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3話:密告された狼獣人

日暮れ前、帝国領と王国の国境の中間くらいまで進んだ俺達は一旦足を止めて小休憩を挟んでいた。


「ガルシア、今って私らどの辺にいるんだ?」

「大体半分だろ、どっかの誰かがゴネたせいで今日中には帝国を出れないぞ」

「ぐっ!?だってもう暫く帝国に戻れないんだぞ!だから帝国の中では良い方のエールを吟味して買って来たんだぞ!」

「別に良いだろそれは、買い物任せてたのにお前は待っても来なくて店で値切り交渉なんかする暇ないだろ俺達に」


まあルインの悪癖はいつもの事だから想定はしてたが。


「にっしても…あん時のアホ(ギルドマスター)の馬鹿面は最高だったな!」

「今までやられまくってたし俺も溜飲は下がった、これも前ギルマスのおかげだな」



◆◆◆


数時間前…オーレシア冒険者ギルド。


俺達がギルドに入ると周りの奴らは黙った後にやけた顔でひそひそ話をしてやがった。


(おい…アイツが来たぞ…)

(やだ…なんで来れるの…)

(クラウンをクビになった癖になんで堂々としてるんだクソ!)

(なんでまだここにいるんだ酒が獣臭くなる!)

(魔力無しの癖に!)

(まだ()()()()に頼って…恥知らずめ!)


前ギルマスが辞める前は活気に溢れて馬鹿騒ぎしてた冒険者ギルドは今、大半の冒険者が貴族出身者…平民出身者はその影に隠れなければ権力で潰される、それを傘に着て現ギルマスは平民出身者にはランクに合わない依頼(クエスト)をやらせその手柄を貴族出身者に渡す最悪の環境になっていた。


どうも最近、帝国貴族の間ではその子息達が冒険者として活動させるのが流行っているらしいが良い迷惑だ。


そんな風に黄昏ながら受付カウンターに行くととても良い笑顔のギルマス(くそやろう)が出迎えやがった。


「これはこれは…一体どういったご用件でしょうか?」

「知ってんだろ、俺はクラウンからクビを通告されたってのは」

「ああ知ってますよ…それで?どのようなクエストを受注しますか?まあ貴方の様な獣ならFランクで十分でしょうが」


ギルマスはクエスト表を俺にズラリと見せた、オーガの討伐にポイズンスネークの捕獲依頼、果てにはファイアドレイクの狩猟…どれも表紙にはFやEって書いてあるが適正ランク部分が塗り潰されてやがる。


この野郎…どれもこれもC以上のクエストじゃねえか、ってかファイアドレイクはAランクだぞ!?これがEってアホじゃねえか!アホだったな!


俺はこのクソ依頼を横に弾いてギルマスにいい放った。


「うーん…中々旨いクエストだけど…残念だがもう受けられないな」

「おや?何故ですかね?」


俺は冒険者カードをギルマスに差し出した。


「俺は今日で冒険者を辞めるからだ」


それを言うと一瞬、ギルマスは眉を上げたがすぐに表情を変えて俺の冒険者カードを引ったくる様に取っていった。


「それは…とても良い事ですね」

()()()()?」

「それはそうでしょう、ルイン様に寄生するようにランクを上げている貴方が冒険者をやっていても命を落とし兼ねませんから…それにこれは個人としての言葉ですが…貴方の様な魔力無しに加えその様な()を持っていては我がギルドにとってイメージダウンとなってましたので…」


奴は最後にボソッっと『獣の分際で』と言いやがったが俺はポーカーフェイスでそれを聞き流した。


「分かりました、ではこちらのカードは処分と」

「ちょっと良いか?」


そこまで言った奴はルインから話を振られるとさっきまで俺をとぼして愉悦顔だったのを止めてゴマスリスタイルでルインに顔を向けた。


「これはルイン様!どういったご用件で!」

「私もコレを」


そしてルインは俺と同じ様に冒険者カードを奴に差し出した。


「あの…これは?」

「私も冒険者辞めっから」

「………ハイィッ!!?」


さっきまでの嬉しい顔を驚愕に染めてギルマスは悲鳴をあげた、周りからもざわざわ声が漏れ出ていた。


「おっお待ちください!一体何故!?」

「何故も何も私が辞めたいから辞める、それ以外の理由があるか?」

「でっですがルイン様はB+ランクですよ!更に数々の功績全てが失くなってしまいますよ!?」

「なんだそんな事?そんなのに未練は無いし辞めるのには理由はいらないはずだろ?」

「うっ…くぅ!」


おーおーギルマスの奴悔しがってるぜ、奴らにとっちゃ俺はオマケ扱いだがルインはなんとしても引き入れたい人材だかんな。


だがギルマスは突然なにかを思い出して慌てて離れるとなにかの紙を持ってこっちに来た。


「……残念ですがルイン様、貴方はまだマーク様と契約中でお辞めになることは規則違反になります」

「あん?」


ギルマスは紙を俺達に見せた。



『護衛契約書』 依頼者、リダ・マルクス


私リダ・マルクスはガルシア・ヴァン・ウォルフ、ルイン・マグナス、2名に我が息子マーク・マルクスの護衛を依頼する。


褒賞金、一月100万Z(ゼニー)



「冒険者規約により受注中のクエストを破棄せずに冒険者を辞める事は禁じられてます、なのでまずマーク様とお話してクエストの継続をお話ください」


あー……チェックメイトだな。


「話す必要が無いんだよ」

「なにをっ!」

「依頼状の続きを良く読んでみろ」


どや顔で冒険者規約を出しながら話すギルマスに俺は先程出された紙の下の部分を指差しながら言い放った。



『なお、本契約はガルシア・ヴァン・ウォルフ、ルイン・マグナスの2名の内どちらかがパーティーから離れざるえない状態になった際に自動的に破棄するモノとする』


「あっ…アアアアアァ!!?」


最後の一文を見たギルマスは大きく声を上げ、その依頼状を食い入る様に見た。


「もう知ってるだろうから省くが、俺がマークから追放を言い渡された時点でルインも契約が解除されるってわけだ」

「つまり私が冒険者を辞める障害は無いってこと」

「まっ待って下さい!私が!私からの直接依頼を!」


俺達はカウンターから背を向けて離れようとするとギルマスはすがり付く様に身をのりだしながら早口に言い出した。


それをルインは振り替えって右手の中指を立ててながら俺達は冒険者ギルドを出た。



◆◆◆


現在。


「あーやっべえ思い出してもスカッとするぜ!」

「前ギルマスに感謝だな」


前ギルマスはマルクス家の長男が馬鹿息子だと知ってたから離れる口実として家長のリダって貴族と話し合って契約に少し穴を作ってくれたおかげで離れる事が出来た。


にしてもアイツも馬鹿だなー…アイツにも依頼状の控えは渡されたはずなのに俺を辞めさせたらどうなるか知らっ……無いな。


大方、俺の美貌なら女の子が自分から離れる訳が無いとでもタカ括ってたんだろ。


「なにはともあれ今日はどっか適当な村で泊まって明日国境に着くぞ」

「そりゃ大賛成、ここでなんか良い感じのモンスターが来てくれたら金策もその後の飯と酒が旨いんだけどなぁ」

「これ以上ドタバタを起こすな」


俺は武器(エモノ)を抜いて手の中で回しながら立ち上がった。


「今の帝国で()()を腰に下げてるのはお前くらいだったけど…これでいなくなったな」

「そりゃルインにも言える事だろ?」

「あたしゃ良いんだよまだ魔力使うヤツだし、第一お前の…」


俺はルインの言葉を遮るように手で制しながら武器を仕舞った。


「どうした?」

「なにかが此方に向かってきてる……魔物じゃないこれは…」


俺は風に漂う匂いを嗅ぎ、顔をしかめた。


「……人だ、しかも結構多いぞ」

「人?何人だ?」

「20人、匂いが独特だから断定出来た、全員人族…見えてきた」

「ちょっと待ってろ…お前の五感ほど鋭く無いから…」


俺は直視で、ルインはバックパックから望遠鏡を取り出して俺が音を聞いた場所に目を向けた。


ソコには武装した騎士が俺たちの方に向かってきていた。


魔力の()()()も漂ってる、敏捷強化(クイック)でも使ってたんだな。


「見えたかルイン」

「いや見えたけど…でもなんでアイツら私らの向かってる場所が…」

「値切り交渉の時に相手を絞めたとかは?」

「やらねぇよ!アンタはアタシをなんだと思ってるんだ!」

「見た目詐欺の怪力強欲女」


俺がルインに頬を引っ張られてる間に騎士達が俺たちのいる場所を囲うように広がった。


そしてその中の恐らく隊長とおぼしき男が信じられない言葉を言い放った。


「見つけたぞ獣人!強姦の現行犯で貴様を処分する!」

「「ハァ(フェァ)!!?」」


まてまて!今の状態見て言ってんのか!?


今襲われてるのどっちかと言うと俺の方だぞ!?てかなんでコイツらそんな事でこんな雁首揃えて来やがったんだ!?


「冒険者ギルドマスター!マーク・マルクス子爵公子両名よりルイン・マグナスに対して誘拐及び強姦の通報を受けた!よって我ら第四帝国騎士団は貴様を死刑に処す!」


もう色々とツッコミ処しか無い事言ってるがそもそもコイツらなんで俺たちの場所を…


誰かが密告した?でもだれ…


「あ」「あ」


俺たち二人はすぐにドーンの顔が思い浮かんだ。


「あ………あのニワトリやろぉおお!!?」

「だよなぁ…あの二人にしか言ってねぇからな離れるってこと」

「チクショウ!今度会ったらあのトサカ引っこ抜いてカァンと見分けつかないようにしてやる!!」


やられた…そうだったあの二人こういう事平然とやる奴らだった。


「ルインさん!今すぐにその獣人から離れてください!これより我々が刑を執行します!」


アッチはアッチでやる気満々か…。


「どうするガルシア」

「どうもご指名は俺の方だ、奴らにとって俺は殺しても平気なヤツってか…しゃーない」


俺は前に進んで騎士団連中に向かい合った。


「手伝うか?」

「いい、それにいい加減ムカついてきたからここで暴れさせてくれ」

「後で酒奢れよ」

「一杯分な」

「ケチめ」


ルインは俺から離れて行ったのを確認すると騎士団連中はすぐに抜剣して武器を構えた、後ろでは魔法詠唱の準備か…本当にコイツらセオリー通りのやり方しかしねえな。


「良く我々の前に出てきたな獣人!抵抗しなければ斬首ですませるが…」

「出なければ後ろから魔法を打つってか?流石卑怯者集団と名高い第四騎士団だな」

「卑怯者だと貴様!」

「獣人ごときが!」

「穢れた存在め!」


俺の挑発に全員が乗っかり俺を口汚く罵った。


煽り耐性よっぇえなコイツらほんと…だがまだやめない。


「事実だろ?別にてめぇのモンじゃない功績を声高だかに吠えて実際は親の七光りと賄賂で騎士団入りしたクズ、出来ることは弱いものイジメと集団リンチで騎士団の恥部ってのは噂されまくってるぜ」

「きっキッサマァ!!」

「オーオーお綺麗なお顔がレッドスライムの様に真っ赤っかだなぁ」

「オノレェ!!今すぐに叩き斬って!」


俺はいきり立つ隊長殿の前で腕を上に挙げた。


「………は?」



それに呆けている間に俺は武器(エモノ)を抜いた。



◆◆◆


夜中、オーレシア帝国内のとある酒場。



「いっやあー儲けた儲けた!流石貴族様は金払いが良いぜ!」

「ホントだな兄貴!まさかアイツらの事チクっただけで200万Zも払ってくるからな!」

「だけどアイツらも凄いぞある意味、二本指立ててたのに200万Zって…俺20万Zの意味でやったのによお!」


俺たち兄弟は臨時収入片手に酒場でまた飲みまくっていた。


「けど…大丈夫かガルシアの奴、アイツら殺す気満々だったけど」

「じゃあ聞くが弟よ、アイツらにガルシアが殺れると?」

「………無いなー」

「だろ?第一なんでアイツらはあの程度でイケると思ったのか謎だわ」

「獣人かつ魔力無しだからだろうなぁ…けど騎士団の中でもアイツの事知ってるの要るはずだけどな」

「第四騎士団…別名御坊っちゃま騎士団じゃ知ろうともしねぇだろうなぁ…」

「まっ何にしろアイツらじゃあアイツに……



頭無し(ヘッドレス)には勝てねえよ」















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