5-1:報酬と急襲
5-1:報酬と急襲
東と西に分かれて回収にいっていた少女たちは昼休みとして皆、村に帰ってきた。
そして、少女たちは皆が人間のカタチから逸脱していたという事実。
それはは瞬く間に村中の少女に広まった。
ショックを受ける者が多くいた。
中には、考え方を変えれば黒ウサギにやられない限りは無敵であるという者もいた。
それでも、だからといって、どうあがくこともできない少女たちは思考を切り替えるほかなかった。
むしろ、半数以上の少女たちは、【ハートの城】を目指し、早くこの地から元のあるべき場所に帰りたいという意思が強くなった。
昼食はいまのところ、やはり、レネの生成するパン。
飲み物に関しては水と、ミハルの生成する果物によってジュースが用意された。
ジュースは前回は絞り機を使用したのだが、今回、サラがミキサーを生成し、マユルがそれを動かすためのバッテリーの生成を試みた。
結果、台車一台ほどの石を消費し、ソーラーパネルつきの巨大なバッテリーの生成に成功した。
ただ、人だけでは持ち上げられないであろう重量と大きさがあった。
生成時によほど大きくなりそうだということで、村の入り口付近で生成した。
このバッテリーによって、ルキの負担はだいぶ減ることになりそうではあったが、それでも、最初の充電はルキの能力によって行われた。
こういった、能力による成果に村は報酬を払うこととした。
それはミナコの提案もあり、村長側としてもその話し合いはすでに済んでいたため円滑に行われた。
オレンジ以外の石で望む石を20個単位で、その成果によってレベル分けをして与えられるものとした。
レベル1・人。
レベル2・村。
レベル3・攻略。
レベル1は食料など生活に必要なものの供給。
継続供給は3割報酬。
レベル2は村の生活を大きく向上させるものの供給。
その貢献度によって、更に石報酬を追加。
場合により継続供給か一括供給の希望性。
レベル3は【ハートの城】攻略への成果報酬。
とは言っても、能力によって微細の異なる報酬となる。
今回でいえば、パン供給のレネと果物供給ミハルはレベル1で今後も継続供給そいうことで6個。
ルキの電力もレベル1で20個。
今回はバッテリーフル充電で付加してさらに14個とした。
マユルのソーラーパネル付きバッテリーはレベル2として、40個とされた。
ただし、多くの石を所有していることで起こるだろう問題の不安も考慮して、報酬の石は村に預けておくことも許された。
その際、村と本人にその証として、簡単な契約書も取り交わされたが形式上のものではあった。
多くの場合、食料などは先に村から石を用意されるが、それとは別に自らの石で生成したもので成果を上げたものにはその分の石も村から与えられるものとした。
よって、先のバギーと電気、交流会でのジュースの報酬とその時に使用された石も清算し、与えられた。
マユルは一気に村の億万長者みたいになったが、そうはいっても、報酬は石だし、元の場所に持って帰って使えるかといえばきっと使えないのでうらやましがられはしなかった。
昼食と休憩をとって、午後は2時から作業開始となった。
しかし、東側はノルマをすでに午前中で達成しており、自由時間となった。
西側のスズハ、カエデ班は午前中に十分石を回収していたのだが、勝手な【石投げ】の罰として午後も追加作業となった。
そうして、なんとなしに時間は過ぎていく。
村の少女たちの多くが、そんな風に感じていた。
石を集め、生活を豊かにしながらも、次第に【ハートの城】に向けて進み、最終的には皆が無事、元の場所に帰還するのだ。
もしくはその途中に誰かこの現状から助けてくれるのだ、と。
えてして、そういうとき。
何の確証もなく、今は安全である、心配はよそにある、そういう意識が大半を占めてしまったときに。
災いや脅威は、密かに研いでいた牙をその獲物に示すのである。
それは東側で起こった。
まだ昼間の陽の光が明るい時間。
午前中にノルマの終わった、東側のマツリグループ。
そのメンバーのカザキとサラは暇を持て余しながらも東側海岸で遊んでいた。
カザキが言った。
「はー、いいなぁ。
私はプラスティックのものくらいしか上手く作れないしなぁ。
私もなんかおっきなもの作ってみたいなぁ」
サラは応える。
「カザっちはいいよ。
私なんか、電化製品よ?
電気なしだとゴミよ?」
「サラちゃん、そんでも電気さえあれば役に立つもの作れんじゃん!
その電気も今じゃあるしさ!
私なんか、うえええーん」
「カザっち!
別にそんな大差ないから!
私もカザっちもちょっと生活の役にたつものぐらいしかできないんだし!
だいたいそんなこと言ったら能力のない人だっているんだから!」
「うっうっう……うええん。
そうだねぇ。
まぁ、じゃ、気を取り直して、遊ぶかぁ!」
「うわ、気分のかわりの激しいやつ!!!
まいっか!
あ、じゃあさ、どうせだし、なんか作ってみる?
超でっかいペットボトルロケットとかどうよ?」
「あ、やっちゃう?
あ、そうだ!
なら、ボートでもいいんじゃない!
この海岸線回っていったら案外、【ハートの城】にすぐつけんじゃん?」
「あ、それナイス!
じゃあ……」
なんてことない、他愛ない会話。
その刹那だった。
その時起こったことは一瞬、サラにはわからなかった。
わかったのはそれが終わったすぐ後のこと。
二人のいた海岸から森まで1キロ以上は離れていた。
その距離を。
それは黒く大きな塊だった。
軽自動車ほどの黒い塊。
それが、ゴムで打ち出されたパチンコ玉を思わせるような勢いで。
瞬きほどの一瞬。
森から射出されたソレは日の光に表面をボロボロと削られながらその大きな掌を開き。
カザキを掴んだ。
掴んだと同時、というよりも、森からソレが出たのと、掴んだのと、そして、森に引き込むのはほぼ同時の出来事だった。
カザキを掴んだソレには森へと、太く黒い腕のようなものがつながっていた。
それが反動で戻るゴムのように森にソレを引き寄せたようだった。
カザキの悲鳴すら上がらなかった。
残されたサラは茫然と森の方を見た。
黒い石の跡が森まで続いている。
カサキの声は今もってなお聞こえない。
まるで初めから、いなかったかのようだ。
サラはやっと小さく声を漏らした。
「ひ」
自分は絶叫するかと思ったサラ。
しかし、体が先に走り出していた。
村に戻る。
戻らねば。
村までは300mも離れていない。
それでも、やはり海岸。
砂場というのは実に走りにくい。
そうこうしているうちにまた、アレがくるかもしれない。
アレがもう一回、アレがあの速度で来たら確実に逃げられない。
サラはただ、走ることしかできなかった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
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