6-2:夜に蠢く
6-2:夜に蠢く
村の東側、海岸。
上空30メートルほど。
カガミのスカートは激しくはためいていた。
カガミは気にせず、ソレを凝視する。
見つけたソレは遥か遠くにいた。
カガミは無意識に視力を強化し、闇夜の中にそれを浮かび出させた。
拠点の村から森のほうへ、およそ……わからないほど遠い。
それでもソレのカタチを視認できるほど巨大だった。
村を囲うオレンジの壁のごとく、細長い筒のようで、その天辺にはわかりやすく2本の耳らしきものがついていた。
その高さは村の壁より1.5倍ほど高い。
村の壁がおよそ40m、ソレは60mはある。
そんなものが襲ってきたら村なんてひとたまりもない。
もはや災害である。
カエデ達が村に来た日。
その日にもカガミはこの程度の跳躍をしていたがソレに気づかなかった。
なので、おそらく昨日今日で突然生まれたに違いなかった。
または他所から来たか。
それでも、黒ウサギが日の光に弱い以上、アレはあのままじっとしてはいないはずだ。
目的としたものではないが、今気づけたのはラッキーとしかいいようがない。
なんなら、目的とした黒ウサギはすでにアレに取り込まれてしまったかもしれない。
カガミの数秒間の飛行は、物理効果で落下を始めた。
地面に衝突する前に、カガミは己の体重を軽減し、ふわっと降り立った。
その様子をカエデは、
「へぇ、今のどうやるんですか?」
「あ?
……うーん。
理屈で考えてやれることじゃないんだよな。
どちらかというと、こうなったらいいなと強くイメージする。
理屈でやろうとするとむしろできない。
ま、できるときに修行しときな。
……することができればだけど」
「へへ、あーい。
上、なんか見えました?」
「見てみるか?」
「へ?
……キャ、ちょ!?
あああああああああああああああああああああ!!!!!!??」
カガミはカエデを抱きかかえると再び跳躍した。
カエデの悲鳴が轟いた。
*
村の広場。
白い石を積んだ台車が煌々とその場を照らしていた。
少女たちは他愛のない会話で時間をつぶしていた。
最初こそグループごとで会話していたものの、いつの間にか交じり合っていた。
どちらかといえば、ギクシャクしていたミナコグループがばらばらになって、他のグループに混じっていったのがその大きな要因だった。
特にいじめのようなことが起こっている様子はなく、これだけの人間が集まっていればそういうこともあるだろうと、多くのものはあまりそのギクシャクには触れずにおしゃべりを楽しんだ。
そうして、そのおしゃべりにも飽きてきたころ、いつの間にか村長側、ハナへの質問タイムとなっていた。
ハナは聞かれたことを1個ずつ答えた。
「そうですね。
私たち……私、カガミ、チヅル、レネは同期というか、他にも何人かと一緒にこの村にたどり着きました。
私たちはおよそ6ヵ月前。
ミユナはそのあとで4ヵ月前。
私たちが来た頃にはこの村の形は今と変わらずほぼ出来上がった状態でした。
その頃にはこの村を運営する方々がいて、私たちは今のあなた方と同じ立ち位置でした。
だから、ゆくゆくは皆さんにも共に運営をしていただきたいと思っています。
そして。
その以前にいた運営の方々、先輩たちですが……。
ええ、今はいませんね。
皆さんが来る前に……先輩たちは元々【ハートの城】へ行く準備を整えていました。
なので、先輩方は城を目指して出発したのでした。
後から来た私たちの分の用意が間に合わなかったことと、何かあった場合や皆さんのように後から来る者などのことも考え、私たちは村に残り、このオレンジの壁を維持してきたのです。
先輩方もあれからどうなったのか。
最初は時折、のろしのような合図が上がっていたのですが、それもなくなり……。
はあ、ちょっとお水をいただきますね」
手元にあった水を口にするハナ。
ミナコはそこを見計らって質問をした。
「その先輩たちは何人ぐらいの規模で、どのくらいの用意をして出発したんですか?」
ハナは笑顔で答えた。
「20人いましたね。
用意は……石を今の村の貯蔵の2倍分くらい。
あと、水などを多めに携帯していました。
ただ、能力でいえば、今の皆様方の方が種類に富んでいたと思います。
先輩方はどちらかといえば、戦闘に特化していたというか。
少なくとも、車があるとするなら計画も違ったと思います。
まぁ、車だけではどうにもならないでしょうが、それでもね」
ハナは少し寂しそうに言った。
エリナは(ふーん)と、
(つまり、戦力にならないから置いて行かれたのが実のところかしら。
カガミさんやチヅルさんあたりは同期を見捨てておけずに残ったってところね。
そのおかげで私たちも助かったわけだけど……)
ナナルは思う。
(戦闘特価……。
それでも森を破壊して一直線に進んだわけではないのね。
自然には悪いけど、それが一番安全ではある気がするけど……いえ)
ナナルは思考に任せず、その疑問を聞いてみた。
「ハナさん。
先輩方はどのように城を目指したのですか?
あの森の中を突っ切っていったのですか?
それは危険なように感じますが)
「……あの森を破壊して道を作っていきました。
ええ。
今、その痕跡を見つけるのは難しいと思います。
あの森はものすごい速度で再生します。
今日の午前中、西側のグループが遊びで森を破壊しましたよね。
あれは、明後日には再生してしまいます」
感想を漏らしたのはエリナだった。
「つくづく、変な場所ね、ここは」
ハナは「そうね」と言って、クスリと笑った。
そこに遠くからエンジン音が聞こえてきた。
オレンジの壁には音もいくらか減衰させる効果があるようなので、カガミとカエデがもう村に帰ってきたということだろう。
エンジン音は突然、大きくなった。
車が壁を越えたようだ。
順にエンジン音が切れたような音がした。
どうやら2台とも帰ってきたらしい。
ハナはチヅルに言った。
「チヅル、お迎えお願いできますか?」
「あいよ。
あ、いや、来たみたいだ」
チヅルは軽く顔を上げて、そういった。
チヅルはカガミならそうすると予測できたのかもしれない。
その通り、チヅルの視点の先に二人の姿があった。
空を飛んでいるかのように二つの影が宙に浮かんでいた。
そして、2秒もしなかっただろう。
ひゅーんと、2体の影が少女たちの前に……
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!???????」
悲鳴をあげながら飛んできた1体、カエデは着地がうまくできずに広場に集まっていた少女たちの傍をゴロゴロ転がっていった。
ストっと軽く着地した1体、カガミは「あちゃー」とその様子を苦笑いしながら見送った。
「ま、何事も経験だわな」
カガミはそういって、ハナたちのほうに向かって言った。
「ただいまー。
無事帰ってこれたわ」
ハナは安心した顔で、
「おかえりなさい」
皆が思い思いの言葉をカガミに送り、カガミも「どうもどうもー」と返した。
そして、カガミは切り替えたように真剣な表情をして、
「では、作戦会議に入ろうか」
そう言った。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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