6-4:夜に蠢く
6-4:夜に蠢く
天井班。
ハナ、エリナ、ミナコ、ナナル。
紙に村の俯瞰図や側面図を描きこみ、そこにどれくらいの数、どれくらいの太さの柱を建てるか検討をしていた。
問題は主に二つ。
ひとつめは、天井を造ったその後、その上で作業する人数に少なくとも耐えられるように作らなくてはいけないし、速度を求めれば求めるほど頑強な柱と天井が必要になる。
ふたつめは、しかし、この難局を乗り越えた後、それらを撤去、または残した状態で暮らせるように考えなければならない。
それらをふまえ、いくつかのパターンで試案を作成していた。
そも、格子状に組んだオレンジの壁が合体した黒ウサギに有用かどうかもわからない。
ところてんのごとく、通り抜けてこないとも限らないのだから。
そうこうしているうちに、ナナルが言った。
「もしもの時は、村を『ここ』とは別に増やすことも考えても良いかもしれません。
仮にその巨大黒ウサギに襲われたとして、そいつはこの村のオレンジの塔へ上から侵入する必要があるわけです。
今のところの情報では少なくとも、そのほぼ全身をこの塔に流し込むカタチしかないでしょう。
もしも、這い出る方法があったとしても、一度塔の中に入ってしまえば、外から攻撃のし放題です。
完全に閉じ込めることは不可能ではないでしょう。
その後、得られる石の量を考えれば……ということです」
エリナが応える。
「……そうね。
天井はどう作用するかわからないにしても、オレンジの壁だけは絶対なはずだから。
それは計画に含めましょう。
どのプランで行くにしても、使えるアイデアだもの。
どう?」
エリナはハナとミナコに振る。
二人とも、こころよく肯定した。
というより、その場の4人とも同じアイデアは浮かんだうえで、確認に近いものだった。
*
避難準備班。
天井班の4人、あと、巨大黒ウサギの様子を見に行ったカガミとカエデ以外の少女たちは村の入り口に集まっていた。
作戦に参加しない予定だった待機組の少女たちも話を聞いて、参加することとなった。
マユルがすぐさまにバギーを生み出した。
今回は村の石も使ってよかったために、紫の石を使い、いくらかマユルの疲労を抑えられたようだ。
新たなバギーは4台。
1台に5人乗れるので充分な数ではある。
ルキがそれらに充電してまわっている。
他の少女たちでオレンジの石で防御壁をとりつけたり、加えて石を運べるようにコンテナを取り付けたりしている。
言ったのは、サラだった。
「それにしても、電気で動く車ってすごいわね。
こういうのができるのって、未来の話だと思ってたわ」
サラは目に泣きはらした後があるものの、事態が事態だけに参加した。
むしろ、やらねばならないことができたために吹っ切れた感があった。
それに応えたのはマユル。
「ね。
ウチもそう思う。
なんで、ウチがそんなの作れんのかもよくわからないしー」
「もともと、そういうガッコいってたんじゃないの?
工業系? とか?
ま、いいじゃん。
そのおかげで皆たすかるんだし!
マユルっち、ありがとーだよ!」
「へへへ。
ありがとーいただきましたー!」
少女たちの間ではワイワイと和んだ雰囲気が流れているようだが、その実、ピリピリとした空気をごまかすためのようなものであった。
*
調査班。
カガミとカエデ。
今回はバギーを1台だけ。
目的は、周囲の状況把握、巨大黒ウサギの動向確認、避難予定地の視察である。
先ほどとは違い、村の東側へ進んだ。
と、いうのも、数日前のカエデ含む少女たちが残した小さなオレンジの塔がまだ残っているからだ。
オレンジの壁は設置から一週間ほど残る。
まだ、数日残っているのでそこを足掛かりに避難場所を築くのが易いと考えた。
その小さな塔に二人はすでにたどり着いていた。
カガミが言う。
「変だな。
多い少ないはあれど、黒ウサギが今日は少なすぎる。
もっとゾンビ映画みたく出てきてもおかしくないんだけどな……」
「カガミさん、そういうの見るんですか?
へぇ~」
「ん?
ああ、いや……。
たしかに。
見てたのかな?
あんま覚えてないけど」
「……変な場所ですよね、ここ。
記憶が無くなっているのに、自分の名前と、知識とかは残っていたりするし」
「ああ、そうだな。
誰が、何で……って、そんなのは今はいいんだよ。
やっぱり、ここらの黒ウサギの大半はアレに取り込まれたと思っていいのかもな。
あまりにもいなさすぎる」
「あの大きさ。
でも、仮に形状を変えられるとしたらですけど。
森より低くなれば木陰で生存し続けられるのかもしれませんね」
「確かにな。
午後の一件ももしかしたらそうして潜んでいたアレの仕業なのかもしれない。
そう考えれば、納得できることもある。
普通、自分の体を犠牲にしてまで陽のもとに出てくるなんて、よほどの余裕がなければ実行できないだろうからな」
カガミは周りを警戒しながら、
「だが、なら、何故。
今、あんなに遠く離れた場所で頭を高くしているのかだ。
探している?
いや、重要な何かがある?
いや……やっぱり、午後の件の奴と一緒にするのは不適当か?」
「別だとしたら、すでに私たちが襲われていても不思議ではないと思います。
ま、そこらへんは頭脳班が考えてくれるでしょ」
「あ、カエデ。
お前、私たちを脳筋班だと思ってるだろ?
私は違うぞ!
わりと賢い!」
「はいはい、そうですね」
「カエデぇ?」
カガミがわなわな拳を固めるそぶりをして見せる。
しかし、カエデは他所を見たまま、固まっていた。
「……カガミさん、アレ」
カエデの見ている方向に視線をやるカガミ。
その方向。
森の方向。
明かりを灯して1人、カガミとカエデの方にやってくるシルエットが見えた。
そのシルエット、少なからず明かりであらわになる姿にカエデは見覚えがあった。
この場所に来た時、案内役として現れた少女。
カガミがつぶやいた。
「シャム……」
次いで、カエデが言う。
「死んだのかと思ってました。
私たちがここに来た時、途中からいなくなってたので」
カエデはカガミを見る。
その手には石が強く握られており、警戒している様子が見て取れた。
味方か敵かわからないが、カガミの警戒心をカエデは信用した。
そして、同様に両手に石を握った。
そんな様子を感じ取ったとでもいうのか、まだ遠い、5mくらいの距離間でシャムは言った。
「やあや!
いい夜ですね。
そんなに構えないでくださいな。
敵ではありませんよ。
私とは初めてではないでしたかね?
まぁ、いい。
おや、それは車ですか?
なかなかなものをお持ちのようだ。
と。
それもどうでもよいですね。
……私は助言に来たのです!」
両手を左右に開いてシャムは敵意のないことを表した。
それでも、カガミは警戒を解かないし、それに倣ってカエデも構えたままでいる。
シャムはやれやれといった仕草をし、
「……まあ、よいでしょう。
このまま聞いてください」
*
戻り、天井班。
すでに動き出していた。
初めにやり始めたのは柱の制作であった。
村を囲う円形の外壁とその中で円形に並ぶ家。
その間に柱を制作していった。
柱といっても、鉄骨を組んだやぐらのような柱である。
制作速度やその後の崩しやすさを踏まえてそういうものとなった。
それを村入り口側から等間隔で、ミナコとナナルが主となって制作。
ミナコにはハナ。
ナナルにはエリナがサポートとしてついている。
柱は村の中央部分にも作り、天井はいくらか丈夫な金網にシートを敷く形を選んだ。
おそらく、コスパも踏まえ、それが一番早く、撤去効率も良いものだと判断されたからだ。
しかし、金網部分などは紫の石をふんだんに使って作らないとさすがに無理であろう。
それでも、それが今の一番の最適解であろう。
もとが砂浜であるため、柱を立てるための知識のすり合わせに少し時間は要した。
金網の上で人が作業する以上は途中で崩れられてはもちろん困る。
ミナコはそういうのが得意なのか、ソレが能力に反映されるのかもしれないというくらいにはミナコの知識のおかげでその点は解消された。
柱を制作しているナナルに明りを灯し、石の入った台車を片手で抑えているエリナが言った。
「女の子がする仕事じゃないわね」
ナナルがクスリと、
「そんなことないわ。
女だって、何だってできるんだから」
「そうだけど、そうじゃなくてさ。
……ナナルさんはココになんで、女の子しかいないんだと思う?」
「え?
そうね。
でも、男が今はいないだけでどこかにいるのかもしれないし」
「まあ、そうだけど。
私なんか、女の子がこんな風に集められたのは、下種な男の思惑なんじゃないかとも思うのよ。
そんで、奴ら、こうやって女の子たちが色々してるのをどこかでいやらしい目でみているんじゃないかって」
「それも否定できないわね、ふふ」
笑いつつもナナルはそういう考えもあるんだなと半ば感心していた。
一見、怖そうというか攻撃的にみえるエリナの思わぬ一般的な感性に少し、親近感を覚えたナナルであった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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