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アリス・アライズ ~ALICE・ARISE~  作者: アイザック・ゴーマ
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5-5:星の煌めく

   5-5:星の煌めく




 村の入り口。

 カガミとカエデの二人のみ。

 周りには他に誰もいない。

 時刻は星の煌めきはじめた頃で、まだ海の方の遠くの空は赤みがかって見えた。

 白い石を詰めた小さなランタンを二つ、二人はその足元に置いていた。

 カガミは偵察用に用意した石をいくつか、袋から取り出してその右手に握った。

 それをカエデに見せるようにして、カガミは言った。



「ドレイン」



 その言葉に呼応するように石は光り輝いた。

 そして、まるでその光を食するかのように(カエデにはそう感じられた)、カガミはその光を全身に纏い、吸収した。

 カガミは「わかったか?」というような顔をして、



「これは、石の力をそのまま体に取り込む。

 石をいちいち使わなくても同じことができるようになる。

 手のひらをこう、前のほうに向けてイメージしてアライズを唱えれば石をなくても、な」



 カエデは思わず、言った。



「便利じゃないですか!! ずっる! そんなの独り占めしてカガミさんずっる!!」



 カガミは苦笑して、



「ははは、最初に教わった時には私もそう思った。

 でもまぁ、何事もってやつさ。

 一定以上……体の限界以上に取り込むと死ぬ。

 体が膨れ上がり、爆発する」



 カエデは真顔になり、半分、冗談を期待したうえで言った。



「……ほんとですか?」



「ああ、目の前で見た。

 取り込める限界に近づくと、通常時なら体に異変を感じるんだが。

 ……そうだな、戦闘時なんかはアドレナリンのせいかそれが感じづらいんだろうな。

 思えば、この場所で死ねる隠された方法だな。

 まぁ、そういうことだ。

 加えて、先輩の言ってたことをそのまま伝えるが。

 これは、争いのもとにもなるそうだ。

 私たち、女側のな。

 だから、基本的には人には言うな。

 言っちまったら、それは仕方ないが。

 それは任せるよ」



「おっもー」



「ははは、まぁ、そう悩まなくていい。

 便利に使え。

 とりあえず、10個くらいでいい、いざという時のために蓄えておけ。

 普段は普通に石として使えばいい」



 言いつつ、カガミはカエデの服のスソの部分を取り上げた。

 カエデが?マークを浮かべる。

 カガミは小さくアライズと言い、そのスソの部分に小さなポケットを作った。

 カガミは言う。



「ここにオレンジの石を隠して入れておけ。

 まぁ、気休め程度だが。

 このスソの部分を両手でそれぞれつかむことで壁が作れる」



 カガミの袖にも同じものがついていて、それをカエデに見せた。

 なるほどとカエデはオレンジの石をそのポケットに詰めた。

 まるで最初からそういう仕様になってたんじゃないかというほどのポケットの仕上がり。

 カエデは言った。



「カガミさん、もしかして、裁縫系の能力あるんですか?」



「……どうだろな?

 私には似合わんと思うけどな」



「そんなことないでしょ」



「そっか?

 そっかな」



 二人の関係は、先にこの場所に来た村長側と後から来た少女側。

 経験値としての先輩後輩はある。

 しかし、実際、年齢差はさほどないようだった。



「そいじゃ、出るか」



 カガミがそう言うと、カエデが聞いた。



「どうします?

 バギーで走ってみますか?」



「ああ、オレンジの壁でガード作って、それで走り回る。

 二台。

 私とカエデで。

 片方に何かあって、もしも駄目だと思ったら、絶対助けるな。

 情報を絶対に村に持ち帰るんだ。

 私もそうするからな。

 恨むなよ」



「ははは!

 わかりましたよ!!」



 カエデはスッと真剣な表情をした。

 絶対に二人で帰って見せるという意思を胸に。



   *


 

 村の中央、広場。

 スズハは空を見上げた。

 オレンジ色の薄いカーテンのような壁に切り取られた円形の夜空。

 月はなく、星が点々とある。

 村の明かりでかすめて見えるそれらをぼんやりと見上げていた。

 本能なのか、未知なるものへの恐怖なのか。

 スズハは必要以上に手をぎゅっと握り、震えをごまかそうとしていた。

 スズハには不思議と生への執着のようなものが強くあった。

 それがいかなる経験からくるものなのか思い出せはしない。

 どうして記憶がないのかという焦りすら浮かばないのはこの場所のせいなのか。

 


「スー。

 どうした?

 遊びたいのか?」



 ララミィがスズハに話しかけた。

 スズハはハッとして、周りを見た。

 ララミィ、ナナル、ミラン、サクラコが心配そうにスズハを見ていた。

 スズハは、



「ううん!

 違うよ、ララミィ!

 ちょっと星を見てたの!

 大丈夫!

 大丈夫だよ!

 皆ね!」



 無理にでも笑うスズハに合わせるように、皆が笑顔を作った。

 ナナルが言った。



「……もしかしてだけど。

 スズ、今回は上からは大丈夫だと思うわ。

 時間的にその黒ウサギがそれをやろうとしていたら、とっくに来てるはずだから」



 それとは、その黒ウサギがそのバネのような機能を使用して、高いオレンジの壁を乗り越えてくる方法のことであった。

 スズハはそこまで考えていたわけではないが、無意識にそういうことを危惧していたのかもしれない。

 スズハは言われて、そう思った。

 そして、落ち着いて話すナナルの声に少し緊張が解けたような気もした。

 ナナルはといえば、そう話すことによって自らの冷静さを認識し、手の震えを抑えつけたのだった。

 ナナルは更に広く、周りを見渡した。

 周りには、他のグループの討伐志願者も待機している。

 皆、カガミとカエデの帰りを待っていた。

 おそらく。

 ナナルは予想した。

 このまま何もなければ、今日は一旦解散となる。

 作戦を考える時間もあれば無駄に人を失わずに済む。

 何より、昼間のほうが黒ウサギと戦うなら絶対的に有利なのだから。

 だが、そうはならないような気がした。

 そう感じているのはナナルだけではないようだ。

 スズハや、他のグループの少女たちの何人か。

 今に戦いが始まっても対応できるような雰囲気を漂わせていた。

 もちろん、歴戦の勇者なんていう面持ちではない。

 それは、死への対抗心のような。

 まるで、一度は死んでしまった者の、二度めはごめんだといわんばかりの。

 それは思考が先走りすぎかとナナルは深呼吸を一度した。 



   *



 時、場所同じくして。

 エリナもまた、同様な精神状態でいた。

 柄にもなく、マユルと無駄話を多くした。

 マユルもそれを察してか、いつもより多く話した。

 エリナは、



「マユ、元の世界に戻れたら、どっか行きたいわね。

 どこでもいいけど、どっか」



「エリリン、それ、チョベリグ!

 もうね、皆で遊びまわりたいわ!」



「ちょべ?

 ……まぁ、そのためにも、死ぬんじゃないわよ。

 特にマユの能力は、帰るために絶対必要になるんだから」



「あら、エリー。

 愛の告白?

 んもー嬉しい!

 チュッチュ!」



「ああ、もう!

 その無駄にくっつこうとするノリはなんだかむっかつくのよ!!

 やめろ、こら!」



   *



 同、マツリグループ。

 マツリグループはマツリ一人の参加。

 マツリは他のグループに混ざっておしゃべりするほどフランクな性格をしていない。

 よって所在なさげであった。

 が、同様にカエデが先遣要因のためにぼっちになっていたエミリーに目をつけられた。



「マツリ!

 ワッショイワッショイ!」



「ああ?!

 喧嘩うってんですか?!」



「ノー!

 ノー!

 ジンルイ、ミナトモダチ!

 マツリモ、エミリーモ、フレンドデス!

 OK?」



「OKではない」



「オウ!

 ワカリマシタ……。

 イエス、トイウコトデスネ!」



「だああ!

 イエスでもないわ!

 なんだ、この人!

 日本語、実はペラペラだろ!!」



「ペロペロ?」



「この!

 舐めてんのか!!」



 言って、マツリは自分の発言がくだらないダジャレのようになってるのに気づき、無性に悔しい気持ちになった。

 エミリーは更に勢いを増し、



「オウ!!

 ジャパニーズジョーク!!

 ダジャレ!!!

 ヤリマスネ!

 マツリ!!」



「ああ、もううっさい!

 うっさい!」



 と、このようにじゃれあっていた(?)



   *



 同、ミナコグループ。

 ミナコはグループの空気が良くないことを感じていた。

 だからこそ、ミナコは喜んだ。

 みんなが仲良しという考えはミナコには毛頭ない。

 むしろ、上下関係、敵味方があったほうが御しやすい。

 上の者にはその位を維持するために自分に依存させる。

 下の者には認めてあげることで自分に依存させる。

 敵味方に分かれれば武器や知恵を融通する。

 ミナコはそうやって、自分にとって安全な場所を築くことに何の迷いもなかった。

 仮に、ミナコと敵をなす者がいれば、自ら戦わず人を遣り、その上でその敵の弱みに付け込む。

 そう、今、このグループでいうと。

 ミナコはアンリに微笑みかけた。

 アンリはそれに気づき、嬉しそうに笑顔を作る。

 ミナコはその視界の外に別の少女を捉えていた。

 タツコである。

 タツコは平静に装っているつもりだろうが、そういう空気に特に敏感なミナコにはバレバレだった。

 今にもチャンスがあれば、タツコはミナコを刺し殺す。

 そんな目をタツコは隠せていない。

 何故、何が原因で。

 それはわからない。

 正直、ミナコはそんなことどうでもよい。

 そうなった以上、それを利用するのだ。

 ミナコはそんな思考を脳裏に泳がせながら、



「大丈夫よ、みんな。

 ここには、強い人がたくさんいるわ。

 役に立てないと思ったら、みんなで辞退しましょう。

 私たちには私たちにしかやれないこともあるのだから。

 ね」



 アンリもミハルも、もはやミナコの信者であるかのように賛同するばかりだ。

 ルキはそこまでではないものの、1メンバーとして、同意をした。

 タツコも一見同意したようにグループの輪に入っているが、一度だって、ミナコの発言を肯定していない。

 アンリとミハルは内心ではルキとタツコを下の者と思っている。

 特に反抗せず、言われたことに従うルキを最下位の者。

 タツコは先の反抗が警戒心を招いており、それが逆にアンリとミハルの絆を強めた。

 また、それによって、アンリとミハルはさらにミナコに対して依存を強めていた。

 ルキもまた、そんな自分の地位をわかっていながら、事なかれ主義なのだろう特にそんな地位を変えようとはしていない。

 タツコも同様に自分の地位をわかっている。

 が、少し前にミハルがミナコにこっそりと石回収時にエリナとルキが接触したこと、そして、それをミナコに伝えるようタツコが工作のような言い方をしたことを告げられていた。

 チャンス。

 ミナコはタツコがチャンスを窺っていることを察していた。

 でなければ、なりふり構わず、その故の知らぬ怒りをミナコにぶつけていることだろう。

 おそらくは。

 おそらくは、この場所が一因か。

 この特別な場所で人を死なせるためには黒ウサギしかない。

 ならば、タツコにとって、チャンスはそこにしかない。

 この討伐中、タツコは絶対にミナコを黒ウサギに食わせようと、ナニカをしようとする。

 ミナコは少し笑ってしまった。

 その笑いにグループの皆が少し驚いていたが、ミナコは完ぺきな平静の様相で、



「ううん、思えば本当におかしな場所に来たものだわ」



 と、胡麻化した。

 

  

アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。

誤字、脱字は随時修正していくぜ。

特に見ても面白いことはやりませんが、Twitter、チャンネル登録もよろしくだぜ。

リンク貼っていいかわからないので、興味がある方は検索してみてだぜ。

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