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第5話:辺境伯遼

帝国騎士襲撃から3日後…


「「でっけぇ…」」


俺達二人は帝国と王国を挟む国境線としてそびえ立つ城壁を前に率直な感想を述べた。


「ん?君たちはここには初めて来たのかい?」


俺達が城壁を見上げている姿を見て、犬人亜人の門番が声をかけてきた。


「ああ、すいません…俺達は帝国から来まして此処には初めて来たのでつい」

「帝国からですか…あまり大きな声では言えませんが最近帝国から様々な方達が此処、王国に向かってきているのですよ」

「考える事は皆一緒ってか」


王国でも最近の帝国の状況は知ってはいたんだな。


「ですので此方で簡易の入国手続きをさせてもらいます」

「入国手続き?」


そう言うともう一人の人族の門番が俺達に紙と羽ペンを手渡した。


「こちらにお名前と入国理由の記載をお願いします」

「おおう…しっかりしてるな…」


俺達は紙を受け取って記入した。


「そう言えば…此処って少し前に帝国絡みで何かあったって聞いたのですが…何があったのですか?」

「ああその事か…アレは…」

「えっ!?先輩!?言っちゃうんですか!?」

「別に構わないだろ?箝口令は引かれても無いし」


記入している間に門番は話してくれた。


帝国の伯爵子息、グラハム・ウォーカーがいきなり来て此処の治安維持に協力する代わりに此方の辺境伯に全資金の4割を報酬として要求してきた。


その時には辺境伯は所用で王国に居たため交渉は出来ない為代理として婦人が応対し、そんな要求を受けられるとは思えませんと答えた。


だがアッチは辺境伯を出せの一点張り、終いには国境の帝国側で野営までして居座る始末、帝国に向けて進もうとした商人や冒険者からは通行料として金まで取り出した。


「カツ上げかよ」

「正にそれでしたよ…此方には辺境伯様の私兵団の方々がいらっしゃいますのに」

「って言うかこれって国際問題じゃあ…」

「いえ、その後、辺境伯様がお戻りになりウォーカー伯爵に問い詰めたところ、ご子息の独断で行ったと仰っておりました」

「「独断!?」」

「それには我々も辺境伯様も驚きましたよ…ウォーカー家は帝国貴族の中でも良識ある方でしたので」

「因みにそのバカ息子は?」

「馬鹿て」

「ウォーカー伯爵が激怒し、暫く部屋で謹慎させると」


親はイイ人なのになんだってその息子がそんな蛮行を…。


そう言えばマークの親父さんとは面と向かって話したけど獣人()に対しても普通に接してたんだけどな…話し聞く限り人族至上主義ってワケじゃ無いだろうし。


「っと!書けたぞ!」

「俺もどうぞ」

「はい…では拝見させてもらいます」


俺達は紙の記入を終え、門番二人に紙を手渡した。


「冒険者への復職ですか?」

彼方(帝国)の冒険者ギルドが最近では俺の様な異種族に対して当たりが強くなって来たので」

「成る程…」

「アタシはコイツとは同郷だから離れて別々に活動したくなかったから」

「嘘つけ俺の身体モフモフ目当ての癖にっダダダダダダッ!!?」


俺はルイン頬を引っ張られながらもどうにか抵抗をした。


いひおう(一応)言っときまふがひょんなきゃんけい(関係)ではにゃいのでっ!!?」

「あっああ…そっそうですか…」

「……狼()襲われてるよりも狼()襲われてるな」

「先輩!?」


門番は一度、咳払いをした後、一歩下がって道を開けてくれた。


「ではガルシア様、ルイン様、ようこそ王国遼へ」

「ここ、ソアリス辺境城下町へ!」


俺達が門を通るとソコに広がっていたのは立派な城下町だった。


色んな露店がやっていたがやっぱり国境と言うのもあって民宿や酒場が多くを占めていた。


「一応此方にも冒険者ギルドはありますが此処ソアリス遼にありますのは支部ですので登録は出来ません」

「あ~そっか…そうだっだなぁ…」


冒険者として活動する為には先ず、それぞれの国の首都にある冒険者ギルド本部で冒険者カードを貰わなければ活動が出来ない。


だが一度冒険者カードを受けとれば破棄でもしない限り支部で受付や更新が出来る様になる。


俺達の場合、破棄したから一度王国の首都セントエルモに行かなきゃ行けない。


「ホントめんどくさい規則だな!」

「おかげで冒険者の賄賂だの無断受注する様な無法者がかなり絞れたんだ、これに文句は言えないだろ?」

「後3時間程で王国行きの乗り合い馬車が到着しますよ」


だったら此処で時間を潰すのもありだな…。


「ちなみに此処ソアリス遼の名産はリンゴでございまして」

「リンゴ…!」

「そのままでも良いですがアップルパイやアップルタルト、最近では凍らせて作るシャーベット、特に力を入れてるのが長年愛されているソアリス遼特産のリンゴの蜂蜜酒で…」


俺はその言葉を聞き、門番に詰め寄る様に近づいた。


「どこですか!」

「えっ!?ええっと…彼方の方に…」

「ヨシ行こう!すぐに行こう!!」

「その前に少し落ち着けバカ犬!耳と尻尾がひっきりなしに動きまくってるぞ!?」


俺は門番の指刺した場所に急ぎ足で向かった俺を追いかける様にルインは走った。


「……行っちゃいましたね…」

「ああ…帝国から来た割には元気だったなあの二人…」

「そうですねぇ…」

「……ポルコ…」

「はい先輩」

「あの女の子…」

「あっやっぱり先輩も?」

「ああ…」


「「()()()()()()()()…」」



◆◆◆


同時刻、ソアリス辺境城下町の出店。


「あーん…」


アタシは手に持ったアップルパイを口に運んだ。


(甘味は勿論だが酸味も程よい!口を動かせばシャキシャキ感と共にパイ生地の二重音を奏でてやがる…!)


アタシはアップルパイの味に満足しながら隣を見た。


「~~~ッ!??」


ガルシアは尻尾をブンブン振りながらアップルタルトを食べていた。


「あらあら…美味しく食べてくれるわねぇ…」

「ゴメンな婆さん…コイツ邪魔だったらすぐに絞めるけど?」

「あら良いのよそんなことしなくて!寧ろこんな美味しく食べて貰えるならオバチャン嬉しい位だよぉ!」

「ムグムグ…(ゴクン!)ッフウ…とても美味しかったです」

「お粗末様!」


コイツ本当に狼獣人かってタマに疑う位にフルーツ好きだよな。


獣人って大体は肉や魚が好物なのに。


「もし良かったらウチの新作メニューを食べてみるかい?」

「新作?」

「りんご飴と言ってヤマトで作られたモノを完全再現してみたんだよぉ」

「りんご飴!名前は聞いた事があるけどまさか此処で拝めるとは…!」

「いただくかい?」

「貰います!」

「つったく……ん?」


ガルシアが勘定を済ませている間にアタシは不意に地面に目をやると何故か不自然な場所に影が出来ているのを見た。


「……なんだ?」

「ァァァァアアアッ!!?」


アタシが上を向くと空から人族の男が降ってきた。


アタシはすぐにそこから離れた。


「ゲシュ!!?」


ソイツは顔面から地面に激突した。


「ッベンズドッ!!?」


が、勢いがそれで止まらずそのまま何回か地面を跳ねた後、民宿の壁にぶち当たった。


アタシはその男に近づいたがどうやら生きてはいるみたいだ、無事では無いけど…。


「これは…?」

「バンビッ!!?」


アタシは後ろから聞こえた妙な悲鳴を聞いて後ろを向くと何故か頭から先がものの見事に突き刺さっている狐獣人が居た。


更にその後ろから人族二人が凄い勢いでアタシめがけて空から降ってきた。


「アブナッ!?」

「パッ!?」「ジェロッ!!?」


アタシはどうにか避けたがその後ろでは男三人が壁から下半身が生えているという凄い絵面だった。


「おーいルイっ……ん……」


その現場にガルシアがりんご飴両手で持った状態で来てアタシの周囲の状況を見て硬直した後、ため息を吐いた。


「……ルイン?」

「まてまてまて!?アタシじゃねえぞ!?」

「え~?」

「ホントだって!コイツらが空からっ!」

「ヘブンッ!!?」


現行犯にされかけたアタシだが丁度良いタイミングでアタシ達の間からドワーフの男が飛んで来てまた民宿の壁に突き刺さった。


「………」

「………なっ?言った通りだろ?」

「成る程、けどそもそもなんだって人が空から?」

「わかんねぇ…けど」

「ダンボッ!!?」


アタシ達が空を見ると切りもみ回転で下から空に飛ぶ奴が見えた。


「……あそこだな」

「……行くか?」

「ああ、アタシに当たりそうだったのに着いて文句言ってやる!」

「そこ?」


アタシ達は人間を空に飛ばしている場所に向かった。


柵の外側は人だかりが出来ていて周囲の野次馬にアタシは声をかけた。


「なあアンタ」

「んっ……おっ!偉いベッピンだなお前さん!」

「ここでなんかやってるのか?」

「なんだ、アンタらも訓練所に来てたのか」

「「訓練所?」」

「此処の領主様の私兵団が修練をする為のな」

「成る程…けどなんだってこんなに人が?」

「実はな…」

「ブルゥアアアァァア!!?」


話しを聞こうとした時、アタシらの真上から人が高速で切りもみ回転をしながら飛ばされていった。


「アブゥッ!!?」


そしてそのまま民家に激突していった、その時にアタシは振り向いて目を見開いた。


「なんっじゃこりゃ…」


それはつい先ほど前衛芸術にされた奴だけじゃなく、何人モノ人間が人種種族問わずに物理的に壁画の一部にされていた。


「……此処ってヒトを使ったアートでもやってるんですか?」

「違う違う!全部アイツの仕業なんだ!」


ガルシアの問いにオッサンは慌てて訓練所を指指した。


そこには剣を持った人族と片手斧を持ったドワーフ、弓を構えたエルフがフルフェイスの兜を着けた武器を持っていない野郎と向き合っていた。


「クソッ!俺達以外全員やられた!」

「落ち着けファー!」

「テメエがこん中で一番歳上の癖にキョドってんじゃねえクソエルフ!」

「んだとドワーフコラァ!!」

「こんなときに揉めんな凸凹コンビ!良いかお前ら!ここで実力見せつけねえと折角貴族様に士官出来るチャンス処かクビだぞ!」


「………」クイクイ!


そんな揉めてる三人に対して、兜野郎は挑発的に手首を自分に向けて振った。


「こっコイツッ!!?」

「チッ!仕方ねえ!ファー!アース!あれをやるぞ!」

「ッ!良いのかオウル!?」

「賛成だぜ俺は!コイツは強え!俺達元Cランク冒険者の意地を見せるぞ!」


男三人は兜野郎と一直線に並んで前からドワーフ、人族、エルフと並んだ。


「行くぞ必殺陣形(フォーメーション)

「「「トリオ・ストリーム・アタック!!!」」」


高々と必殺と言いやがったのと同時にエルフは矢に魔力を込め、残り二人は突っ込んで行った。


「喰らえ!」


ドワーフはかなりの速さで兜野郎に近づいた、その手の中にある片手斧は魔力を帯びていた。


「アレは!?」

魔技(アーツ)か!」


魔武技(アーツ)…この世界に一般的に知られてる魔力の使用方法の大元は魔術である。


その中でも特に流通しているのは詠唱魔術であり自身の魔力に対して詠唱と言うカタチで道を作り様々な事象を起こす。


当然、詠唱までには時間が掛かりそれが上位魔術であればあるほど時間も掛かる。


生活魔術<初級魔術<中級魔術<上級魔術<超級魔術…と言うように詠唱時間が掛かる。


また、無詠唱と言い魔術を行使する為の詠唱を破棄し、即座に行使可能な技術はあるが代わりに魔術のランクが2ランク…良くても1ランク落ちてしまう上に魔力も本来より多く消費してしまう。


そんな詠唱魔術に対し、魔技(アーツ)は自身、或いはその者が使用している武具に対して魔力を流し、独自の技術によって魔力を力に変え、詠唱を必要とせずに魔術に匹敵する力を発揮する。


これにより魔力の使用方法は知識に依って魔力を行使する『魔術』、技術に依って技とする『魔技(アーツ)』が主流になった。


(スゲエなあのドワーフ…ドワーフは種族的にも魔力操作は苦手だし力でごり押しがモットーだってのに…)


それなのに魔技(アーツ)を修得したドワーフにアタシは関心した。



だが……。


「ガイア…グビャ!!?」

「なっ!?」

「マジか!?」


兜野郎は上から襲って来るドワーフに対して引くどころか前に進んで斧を振りかぶる瞬間に合わせて顎に向かって拳が突き刺さった。


その一撃を受けたドワーフはそのまま吹っ飛び、後ろの人族めがけて発射された。


「おっとアメェぜ!」


だが飛んできたドワーフに対して即座に回避行動を取ってそれを避けた。


「ぶっちゃけアイツがやられるのは想定内だ!」


剣を持ち、素早く近づき更に…


「フォトンエッジ!!」


剣から目を覆う程の眩しい閃光が出てきた。


上手いな…さっきのドワーフと言い…、その閃光にフルフェイスは腕を目の前に出し防ごうとした。


「貰ったぁ!!」


そこに間髪入れずに剣を横に振りかぶっ……。



ミリィッ!!



アタシもガルシアも、今まさに追撃の準備をしていたエルフも含めその場に居た全員が声を失った。


「ガッ………アッ…………!?」


オウルとか言う奴の股の間にアイツは…えげつねぇ前蹴りをぶちかましやがった…。


野郎共は股を抑え、声すら上げず、ガルシアがりんご飴を噛み砕く音が良く響く程に静まりかえった。


「おっオウルゥ!!?」


タマらずエルフはオウルに近づいたがありゃあ…ダメだろもう…。


「クソぉ!テメエは悪魔か!?良くもオウルのムスコをッ!!」


だがそんな惨状を意にも返さず、奴はまた手首を動かし、挑発しやがった。


「上等だぁ……上等だテメェ!!」


仲間のカタキを討つためにエルフは弓をつがえ、矢に魔力を込めた、だがそれだけじゃ無い。


『大いなる嵐よ…』

「マジかあのエルフ!?」

「アイツ二重動作(デュアルアクション)が出来るのかよ!?」


詠唱魔術と魔技(アーツ)を二つ同時に行う技法、アタシも魔銃剣(バイアネット)の補助込みなら使えるけど生身でやるのは相当難しいぞ!?


『我が矢に纏い…我が友の愚息の仇を貫き穿て!!』


エルフを中心にすげえ風が吹き荒れ、その矢には誰が見ても分かる程の風の魔力が込められていた。


暴風(ハリケーン)一矢(アロー)!!』


その矢は高速回転しながら後ろから嵐の様に地面をえぐりながらマスク野郎めがけて一直線に放たれた。


「俺の最大攻撃だ!!思いしれぇ!!!」


矢はマスク野郎に当たっ…



パァン!



「………は?」

「「「「………え?」」」」


んなかった。


エルフの放った最強の一撃は奴の放ったパンチ一発であっさり消失した。


そんな中、ガルシアが二本目のりんご飴を齧りながら解説をした。


「んがっ……魔技(アーツ)だな」

「アーツ?」

()()()は両拳に魔力を込めてアーツを放って相殺したんだ、あのエルフよりも少なく、研ぎ澄ました一発で」

「あのエルフの射ったのは上級魔術級の威力だぞ?どうやっても相殺は…」

()()を狙ったんだ、渦の中心ってのは回転が大きければ大きい程回ってないんだ、ソコをめがけて同じ風のアーツを使って渦の中心を逆回転に捻った拳を放って相殺したってワケだ」


マジかよ…アイツあの一瞬でそんな……ん?


「なあガルシア」

「なんだ?」

「二つ質問があるんだがいいか?」

「良いぞ」

「お前さっきアイツが魔力を込めてるのは()()っつったよな?」

「ああ、確かに両拳だ」

「………それってやっぱり……」


次の瞬間、マスク野郎は一歩でエルフの懐に入った。


「あっ」


自分が放った最強の技をアッサリ消滅されたエルフは呆然と立っていた、そして……


旋風昇拳(サイクロン・アッパー)!」

「ムグルブワアァァアッ!!!?」


放たれたアーツはエルフを天高く切りもみ回転で宙を舞った。


しかもアーツの威力のせいで服は全て切り刻まれ、民宿の屋根に突っ込んだ様な破壊音が響き渡った。


「…もう片方はトドメ用かよ」

「そゆこと」


マスク野郎は手を払いながらアタシらを見ていたが構わず話し続けた。


「それでもう一つなんだけっ…」


瞬間、アタシの目の前に剣が現れた。


アタシはその剣が目んたまに当たる前に()を掴んで受け止めた。


その後ろには今まさにぶん投げた後の体勢でアタシを見ているマスク野郎が居た。


……野郎……。


「上等だぁ……上等だテメェ!!その分かりやすい喧嘩、即買ってやらぁ!!」


アタシは訓練所の柵を飛び越え、野郎と向き合った。




























































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