8-3:トウソウ
8-3:トウソウ
さて、と。
意識を取り戻していたカナタはそう己に切り出した。
いまだ眠っているふうを装い、周りの音から状況を読んでいる。
マツリグループに所属するカナタ。
しかし、本人はもういつでも村から出て行ってもよいと思っていた。
なにより、縛られることが嫌いな質である。
実際、この夜に紛れて出ていく計画をひそかに練っていた。
この世界のルールはおおかた理解したし、移動のための乗り物、いざというための石も場所を把握している。
しかし。
あの超巨大黒ウサギの存在がネックとなった。
カナタは村のみんなを囮にしてもなんの後ろめたさも感じない。
しかし、あの制圧力である。
どうやらアレを攻略しない限りは村から出ていくのはオアズケになりそうだ。
……はたしてそうか?
カナタは正直、もう限界なのだ。
むしろここまでよく耐えたと思っている。
記憶はないが、おそらく、よほど共同生活には向いてない人間だったに違いない。
カナタは、同グループのカザキが襲われ、サラが泣きさけんでいた時、本当に疎ましく感じた。
表では気遣う様子を見せながらも、裏では「限界だ出ていこう」と村を出る決心を固めていた。
当初の黒ウサギ討伐隊を編成する時、リーダーのマツリの提案を退けてまで参加を選んだのはそういう心情からだった。
そして、その自分の心情を客観的に眺めたうえで。
やはり、もう限界なのだ。
村を出るなら、今だ。
まず、目を覚まし、石運搬の手伝いにまわる。
と、見せかけて、村の入り口まで走り、バギーに乗って、行けるところまで行く。
そのあとは……。
カナタには、嘘があった。
カナタは石の能力を『なし』として報告していた。
だが、実際は違った。
言わなかったのは、それを言うことで面倒くさくなることが明白だったからだ。
そして、その能力が異質だったからでもある。
他の少女たちが物を生成する能力が思い浮かぶ中、カナタのものはソレとは違った。
イメージとしては、具体的なビジョンが浮かばなかった。
しかし、能力として自分が何ができるという確信めいた実感があった。
カナタの能力は、『オレンジの石が発生させる壁の加工』であった。
最初こそ他の人のように思い浮かびはしなかったが、試しにオレンジの石でしてみたところソレが思い浮かんだのだった。
他の無能力と言ってる人にもカナタのように黙っているものもいるだろう。
または、他の石でビジョンを試さなかったのか。
ふっとカナタは心のなかでため息をついた。
どうでもよいことだ。
今はここを出ることを考えよう。
続きだ。
村から離れるだけ離れ、オレンジの石の壁を加工してカナタ自身をくるむ。
そして、朝を待つ。
少なくともこの能力があれば黒ウサギを恐れる必要はない。
よし。
カナタはまるで今、目を覚ましたかのように半身を起こした。
介護にまわっていたミユナが気づいた。
「あ!
起きましたか!
っと!」
カナタはミユナを静止させる仕草をして、率直に現状を説明させた。
カナタが急かしたことでミユナの説明はチグハグになった。
それでも時間が戻ったこと、今の役回りはこうだという要所はおさえていた
どちらにせよカナタはすでに現状を把握していたので問題はなかった。
ミユナの説明をほぼ聞き流して、カナタは石の運搬を手伝うとミユナに述べた。
ミユナにも止める理由がなく、また、カナタの体を気遣う言葉を紡ごうにも、カナタの触れがたいオーラに口をつぐんだ。
タツコはそれを眺めていたが、特に口を挟まなかった。
タツコにもカナタを止める理由はなかった。
カナタはスタスタと石の倉庫に向かった。
*
ひたすらに。
村の中央広場で、少女たちはオレンジの石で『壁』を積んでいく。
石は掘られた穴に敷き詰められ、最後に砂をかけてからならす計画である。
防衛空間は間もなく出来上がりそうだ。
少女たち、迎撃用の石、少なくともそれらを入れるだけなら最低限完成しているといえる。
それでも念にはと、高さを3mほどはあるくらいに強化するつもりでいる。
隙間なくオレンジの光が防衛空間を埋めている。
空間というよりは『域』がふさわしいのかもしれない。
中に入ると呼吸はもちろんできるし、動くことはできるが、心なし水の中に近いような抵抗感がある。
ナナルが言った。
「そろそろ、砂の準備もしましょう!
エリナさん、マユルさん、レイリさん、ミハルさん、マツリさん、サラさん、アキさん、エミリーさん、カナメさん。
ここを任せてよいですか?
私たちのグループで砂を用意してきます」
答えたのはエリナだった。
「わかりました。
私たちで残りの石はやってしまいます。
砂は任せました」
エリナはいくらか上機嫌だった。
これから襲われるだろうというのに。
それは、ナナルを主として、ここの少女たちが『役に立つ』からだ。
変な、煩わしい、人間関係で現状をかき乱さない。
記憶は持っていないが、エリナには何故かそれが自分にとって大事な要素であった。
防衛空間の制作班は2手にわかれ、エリナはオレンジの石を置くべく両手に取った。
そのときである。
ひらめきというのだろうか。
急に明かりがついたかのようにエリナの脳裏に浮かぶものがあった。
エリナは一度壁を生成したオレンジの石を空間に置いた。
その後、右手に1つ持ち、同じ作業をしているマユルに近寄って行った。
「……アライズ」
エリナがボソッとそう言うと、右手の中の石が輝いたが、それを見えないように右手をポケットにしまった。
エリナはマユルに言った。
自然な感じでエリナの左手はマユルの肩にポンとおかれた。
「マユル、この作戦うまくいくと思う?」
「?
こんだけ頑張ってうまくいかなかったら、チョベリバぁ!
ウチ神様のこと平手打ちするって!」
「ちょべ?
……まぁ、そうね。
そもそも、こんなとこに私ら連れてきた神様なんて、懲らしめてやらないとね」
「ししし!
そん時はみんなで一緒にやろうね!」
「ええ」
そうして、次の石を置くべく2人は作業に戻った。
エリナは右手をポケットから出し、その手の石を見る。
オレンジの石は黒くなっていた。
おそらく、これで1回分くらいらしい。
そうして、エリナは考えた。
(私の能力。
オレンジの石を使って、『人の心を読み取る』能力。
ただし、使うときには、相手の体に触れていないといけない。
……実際、生活や戦うのにそんなに役に立つとは思えないけど、ないよりはマシね)
先ほどのエリナとマユルとの会話。
マユルの言葉と同じ言葉を別のスピーカーから聞いているような感じでエリナには聞こえていた。
マユルはひどく素直なので表裏がないとは思っていたが、正にそのまま思ったことを言っているのに、エリナはどこか安堵した。
貴重なオレンジの石ではあるが、この能力が必要になる場面は来るかもだろう。
エリナはそう思った。
なにせ、少女ばかり、女ばかりのこの環境だ。
いずれギスギスしたり、陰で動く者が出てくるだろうとエリナは察していた。
この能力を活かすため、能力については明かさないほうがよいとも思った。
ともかく。
エリナは自分だけ無能力でないと分かったことで、一層、機嫌をよくした。
そうして。
もう少し能力について試してみようと、他の作業している少女たちにもそれとなく近づき、話しかけては心の中を読んでみたのだった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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