3-1:みずのうみ
3-1:みずのうみ
少し、緊張感が失われ過ぎている。
そう感じたのは、ナナルであった。
黒ウサギとの闘いが嘘のように、今では皆がどこかピクニック気分でいる。
ナナルが周りを見渡すと、完全にリラックスしている者もいれば、ナナル同様に緊張の中にいる者も見て取れた。
西側グループが村を出て20分もしていないくらいである。
一人で運ぶ用の小さな4輪台車。
砂場でも運びやすいよう、埋もれない軽い材質で出来ているようだが、一度にたくさん運ぶ耐久性はあまりないように見えた。
それを1グループにつき2台。
運んでいるのは、スズハグループからはナナル、ミラン。
ナナルはミランに声をかけた。
「ミランちゃん、こういうのは大丈夫そう?
私はどっちかというと体力ないのよね」
「うーん、どうだろ?
私は石を拾うのよりは体力使わないと思って、やるって言っちゃったんだけど。
ナナルちゃん、たぶん、これ腕で押すより、おなかに取っ手のバーをあてて全身で押すと少し楽かもよ」
「あ、ほんとだ。
これは全然ちがうわ!」
「はは、でしょ?」
カエデグループからはエミリー、カナメ。
エミリーはナナルとミランの会話を見て、
「ナルホド、コウスルトイージー。
カナメ! カナメ! ミタマエ!」
「エミリーさん、わかった、わかったから。
元気だなー、この人ぉ」
台車に盛れるだけ石を積み、あとの石は自分の持ち分にしてよいらしい。
ただし、オレンジの石は優先して台車に積むこととなっている。
台車係は袋が渡され、台車から袋分の石(オレンジ以外)を最後に取り分にして良いことになっている。
これだけの装備と村の家の数から見るに、以前はもっと村人がいたんだろうなと思ったのは、スズハだった。
ふと、誰ともなく気づいた。
空にはまぶしい太陽が見え、雲もいくつか浮かんでいる。
季節の頃は夏に近いのか、それとも今いる島(?)の位置のせいなのか、空の青さは濃い。
その割には暑くないのである。
もちろん、汗もかいているし、たまに吹く風も考慮している。
それにしても、暑くない。
それは感覚的な不一致で、だから、どうということはない。
それだけのことであった。
すると、少女たちの感覚的なものに話題が及んだ。
海岸なのに、潮の匂いがしないとか。
そういえば昨日から風呂にも入っていないのに体が臭くないだとか。
しかし、何故かという疑問ばかりがでて、答えは出てこない。
不毛感から、結局、適当な雑談に移ろいゆくのだった。
カガミはその様子を見ながら、いっさい聞かれても自分もわからないと答えていた。
そうこうしているうちに、昨夜の黒ウサギたちに襲われていたポイント。
スズハたちが自分たちでオレンジの塔を築いた場所までたどり着いた。
カガミは全体に聞こえるように大きな声で言った。
「このオレンジの塔を中心として石を回収するよ!
あと、一度使ったオレンジの石は残りの使用期間がわからないために持ち帰らない!
この壁を作っているオレンジの石はこのままで!
そのうち、砂になって消えるから!
まず、見てくれ。
この壁の周り。
異様に石が落ちているのがわかるだろ。
これが昨日の黒ウサギの残骸だ。
あれから6時間が経って、日の光で黒い石が浄化されたみたいになって、こんな風にいろんな石に変化するんだ。
あ、オレンジの石を拾うときには両手で1つずつ持たないこと!
壁が発生しちゃうからね!
よし、それじゃ、開始!!
……体調悪いとかあったらすぐに言ってね!」
皆、石拾いを始めた。
台車係は拾う係のもとを台車を運んで周っていく。
拾う係には、砂を逃がすための隙間の空いた小さなスコップが握られており、台車がくるまで近場の一点に放るように石を集めていた。
スズハの後ろをくっつきながら石を拾っていたララミィがおもむろに、
「のどかわいた」
それは伝染するよう少女たちに広まった。
何故に今までそうは思わなかったのか、昨夜から口にしたのは説明会の時のパンだけで水分を全くとっていなかった。
そう思うと途端、皆、水分が欲しくなり始めた。
カガミは視線に迫られ、
「……やれやれ、まぁ、いいか。
おい!
喉乾いたなら、今は騙されたと思って海の水飲め!
大丈夫、塩水じゃないから」
「ふざけんな!」、そう叫んだのはカエデだった。
叫ばないまでも、流石に他の少女たちも海の水を飲むことは躊躇われた。
ララミィはそんな空気も壊すように海に突っ込んでいった。
「ハハハハ!
のめるのかー!」
小さな両手いっぱいに海の水を汲み、ララミィはいっきに飲んだ。
スズハが止めようとするより早い一瞬の出来事だった。
少女たちが「どうなの?」というような面持ちでララミィを見る。
すぐにララミィは次の一杯を汲み飲んだ。
それがどのような意味なのか、明らかであった。
少女たちは皆石集めを放棄し、靴と靴下を脱ぎ捨て、海に入っていった。
スズハはカガミをちらと見る。
カガミも気づいたようで、苦笑いしながら、「いいよ、行った行った」という風に手ぶりをした。
スズハは靴と靴下を脱ぎ、ララミィのもとによる。
一心不乱に水を飲むララミィ。
恐る恐る、スズハも海の水を両手で汲み、舌をつけた。
塩の味はしない。
飲んでみた。
紛れもなく、ただの水であった。
「ララミィ。
あまり飲むとお腹こわすわよ?」
ナナルが後ろから声をかけてきた。
ララミィは「だいじょーぶ」と言って、言いつつも水を飲むのは止め、パシャパシャと水辺を走り、遊び始めた。
スズハはすくった水を不思議そうに見ながら、
「不思議だね。
ほんとにただの水って感じ。
ここ、大きな川ってわけでもないよね。
いや、川でも……」
ナナルは「そうね、不思議ね」と返したが、心の中では一つのアイデアが浮かんでいた。
(二つ考えられるかもしれない。
一つは本当に私たちの知らない別世界に来てしまっている。
もう一つは……ここは死後の世界。
私たちは……みんな、すでに死んでしまっている)
ナナルは周りを見渡す。たまたまカエデと目が合った。
カエデはナナルのほうに近寄ってきた。
「なんだっけ?
ごめん、名前はわかんないけど。
メガネのあんた」
「あ、染谷 七流。
ナナルのほうで読んで。
カエデさんだったわね」
「お、ナナルね。
ナナルは頭よさそうだから聞くけど、今の状況どう思ってる?」
「別によくはないけど。
そうね。
……わざわざ、聞いてきたのだから、カエデさんと同じこと思ってると思うわ」
「うへ、そんな言い回しするのは卑怯だ!
あと、さんづけもやめようやぁ!」
「ふふ、でも、変に周りの子を動揺させたくないわ。
……でしょ? カエデ?」
「むーん、まぁ、そうな。
……やっぱ、ナナルは賢そうだ。
今後も頼らせてもらうよ
……ん?
何?」
ナナルとカエデの会話を横からじーっと見ていたスズハ。
その視線にカエデが気づいたのだった。
「私、スズハ!
よろしく、カエデちゃん!!」
「お!?
おお、スズハな。
スズハは確かあの黒いのに襲われたとき、めっちゃ動いてたよな。
今、ここにこうやって私たちがいるのはスズハのおかげだと思うわ。
あんがとな」
「ええ!?
そんなことはないよ!!
カエデちゃんもオレンジの石集めるの手伝ってくれてたし!!
みんなでなんとかなったんだよ!?」
「ほう、あんなかで私んこと見えてたんか。
はは、スズハにも期待してるよ」
カエデはそう言って、砂浜のほうに作業をしに戻っていった。
スズハは嬉しそうに見送ると、
「ナナちゃん、さっきのどういう意味?」
と、聞いてきた。
ナナルは悩んだ様子をし、
「そうね。もう少ししたら話すわ。
みんなが驚いて混乱してしまうと大変だから」
「はー、へー、秘密なんだ、そうなんだー」
「ちょっと?!
スズ?!
何、その目は!」
「ひーみつ、ひみつー!
わたしにはひーみつー!」
「ああ、もう!
違うのよー!」
いじけているスズハと、それを追うナナル。
ほかの少女たちもまだ海辺で遊んでいた。
だが、先に作業に戻っていたカエデに気づき、そんな少女たちもだんだんと作業に戻っていった。
スズハグループのミランとサクラコはそれまでまだ距離のある仲だったが、この水遊びで少し仲良くなっていた。
カエデグループのスミレが、作業中のカガミに背後から話しかけた。
「カーガミ先輩!」
「お、なんだ?
バニーガール。
何か質問か?」
「スミレって呼んでください。
……自分用に持ち帰るのにオススメの石選びとかありますか?」
「あ?
んん、そうだな。
よし。
おい、みんな作業ストップ!!
聞いてくれ」
「ああ、私だけに教えてくれればいいのにぃ」
スミレのブーイングをよそに、カガミは続けた。
「一応、目安までに、自分用に持って帰る石の選び方というかヒントみたいなの言っておく。
黒ウサギ用に蓄えたいなら、攻撃用の赤と増幅用の紫。
黄色は慣れるまで時間がいるし、青は1個で固められるのが1体なのはわりと効率が悪い。
赤は増幅なしでもうまく巻き込めば数体倒せるからな。
あと、緑はあると便利だが優先度でいえば低い。
大抵、やられると一発で終わりだからな。
で、次。
生活用な。
これは、本人の才能もあるから絶対ではない。
食物を生成するのには赤。
物……特に小さな道具の類だな。
今使っているスコップや台車とかな。
それらは黄色。
逆に大きなもの。
家とか柵、壁とかな。
それらは青。
紫は補助剤でやはり増幅として作用する。
例えば、才能のない人でも紫をかませればいくらかおいしいパンが作れるし、才能のある奴なら量や質などが上昇する。
物でいうなら、量とか耐久性とか。
そんなところかな」
カガミの話を終えて、少女たちは再び回収を始めた。
大体のことは話したかなと、カガミはつぶやいた。
カガミは今頃、もう一方のグループも同じ話をしてるだろうと思いつつ、
(まぁ、まだ全部話すわけにはいかないよな。)
と、右手で赤い石を二つばかり転がしながら思った。
そうして時間は石の回収を始めてから2時間ばかし経った。
おおむね台車はいっぱいになったし、少女たちのポケットも十分膨らんでいるようだ。
そう思い、カガミは、
「よし、帰るよ!
後でまた言うけど、次回から回収は自分たちで考えてグループごとで基本やってもらう。
回収方法は今と同じようにやってもいいし各自工夫してもよい。
今日と同じくらいの石を1グループで毎日2台分。
まぁ、そこまで厳格なルールではないが、なるべく頑張ってほしい!
ただ、村に危険をもたらしかねない方法はNGだ。
わかったね!
まぁ、またハナが夜に言うとは思う。
それでは、撤収!
台車倒さないようにグループで補助しあってな!」
そうして、石回収の講習は終わり、少女たちは村へと帰っていった。
アイザック・ゴーマの小説挑戦作だぜ。
誤字、脱字は随時修正していくぜ。
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