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アリス・アライズ ~ALICE・ARISE~  作者: アイザック・ゴーマ
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6-5:タツコ

   6-5:タツコ




「ちょっと、あっちの様子見に行ってくるねー。

 こっちは準備できたよって伝えてくるー」



 村入り口の避難準備班。

 バギーの準備を終え、だべり始めた少女たち。

 その少女たちにタツコがそのように言った。

 はーい、よろしくーと少女たちが返す。

 タツコは、



「あ、ルキちゃん。

 一人じゃ心細いからついてきてよ」



 と、珍しくルキに誘いをかけた。

 ルキは戸惑いつつも何かしらの思惑を感じ取り、それに応じた。

 ついてきてと言いつつ、タツコは足早に天井作業をしている様子の光源の方へと進んでゆく。

 2mほど距離を保つ形でルキはそれを追った。

 遠くからはよく見えなかったが、鉄骨の柱を作っていたのはエリナとナナルであった。

 ミナコに対して表面上は問題ないが、露骨に敵意を放っているタツコ。

 バギーの作業中にすでにここで柱の作業をしていたのはエリナとナナルであることを把握していたのだろう。

 


「あ、エリナさん、ナナルさん、バギーのほう、作業だいたい終わりました」



 タツコが近寄って、そう報告した。

 ナナルが足場の丈夫さを確認しながら応えた。



「わかりました!

 こちらはもう少しかかりそうなので、いったん休憩時間にしてください。

 一応、何があるかわからないのでバギーの場所で」



「はい。

 伝えてきます」



 タツコはそう言って、すぐに踵を返した。

 そして、ようやく、ルキと対面する形となった。

 ルキは、ビクと肩を震わせる。

 タツコは、暗闇の中、わずかな石の光でその様子が見えていたのか、

 


「ちょっと付き合って」



 と、笑みを浮かべて言った。

 ルキは返事をしたわけではなかった。

 だが、その返事すら待たずに村の広場のほうへと進んでいくタツコの後を追った。

 その進路は広場を抜けて、村の奥の石を蓄えている倉庫に向いていた。

 無言のままタツコとルキは歩き進む。

 そうして、その倉庫の、特に村で明かりの代わりに使っている白い石の倉庫まで来た。

 ルキはいよいよ目的が分からずハテナを浮かべた。

 タツコは振り向いて、



「この中よ」



 そう言って、その倉庫の中へ、ルキを誘った。

 石を補完している倉庫は家とは違い、高床式にはなっておらず、本当に簡易的に作られた木の倉庫を使用していた。

 そういった倉庫がいくつかあり、大きさは車が4台ほど入れられる広さに3mほどの高さであった。

 倉庫の中は白い石による光で満ちていて、開いた扉から強く漏れ出した。

 「入って」とタツコが言い、警戒しつつもその様子をなるべく表に出さないようにルキは倉庫の中に入っていった。

 タツコは静かに扉を閉めた。

 ルキはいくらかタツコと距離をとりつつ、



「用は何なの?

 ちょっと怖いわ」



「そうね、ごめんなさい。

 まずは同じ班の人に相談しようと思って……」



「相談?」



「ええ、私、この白い石の使い方がわかっちゃって。

 だけど、みんなに言うべきか迷っちゃって」



 そこまで聞いて、ルキはすこし緊張がほぐれた。

 もしかしたら、急に襲われるんじゃないかと思っていた。

 そのくらいの迫力がタツコにはあった。

 しかし、内容を聞いて、そのタツコの迫力はミナコに向いているものであると、今そう認識した。

 ルキは、



「この石は迷うような力を持ってるの?

 でも、皆には言っても良いんじゃ、いや、……う~ん、ハナさんとかカガミさんとかにまず言ってみるのがいいかも」



「そうも考えたわ。

 ねぇ、でも、私が1人で言ってもあまり説得力ないかもしれないわ。

 だから」



 ルキは推察した。



「ああ、だから、私を」



「そう」



「……タツコさんはもう使ったの?

 というか、どうやって使い方がわかったの?」



「……う~ん、説明は難しいわね。

 ものは試しということで、ルキさん、やってみてもらっていいかな?」



「……痛いとかない?」



「そうね、人によるかもしれない。

 でも、大丈夫じゃないかな、ルキさんは?」



「?

 ……どうやるの?」



「この白い石の中で、どこかに感じるものはない?

 なんか呼ばれてるような感覚っていうのかな」



 ルキは倉庫の中を見渡す。

 中には何台もの台車に積まれた大量の白い石がある。

 ルキは困った顔をして、



「このたくさんの石から?

 ……え~?

 う~ん……」



「瞳を閉じて、集中してみて?

 他の石に埋まって、感じにくいのかも」



 タツコに言われて、ルキは瞼を閉じてみた。

 ルキは見つからないだろうという気持ちでいたが、ふと気づいた。

 なんとなく、瞼の裏に1点の光が見えたのだ。

 ルキは瞼を開けて、その方向の白い石を探ってみた。

 たくさんある白い石をかきわけ、わからなくなるたび、瞼を閉じ、その1点の光をさがした。

 やがて、ルキはそれを手にした。

 ルキはタツコのほうを振り返る。

 タツコは頷き、



「それね。

 ……じゃあ、それをアライズしてみて」



 ルキは息を飲んだ。

 この白い石をアライズするという行為もそうだが、タツコへの不信が完全に拭えたわけではなかったこともあった。

 それでも、ルキは、



「アライズ」



 ルキの持っていた白い石が一瞬強く光った。

 そして、



「!!!!!

 あ! 

 あああ!!!」



 ルキは悲鳴にも近い声を漏らし、同時に涙もした。

 記憶。

 その白い石に詰まっていたものはソレだった。

 ソレが奔流となって、ルキの体に流れ込んだ。

 



   *




 それはなんてことはない。

 しょうもない人間の行い。

 イジメ。

 しょうもないことだけど、上手くソレを解決できることは限りなく少ない。

 大人だってそうであるのに、子供に上手く解決を求めることのほうが難しい。

 私の兄は職場でのイジメで鬱になり、ひきこもってしまった。

 逆を言えば、大人であってもイジメを行うのに、子供が行わない道理もまた、なかった。


 その事件は。

 イジメから転じた殺人事件。

 きっと、そう報道されたのではないか。

 いや、それとも。

 ……その事件で亡くなったのは、女子高生5人。


 倉木 美奈子。

 坂間 杏璃。

 久我 美遥。

 花屋 竜子。

 三枝 流来。


 イジメがあったという事実や、その物的証拠となるものは見つからなかっただろう。

 例えば、わかりやすく言えば、ノートや教科書に落書きされていたとか。

 被害者に異様に目立つ出費があったとか。

 被害者に目立った暴力の跡があったとか。

 その点でいえば、イジメの主犯であったミナコは上手くやったのかもしれない。

 (イジメという行いが一番、下手な行いであることは言うまでもないことだが)


 そうとなれば、それはイジメには該当しないのかもしれない。

 いや。

 やはり、肉体的にも精神的にもタツコを蝕んでいったミナコの行いはソレに違いない。

 一種の宗教に近い。

 女子のグループにはままある抜け出しにくい強制力。

 自分の意志でやっているようで、そのように誘導されていることに気づけない盲目感。

 それらがタツコを結果的に崩壊させた。

 もちろん、タツコだけが悪い目をみたわけじゃない。

 アンリ、ミハルも相当なようだった。

 私は、そも、そのグループに所属していたわけじゃなかった。

 独りでいることを好む私は、そのグループから嘲笑されるような存在だった。

 それでも、小学校の頃は私はタツコと仲良くしていて、そのこともあって、なんとなくタツコの様子は気にしていた。

 

 ミナコはそのあたりでは有名な地主の娘で、色々と顔が利いた。

 家は土建業も営んでおり、溺愛されていたミナコは空き家などの融通も利いた。

 私が見たのはそういう家から出てきたタツコだったのだろう。

 なんとも言い難く、何か不幸な目にあったような姿をしていた。

 それ以来、何度か声をかけてみたが、相手にはされなかった。


 あの日。

 あの日は。

 タツコは何か決心したかのような眼をしているように感じられた。

 学校を終え、その足で、ある大きな家に入ってく少女たちを私は追った。

 途中、コンビニでお菓子などを買っており、パーティでもするのかもしれない。

 と、そこで帰ろうとも思った。

 そっと。

 その立派な家の裏に回った。

 庭には雑草が生い茂り、ものの風化した様子などから主のいない家であるようだ。

 窓から中を覗き見た。

 どういうわけか電気が来ているようで、TVの音と、少女たちにの笑い声が聞こえた。

 ほっと。

 私は胸をなでおろし、帰ろうとした。

 すると、突然、バタバタという音とともに少女たちの声が消えた。

 再び覗き込む。

 少女たちは机に突っ伏すように眠っているようだった。

 一人。

 タツコだけがその様子を立ちながら、冷たい目で見つめている。

 私は。

 私はどうするべきか。

 一度、その家の敷地を出た。

 見なかったことにしてそのまま帰るか、警察に連絡するか悩んだ。

 しかし。

 私はそのまま近くの公園のベンチに座り、時間を費やした。

 どのくらい経ったのか。

 ふと立ち上がり。

 私はさきの家に戻った。

 扉は空いていた。

 間に合うのなら。

 何でもないのなら。

 色々な思考がごちゃ混ぜに頭をよぎる。

 それでも、もしも、何か悪いことが起きてたら、それがタツコによるものなら。

 自首を勧めよう。

 玄関から声をかける。

 


「タツコー。

 いるー?」



 すると、タツコが奥のほうから歩いてきた。

 特に驚いた様子はなく、タツコが言った。



「あら、ルキ。

 びっくりした。

 どうして、ここがわかったの?

 ……まぁ、どうでもいいか。

 こっち来なよ。

 みんないるよ?」



「……。

 ……みんな」



 私はとにかく現状を把握しようと招かれるままに家に入った。

 心のどこかでそれが悪手だとわかりきっていた。

 警察を呼ぶべきだった。

 理性と感性が乖離していた。

 広いリビング。

 窓から覗き見た、その場所には机があり、ソファや座椅子などがあり、お菓子も散乱していた。

 倒れたペットボトルから流れ出る炭酸ジュースの甘ったるいにおいも感じ取れた。

 そのリビングのスペースは、窓から覗けない部分にまだ広く空間があった。

 除けられたであろうテーブルや椅子が部屋のすみにある。

 何故、除けられたか。

 一目瞭然だ。

 そこに用意されていたのは子供用ではあるが少し広めの簡易プールであった。

 空気で膨らませるタイプのものでなく、パイプで枠を作って、シートを被せることでプールになるタイプのものだ。

 そこにはなみなみと水が張られていて。

 張られていて。

 そう。

 そのプールはちょうど3人ほど大人が横に入りそうなほどには広い。

 ミナコ、アンリ、ミハル。

 3人がそのプールの中で意識を失った様子で入れられていた。

 私は、タツコを見た。

 タツコは悪意ある子供の笑顔をした。

 とても可笑しくてたまらない様子なのに笑い声はあげなかった。

 タツコは言った。



「人ってさ。

 簡単に死ぬんだよね。

 後のことなんか考えなければ特にさ」



 タツコは足元に伸びていた延長ケーブルをたぐりだす。

 私は言った。



「タツコ。

 やめよう。

 それやっちゃったらもう、戻れないよ。

 今ならまだいくらでもやり直せるからさ!」



「やり直し?

 ……ちがうよ、ルキ。

 私はやりなおしなんてしたくないんだもの。

 私は、さ」

 


 タツコの引く延長ケーブルの先にドライヤーがつながっていた。

 ズルズルと音を立て、タツコの手に近づいていく。

 賢い方法を知っていても、賢い行動をとることは容易ではない。

 ルキはタツコに歩み寄った。



「だめ!

 タツコ!

 馬鹿なことはやめて!!」



 タツコの手が急ぎぎみになる。

 引かれるドライヤーを先に取ろうと私は手を伸ばしたが、少し早くタツコがそれを手にした。

 刹那の時間。

 私とタツコはにらみ合う。

 タツコはもう、止まる必要なんてないのだ。

 ドライヤーの電源に指がかかる。

 私は必至でドライヤーを奪おうとタツコに掴みかかった。

 その最中にゴオォと電源が入った。

 どう動いたか覚えてない。

 ただ、結果として、私とタツコはつかみ合ったまま。

 そのプールに落ちた。

 後のことは覚えていない。

 あの。

 プールに落ちるあの瞬間。

 タツコは泣いていた気がした。




   *




「思い出せた、ルキ?」



 タツコは微笑みながら言った。

 ルキは汗を流し、息を乱しながらタツコを見た。

 タツコがその様子を見て言った。

 


「そう、よかったじゃない。

 ね。

 これが白い石の力。

 力というか、私たちの記憶が封じ込められているの。

 もしも、みんなが思い出したら大変なことになると思うでしょ?

 だから、悩んでたのよ]



 タツコは笑った。

 ルキにはわけがわからない。

 何故、ルキに記憶を戻させたのか。

 少なくとも、他の。

 関係ない人たちに頼るほうがタツコには有利なはずだった。

 ルキは率直に聞いた。



「なぜ?

 私に、教えたの?」



「ふふ、それはね……」



 警戒するルキ。

 しかし、恐怖感に支配されているのかその体が動かない。

 そんなルキに友達のように気さくに近寄っていくタツコ。

 ポンとルキの肩にタツコは手を置いた。



「そんなに警戒しないでよ。

 大丈夫よ。

 そんな心配しなくても」



 ルキの動機が不思議なくらいに激しくなる。

 その様子をあざ笑うようにタツコは笑った。

 声もなく、ただただ、笑っていた。

アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。

誤字、脱字は随時修正していくぜ。

特に見ても面白いことはやりませんが、Twitter、チャンネル登録もよろしくだぜ。

リンク貼っていいかわからないので、興味がある方は検索してみてだぜ。

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