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アリス・アライズ ~ALICE・ARISE~  作者: アイザック・ゴーマ
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1-3:ラビットホール

   1-3:ラビットホール




 ナナルの察した通りであった。

 少女の集団と、目指していた塔との間には森側から黒ウサギが10体ほど、闇の塊のように現れたのであった。

 それまで少女たちの先頭にいて、黒ウサギに気づいた少女の一人が逆走した。

 その少女は悲鳴をあげつつ集団の間をくぐりぬける。

 最後尾のスズハとナナルすらも抜き去り、ただただ、本能のままに逆走するその少女。

 「待って」とスズハの声がその少女に届く寸前であった。

 その少女の苛烈な悲鳴がサイレンのように鳴り響いた。



「ああああああああああああああ!!!!

 いやあぁああああああああああ!!!!」



 後方より追って来ていた黒ウサギの一体が抱き着くように、その逆走してきた少女にとりついた。

 闇夜の中でも光る石の微かな照明によって、その少女の苦悶の表情が浮き上がってる。

 それはどれほどの苦しみなのか。

 その少女の痛みも、感じる黒ウサギに対しての気色の悪さも全て伝わってきそうな表情であった。

 遂にはその少女もとりついた黒ウサギも倒れこみ、もぞもぞと蠢く黒いカタマリとなった。

 その光景に思考が止まり、息をのむナナル。

 その背後では、集団の少女たちの悲鳴も轟いた。

 その中で動いたのは二人。

 少女集団の先頭側にいた一人。

 そして、もう一人はスズハだった。


 先頭側にいた一人。

 滝川たきがわ 絵里奈えりな

 エリナは腰ほどまでの赤髪と睨みつけるような釣り目が特徴的だ。

 短いスカートからすらっとした足が伸び、スタイルのよい、モデルのような少女である。

 橙の、ノーカラージャケットタイプの制服を着ていた。


 エリナはシャムの言葉を頭の片隅に覚えていた。

 だから、手に持っていたランタン代わりの光る石を、反射的に前方の黒ウサギに投げつけていた。

 スズハはシャムの言葉を聞いていたわけではなかったが、本能的に攻撃行動、持っていた石を投げていた。

 投げられた石はどちらとも散弾銃のように広がって飛んだ。

 エリナと先頭側に現れた黒ウサギとの距離は6メートルほどにあった。

 エリナの投げた石は、前方の黒ウサギたちの、その先頭の一匹までは届いた。

 届いたその石の勢いはほとんど死んでいたものの、それこそ散弾銃のような。

 黒ウサギの体の、石が当たった箇所が弾けて発光し、その体を穴だらけにしてしまった。

 体の8割を失ったその黒ウサギはその場に溶けるように倒れこんだ。

 スズハが投げた石は距離はないものの広く拡散した。

 後方から来ていた黒ウサギ、あと、少女に取り付いて地面に倒れこんでいた黒ウサギ、全体に当たるように石は飛んだ。

 ただし、石の密度は低い。

 部分的に破壊の効果はあったものの、どの個体も倒すには至らなかった。

 その二人、スズハとエリナの姿に続いたものが何人かいた。

 次々にその手に持っていた石を投げつける。

 それを見て、また、固まっていた少女の中にも石を投げだす者が出てくる。

 それはとても効果的な攻撃ではあった。

 光る石は確かに黒ウサギを撃退しうる魔法の石。

 だがしかし、そこで、少女たちが足を止めてしまったことは過ちでもあった。

 今まで目の前いた黒ウサギたちをあらかた倒したと、少女たちのほとんどが思ったその時。

 エリナは絶望の表情と共にこぼした。



「……噓でしょ。

 なんなのよ!

 本当になんなのよ!!!!」



 前方から、また側面の森側から、そして、シャムが戦っていたと思われる後方からも。

 およそ、総勢100体ほどの黒ウサギが姿を現したのである。

 まだ距離はあるにしても、黒ウサギのその速度をもってすればあっという間だ。

 エリナは、そして、ナナルも、計算が早いがためにもはや打開できる術はないと悟ってしまった。

 海側に逃げるか?

 黒ウサギが海を避けてる様子はない。

 ヤツラは足元を海にぬらしても、きっと、少女たちが海に逃げるよりは早いだろう。

 それでも、エリナは何人かを犠牲にして逃げればという手段も考慮したが、とてもそれで補える状態ではない。

 少女たちの絶望と恐怖の声が上がる中、ナナルもエリナも助けを求めるように目指すべき塔に目を向けた。

 スズハもまた、塔を見ていた。

 しかし、スズハのその瞳はまだ現状を決定していなかった。



「……オレンジ色だ。」



 スズハのつぶやきにナナルは、「え?」と、反応する。

 スズハは叫ぶ。



「石!

 オレンジ色の石を集めて!!

 みんな!

 オレンジ色の石をいっぱい集めて!!!」



 言うが早いか、スズハは石を拾い始めた。

 それに伴って、訳が分からないまでもナナルも石を集めだす。

 泣きわめく少女たちの中からも、10人程度がそれに続いた。

 エリナも最初は戸惑ったが、決して、絶望に屈するのを良しとする性格ではなかった。

 その様子に感染していくように数人が石集めに加わった。

 それでも、まだ、どうしようもなく泣いたり叫んだりするものはいた。

 海側に逃げ出す者もいた。

 いくらか拾ったところで、スズハは見本を見せるように、行動をとった。



「この、オレンジ色の、石は……みんな!

 見て!

 ……散らばっているときは出ないけど、こうやって人の手で、このくらいで置くと

 ……ほら、壁が作れるの!!」



 スズハは言いながら、少女たちの周りを囲むように、1メートル程度ごとにオレンジ色に光る石を置き始めた。

 言う通り、オレンジ色の筒状に、少女たちを囲うように光の壁は成した。

 しかし、その光景はあまりにも心細いものだった。

 うすく透けてる壁面から、黒ウサギがあと2分もしないうちにたどり着くだろうことが見える。

 壁面といっても、不安で伸ばした少女の手は透けて通過してしまう。

 高さも、黒ウサギが跳躍をできたとするなら、あの速度が出せるのだし難なく越えられるだろう。

 ついには、スズハに文句を言いだす少女まで出る始末であった。

 それでも、動いていた者たちは次々とスズハに続く。

 スズハの置いた石に重ねるように、さらにオレンジの石を置いていく。

 壁面は厚みを増し、高さも少しずつ増えていくのが目に見えてわかった。

 そこに新たに、塔は完成した。

 集めていた者たちは拾えた限りの石を置き終え、塔の内側に入る。

 エリナが最後、回収していた位置の都合上、外側から石を置き、内側に入ろうとする。

 が、黒ウサギが間に合ってしまった。

 恐るべきは二足歩行なのに、砂場でも構わず高速で移動するその脚力。

 黒ウサギ集団の先頭を走ってきた黒ウサギの、その右腕がエリナをつかもうと伸ばされる。

 ほんのコンマ数秒。

 エリナは悔しさを目にため込む。

 けっして、瞳を反らさず、顔を背けずに、エリナは自分を喰らおうとする黒ウサギを捉え続けた。



「入って!!!」



 グイっと、エリナを塔の中に引っ張り込む手。

 スズハであった。

 しかし、それだけでは間に合わない。

 次の瞬間。

 エリナは、塔の内側に入っていた。

 エリナを襲った黒ウサギの体は穴だらけになっていた。

 石を投げたのは、それまで、おおよその行動をエリナに追従していた少女であった。


 その少女は北島 まゆる(きたじま まゆる)。

 マユルは金色に染めた髪を二つおさげにしていて、闇夜で分かりにくいがその肌をこげ茶色に焼いている。

 身長はエリナよりだいぶ高く、180近くある。白いポロシャツタイプの学校の制服をラフに気崩している。


 マユルは助かったエリナに視線をやるとピースサインを見せ、ウインクした。

 刹那の安らぎであった。

 だが、無情に現実は押し寄せる。

 『ガン! ガン!』と、物凄い衝突音がそのオレンジ色の小さな塔に響く。

 黒ウサギが塔に体当たりしたり、その腕や足を叩きつけたりする音であった。

 今や、その塔を囲うように黒ウサギの集団は位置どっていた。

 それでも、オレンジ色の壁面は有効であることも確かであった。

 よほどの衝撃が与えられているはずだが、一切のヒビも入っていない。

 幾らか跳ねて飛び込んでくる黒ウサギもいるが、高さも十分な余裕がある。

 安全。

 確かに、少女たちは安全な領域を作ることができた。

 なのに、閉じ込められたのは私たちの方かもしれない、と。

 決して、状況が明るい方向に転じたわけではないことを何人かは理解していた。

 海に逃げてしまった少女の叫ぶ声が遠くに聞こえた。

アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。

誤字、脱字は随時修正していくぜ。

特に見ても面白いことはやりませんが、Twitter、チャンネル登録もよろしくだぜ。

リンク貼っていいかわからないので、興味がある方は検索してみてだぜ。

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