5-3:闘う者は
5-3:闘う者は
カエデは考えていた。
家の中で腕を組み、あぐらを組み、グループの皆が話し合ってる中で自分の思考の中にいた。
もしかしたら、もしかしたらと。
午前に森に向かって石を投げたアレが原因か? と。
アレを見ていた黒ウサギがいて、学んだとしたら……。
仮にそうだとしたら、カザキの命が奪われたという事実にはカエデにも責任がいくらかでてくる。
ノリでの行いだったとはいえ。
予想を超えたことだったとはいえ。
最初にやり始めたのはカエデであるし。
それが確実にカエデのせいかもわからない。
それでも。
カエデはこの問題を自分の手で解決しなければ気が済まなくなっていた。
グループの他の皆も、その可能性は脳裏にあったのだろう。
だけれど、誰もそれを口にしなかった。
責任を負うのが怖ろしかったカナメ。
責任を負うのが面倒であったスミレ。
エミリーは責任という考えはなかった。
エミリーは確実に自分の責任だったら、その罪を償うが、それは自分たちのせいかはわからない。
だから。
エミリーはカエデが動くなら、共に動くという考えにいた。
そんなグループで話し合った結果。
カエデグループからは、討伐隊にカエデ、エミリー。
そして、能力として武器類を生成できるカナメは補助として呼ばれれば呼応することとなった。
一人残るスミレだが、本人は悪びれのしなければ気にもしていない。
また、グループの誰も責める気など毛頭なかった。
カエデグループは良い意味でそれぞれが自立した精神も持ち主であった。
*
マツリグループは悲嘆がその家を支配していた。
いまだにサラは泣き崩れている。
それを慰めるようにアキもカナタも「よしよし」と肩を寄せている。
それまで、そこまでには仲がよい間柄ではなかったはずだ。
だが、カザキがいなくなったことでこのような光景にならざるをえなかったことをマツリはすこし皮肉に感じた。
その3人が座して慰めあっているのと対照的に、マツリは立って、腕を組んで何処ともなく他所を見つめていた。
マツリは、話がこのままでは進まないということに微かな苛立ちを感じつつも、これは必要な時間で無理に話を進めても余計時間をとることだろうと納得もしていた。
その上で、頭の中で可能性を考えていた。
マツリが討伐隊に加わり、上手くいくようなら、そういったグループに再編成してもらって、このグループを解散させる。
それはすぐに否定された。
マツリの能力はキャンプ用品。
役には立つだろうが、戦闘部隊に入れる能力ではない。
とてもじゃないが、ついては行けずに足手まといになるのが目に見えている。
マツリの適正は裏方。
ならば、そういうグループ側に沿うように動くことが肝要だろう。
その上で、だ。
「今回……あ、ごめんね。
気持ちはわかるけど、話を進めないと。
私がグループのリーダーになっちゃったから。
だから、聞いているだけでいいから聞いて。
今回、私たちはカザキを失いました。
だから、雪辱を晴らしたいけれども、だけども。
今回は補助をお願いされたときだけそれに応えましょう。
もしも。
もしも、討伐隊に入りたい人がいたら言って。
今のは、私の考えだから」
サラはマツリに、「ありがとう」と辛うじて言葉を発して、また泣き出した。
アキはコクンと頷き、マツリの考えに同意した意を示した。
カナタは言った。
「私、いくわ」
その返答に、マツリもアキも、そしてサラも驚いたような顔を見せた。
カナタは続けた。
「あ、単純に石がほしいのよ。
ごめんね。
いい布団で寝たいし。
そろそろ、しわだらけの制服もなんとかしたいしね。
あくまで私のため」
マツリは「そう、わかったわ」と応えた。
マツリはまた、グループから誰もいかないことにならず済んでいくらか安堵していた。
*
エリナグループでは、結論に時間はかからなかった。
エリナが聞いた。
「討伐隊に参加する人ー」
エリナは手を挙げて、参加の意思がある人は同様に手を挙げるよう求めた。
マユルが手を挙げ、それに引っ張られるようにレイリ、メアリ、ヤヤも手を挙げた。
だが、エリナは、
「うん、ありがとう!
でも、行くのは、私とマユルにしましょう!
本当は能力なしの私ひとりで行くつもりだったけど。
マユルの能力はインスタントに役に立つからね。
レイリ、メアリ、ヤヤは補助で呼ばれたらお願い。
あ、今回のは私たちがいくけど、また別の機会にはあなた達の力が必要になるからね。
もしも、参加しなくて済むことでほっとする気持ちがあるなら、その時に私に協力して。
その時はいっぱい働いてもらうわ。
だから、そのためにも石が欲しいし」
レイリが生真面目そうに聞く。
「最初から、エリナさんの中で結論出てたな。、
じゃあ、手を挙げなくてもよかったんじゃ?」
あまりに真っすぐに聞くので、エリナは吹き出し、
「そうね、そうだわ。
私ったら、まったく。
レイリ、留守はよろしくね」
と、とぼけたように答えた。
実際にはエリナは意思量のようなものを図ったのだった。
行くも行かないもどの程度自分の意志でもって決められるか。
結果、意思量が高いのはマユルのみだった。
レイリ、メアリ、ヤヤはマユルの動きを見て追従しただけで、もし、そんな者たちと共闘することになれば、初めての黒ウサギ戦の二の舞になるだろう。
とはいえ。
マユルもエリナが行くならという追従動機ではある。
そして、エリナが言ったことも嘘ではない。
元より、レイリ、メアリ、ヤヤの3人にはこれからその能力で一仕事してもらうつもりだった。
今回、汚れ仕事をエリナが代表で担うという借りを作らせることでその約束を強くしたのであった。
しかし、エリナがやられてしまったら元も子もない。
それでも、エリナには能力がない以上、これより他にチャンスを見いだせなかったのである。
*
ミナコのグループでは、少々もめていた。
と、いうのもミナコがこのように言ったからだ。
「今後のことを考えると、今、私もアンリも役目があるし、行くのは憚られるわね。
すると、ミハル、タツコ、ルキだけれども。
太陽光バッテリーができたとはいえルキの電気はまだ、必要になるし。
食料的にミハルにも残ってもらいたい。
……タツコ、行ってもらえるかしら」
あまりに残酷なことをあっさり言ったのだ。
そう、タツコには能力がないから、命の優先度が低いと。
タツコは言葉を失ったが、その表情には明らかにふざけるなといった言葉が表れていた。
アンリは自分はいかないで済むのだと涼しげな顔をしていた。
ミハルは気の毒そうな表情をタツコに送っていたが、何も言うことはなかった。
言ったのはルキだ。
「いや、さすがにそれは可哀そうじゃ」
ルキは思わず言ってしまったことに後悔した。
立場で言えば、何も言わなければ自分に火の粉がかかることはないのだから。
ミナコは、
「……そうね。
ごめんなさい、タツコ。
私がタツコだったら、そうするって考えてしまって。
本当に、ごめんなさい」
溜飲を下げた。
……のはアンリ、ミハル、ルキであった。
何はともあれ、ミナコは自分の意志を表明し、それを謝罪とともに取り下げたうえで、状況的にタツコに行かないと言いづらい場面を作ったのである。
タツコが自分の意思を示す分には、ほかの誰も両親の呵責に悩まされなくてすむ。
その時、ルキは微かに聞いた気がした。
タツコが「また……私を、そうやって……」と呟いたのを。
次に、タツコの口から出た言葉は、ミナコを驚かせた。
「違う!
……違うわ!
シャワールームだって、食事だって、結局、この村を守れないんだったら意味ないことじゃない!!
みんなで行くべきよ!
少なくとも、みんなが行かないなら、私は行かない!!」
タツコがそれほどまでに、他の者たちを敵に回してまで意思を示すとミナコは、いや、その場の誰もが想像だにしなかったことだった。
それはタツコも含めてだった。
タツコ本人がまさか、自分の口からそんな言葉が吐き出るとは思わなかった。
しかし、そこからやはり、紛糾した。
誰もいかないのは流石にまずい。
じゃあ、皆で行くか。
しかし、アンリとミハルはなるべく行きたくはなかったので、できる限りタツコが行くことで丸く収まると話を戻した。
危なかったら逃げてきていいとか、参加の意思を示すだけでいいとか、とりあえずタツコが出向くように仕向けようとした。
タツコはもう、タツコが行かないか、皆で行くかのどちらかしか受け付けなかった。
ミナコは「困ったわね」と場を眺めていた。
しかし、言葉とは裏腹にミナコがどこかそういう状況を面白がっているようにルキは感じた。
頃合いを伺っていたようにミナコが言った。
「仕方ないわね。
みんなで行きましょう。
そうするべきだったのよね、きっと、最初から。
はいはい、みんな、仲直りしましょう。
ね、危なそうだったら、みんなで辞退して帰ってきましょうよ」
ミナコのその言葉に誰も反対できなかった。
*
スズハのグループ。
スズハのグループでは、カエデ達と同様に午前中の石投げが今回の原因なんじゃないかという可能性を悩んでいた。
絶対にそうだともいえない、でも、その可能性は拭いきれない。
そんなことから、スズハは行くことを決断した。
サクラコ、ミランも同様に行くことを選択した。
可能性の話ではあるものの償いをしなくては晴れない気持ちであった。
ララミィは考え方でいくとエミリーに近いため、自分が直接した悪いこと以外は背負っていかないタイプであったが、討伐隊行きを決めた。
ララミィは何事も待つ性分ではないのだ。
ナナルは少し悩んだ。
ナナルは真面目なため、村で与えられた役目を果たさねばならぬという責任を感じていたからだ。
ナナルが仮に行かないと言っても、おそらく、このグループのメンバーは責めることはないだろう。
その午前中の石投げにナナルは不参加であったのだし。
とは言っても、だ。
ナナルの気持ちとして。
村の役目とかそんなものを放り捨てた場合の気持ちとしては、行くことを選択するだろう。
そんな思考を巡らせた上でナナルは、
「私も行くわ。
どうせ、これを解決しないとこの先はないだろうし」
ナナルの参加には皆だいぶ喜んだようだ。
これは、村全体でもいえることだが、ナナルの言動の信頼度はかなり高い。
*
そうして、それぞれのグループが話し合い、また、その後もなんとなしに時間をやり過ごすうちに、夕食の時間は訪れた。
18:00。
それぞれのグループがそれぞれに思いを抱いて、広場に集まっていった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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