7-2:崩壊Ⅰ
7-2:崩壊Ⅰ
ピクンと、スズハは体を反応させた。
そして、次の瞬間にスズハが思考したのは2択。
自分でするか、声を上げて人に頼むか。
コンマ秒の思考で、自分ですることに決めていた。
それが確実性が高いとスズハの体が判断したのだ。
スズハが少女たちを信用していないというよりは、行動の理由を説明する時間が惜しかった。
スズハは走り出し、次々と並べてあるバギーのエンジンをかけていく。
そのあまりの出来事の速さに周りにいた少女ははじめ、ポカンとスズハを眺めることしかできなかった。
やっと、少女たちから「どうしたの?」「何やってるの?」等々の声が上がる。
しかし、その声をかき消したのもまたスズハであった。
「みんな!
車に乗って!!
いつでも逃げられる用意をして!!
私は他の人探してくる!!」
スズハは言うと、バギーの一つに乗って颯爽と村の中央広場に走り出してしまった。
まだ、事態が呑み込めておらず行動がとれていない少女たち。
それでも、その中で動き出せた少女もいた。
言われた通り行動を起こしたのは、スズハグループのララミィ、サクラコ、ミラン。
もとより初めの夜にスズハの行動力は多くの目に写っていた。
加えて、同じグループになったことで信頼は人より強かった。
他のグループではマツリ、エミリーが言葉より行動を先に起こしていた。
やはり、先のスズハの行動力を買っていた。
スズハをきちんと認識していなくても、そのように動く者がいれば他の者もなんとはなしに後に続く。
事態の把握をできてはいなくとも、少女たちはバギーに皆収まった。
ちなみにバギーへ乗り込んだ少女たち、その組み合わせはグループ関係なくランダムであった。
*
スズハが村の中央につく前に、道中でハナとエリナ、アンリとミハルに出会った。
ここにいるはずのないバギーが突然現れたことで4人とも困惑の色を隠せなかった。
スズハは叫ぶように言った。
「ハナさん!
作業は中止です!
間に合いません!!
多分、じきに現れます!
4人ともすぐにバギーのところに行ってください!
……私はナナちゃんとミナコさんを回収してきます!
2人は中央広場にいますよね?!」
かろうじて、答えたのはエリナだった。
エリナもまた、スズハの行動に信頼を置いていた。
「ええ!
二人とも広場の柱のとこにいるわ!
お願い!」
「!
ルキさんとタツコさんは!?」
「わからない!
でも、もしも時間がないならあきらめて!」
それには答えず、スズハは広場へとバギーを走らせた。
エリナもそれを気にせずに「さぁ急ぎましょう」とハナ、アンリ、ミハルに行動を促した。
*
中央広場にはナナルとミナコが柱の下で休んでいた。
二人ともやはりバギーの出現に驚いた。
だが、それにスズハが乗っていたことで、ナナルもミナコもスズハが何か言うより先に事態が緊急なことを察した。
すぐさま、バギーに乗り込むナナルとミナコ。
逆にスズハが面をくらったが、すぐに思考を次に切り替えた。
スズハは尋ねる。
「ルキさんとタツコさんはどこにいるかわかりますか?!」
ミナコが答えた。
「わからないわ!
こちらには来なかったの!
検討もつけられない!」
それでスズハは直ぐに判断をした。
ルキとタツコは現状、切り捨てるしかない。
バギーを反転させ、村の入り口の向けた。
荒いその運転にスズハの悔しさがにじみ出ていた。
と、そこで巨大な地震が起こった。
まだ固定されていない天板がガシャンガシャンと大きく音をたてて踊る。
ゴゴゴゴゴと鳴る地面。
スズハもバギーを進ませることができないほど地面が跳ねる。
それでも。
スズハはアクセルを強く踏んだ。
振動が無くなるころには既に村の入り口に近づいていた。
ふとミナコが空を仰ぎ、「見て! アレ!」と叫ぶ。
ナナルはソレを見た。
ここの空に月はなく、仄かに星がきらめく夜空。
しかし、その夜空もまた今はなかった。
夜よりも暗い。
オレンジ色の壁によるうっすらとした光がその理由を説明する。
黒い膜のような何かが、空高く、いつのまにか広がっていたのだった。
まったく予期しないものか、それとも。
ナナルが出した答えは7割がた、例の巨大黒ウサギがアレであるということだった。
先ほどの地震はきっとあの巨体の跳躍の振動。
とすれば、アレは今その体を空に浮遊できるほど薄く広げている可能性が高い。
なら、何故。
何故、そのようなことをしたのか。
狙い撃つためだ。
私たちは甘く見ていた。
アレは想定以上に知恵がある。
ナナルの刹那の悲嘆をよそに、スズハは直進していたバギーをぐっとわずかに横に揺らした。
次の瞬間、スズハのずらしたその走行予測箇所に黒い槍が落ちてきた(そして反動でまた空に戻っていった。)。
砂が爆ぜ、2mほどの穴ができた。
空のアレから落ちてきたに違いない。
きちんと偏差を考えての攻撃だった。
ミナコは(どうやってよけたの!? 今の!?)と驚愕したが、言葉にする精神的な余裕はなかった。
村の入り口にはすでに他のバギーの姿はない。
皆、すでに走り出したのだろう。
しかし、上面を覆えないオレンジ石の壁は上を取られてしまってはもはや何の意味もない。
だから。
村を出てすぐのところにあったソレは当然といえば当然。
運転しながらスズハが叫んだ。
「うあああああああああああああああああぁぁぁぁああ!!!!」
転がっているいくつかのバギーの残骸。
乗っていた少女たちの姿はなく、しかし、おそらくこの状況下で逃げられる術はない。
出来たとして、上から落ちてくる黒い槍を迎撃することくらい。
なら、その姿、その迎撃の光を確認できるはずだ。
しかし、それが見えないのならば、すでにあの黒い槍にやられてしまったとしか今は判断できない。
それでも、スズハはバギーを止めず、西にある小さな塔のほうへ向かった。
あそこには、カガミとカエデがいる、はずである。
ならば、何か僅かでも打開できる手が見つかるのでは。
ナナルは気づいた。
周りの砂の不自然な凸凹に。
この状況と照らし合わせ、すぐさま、最悪を想像した。
しかし、気づいたところで既に詰みの状態。
だからこそ、ナナルは言った。
「スズ。
停めて」
「え?
ナナちゃん?!」
しかし、スズハは理由を聞かずにバギーをやや急目に停止させた。
3人の体がバギーに押し付けられるようにGがかかった。
すぐに。
そのバギーを囲むように、やや離れた位置で黒い槍が四方八方に一気に落とされる。
その槍群は反動で引き上げられることなく。
だんだんと。
次第に。
バギーとの距離を詰めていく。
ついには鳥かごのようにバギーの動きを固定したのだった。
外からの黒ウサギの攻撃を完全遮断できるオレンジの壁。
だが、中にいる人間が自発的にオレンジの壁から出れば別だ。
オレンジの壁は圧倒的な力の前に物理的な移動を阻まれれば、相対的にバギーとそれに乗っている搭乗者が絞り出されるようにオレンジの壁から出てくる。
これはそういう攻撃だ。
そして、それに気づきバギーを停めたとしても、がら空きの無防備な天井から詰みの一手である。
ミナコも気づき、スズハも周りに落ちた数多の黒い槍で気づいた。
アレはカガミやカエデの方まで広がっているだろうか。
もはや、助けは望めないだろうか。
まだ悪あがきは残っていないか。
散々逡巡し、ナナルもミナコももはや術はないと悟った。
スズハはまだと願いながらも、最後の一手に成すすべがなかった。
スズハの握る石が赤く煌めく。
もっと石があれば。
いや、無駄だ。
アレは出来上がったらばもう、敵わない厄災である。
最後の槍が落とされるのを見つめながら。
停止にも近い時間の流れの遅さをスズハは感じていた。
せめて、無駄でも。
最後まであきらめたくはない。
あきらめた自分を認めたくはない。
スズハの握る石はより強く、次第には虹色に輝きを移ろわせていく。
ナナルもミナコも、そのスズハの石に共鳴するかのように自分たちの持っていたいくらかの石や、バギーに備えられていた石の袋が光っていることに気づいた。
奇跡が起こるだろうか?
そんな思考をナナルもミナコもしてしまった。
スズハは叫ぶ。
「アライズ!!!!!!!!」
スズハの手のひらから放たれた光。
それは天井から落ちてくる槍には向かわなかった。
その場で強く、弾けて、そして消えた。
それとともに、時間の流れが戻ったかのように一気に黒い槍が撃ち落された。
スズハ、ナナル、ミナコ。
3人はその黒い濁流に飲み込まれた。
そして、3人の意識は溶かされるように消えていった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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