7-1:崩壊Ⅰ
7-1:崩壊Ⅰ
村の入り口での避難準備は一段落し、少女たちは駄弁りつつ時間をつぶしていた。
アンリとミハルも他のグループに交じり最初こそ愛想で話につきあっていた。
しかし、二人とも、先ほどタツコがルキを連れだったことを気にしていた。
あれから、いくらか時間が経っている。
天井班に報告してくると言っていたが、帰りが遅すぎると二人とも感じていた。
自然な流れとして。
アンリとミハルは二人して、天井班のもとへこっそりと向かった。
天井班の作業は順調なようで、既に天井を支える柱は立て終えたようだ。
村の中央、広場の、天井班の拠点に人のシルエットが4人見える。
ミナコ、ハナ、ナナル、エリナ、であろう。
と、すると、タツコとルキはどこで何をしているのか。
ミハルはそんなこと心底、興味がなかった。
しかし、アンリは違った。
アンリは憎しみにも近い怒りを覚えていたのだ。
アンリの頂点はミナコにあり、そのミナコのグループの和を乱すものを許せなかった。
アンリにあるのは次の2択。
このまま、タツコとルキの帰りを待ち、帰ってきたら批難する。
仮にもしも、避難用のバギーがグループそれぞれにあてがわれていたら、タツコとルキの座る場所に細工をして痛い目にあわせるという選択肢もあった。
もう1択。
そのタツコ達の不穏な行動を、暗にミナコに知らせることだ。
どうにも怒りを抑えきれないアンリは後者を選んだ。
アンリはミハルを連れ、こっそりとミナコのもとに向かった。
それを遠目で観察していたのはマツリ。
マツリはそういう煩わしい人間関係のようなものに辟易しながらも。
いや、辟易しているからこそ。
そういったものに目ざといところがあった。
マツリは劣等感が強い反面、劣った人間に対しての優越感も強かったのである。
そんなマツリにとって、見ているとあからさまに不和の中にあるミナコグループは愚劣の極みだった。
素晴らしい才能があっても、人間性が伴わなければ、人に非ずとまで思考するほどにだ。
そういう面でいえば、マツリグループは人的に恵まれていた。
少なくとも、マツリはそう感じていた。
それだけに、カザキを失ったことには心を痛めていた。
サラがあまりにも泣くから、マツリは泣けなかった。
それほど、仲良くなっていたわけではないが、それでも、マツリはカザキのことは嫌いではなかった。
そんな思考をよぎらせつつ、マツリは少女たちの会話にたまに混じりつつ、たまに眺めていたのだった。
*
天井班。
中央広場。
エリナが言った。
「まずは柱は全部出来たわね。
もう少し時間がかかると思ったけど。
割とサクサクいったわ」
ミナコが応えた。
「ええ。
石の貯蓄が豊富ですからね。
一応確認しますが、柱の具合は大丈夫ですね」
「大丈夫よ。
計測と、私が柱一本ごとに上まで登ったけど、最初にミナコさんが生成したものと遜色ないわ。
魔法の石だから逆に正確なものしか作れないってのもあるかもだけどね」
「こちらも。
その役目はハナさんがしてくれました。
では。
天井にとりかかりましょうか」
ミナコはナナルを見て流石と言わんばかりの眼でそう言った。
どうも、ミナコはナナルを気に入っている節があった。
ナナルもそれに気づいていて、しかし、なんとなく取り込まれるのはマズい人だとミナコのことを思っていたために笑って濁すようなことをしていた。
ハナが作業のその進捗スピードに満足しているのか、いくらか機嫌よく、
「そうですね。
この調子で頑張りましょう。
この天板が一番難しいと思います。
これはミナコさん行けそうですか?」
ミナコが返す。
「はい、やらせていただきます。
……オレンジの壁からはみ出さないように、なるべく、オレンジの壁の円周と同じように。
でしたね?」
「はい。
そうでないと、外側から重量をかけられると天板がひっくり返ったり、隙間から侵入されたりという可能性がありますからね。
ただ。
正確に同じ円周で作るのは、難しいと思います。
それにオレンジの石の格子自体、隙間が出来ますので、はみ出しさえしなければという具合で」
ハナがそう言うと、ミナコは頷いた。
天板をミナコが作るということで、天板にかぶせるシートはナナルが作ることになった。
ミナコが造作もなさげに簡素な柱に巻き付かせるような形で鉄の階段を生成する。
ナナルは適正としてなんでも作れはするが、そういう階段の発想はなかった。
発想がなければ当然作ることができない。
そういう発想があるということは、ミナコは、その過去こそわからないものの、建設関係の仕事場に近い者なのかもしれない。
そう、ナナルはなんとなしに思った。
なんとなしに思ったものの、さりとて、ナナル自身、なんでも生み出せるようなその能力の由縁もわからない。
ゆえに、ナナルはどうしてそのような発想に至ったか不思議に思いもした。
柱にかけた階段の頂上よりやや下までミナコは登った。
天板を生成するために顔を柱より上に出しては危ない。
ミナコの手には袋いっぱいに石が詰められていた。
ミナコは手のひらを上に掲げ、次に声を発した。
「アライズ!」
呼応して、ミナコの持つ袋の石が輝きだした。
その光がミナコの頭上に移動し、展開するように円状に延びた。
ミナコはその光を操作し、柱からほんの少し浮くくらいで調整される。
調整し終えたのか、ミナコは手のひらを握る。
すると、光は拡散するように消え、ガシャアンと音を立てて、天板が姿を現した。
天板の構造としては円状の鉄パイプの内にに軸となる鉄棒が格子状に走り、その間を金網が張られていた。
ハナが、ミナコに聞こえるように大声で、
「ハナさん、ご苦労様です!
少し休んでください!
私とエリナさんで次の作業をしてきます!
……ナナルさん、ミナコさんを見ていてあげてください」
そう言うと、さすがに連続の柱つくりと天板生成で疲労が出てきたのか、ミナコは少し力なさげに了解の手を振った。
ハナたちが次の行動に移ろうとしていた矢先、
「うわぁ、すごいですねぇ!!」
声は村の入り口側から聞こえ、その方から2人分のシルエットが見えた。
光で明らかになった姿はアンリとミハルであった。
ハナは、
「どうしましたか?
もしかして、もう避難準備終わりました?」
驚いたようにそう言った。
アンリはそのハナの反応に対して、
「……やっぱり。
ほら、あいつら、やっぱりバックレてるよ。
え?
ああ。
タツコとルキです。
作業終わりましたって報告に行くって言ってどっか行っちゃったんですよ。
帰りが遅くておかしいから、私たちが来たんです」
そう、ミナコにも聞こえるように大きな声で言った。
露骨に棘がある風な言葉にハナは失笑した。
しかし、今は気にする時間もない。
ハナは言った。
「そうですか、ご苦労様です。
では、……そうですね。
今から、私とエリナさんでそちら、避難準備班に合流します。
いつでもバギーを動かせる人を台数分残して、何人か天井班に編入してもらいましょう」
次にするのはこの天板と柱をくくりつけて固定する作業。
天板がオレンジの壁からはみ出てないかを確認する作業。
その後に天板にシートを敷いて、オレンジの石を並べるのである。
本来、一夜でするには無理のある作業である。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
こんなところで止まるようなら、ハナは……。
*
村、西側海岸。
シャムは距離を縮めようとはしなかった。
カガミとカエデとの距離5mほど。
話すには距離がある。
シャムは何も言わないものの、考えられる理由は少ない。
あえて、カガミは言った。
「どうした?
何か言ってるのか?
聞こえないぞ?
話があるなら、こっちに来いよ。
こっちのオレンジの壁の中でゆっくり聞いてやるぜ?」
カエデはそれを聞いて思った。
やはり、そうなのだろうかと。
カエデはシャムのことはほとんど知らないまでもその胡散臭さは感じ取っていた。
カガミの言葉から考えれば、シャムはオレンジの壁を越えられない。
カガミ自身、予測にすぎないのだろう。
それでも、シャムは『人』ではない……そんな気配があった。
最初の出会いの時こそわからなかったものの、今は感じる。
カエデは握りしめていた石をいつでも放てるように、握る手をそっと外転させた。
シャムはふふんと、
「まぁまぁまぁ。
そんなイジメないでくださいな。
私はあなたたちに害をなすつもりはないんですから。
やるつもりならとっくにやってますよ。
……コホン、失礼。
まぁ、本題です。
このままだと、確実にあなたがたは全滅します。
それだけアレの災害力はすさまじい。
私としましても、あなた方に全滅されるのは正直もったいない。
ココであなた達ほど長生きできる人間は少ないですからね」
カガミが口をはさんだ。
「もったいないだって?
じゃあ、教えな!
ココは何なんだ!?
私たちはオマエにとってどんな存在だっていうんだ!」
「どうどう。
いいでしょう。
サービスしましょう。
ココは……そうですね。
ぶっちゃけ、あなた方は皆、すでに死んだ人間です。
ココはさしずめ、天国か地獄かに行く前に与えられた最後のチャンスの場と言えますね。
行けるだけの能力を持った人には伝えていくのですが、おそらく、ご存じですよね。
そう、『ハートの城』。
そこにさえたどり着ければ、なんでも願いが一つ叶う。
それで元の場所に蘇ることができるんです」
「すりかえるなよ?
女の子ばっかり集めたようなこの場所。
その理由はきちんとあるはずだ」
「う~ん。
まぁ、こちらも確かにリターンがあります。
あなたたちにチャンスをあげる代わりにね。
それは、ココの成り立ちとか、まぁ。
そんな面白くはない話なんでね。
まぁ、いいでしょう。
ソレも教えましょう。
ですが、この難局を乗り越えてからでも遅くはないでしょう?
どうです?」
シャムは森のほうを見てそう言った。
同時に、カガミとカエデも感づく。
本当に微々たる動きではあるものの。
感覚を研ぎ澄まさなければ気づかないほどではあるものの。
そう。
あの巨大黒ウサギが動き始めたのだ。
こちらの方へ向かって。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
誤字、脱字は随時修正していくぜ。
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