2-1:少女村
2-1:少女村
紫ばんだ空を背に、少女の集団は歩いていた。
彼女たちの疲労は限界に達していて、軽口の一つも湧くことはなかった。
先頭を歩くカガミも特に少女たちに話しかけることはなかった。
綾波 加々美。
金に染めた髪で、頭のてっぺん付近から垂らしたポニーテールが肩まで下りている。
魔法使いのような白い外套の下にはやはり、どこかの学校のジャケットタイプの赤い制服がちらりと見える。
カガミは話しかけることはなかったが、おしゃべりは大好きな質だ。
そんなカガミを以てしても、少女たちの疲れ具合は見て取れたので、流石に今は空気を読んだのだった。
見上げた空には未だ、星がいくつか光っているのが見える。
あたりが明るくなってきたことと、だいぶ歩いたことで、少女たちが最初に目指した塔の真の姿が見えてきた。
それは、オレンジ色の石でできた高い壁で囲まれていた。
遠くから見てもわかるほどの壁の高さを発生させていることから、使用されている石もかなりの量であることがわかる。
その壁の向こう側には、透けるようにして白い塀といくつかの家の三角屋根が見える。
白い塀の高さは3メートルくらい、家の高さは6メートルあるだろうくらいだ。
入口と思われる、塀の開けた場所に人の姿が二人見えた。
背の高い少女と、だいぶ小さな少女。
高い方、名前を前園 花華。
その体系はすらりとして、銀色の髪を腰まで垂らしている。
服装はどこかお嬢様を思わせるシックでシンプルなデザインの制服。
細目でわかりにくいが、その瞳は深い藍色をしている。
低い方、木ノ森 レネ(きのもり れね)。
140センチないくらいの身長で、明るい色の髪を左右でしばっておさげにしている。
人懐っこいまん丸の目は小動物のような雰囲気を醸しだしている。
ぶかぶかの紺のジャージを着ていた。
レネが大きく手を振り、カガミがそれに応えるように手を振り返す。
「ほら、あそこまでいけば安心だ!
がんばれ、みんな!」
カガミが檄を飛ばした。
少女たちの何人かはいくらか表情を柔らかくした。
*
少女たちはすぐに塔の中まで通された。
カガミやレネの口ぶりから塔ではなく、『村』であるようだった。
そんな細かいことをナナルは気にしながら『村』の中身を見回す。
円形の白塗りの塀の中は広い土地があり、十分な空間にポツンポツンこれまた村の中心に円を描くように木製の家が点在していた。
木製の家というのも、言うなれば高床式のログハウス。
入り口には梯子であがる仕組みになっていた。
10件はあり、この家々を囲む塀の円はすさまじく大きく、それを守るようにしてあるオレンジ色の防壁も同様だ。
いったいどれほどの石を集めたのか。
個々の家の周りに薄く溝が見えるが、おそらく落とし穴になっているのではないだろうか。
そうしている内に広場のような空間に導かれた。
ハナが口を開く。
「みなさん、お疲れ様です。
改めて。
私はここの『村長』を任されております。
前園 花華と申します。
おそらく、今の状況について聞きたいこともたくさんあることでしょう。
ですが、私から見ても皆様だいぶお疲れのご様子。
もう朝ですが、とりあえず、お昼まで仮眠をとっていただいたほうがよろしいでしょう。
その後に、私たちからこの状況について説明と、皆さんからの質問の時間にしようと思います」
よろしいですかと聞くハナに文句を言う者はいなかった。
言える者はいなかった。
ではと、ハナは少女たちに5人1組になるように促した。
すぐにでも休みたい少女たちは、グループ分けに時間をそんなに必要としなかった。
そうして、空き家になっている家にそれぞれを導いた。
5人組の構成は以下のようになった。
①スズハ、ナナル、他3人。
②エリナ、マユル、他3人。
③同じ学校と見られる紺の制服を着ている5人。
④皆一様にどこかの学校の制服を着ているが、その制服はバラバラな5人。
⑤学校の制服を着ていない、メイドやバニーガール等のコスプレ姿の4人。
*
スズハ、ナナル組の他3人。
他3人……、
久世 桜子。
サクラコは黒い艶のある髪をショートカットにしており、中肉中背。
制服は灰色のボレロタイプ。
おどおどした態度が表情にもありありと出ており、組み分けの時にも、私なんて、私程度、と自分を卑下する言葉を付随させていた。
仁科 美蘭。
ミランは茶髪を胸元あたりまで流し、中くらいの背、ぽっちゃり型の体躯に、おおらかな性格が顔にも表れている。
制服は青のセーラー服。
ララミィ・ポルトレット。
ララミィは軽く巻き毛質な金髪が肩くらいまであり、やや小柄で細めな体形。
赤いリボンの目立つ制服。
きれいな青い瞳でじっと見てくる。
寡黙なタイプだと思われるのは、きちんと日本語で話せることを組み分け時にナナルが確認したからだ。
ナナルが名前だけでもと提案して行った自己紹介だが、スズハも3人もうつらうつらと寝かけていて、起きたら改めて自己紹介しないといけないなとナナルは考えた。
ナナルも極めて困憊しており、
「サクラコさん、ミランさん、ララミィさん。よろしくね。
……って、みんなもう、寝て……ぐぅ」
気絶するように、寝入ってしまった。
*
エリナ、マユル組の他3人。
マユルは気にしないが、エリナは値踏みするように眺めた。
田中 零里。
レイリは黒のおかっぱ。
エリナよりは顔一つ分低い。
気難しそうな性格が顔に出ていて、常に口をへの字にしている。
黒いジャケットタイプの制服。
冬月 芽亜里。
メアリはマユルに似た雰囲気を持っていて、着くずしたシャツとストライプの入った緑のスカートと、どこか気の抜けたようなタレ目をしている。
髪は軽くパーマがかっていて軽やかな金髪ヘアーを肩まで下げ、一部ゴムでくくっている。
身長はエリナと同じくらいか。
物事に対してやる気が極端になさそうだ。
十二 夜耶。
ヤヤは、服装は白いワイシャツに紺のスカート。
マユルやメアリに近しい着くずしかたをしているが、どこか自信はなさそうで、周りを常に気にしてビクビクしている感じだ。
赤毛の髪を小さなポニーテールにしている。
背丈はレイリと同じくらい。
エリナは疲れた口調で、
「マユル、レイリ、メアリ、ヤヤ、ね。
時間取らせてごめんなさい。
一緒の空間で寝る以上、変な感じの人だったら不安で寝れないから、確認させてもらったの。
大丈夫そうよね?
寝ましょうか」
皆、疲れた様子ではあったが、その意見には同意した。
レイリ、メアリ、ヤヤはエリナに言われて初めて、確かにそうだわと納得したようであった。
マユルはどうでもいいという感じで、さっさと皆の分の布団を用意していた。
家に備えられていた布団は決して品質の良いものでなく、硬めのものであった。
だが、疲労で起きているのもやっとだった村に訪れた少女たちは皆、一様に文句言う暇もなく眠りについた。
*
村の中の家の一つ。
部屋の中心にはたくさんの石の詰められたガラスのランタンがありその場にいた者たちを照らし出していた。
村長であるハナとカガミ、レネ、あと二人の少女たちが集っていた。
二人の少女。
木戸 千鶴。
明るめの色のショートカットヘアー。
体が大きく高く、鍛えられた様子が制服ごしでも見て取れる。
制服は緑のセーラー。
表情は反対に、だいぶ柔らかな印象を受ける。
須藤 みゆな(すどう みゆな)。
中肉中背。
肩ほどまでの暗めの髪はその目も隠している。
挙動がそわそわと落ち着きない。
制服は水色のワンピースタイプ。
ハナが胸を張るように、
「カガミ、レネ、チヅル、ミユナ。
朝会を始めます。
……ええ、そうね、レネ。
今回はたくさんの人が来ました。
前回はミユナだけが辛うじて助かったのに比べると、運が良い女の子たちでしたね。
……ええ、カガミ。
今回もいつもどおりに。
幸い、家は足りてますし、余程の人でない限りは追い出しはしません。
お昼までの行動ですが、カガミ・チヅル班は石の回収作業をお願いします。
レネはできるだけ多くの食料の『生成』を。
ミユナは私と説明会の準備をお願いします。
いいですか?
……はい、チヅル。
確かにあの人数、レネの負担が大きいですね。
では、こうしましょう。
石集めは講習も含めて、午後にさっき来た彼女たちも含めて皆で行うということで、カガミ・チヅル班もレネのヘルプをお願いします。
ごめんなさい。
やはり、私に村長なんか……」
そんな口ごもるハナを遮るように、カガミ、
「ハナ。
そういうのはナシだ。
大丈夫、良い判断をしているさ。
どうしても無理なら交代するけど、100%君のほうが頭が良いから。
……てコラ!
皆してうんうんっていうんじゃないよ!」
笑いがその場に広がった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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