6-1:夜に蠢く
6-1:夜に蠢く
村の入り口。
そこには明確に、オレンジ色の透明な壁が外界との境界を作っていた。
うっすらと光るその壁を、今、カガミとカエデは通ろうとしている。
すでに夜。
遠くの空にも夕日の面影が残っていない。
外側に黒ウサギがいないのかを入念に確認する。
普段は村の皆が気にしないようにしているが、夜には黒ウサギが当然に森から出てきている。
その中には、村に入ろうと壁を叩き続けるものもいるし、ただ海岸を彷徨うものもいる。
いまだにその生態系はよくわからないものの、村から出て見つかれば猛獣のごとく襲い掛かってくるのは確かであった。
外界の様子。
まだ、夜に入ったばかりもあって、海岸には黒ウサギの姿は見て取れない。
カガミとカエデの作戦はこう。
オレンジ色の壁で四方に守りを付けたバギーをそれぞれに乗り、カザキが襲われた場所まで行って待機する。
目当ての特殊な黒ウサギが出てきたら迎撃しつつ、村へ戻る。
通常の黒ウサギが群れをなしてきても同様で、こちらの場合は数えるほどなら駆逐する。
バギーにはそのための石も十分に積載してある。
仮に。
仮に片方に異常があった場合。
想定以上の出来事、対処するには過大な出来事があった場合。
片方だけでも村に帰り、その状況を報告すること。
……であった。
オレンジ色の守りは、これまでの経験上、黒ウサギには動かせない。
だから、いきなりやられることはないはずなのだ。
しかし、元よりこの場所・世界はよくわかっていないことのほうが多い。
そのこともカガミはよくカエデに言い聞かせた。
ブロロロロ……
電気式のバギーなのでエンジン音は本来はないのだが、バギーはエンジン音を放った。
それにしても……。
電気式のバギーを作れるって何なんだよと、カガミは改めて思った。
明らかに、他の能力者より上位の能力ではないだろうか。
今は考えるべきことではないな、そう思い、カガミは後ろのカエデに合図を送った。
行くぞと。
その合図と同時ほどにカガミはバギーを走らせた。
村の境界を抜け出す。
村の外はしんと静かに、ひんやりとした空気が漂っていた。
その中を、バギーが2台走り抜けていく。
村を回り込み、東側へ。
カザキとサラが襲われた場所は具体的にはわからない。
しかし、走っていると、村からそう離れていない場所に、かすかに光る石が道のように森まで続いている場所を見つけた。
事件があってから、6時間はギリギリ経っている。
日の光は足りてないから石としては使えないかもしれない。
それでも、そのように光る石が道をなす理由は他にはないだろう。
カガミは右手を挙げて、後方のカエデに停車を知らせた。
2台、横に並ぶように停まった。
カガミは周りをうかがう。
周りにまだ黒ウサギの気配はない。
黒ウサギは精神を研ぎ澄ませると、なんとなく気配がわかる。
黒ウサギがいる方向に嫌な感じがする。
カガミはカエデには、同じように感じれるかはわからないからあくまでも情報として伝えておいた。
カガミが言った。
「車の向きを村のほうに向ける。
いつでも逃げれるように。
その後に、ちょっと挑発してみる」
バギーを動かし、その頭の向きを村に向けた。
森側にカガミ、海側にカエデの位置取りだ。
2台のバギーの間は2mくらい。
その間にカガミは降り、バギーを盾にするようにした。
カガミは装備した袋から赤石と紫石を一握り程度に取り出す。
「よっ!」
カガミから森のほうへ向けて、赤い光線が引かれる。
線の先端は森まで一瞬でたどり着き、息をのむ間に爆発が起こった。
それは、カエデたちのものとは比べものにならず、一人でグラウンドほどの空間を作り出した。
遅れてきた爆風がカエデをハッとさせた。
カエデが言う。
「今ので倒しちゃったんじゃないですか?
つか、カガミさんが森を一掃したほうが早いんじゃ?」
「あほ。
そんな簡単なら苦労はしてないよ。
雑魚ならアレで済むが、特殊なのはそうはいかない。
モノによっては自分の体で防御壁作って生き残る。
特に今回のはな。
いくつか合体してるとみて間違いないだろう。
「経験……あるんすね」
「伊達にな……おっと、来たな」
カガミが村と反対の方向、東側の砂浜に目をやる。
一瞬遅れて、カエデもピクンと体が反応した。
かなり遠い。
3キロメートルほどは距離がありそうだった。
嫌な気のかたまりみたいなものが近づいてくるのが感じられた。
目を凝らすと、たしかに、夜闇の砂浜に黒い影が蠢いている。
カガミが先ほどと同じように石を握り、投げた。
ミサイルが落ちたような爆発が当該の場所に起こった。
夜が明るくなり、嫌な気配のほとんどが消えたのをカエデは感じ取った。
カガミが、
「ほら、練習だ。
やってみろよ」
そう言ったので、カエデはよしと、赤い石と紫の石を取り出した。
カエデは息を軽く吐いて、投げる。
イメージしたのは先ほどのカガミの石の軌跡。
野球のような球の投げ方にとらわれて軌道イメージを考えてはいけない。
光線のように、魔法のように。
すると、石は呼応するようにカエデの手から飛び立った。
カエデの手から光の一線が狙った地点と結ばれる。
夜が光った。
カガミがヒューと口笛をならす。
「やるじゃないか。
才能ある」
「そりゃ、どうも。
……全部やれましたか?」
「ああ、今来たのは残ってないな。
音を聞きつけてまだ来るかどうか。
こればかりはあんまわからん。
滅茶苦茶いる時もあれば、まったく現れない夜もある。
ただ……」
「ただ?」
「何故か特別な奴はあんまり移動はしない。
このあたりにいるはずなんだ。
なのに……まるで気配がない」
「特別なのは気配に違いとかあるんですか?」
「ああ。
そうだな。
感じてみるのが早いが。
単純に嫌な感じが濃くなってる」
「なるほど。
やっぱり、カガミさんやられないでくださいよ。
そういう知識、みんなで共有したほうがいいです、ぜったい」
「ハハ、まあ、そればっかりはな」
カガミは言って、辺りを見渡した。
カエデも同様に周りに気を配る。
夜の静けさばかりが際立っていた。
カガミが言った。
「特別な奴は……これは確かな情報じゃなくて、私の推測。
雑魚みたいに一撃では死ななくて。
回数というか、壁の数みたいなんだよな。
コアがあるってわけでもないみたいなんだが。
おそらく、最初に合体なり始めた個体?
それに何体分もの黒ウサギの膜を被ってるかんじかな。
その数の分、攻撃を通さないと死なない……と思う。
あと、失った分はまた合体することで補給できる……ようだ」
「……なんていうか、ゲームでいうとライフの数が増えてるみたいな感じですか?
命の数が合体分増えてるみたいな」
「ああ……そんなかな。
ゲームか。
あんま記憶思い出せないのにそういう記憶でてくんのなんなんだろうな」
「なんか、むずがゆい感じっすよね」
「まったくだ……うん?」
カガミが突然、森の一方向に視線を向けて止まった。
カエデもそちらを見る。
気配はないようだ。
カエデはふうと息を一つ吐き、
「どうしました?
あんま驚かさないでくださいよ?」
「いや、これは……カエデ、ちょっと待ってろ」
「へ?」
カガミはバギーの上に立ち、「アライズ」と言った。
カガミの全身がうっすら光る。
そして、軽くジャンプするような仕草をしたと思ったら、次の瞬間にはその場で空高く跳躍していた。
カエデは辛うじてその事前動作でジャンプしたことに気づけたが、人によってはいきなり消えたように見えただろう。
カエデはその動作の意味を考え、カガミが見ていた先に意識を向けた。
その先には……なんとなく嫌な気配が感じられる。
しかし、とても小さいというか遠いというか、気にする範囲の外のような気がした。
カエデがそう感じていた同時、空にいたカガミはソレを視認していた。
「なん……だ……ありゃあ……」
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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