいて来た。
「シミーズはシュミーズとも発音されますが、どちらも昭和の頃の古い呼びかたです。今風に言えば、キャミソールとなりますね。ただ、キャミソールは下着だけでなく、お洋服として着られるものもありますが、シミーズは下着だけです」
彼女は大胆にも両手でシミーズを脱ごうとした……のを、途中で止めた。それなりの大きさがある胸部の、下乳が見える辺りで。
「本当はパンツ一枚の上半身裸で身体検査を受けることが、女子でも多かったようです。しかしながら、そんな格好では動画的に配信出来ませんし、シミーズという響きが昭和っぽいなぁと思い、このような格好で落ち着いた次第です」
半脱ぎ状態のまま、彼女は解説を続けた。
「なお、胸部の頂点は、絆創膏で隠しています。もしかしたら危険地帯がチラッとでも見えるなんて期待を抱いたそこのアナタ! 残念でした! ということでぇ、昭和レトロクイズ、この格好は何でしょうの答えは、昭和の身体測定の格好でしたぁ~っ!」
少女の半脱ぎ姿が維持される画面は、だんだんと暗くなっていく……。
ついには画面が真っ黒になった。これで終わりかと思ったが……、まだ時間が余っている。
少し待っていたら、大きな白い字で『おまけ』と中央に浮かび上がった。
「ここからは、映像は出ませんよ。音声だけでお楽しみ下さい。……私は本編中、胸部の頂点を絆創膏で隠していますと、お伝えしました。それを、今から外します。……今現在、私がシミーズをまだ着ているのか、あるいは脱いでいるのかは、明言しません。では、貼ってある絆創膏を、剥がしていきますね……。まずは左側から……。あっ、けっこうくっついてる……っ、あっ……痛っ……。はぁ……はぁ……はぁ……、はぁ……」
彼女の息づかい、粘着物を剥がす際の微かな音を、スピーカーが拾う。
「……これで一つ目、取れましたぁ……。さらにはもう片方も、……いかせていただきます。ふぅ……、えいっ! 痛ぁっ! 一気にやってしまいましたよぉ~っ! どうだ! やっぱりいたぁい……。……絆創膏さん、ごめんなさい。怪我もしていないのに、無駄に使ってしまって。でも動画的には、きっと上手くいったと、私は信じています。皆さんも、限られた資源は大切に使いましょう。……私が言っても、説得力がないですけど。……では、今度こそ、この動画は終了です。最後までご視聴、いや、ご清聴? して下さり、ありがとうございました」
少女の声が聞こえなくなり、動画終了時間に到達する。
彼女がどんな格好で絆創膏を剥がしていたのかは、あなたも想像するしかなかった。
(終わり)
ブルマ体操着での身体測定もあったみたいですが、それは体操着姿ですので、解説は省きました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。このような変態作品は他にいくつもありますので、それらもよろしくお願いします。