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アリス・アライズ ~ALICE・ARISE~  作者: アイザック・ゴーマ
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8-1:トウソウ

   8-1:トウソウ




 何が何だかわからなかった。

 それは、その場で意識のあった全ての者の総意であった。

 時は夜、空には星々。

 近くには白い石を集めて作った灯りが周りを照らしていた。

 スズハの意識を覚醒させたのは、少女の悲鳴だった。

 きゃあああ!

 と、それは一人のものではなかった。

 そこかしこで悲鳴が聞こえ、スズハは何事かと周りを見渡した。

 悲鳴の主は……あの巨大黒ウサギにやられたとばかり思われていた少女たち。

 その悲鳴の渦の中。

 スズハ以外にも悲鳴をあげずにこの状況を呑み込めていない少女も何人かいた。

 あの最後の瞬間まで一緒にいたナナル、ミナコ。

 そして、カガミ、カエデ。

 この5人は何が起こったのかと周りを見渡しながら、そんなお互いの存在に気付いた。

 そして、今の状況に一つの推測を出した。

 時間が巻き戻った。

 そうとしか思えなかった。

 デジャビュというにはそれ以前の記憶、否、これから起こったことの体験が現実味を帯びていた。

 今は時でいうと、ちょうどカガミとカエデが偵察から帰ってきて、これから作戦会議を行う頃のようだ。

 記憶上、その時の立ち位置に皆がいた。

 村長であるハナは、その時にいた場所に倒れ、まだ意識を失っていた。

 悲鳴を上げずに意識を失なっている少女は何人かいた。

 スズハはこれらの様子から、皆、記憶を保持したままで時間を戻ってきたのだと理解した。

 


「スズハ! コレどうなってるノ?」



 ララミィだった。

 ララミィは平気な様子でいるものの現状が理解できていないようすでスズハに聞いた。

 スズハはただ、黙ってララミィを撫でた。

 ララミィはそれが意味するものがわからないものの、安心した顔を見せた。

 ララミィは最後の瞬間どうあったのだろう。

 そう思考が過るも、スズハの今すべきは別にあった。

 スズハを呼ぶ声がもう一つあった。

 ミナコである。

 


「スズハさん、この……状況について整理したいので来てもらえますか」



 主に、スズハ、ナナル、ミナコ、カガミ、カエデ。

 それにくっついて、ララミィ、エリナ、マユル、チヅルが集まった。

 悲鳴を上げていた少女たちは一通り感情を発散したのか、放心状態となり呆然をしていた。

 ミナコが先立って言った。



「これは、『戻っている』という認識でよいですよね?

 まず、これを確認したくて集まってもらいました。

 多分今、一番冷静にお話できそうとお見受けしましたので」



 スズハはコクコクと同意の頷きを示した。

 ナナルが応えた。


 


「私もそう思います。

 この場の状況……。

 ただ、問題なのはこれがどういうものに起因するのかということです。

 そこで、カガミさんとカエデさんに聞きたいのですが。

 私たち3人……私とミナコさんとスズ――スズハさんは戻る最後の時までおそらく一緒にいました。

 というのは、最後……巻き戻る直前に私たちはあの黒ウサギにやられてしまったからです。

 あ、ミナコさんとスズハさんはそれに異論はないですか?」



 ミナコもスズハもコクンと頷いた。

 それに応え、カガミが言った。



「私たちは……そうだな。

 私は、戻る直前にカエデと――2人で可能な限りの威力の攻撃をあの黒ウサギに向けているところだった。

 それを放つ前に戻った……と思う。

 カエデはどうだ?」



 カエデが返す。



「……はい。

 私も覚えているのはそこまでです。

 


 ミナコは頷き、言った。



「これが一体どういう力によるものなのか。

 私たちの最後の瞬間、スズハさんの放とうとして不発に見えた石の力なのか。

 それとも、カエデさんたちのもの。

 はたまた、別の何者かの力。

 それとも、これもまたこの『場所の力』なのか。

 ……どちらにせよ、今すぐにわかることではないでしょう。

 今、私たちにわかることは、とりあえずもう一度チャンスがあるということです。

 もう一度、あの黒ウサギに対抗する機会があるということです」



 スズハたちはもう一度態勢を整えるために動きだした。

 意識を失っている少女を起こした。

 悲鳴を上げ終え、呆然と抜け殻のようになっている少女たちを慰めたりなどした。

 その間のこと、カエデがカガミにこそっと聞いた。



「どうして、アイツのこと言わなかったんですか?」



 カエデが答える。



「ああ。

 今、ただでさえこんな状況なんだ。

 混乱するようなことは言わないほうがいい。

 言わないわけではないよ」



「ああ、そうですね」



「それに、戻ったってことはもう一度どうせ会うだろうさ」



 少女たちが態勢を立て直すのに、思いのほか時間を要すことになる。

 いまだ、放心状態から回復できていない少女もいる。

 なんとか再起した少女も、パンと水を口にするのがやっとで、今すぐ作戦を立てて動けるような状況じゃない。

 そんな中。

 まだ目を覚ましていない少女の中にルキがいた。

 そういう少女たちは、広場の端に大きな厚手のマットを生成して、その上に集めて眠らせていた。

 ナナルが、



「大きなショックを受けたせいで、普通の眠りとは違うのかも知れませんね。

 もしくは、この『戻る』という現象に体がついていかなかった可能性も……」



 そのように言っていた。

 そうナナルやミナコたちが話しているのを耳を立てて聞いていたのはタツコだった。

 タツコは最初こそ事態がつかめなかったものの、ミナコたちが全員にした説明を聞いて、とりあえず現状を受け入れた。

 その上で。

 タツコは目を覚ましていない少女たちの看護役を引き受けた。

 ルキの他に、ハナ、カナタ、カナメがいた。

 タツコは戻る直前のことを思い出した。

 ルキの記憶を白い石で戻した直後、タツコはルキに協力するように頼んだ。

 ミナコとアンリ、ミハル達に再び、復讐する計画である。

 もちろん、ルキは拒んだ。

 それは想定内。

 タツコは。

 タツコは人間の中で分岐するポイントを知っていた。

 おそらく、何もなければ、タツコも善意に溢れ、笑顔ある人生を送る人間だった。

 たまたまミナコたちのグループに入ったために闇に落ちてしまった。

 否。

 ルキを見て、それは間違いだと気づいた。

 その分岐のポイントにおいて、ルキであれば、ミナコのグループに所属しないし、嫌ならば離れるだけの強さを持っている。

 その強さがタツコにはなかった。

 それでも、いや、だからこそ。

 タツコは自分が堕ちた理由が弱さによるものなのか確証を得たかった。

 ルキもタツコ側に堕ちるのであれば、それはタツコが悪いのではなく、仕方なかったことなんだということになる。

 少なくとも、タツコの中ではそうなる。

 だから、拒まれることは織り込みずみでタツコはルキの記憶を戻し、計画に誘った。

 ルキのこの後の行為がタツコには必要であった。

 ミナコ側にはつかないだろう。

 仲裁に入るか、自分には被害のないように距離を置くか。

 あの日。

 あの事件の日にあの家まで追ってきたルキは仲裁を求めるはずだ。

 善いやつなのだ、ルキは。

 タツコはそれを、罪に手を染めたことで初めて俯瞰的に理解できるようになった。

 あの時、ルキと交渉している最中。

 バギーの音が外から聞こえ、その後すぐに地震が起こった。。

 倉庫から出たタツコとルキはただ事でないことを察して村の入り口側に走った。

 その途中に空に黒い幕がかかった。

 と、ほぼ同時に天から泥のような何かが降ってきた。

 そして、気づいたら『戻って』いた。

 白い石の輝きがタツコを、寝ている少女たちを優しく照らす。

 タツコの中に、二つあった。

 ひとつはルキを善いやつだと信じている善性の残滓。

 もうひとつは、だからこそ、自分のようにルキに堕ちてほしいと願う悪性であった。

 タツコはそっと、優しく。

 眠っているルキの額を撫でた。

 

アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。

誤字、脱字は随時修正していくぜ。

特に見ても面白いことはやりませんが、Twitter、チャンネル登録もよろしくだぜ。

リンク貼っていいかわからないので、興味がある方は検索してみてだぜ。

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