第4話:頭無し《ヘッドレス》
早朝、帝国領にて…
第四騎士団騎士二名は夕方帝国から発ったブラス隊長率いた小隊の捜索に出ていた。
「はぁ…」
「オイオイため息出てるぞ」
「そりゃ出したくもなりますよ、こんな朝早くから戻ってきてないブラス隊長を連れ戻して来いって…第一、隊長も隊長で遅すぎますよ」
「そうだな…確か獣人に拉致された女性の救出にしては大分…」
「もしかしてその女性を…」
「あり得るなブラス隊長なら…兎に角とっとッ…と……」
街道から少し逸れた草原から鉄錆びの様な匂いが漂ってきた。
もう一人も匂いを感じその発生源に向かった。
「うっ……うわああぁ!!?」
「こっこれは!?」
そこには、捜索していたブラス隊とおぼしき騎士達の死体が転がっていた。
◆◆◆
帝国第四騎士団詰所、騎士団長執務室
「なんだと!?」
「はい…身元の確認はまだですが服装から恐らく…」
「ではあれか!?ブラス隊はたった一人の獣人に全員やられたと言うのか!?」
「いっいえ!?そうとはまだ決まって…」
バン!
報告の最中、突如執務室の扉が開かれ騎士団長含め三人は扉に視線をやった。
「なっ!?誰だ!?今は会議ちゅ…う…」
扉から入って来たのは無骨な大剣を背中に差した緑髪の逞しい胸筋をさらし出す人族だった。
「がっ……ガリレオ・マッスル第一騎士団長殿!!?」
「いかにも」
ガリレオはマッスルポーズを決め、返答した。
「ガッ…ガリレオ殿、いきなりどの様なご用件で…」
「それは君が良く知っているはずだがゴロク・カネダ第四騎士団長」
パンプアップまでやり始めたガリレオにゴロクらはたじろぎ、本題を切り出せなかった。
「知っているはずだが…我々帝国騎士団は全ての帝国民の安全と治安改善と帝国の防衛、皇帝陛下の守護が我々の使命…だが貴殿らは一貴族公子の要請で独断で動いた事については…ヌン!」
ガリレオはその胸筋を膨張させゴロクに近づいた。
「帝国騎士団総督殿が築いた規律違反である…と、故にワタシは貴殿のその行いについての事情聴取をしなければいけないのだ…フン!」
ここに至ってやっと正気を取り戻したゴロクは弁明をしようと頭を回転させ…大義名分を口にした。
「おっ恐れながらガリレオ殿!わっ我々は市民を悪漢から取り戻そうとしただけでけっ…決して規律違反などは…」
「ほうっ?」
「でっですので!私はブラスを市民の救出に向かわせたのですが…」
「ですが?なにかあったのかね?」
ガリレオは更に胸筋を近づけゴロクに圧をかけた。
「ぶっブラス隊は全滅…それで我らはその悪漢の討伐隊を組織しようと…」
「全滅…なんと…」
全滅と言う言葉に少しショックを受けたがガリレオはすぐに気を取り直した。
「ぬぅん…ちなみにだが…殺された者達の遺体は?」
「そっそれが!?その…現地には二名しか向かわせていなかったのでまだ…」
「そうか…それではすぐに遺族に返還をしなけ」
「あっあのお…」
そこまで、ガリレオが入室してからは話に入って来なかった騎士の内一人が挙手をして話に割って入ってきた。
「なんだ!今は重要な話の途中だぞ!」
「よい…それで君はなにを話そうと言うのかね?」
「あっえーっとその…私達がその捜索に向かった者で…さっ先程の遺体を返還すると言う事なのですが…とっ…とても難しいかと…その…」
「難しい?何故かね?」
「こっ殺された者達は…あっ頭がその…無かったのです」
「なに…?」「なんだと!?」
「それに…ブラス隊長の遺体は…その…確認が出来ず…衣服すらも見当たりませんでした…」
「そんな…だがそんなあの時の様な事が起こる筈が!?」
「まちたまえゴロク殿」
憤慨するゴロクを余所にガリレオはアゴヒゲを弄りながら言葉を続けた。
「もしやだが……その件の悪漢は獣人、或いは亜人だったのかね?」
「うっ…たっ確かに…その相手は獣人ですが…」
「そしてその誘拐された者は人族の女性、金髪の長髪の少女なのかね?」
「はっ………はい……」
「なんと……」
それを聞いたガリレオは顔を手で覆い暫く天をあおいだ。
「でっですがご心配なく!これより小隊を再編成してすぐに討伐隊を!?」
「いや…それはしなくていい…」
「えっ…」
「因みにだがその獣人は指名手配などの方は?」
「えっええ、まだしてませんがこれから!」
「ゴロク・カネダ第四騎士団長」
ガリレオはゴロクに向き直り、圧を掛ける様に口を開いた。
「その件は私が受け持ち、我が第一騎士団が引き受けよう」
「……は?」
「逃走した者とその少女に関しては拝めはまだ保留とさせてもらう」
「なっ!?ですが!!?」
「この件は貴殿の考えているよりも重い、これ以上の追撃でイタズラに部下達を死なせるワケにはいかん」
ガリレオはゴロクに背中を向け、部屋から立ち去ろうとした。
「しっしかし…!このままでは死んだ者達が!?」
「彼らの死の原因の一端は…貴殿にもある、これからは広い視野と懸命な判断をするようにしたまえ」
今度こそガリレオは部屋から立ち去った。
その少し後、執務室から何かが壊された音が響いた。
◆◆◆
二時間後、帝国第一騎士団詰所、団長執務室。
「隊長殿、失礼します」
「うぬ、入りたまえ」
扉をノックして入って来たのは白い毛皮に身に纏った巨体な熊獣人だった。
「先程の調査についてです」
「了解した、報告を頼むよシジマ副隊長」
「はい、調査の結果、第四騎士団が追った悪漢は元B+冒険者ガルシア・ヴァン・ウォルフ、そして救助しようとした者は同じく元B+冒険者ルイン・マグナスでありました」
「ん?元と言うのはどういう事かね?」
「こちらの両名は昨日の昼頃に冒険者ギルドに立ち寄り、冒険者を辞退したとギルドマスターから、そしてその後、マーク・マルクス公子の訴えを受け…今回の顛末に繋がったと」
「な!?ではそもそもが彼らはただ帝国から出ただけでは無いか!」
「これは蛇足ですが…ルイン殿を連れ戻す際にはガルシア殿の生死は問わない旨の発言をブラス隊長がしていたと…」
「なるほど…ではやはり…」
「シジマ副隊長」
「ハッ!」
「この件は我が帝国騎士団の誤報、並びに越権行為である、これ以上ガルシア、ルインの両名の追走はしないモノとする、無論指名手配は無しだ」
「分かりました」
そう言い切るとガリレオは椅子に腰を落とし背もたれに体を任せた。
「……いったい何故ブラスはこの様な暴挙を…」
「推察ですがここ最近帝国では人族主義思想を持った者が増えはじめていますのでブラス達は相手が獣人と侮ってそれで…」
「だとしてもあの光景を見たにも関わらずとは…」
ガリレオは嘗てあった出来事を思いだしながら考えこんだ。
(かつて我らが帝国領にいた総勢百名以上で構成された盗賊団『蜥蜴』…奴らは帝国のあらゆる場所に出没しては略奪の限りを尽くしていた…無論我ら騎士団も応戦しようとしたが蜥蜴は想像以上に狡猾かつ…冷酷だった)
(奴らは常に複数人で略奪をしているがその中には奴らの手に落ち、人質となってしまった者達が居た、冒険者、或いは騎士団と相対すればその人質に爆破の魔術道具をくくりつけそして…)
(事態は深刻だったが我らは遂に奴ら蜥蜴の本拠地である砦を発見したがすぐには迎えなかった、恐らく奴らの砦内部には大勢の人質が居るだろう…もし近づかれて盾にでもされれば…)
(ソコで我々騎士団は冒険者ギルドに依頼を出し、砦内部に潜入し人質達の救助をしてから砦を壊滅させる作戦を練った、当日までに依頼を了承し潜入する役を受けたのは当時Cランクだったガルシア少年だった、因みに一緒に依頼を受けたルイン少女は潜入には不向きと言う事で我ら騎士団と共に襲撃班に加わって貰った)
(作戦開始時、ガルシア少年は蜥蜴の使う秘密通路の一つを使い潜入を果たした、だが予定を遥かに越える時間が過ぎた頃にガルシア少年が砦から顔を出し我らを招き入れた、そこには私たちの想像以上の光景が広がっていた)
(砦入り口付近にはガルシア少年によって討たれた蜥蜴の構成員とおぼしき者達の死体、そしてガルシア少年は大盾に括られた人質達の縄をほどいていた、何が起こったかを聞こうと声を出す前にガルシア少年は凄まじい速さで何かをしその直後第二騎士団団長の両腕が吹き飛んだ)
(その凶行にワタシ達が驚いている間に少年は砦の門から一人の四肢が無い男を突き飛ばして説明した、なんと今回の我々の作戦は蜥蜴に筒抜けだったのだ!ガルシア少年が潜入しようと砦に侵入すると待ち伏せを貰い、オマケに人質達を盾にしていた奴らと出会ったのだ)
(奇襲を凌いだガルシア少年は状況を把握しこのまま報せに戻っては人質達も我らも危険と判断し、敢えて単独潜入を続行しなんと盗賊団の全滅と人質の救助をたった一人でやってしまったのだ!)
(その際に人質に扮し背後から襲おうとした蜥蜴の首領の四肢を吹き飛ばし尋問を行った結果、第二騎士団団長が蜥蜴の内通者であると断定し団長の腕を吹き飛ばしたと言うのが顛末であった)
(無論事実確認の為に第二騎士団団長とガルシア少年は一時拘留、その結果第二騎士団詰所内に動かぬ証拠が発見され第二騎士団団長はその後騎士団を辞めさせられ犯罪者用の監獄にぶちこまれた)
(詳細をガルシア少年達に伝えたワタシ達は彼の釈放の前に一つの疑問に答えて貰う事にさせて貰った、今回の一件の間に蜥蜴の砦内を捜査し、奪われた私財や財宝を回収していた者達からの報告だった)
(確かに蜥蜴の構成員は全滅ではあったが首領である一人を除いて全員の首から上が無かった上、砦のありとあらゆる箇所が何かによって抉られてると言う奇妙な報告だった、ワタシは一応ガルシア少年からどうやってそうしたのかを尋ねた時、ガルシア少年は左腰に着けてたモノをワタシに見せた)
それはこの帝国に置いては極めて珍しい黒塗りの大型回転式拳銃だった。
◆◆◆
「回転式拳銃?」
昨日夕方、ガルシア、ルインに向かって進んでいたブラス隊の一人がこんな話をしていた。
「ああ、なんでもその獣人の使うのがそれらしい」
「ハッ!流石魔力無しだな!よりにもよってあんなクズ武器を使うだなんてな!」
この世界に置いて、拳銃と言う武器が開発された切っ掛けは一人の異世界人によるモノだった。
魔力が低い者でも扱えるモノをと言う信念で作られた拳銃、だがあらゆる問題によりクズ武器とすら呼ばれていた。
まず一つ目、それはこの世界の武器の特徴は身体から魔力を武器に流し、攻撃力、耐久性などを強化する事が出来る点に反し、拳銃は弾丸の製作自体は安易だったが魔力を込めてしまうと引火し暴発してしまう代物だった。
それが原因で威力の底上げが出来ないのが一つ目の理由。
次の理由はその使いにくさが原因だった。
実は拳銃を一番最初に造ろうとした異世界人は確かに拳銃と言う物を知っていた、だが肝心の作り方そのものをわからなかったのだ。
それでもなんとか完成させたが出来上がったのは異世界人の造ろうとした自動式拳銃では無く回転式拳銃で手一杯だった。
実戦で使用させたが六発しか撃てない上に威力も魔力に寄る強化が出来ない拳銃に対して魔力を使い、矢を強化する事が出来る上に装填の早さは弓と比べても遅かった拳銃では比べて見ても一目瞭然だった。
それならばと制作者の異世界人は威力を追究し大口径のリボルバーを製作した、確かに魔物にも効果は有ったが同時に撃った人物の肩が外れる、折れるなどの問題が新たに発生した。
大口径のリボルバーだと反動に人族は耐えられ無かったのだ、ならばと強化魔法を掛ければ言いと言ったがそもそもそれを掛ける位ならやはり弓矢の方が威力が出てしまう。
その他にも撃った際の発砲音の大きさ、六発を撃った後の装填の長さなどの問題を指摘され結果、この世界で拳銃と言う武器は余程の事でもなければ使わない武器となった。
「今じゃあヴァイスタン連邦の中でも物好きなドワーフ位しか手を着けて無いほどだ!それなら今回の任務は楽勝だな!」
「ああ!俺、あの獣人の死体から生皮剥いで俺の家に飾ってやるんだ!」
「オイオイそれは俺がしたかったのに!」
「喧しいぞ貴様ら!!」
「「ブッブラス隊長!?」」
「先方から目的の者達が野営をしていると報告だ!これより我らブラス隊は拉致された少女の保護!並びに拉致犯の掃討を開始する!なお少女についてはワタシ自らがお連れする!」
舌を舐める様なブラス隊の騎士達は…この時隊長のブラス含めて全員が今回の任務を簡単なモノだと…たった一匹の獣人を蹂躙するだけだと認識していた。
故に…彼らは…これから会う二人を侮った。
◆◆◆
目の前の獣人は我々騎士団を侮辱し、これでもかと舐めた態度をとった。
この獣人め…よくも我ら騎士団を!
我々第四騎士団は貴様の様な獣や馬鹿な平民共とは違う!
我ら第四騎士団は諸公貴族から将来を有望視された者達が集まった選りすぐりのエリート集団だ!
裏切り者の第二騎士団や平民が大半の第三騎士団!
化け物共の巣窟な第一騎士団などでは正義は執行出来ん!
私が!我ら第四騎士団が正義の鉄槌を振るわなければいかんのだ!
私が部下達に号令を挙げ様としたその時!
獣人は…手を上げたのだ。
一瞬呆けてしまったが夕焼けによって影が出来てたおかげか私は獣人が降伏の為に腕を挙げたのでは無く、手を挙げると同時に何かを上空に放ったものだと分かった。
「きっ貴様!抵抗すると言うのか!ならば…魔術師部隊!えい……しょ……」
私は隣に立っていた魔術師部隊長に命令を下そうと隊員の方を向いた。
隊員の頭が無い事にその時初めて気が付いた。
「………え?」
それは誰の言葉か…だが殺られたのは部隊長だけでは無かった。
部隊長含め二人の隊員も同じく頭部が無くなっていた。
「「「う…うわああぁ!!?」」」
その異常事態に隊員は声をあらげ、その混乱は瞬く間に部隊全体に広がった。
「ハッ!」
私はすぐに獣人に顔を向けると奴はいつの間に持っていたか分からんが左手に持つ拳銃を向け、私達をとても冷めた目で見ていた。
(なんだ!?いつ抜いた!何故発砲音が無い!何故三人が同時に殺られた!?いや違う!?だが!?)
私はその目に震えながらも先ほどの現象がどうやって出来たモノかを自問自答していた。
「フッ!」
だが奴はそんな私を嘲笑う様に地を蹴り、跳躍した。
「えっ!?ウッウワアァア!!?」
そのまま隊員の一人に飛び付き、顔を蹴るように踏みつけられ、地面に沈んだ。
「えっ!?あっ…」
「なっ…」
そして着地の直後、奴が黒塗りの銃を隊員に向けるとその隊員の頭がまた無くなった。
「ぐっ……このっ…」
先ほど踏みつけられた騎士は起き上がろうとしたがその前に奴は銃を下に向けた、踏みつけられた騎士の頭もまた無くなった。
奴はそのまま、銃を右向きに振り弾倉を出すと空の弾丸が飛び出し、奴は空いた右手で弾丸を装填していった。
「あっ…うっ…」
「おっ…おい…」
だが周りの隊員共は先ほどの衝撃から立ち直ってはいなかった。
「ッツ~~~!!貴様ら馬鹿か!!今がチャンスだろうが!!」
「「「ハッ!?」」」
隊員はワタシの一喝で正気を取り戻し、獣人に剣を向け、向かっていった。
私はその中でまだ動かないでいる隊員に近づきその頬をひっぱたいた。
「何をいつまでも呆けているのだ!!」
「あっ!?でっですが!?」
「言い訳などいらん!成果で示せ!!」
私は目を覚ました隊員に作戦を告げた。
「いいか!もし奴に向かっていった奴らの首が六回無くなったらすぐに突撃しろ!奴に弾を込める隙を作らせなければ勝てる!!」
「えっ!?ですがそれだと先ほどの者達は!?」
「奴の首を取った者には私の権限で部隊長にしてやる!」
「部隊長!?」
「部隊長……」
第四騎士団は貴族の中でも後継者に成れなかった者達の集まりだ!ここで手柄を貰えると言えばコイツらは喜んで向かって行く!
「「「わかりました!!」」」
四人の隊員は名乗りを挙げ、奴の首を狙おうと待ち望んだ。
その間に既に三人の隊員の首が無くなっていた。
「まだだ……まだだぞ………」
四人目、五人目、そして六人目の首が無くなったのを確認し、私は号令を出した。
「今だ!!討ち取れぇ!!」
四人は別れながら別々に奴に向かって突っ込んだのに対し、獣人は銃を下に向け、弾倉を出し、薬莢が飛び出したのを私は確認した。
(奴の先ほどの装填時間を考えても奴が装填を終える前に奴らの剣が届く!)
獣人はどういうわけか銃を振り回し、シリンダーを元に戻した。
(馬鹿め!間に合わないから空の銃で対抗する気か!)
「「「「貰ったぁ!!!」」」」
だが四人の剣は届かなかった。
何故ならば奴らの首が既に無くなってしまっていたのだから。
「………………は?」
首の無くなった奴らの身体はそのまま地面に倒れた。
その向こうでリボルバーを握った獣人は口角を僅かに上げた。
(バカな……一体……一体どうやって……!?)
その時、私は夕陽の反射によって奴の足元に何かが落ちている事に気づいた。
足元には先ほどのリロードの時に落ちていたよりも弾が多かった。
(なんだ…?なんであんなに…)
間違い無く六発以上の弾が落ちていた。
「まっまさか!!?」
ならばその弾はいつ出てきたのか……それにブラスは気づいた。
(あの獣人が我らと相対した時、奴は何かを上空に放り投げた!もし……もしあの時投げた物が今地面に散らばっている弾だったとしたら!?)
その驚愕の事実に。
(だが奴がそれを手で受け止めていない!……ならば奴はまさか!?)
(空から落ちてきた弾をそのままシリンダーに入れたと言うのか!!?銃を振り回したその時に!!?)
驚愕の神業、そしてもう一つの事実に。
(じゃああの時…最初のリロードがあんなに遅かったのは…)
ブラスの脳裏に、奴が口角を上げたその真意が判明した。
(私は………あの獣に嵌められたと言うのか!!!?)
自身が罠にはまったと言う屈辱的な事実に。
◆◆◆
「み~ごとに嵌まったなアイツら」
アタシは少し離れた所からドンパチをずっと見ていた。
「やっぱアイツら、ガルシアの事はメッチャ弱いって信じ込んでたな」
まっその理由も分かるけどな。
確かにガルシアには魔力は無い、何だったら剣や斧、槍から弓を扱う才能も無い上に使う武器はハズレ武器の拳銃だ、本来なら舐めてかかって当然だ。
冒険者として活動する為にもどういう武器を使えば良いか試行錯誤したけどあのクソ爺から見てもソコまで旨くは無かった。
辛うじて短剣術と体術は人並みよりも少し上程度だったけどそれ以外は並み以下。
そんな時にあのジジイのコレクションの中にあったリボルバーを見つけた。
折角だからと当時六歳だった私らはジジイと一緒に外に出て的を作って撃ってみた。
ガルシアはジジイ曰く、将来神業と言えるかも知れない程の銃の才能があった。
それからガルシアはジジイから錬金術を教えて貰い、自分で弾を創っては的に当てる事を繰り返した。
拳銃の弾は錬金術の初歩さえ分かってたらタダ当然の材料で作れたからか、ガルシアは何発も撃ち続けた。
何十…百…千…万……数えるのも馬鹿馬鹿しい程。
ジジイはワタシらが村から出る時、餞別としてガルシア愛用の二挺のリボルバーとヤマト国産の着物を渡した。
あの着物の袖には本来は矢を大量に持ち込む為の矢筒を弾に切り替えたモノが仕込まれている、おかげでアイツは弾を気にする必要はないしアイツの腕なら装填は一秒も掛からない。
そしてあの銃、全体が黒塗りででかく、発砲した弾は超高速回転する様になっていて対象を撃ち抜くんじゃなくて抉る事に特化した破壊力重視のリボルバー「牙」
あれに当たると普通の人間ならその箇所がまるで最初から無かった様に削られ、例え耐えれても回復魔術でも治りにくいかなりエグい銃だ。
音が聞こえないのはもう一挺の方もそうだけど…あんなモンを相手に視認出来ない程疾く抜いてしかも連射出来るのはガルシアだけだ。
一緒に動いてる間、アイツが弾を外したのは見たこと無い、例えどんな体勢から撃ってようがだ。
「ガルシアをマジで殺る気なら…百倍は人数揃えとくんだな」
アタシはヤジを飛ばしてる間にもアイツは銃を振って袖から出た弾をそのまま装填して残りの馬鹿共に向けた。
「うっ…」「ひっ!?」
「…俺の方に向かって来なければ俺は何もしない、死にたく無ければそのまま帝国に戻れ」
ガルシアは撃鉄を指で起こした。
「もしまだ俺と敵対するなら…ここに後四人の首なし死体が出来ると予告するぞ」
アイツの警告に三人の騎士は引き換えそうと後ろに後ずさった。
だが……。
「逃げる気か貴様ら!」
奴らの上官はまだ今の状況を理解しなかった。
「でっですが我々では!?」
「黙れ!私が奴の隙を作る!その間に近づいて殺せぇ!!」
アタシもそこまで頭良くない方だけど…大声で言うか普通?
ガルシアも呆れ果てているけど銃口はしっかり奴らに向けて敢えて待った、その間に奴らのお頭は魔術の詠唱が完了した。
「惑いし雲よ!我らを覆い隠したまえ!巨雲煙!」
発動した魔術により、アタシも含めてその場にいる全員は深く大きな煙に包まれた。
巨雲煙…確か風属性の中級補助魔術だったか?初級の煙よりも広く、深い煙を発生させるその魔術は撹乱や撤退時には最適な魔術だ。
なるほどなるほど、確かにこの煙の中じゃあ相手は見えねぇから弾は当たらないと……でも思ったかアホめ。
大体三十秒位か?煙は徐々に晴れて来てアタシはガルシアを見た。
ガルシアは左指で牙を回し、その前には三人の首なし死体が転がっていた。
「まっそりゃそうなるわ」
アイツが獣人だってのを忘れたのかあのアホ共、獣人の殆どは五感が人族よりも遥かに優れてるがガルシアはそん中でも特にヤベェのに。
鼻と耳の良さは狼獣人ってのもあって元から凄いし獣人はそもそも魔力を嗅ぎ付ける事が出来るが…アイツの目はもはや異常だ、その目は相手の癖から何もかもを見抜いて隠しごとや嘘は通じない、空中に不規則に動く紙に穴を空け、遠くの的にはどんな体制でも当てちまう、兎に角アイツの目は異常の一言だ。
仮に目を潰してもあんな足音立てて向かえばすぐに首なし騎士の仲間入りだっつーのに…。
てかアイツらのお頭はどこ行った?
逃げたってなら賢い判断だが…ガルシアがアタシの方に振り向いた。
その時アタシの後ろから手が伸びてアタシの腕を掴んでを拘束した。
「動くなぁ!!」
アタシの首に剣を突きつけてアタシを掴んだお頭が大声でガルシアに言い放った。
「良いか!もし少しでも動けばこの女の首を切り捨てるぞ!!」
「オイオイ…誇り高き帝国騎士様が人質って…しかも保護対象を…」
「黙れぇ!そんなモノ分からなければ私のした事にはならん!貴様が女諸とも我が部下達を屠った事にすれば良い!!」
「う~わ~…分かっちゃいたけどゲッスイなアンタ」
「喧しい!先ずはその武器を今すぐに捨てろ!さもないと!」
剣を更に強く押し当てたのを見てガルシアは呆れながら牙を腰のホルスターにしまった後、着物の懐を探って葉巻を出した。
「貴様…何をしている…?」
「ん?…葉巻を出してる」
「キキキキッ……キッサマァ!!?今の状況が見えないのか!!!」
ガルシアは葉巻の先っぽを爪で程よく切っている間にクズはみるみる顔を赤くして怒鳴り声を挙げた。
その間にアタシは剣を持っているクズの手首を。
「見えてるからこうしてるんだよ、だってお前さん考えうる中でも最悪の悪手やっちまってるから」
「ナニを!!」
メキョッ!!
握った。
「……………え?」
剣を取り落として、てめえの腕を確認したクズは。
「うっ…ガアアアァア!!??」
てめえの手首が潰れている事実をやっと認識したクズはアタシを離して痛みにもがき苦しんでいた。
「ナァッ!!?フッアァ!!!?」
コイツ…まるで何が起きたか分かってねえ見てぇにアタシを見つめていやがる…アタシはクズに近づいてそのすっくねぇ髪を掴んで無理矢理アタシの視線に合わせようとした。
ゴギィ!!
「☆%¥&#▽○@□◇ッツ~~~!!!!?」
「うっわあ…」
その時つい力んじまってクズの腰から鈍い音が響いてクズは更に悶え始めたがアタシはその時奴が飛ばした唾を手で拭いてアタシは可能な限り笑顔で話した。
「おいクズ野郎」
「ッツ~~~!!?」
「アタシを狙うって事は…てめえはアタシに殺されても…文句はねえよっなぁ!!」
アタシは奴を真上にぶん投げて背中にある武器収納具に手を突っ込んでアタシの武器を取り出した。
「!!!??」
空から降って来るクズはアタシの武器を見て信じられないモノを見たような顔をしていた。
アタシはクズの落ちてくる場所目掛けて武器を構えた。
「ガッハァ!!?」
クズは腹を串刺しにされ、口から血を吹き出した。
「てめえの最期にゃ勿体ないがくれてやる!!」
アタシは引き金に力を入れると同時に魔術を無詠唱で唱えた。
「爆発!!」
◆◆◆
ルインの放った初級爆裂魔術によって、奴らの隊長は派手に弾け飛び何も残らなかった。
俺は魔術の余波で火がついた草をちぎって葉巻に火を着けた。
「まさか…ルインの事まで知らないってのはなぁ…」
俺は煙を吐き出し、ルインを見た。
ルインは確かに獣人から見ても美女だ、たまにエルフと間違えられる時だってあるほどに、だがあの女はその類い稀な容姿を全て台無しにする程金や酒に弱く、ガサツで粗暴だ。
何よりもヤバいのはその細身細腕からは想像もつかない程の怪力と頑強さだ。
ルインはマークといた頃は奴の意向で後衛に回されて魔術支援をしていたけど実際俺達だけの頃はゴリッゴリの前衛だ。
そんな女に最接近しちまえばそりゃあ骨の1、2本は覚悟しなきゃなぁ…。
何よりもあの隊長殿がルインの武器を見て目ん玉ひんむいたのは良い証拠だ。
ルインの武器収納具から出てきたのは全長168センチ、ほぼルインの身の丈程ある魔銃剣だ。
魔銃剣…俺の回転式拳銃が出来てからかなりの年月が経った頃にヴァイスタンで三年前に作られた武器だ。
リボルバーの威力不足を補う為、魔力を込め、実質的に威力を保持したまま無詠唱発動出来る大型弾頭を装填し発射する為に単発式を採用、更に接近戦を可能にするために銃身に組み込む様に刃渡りのデカイ剣を付けられた。
一見するとリボルバーの上位互換に聞こえるがコッチも色々と問題を抱えている武器だ。
先ずは魔力を込めると言う行為事態が問題だ、確かにカートリッジには最上魔術級の魔力を込める事が可能だがそれを込めるまでに同じ時間を要する、ならばそのまま詠唱して発動すればいいとさえ言われてしまったのだ。
更に撃った時の反動と言う最もデカい問題があった、初級魔術分の魔力を込めて発射されたその反動は並みの魔術師なら肩が粉々に砕ける程に大きかった、因みにかつて上級魔術分注ぎ込んだ状態で撃った冒険者がいたらしいがソイツは身体が弾けとんでしまったらしい。
そして最大の問題は重量、あれ全体で500㎏位あるんだよなぁ。
だけどどの武器よりも瞬間的な威力だけなら抜群だから、いざって時には武器を一つだけ収納出来る鞘型のマジックアイテム、武器収納具から取り出して自損覚悟でぶっぱなすロマン武器ってのがバイアネットの扱いだ。
そんなヤバい武器を見た目エルフの女が使えばそりゃあ目ん玉飛び出るわ。
「へっ!てめぇの様なクズには派手な最期だ!」
ルインはバイアネットを片手で肩に担いで空に散った隊長殿に親指を下に立てた。
俺は葉巻を口に咥えながら周囲に目をやって増援の有無を確認した。
「……どうやら増援は無しみたいだな」
「チッ!今度来たらアタシがヤろうとしてたのに!」
「これ以上厄介ごとはゴメンだ、追手もいないしこのままここからズラかろう」
「……だな、死体はどうする?」
「このままにしとこう、俺達が何者か知ってる奴ならこれで相手が誰か分かるだろ、それを知った上で追撃仕掛けたら返り討ちにすれば良いし」
「分かった、じゃあこの後一杯奢りな!」
「覚えてたよ…」
俺達は街道を後にしてその場から離れていった。
作者はこの手の武器に胸がときめくタイプです