9-3:崩壊Ⅱ
9-3:崩壊Ⅱ
夜の闇を、それよりも黒い影が覆っていく。
突然たちこめる雷雲のように、空が侵食されていく。
バチチチチ
金属がこすれて火花が散るように、空が発光した。
事前に打ち上げていた石のいくつかが、現れた超巨大黒ウサギに当たったのだ。
その石のぶつかった部分が削ぐように黒ウサギの体を破壊する。
その破壊した部分は埋まるようにすぐに修復された。
しかし、一瞬、穴の開いたその部分から微かに星空が見えたのをカガミとカエデは見逃さなかった。
ほかにも、ナナルやエリナ、ミナコなど数人もすこし遅れてその事実に気づいた。
一見、人には及びもしない災害レベルの怪物のようだが、アレはかなり薄く自らの体を伸ばしているのだ。
マユルが叫んだ。
「ねぇね!
チョベリーバ、アレ!
超薄っぺらいんじゃない!!
なんだっけ!?
こあ?
壊しやすいんじゃないの!?」
そういえば、そういう名前を付けている一派がいたなとカガミは横目で思いつつ、
「……よく気づいたな。
みんな!
目を凝らしてよく見てくれ!
どこか光っている所が見つかれば、ほぼこの事態は解決する!!」
カガミの声に、ただ怯えていただけの少女も藁にもすがる思いで、空に広がるチョベリーバの体にコアを探し始めた。
しかし、そういったものを誰も見つけることはできない。
チョベリーバがあまりにも広く体を伸ばしているため、この村から見える視野の範囲にコアがないのかもしれない。
カガミは自問した。
(どうする?
何人かつれて、コア破壊に出るか?
いや、尚早だ。
『前の』制圧力を考えれば、とても太刀打ちできる相手ではない。
しかし、チャンスなのも確かだ)
そんなところに。
滝のような濁流、チョベリーバから漆黒の体が少女たちのいるバリアに向かって落とされた。
ズパン!!
そして、その濁流はオレンジの石で作られたバリアの前に、落ちた水のように弾けた。
バリア内にはその衝撃は響かなかったが、それでもその勢いからすさまじい威力であることを察せられる。
カガミが反射的に石を投合した。
その濁流を穿つように光が迸る。
それにともない黒い石が辺りにバラバラと落ちる。
オレンジの石の壁は、黒い石を弾くようで、バリア内には落ちなかった。
カガミも、周りの少女も驚愕したのはその速度だった。
カガミが迎撃に投げたのは、チョベリーバの一撃を受けたあとだった。
突然の攻撃ではあったが、それでも、カガミの反射で受けた後にやっとだった。
この夜闇で距離感がつかめないのも確かではあるにしてもだ。
500mほどの上空だろうか、そこから3~5秒で着弾するような攻撃。
これは、到底、討伐に出られる相手ではない。
カガミも、周りも、そう認識した。
それでも。
同時に、このバリアは十分に機能し、この難局はとりあえずやり過ごせるとも認識した。
バリアのために村にあるオレンジの石は半分以上消費した。
長期戦になった場合、正直、もう一回このバリアを作れたとしてもほぼ詰みである。
今の攻撃に腰をついた少女も何人かいる中、すでに上空をにらみ続けているスズハを見て、ナナルが周りに告げた。
「みんな!
ここは安全です!
今ので大丈夫なら、怖がる必要はありません!
だから!
だから、あの……チョベリーバのコア、弱点を探してください!
どこか光っている場所があるはずです!
それさえ破壊できれば、全部解決ですから!!!」
チョベリーバの名称に一瞬、恥ずかしさもありながらもなんとかナナルは全体に行動を促した。
チョベリーバには少なくともいくらかの知恵がある。
今の一撃で、あきらめたりはしないだろう。
あと数度、いくらか攻撃を試し、それでもダメだったら、おそらく一旦引き下がるだろう。
そして、森で太陽をやりすごし、また夜に現れる。
それがナナルの想定したこの後のチョベリーバの行動だった。
ナナルの声に反応し、少女たち皆が空を探り始める。
見えづらいのはバリアのせいでもあり、村を囲うオレンジの壁のせいでもあった。
その壁の光は薄光とはいえ、夜の闇に広がるその巨体を見渡すのにじゅうぶん邪魔に働いた。
思わず、バリアを出てしまいそうになるほどのもどかしさは確かにあった。
そのもどかしさも今の一撃の後だから、恐怖心からバリア内に足を踏みとどめることができていた。
ドン
その音が聞こえたのか、後からそうだったのだろうと想像したものかはわからない。
ミナコがバリアの外に倒れていた。
エリナが見たのは。
普段は常に余裕の雰囲気を崩さないミナコが驚愕の表情をバリア内の誰かに向けていた光景だった。
エリナは反射でミナコの視線の先を追っていた。
そこには何人かの少女たちが固まっていた。
ミナコグループのアンリ、ミハルがいた。
あとマツリグループのマツリ、サラ、アキ。
その場景からミナコは誰かに押されたのだと、エリナはそう感じた。
しかし、すぐにそれどころではないと意識が戻った。
エリナが空を見上げた時には、すでにチョベリーバの攻撃がミナコに打ち出されていた。
同時。
タツコに視線を送ったのはルキであった。
タツコとルキはミナコたちとは離れたところにいた。
ルキが見たタツコの表情は意外なものだった。
ルキは今の一瞬でタツコの仕業だと判断し、後悔と非難の視線を送ったはずだった。
その視線はすぐに解かれた。
そのタツコこそ、思いもよらない事態に驚いた表情のまま、固まっていたのだった。
一方、当のミナコは空からミナコに向けて落ちてくる攻撃にも意識が回っていなかった
ミナコの視線の先にはアンリがいた。
位置的に、アンリがミナコを押したとしかミナコには考えられなかった。
しかし、そのアンリもまた、この事態に驚きのあまり体を硬直させていたのだった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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