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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第四章 再開するおばさん編
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あるある096 「人助けをしがち」

翌朝、シンポス地下神殿へ向けた旅の準備を終える。

サラハル砂漠を越えるための馬車をレンタルし、1週間分の食料と水を確保した。

もちろん気晴らしに飲む酒も忘れてはいない。

連れて行く仲間だが俺とエレンとセリーヌとトイプーに決めた。

シーボルトは相変わらず落ち込んでいるし、船乗りのマシューを連れて行っても足手まといになるだけだから留守を頼んだ。


「それじゃあマシュー。シーボルトのことは任せたぞ」

「わかりました。気をつけて行ってきてください」


俺達はマシューに見送られながらゴートスの街を後にした。

シーボルトのことは気になるが今の俺達には何も出来ない。

無理に旅に連れて行くよりもゴートスの街で休息をしてくれていた方が気晴らしになるだろう。

滞在費は多めに渡しておいたから、遊んで暮らしていても十分だ。

まあ、真面目なマシューがいっしょならばそんなにハメを外すこともないはずだが。


ゴートスの街を出るとすぐに目に入って来たのは広大なサラハル砂漠。

赤茶けたサラサラの砂に覆われていて地平線がはっきりとわかる。

空は青々としていて雲一つなく、ギラギラ太陽が照りつけている。

サラハル砂漠は年々拡大しているようで、あと僅かでゴートスの街を覆い尽すらしい。

それほどまでにサラハル砂漠はゴートスの街まで接近していた。


「蒸してるな……」

「海が近いからですわ」


出発して5分も経たないと言うのにすでに暑さで体力が奪われている。

これまでにも砂漠地帯は越えて来たがサラハル砂漠の暑さは尋常じゃない。

もともと温暖な地域だけに平均気温が高いためで自ずとサラハル砂漠も暑くなる。

草木もひとつも生えておらず「死の砂漠」と言う名が相応しい光景だ。

俺は馬車の日陰に隠れて照りつける太陽の日差しを回避した。


「こんなのじゃサラハル砂漠を越える前に干上がってしまうな」

「水も限られていますから節約しませんとね」

「トイプーもお疲れのようだな」


見るとトイプーもぐったりして荷台に寝ころんでいた。

さすがの犬でも、この暑さには耐えられないのだろう。

体を覆っている体毛が熱を籠らせているようだった。


「しかし、1000年前はここで戦争が起こっていたんだろう。どうやってこの暑さを凌いでいたんだ」

「1000年前はもっと涼しかったのかもしれないぞ」


エレンの言うこともあながち外れてはいない。

気候変動はこの世界で起こっている。

雨が降らない砂漠地帯に雨が降ったり、日照りが続いて干ばつになったり。

毎年のように気象に関する被害情報は流れて来る。

だから、どの国も気候変動に対する対策を講じているのだ。


「セリーヌ。代わってくれ。暑さでダウンしそうだ」


エレンは直射日光を遮るために外套を纏っているが、それが余計に熱を溜めていたようだ。

荷台へ移るなり外套を肌蹴て手団扇で風を送って涼む。

しかし、気休め程度にしかならず、トイプーと同じようにぐったりと横になった。

馬車の運転は短い時間で交代交代にやった方がよさそうだ。

でないと暑さでダウンしてしまうだろう。


「カイトさん。移動は夜にしませんか?この暑さではみんな参ってしまいます」

「しかし、夜の方が危険じゃないか?視界は遮られるし、モンスターが近づいて来てもわからないぞ」

「それはそうですけれど、この暑さの方が命に危険が及びます」


セリーヌもすでに汗だくになっていて顔を赤く火照らせていた。

しかし、休むと言っても日陰のないサラハル砂漠では炎天下から逃れられないだろう。

ひとところに佇んでいるよりも僅かでも前に進んだ方が危険を少なく出来るように思える。

あいにく今は海からだいぶ離れているので暑さもカラッとした暑さに変わっている。

風さえ吹いてくれればだいぶましなのだけれど。


「セリーヌ。今は少しでも前に進むことを優先させるんだ。オアシスを見つけたらそこで休憩をとろう」

「わかりましたわ。カイトさんも交代してくださいね」


セリーヌは縋るような目で俺を見つめると運転出来ない俺に催促して来る。

確かにこの状況でエレンとセリーヌにだけ運転を任せるのは気が引ける。

俺は一番若いし、男だ。

やる時はやるってところを見せないとリーダーとしての貫禄もなくなるだろう。

俺はセリーヌと交代をして馬車を前に進めた。





ゴートスの街を出てから2時間ぐらい経っただろうか。

空を見上げると太陽が頂点に達しようとしていた。

この時刻になるとサラハル砂漠はさらに暑さを増して来る。

地獄を思わせるような暑さで滴る水も瞬時に蒸発してしまうくらい。

交代交代で運転を変わっていた俺達だったがさすがに体力の限界を迎えていた。

トイプーに至ってはピクリとも動かずに死んだようにぐったりとしている。

それは俺達も同じで動くことさえままならないぐらい追い込まれていた。


「カイトさん、もう限界です」

「しばらくここで休もう」


頭がぽーとして来て意識もまばらになって来る。

セリーヌもエレンも顔を真っ赤にさせながらぐったりと倒れていた。

積んであった水で喉の渇きは潤せるが暑さはどうしようもない。

せめてここにアンナでもいてくれれば水の魔法で涼をとることが出来たのに――。

そんなことを考えながら俺は荷台に仰向けに倒れ込んだ。

起き上がる力が湧いてこないほど体力が消耗している。

このままここにいたら間違いなく干上がってしまうだろう。

すると、トイプーの耳が何かを聞きつけてピクリと動いた。


「どうした、トイプー?」

「クーン」


トイプーはおもむろに立ち上がって音のした方を見やる。

耳を音のする方向へ向けながら遠くから聞える音に耳を澄ませる。

そして鼻をヒクヒクさせながら馬車から飛び出すと催促するように吠えた。


「トイプー、モンスターか?」

「ワン!ワン!」


馬車の荷台から顔を覗かせて辺りを見回してみるがモンスターらしき姿は見えない。

だだっ広い砂漠が遠くまで広がっているだけだった。

トイプーの奴、暑さで頭がやられてしまったのだろうか。

それでもトイプーは吠えることを止めずに俺に何かを知らせているようだった。


「おい、トイプー。そんなに吠えているとすぐにダウンするぞ」

「ワンワン!ワンワン!」

「どうしたんですか、カイトさん?」

「トイプーが吠えるのを止めないんだ」


セリーヌはぐったりとしながら体を起こすと馬車の荷台から顔を覗かせる。

その顔には疲れが滲み出ていて今にも倒れてしまいそうな様子だった。

それでも腰を入れて踏ん張るとトイプーに優しく語りかける。


「トイプーちゃん。何かあったのですか?」

「ワンワン!ワンワン!」

「何かあったみたいですね」


すると、トイプーがいきなり駆け出して音のする方向へ向かった。

俺とセリーヌも後を追ってトイプーの所まで駆け寄って行く。

トイプーは小高い砂丘の上まで来ると見下ろしながら頻りに俺達を呼んでいた。


「トイプー、そこに何があるんだ?」

「ワンワン!」


沈み込む足を前に踏み出しながら砂丘まで登ると下を見下ろす。

そこに目に入ったのは砂漠の上でもがいているゴウ達、ソウル・ベルの面々だった。

ゴウ達は頻りに体を動かしながら、そこから逃れようとしている。

しかし、見る限りでは罠らしきものは見えず、ただ宙でゴウ達がもがいているだけ。

俺は砂丘を滑り降りてゴウ達の所へ駆け寄る。


「おい、お前ら。こんな所で何をやっているんだ?」

「カイトか。こっちへ来るな!お前も捕まるぞ!」

「捕まるって何にだよ……」


俺がそう呟いて一歩踏み出そうとした時、セリーヌが俺の肩を掴んで止めた。


「カイトさん。見てください、これを」


セリーヌは真剣な顔をしながら俺の足元に屈んで何かを指でつまむ。

その指先を見ると太陽の光に輝いて透明な糸のようなものが見てとれた。

透明な糸は少し粘り気があって体にくっつくようになっている。

太さは5㎜ぐらいありちょっとやそっとでは切れそうにない。

俺はその場から離れるとゴウに呼びかけた。


「おい、ゴウ。これは何だ?」

「こいつはサンドバイパーの巣だ!近くにサンドバイパーがいるかもしれない。気をつけろ!」


ゴウは体に絡みつく糸に苦戦しながらも俺に警戒するように伝えて来る。

人のことを心配しているほど余裕がないくせにリーダー風を吹かせるな。

素直に助けてくださいと言えば助けてやるのに。

俺は辺りを警戒しながら見回してみるがサンドバイパーの姿はない。


「ゴウ。今から助けてやる。そこでじっとしていろ」

「俺達のことは後でいい。それよりサンドバイパーを見つけてくれ!近くに潜んでいるはずだ!」


サンドバイパーはサラハル砂漠に生息しているモンスターのひとつ。

全長が3メートルほどある巨大な蜘蛛のモンスターだ。

全身が砂色で覆われているため砂漠で発見することが難しい。

普通の蜘蛛は枝葉に蜘蛛の巣を張るものだがサンドバイパーは砂の上に巣を張る。

そして砂の下で身を潜めながら罠にかかる獲物を待つのだ。


「ゴウ達が罠にかかったのなら、近くにサンドバイパーがいることに間違いない。セリーヌ、エレンを呼んで来てくれ」

「わかりましたわ。カイトさん、けっして無理はしないでください」


セリーヌは俺の身を案じてから来た道を引き返して行く。

その背中を見送りながら俺は小剣を引き抜いた。


「トイプー。サンドバイパーの居場所を突き止めてくれ」

「ワン!」


俺の指示に従いトイプーは頻りに鼻をヒクヒクさせながら辺りを調べはじめる。

蜘蛛の巣に引っかからないようにうまく回避しながら周囲を歩きまわる。

そして10メートルほど東に行った場所で立ち止まりワンワンと吠えた。


「そこにサンドバイパーがいるんだな?」

「ワン!」

「よし、トイプー。そこから離れるんだ」


俺の呼びかけに応えてトイプーが後を向いたところを狙ってサンドバイパーが姿を現した。

砂を巻き上げながら勢いよく飛び出すと大きな口でトイプーに食らいつく。

トイプーは必死にもがくがサンドバイパーの顎はトイプーを離さずに砂の中に引きずり込んで行く。

見かねた俺は小剣を掲げながら勢いよく飛び出した。


「この野郎、トイプーを離しやがれ!」


すると、サンドバイパーはすぐに反応してトイプーを離すと口から粘液を吐き出す。

寸の所で粘液をかわしてからトイプーを抱いてサンドバイパーから距離をとる。

吐き出された粘液は白い煙を上げながらじわじわと砂を溶かして行く。


「あんなのを食らったらひとたまりもないぞ」


肉は爛れて骨は溶かされて跡形もなくなるだろう。

それほどまでに強力な酸性を持っている粘液を吐き出すなんて、どれだけ強いんだ。

これじゃあおいそれと近づくことは出来ない。

俺はトイプーを地面に置くと小剣を構えながら作戦を考える。

と、そこへゴウからのアドバイスが飛んだ。


「カイト。サンドバイパーの視覚はない。糸の気配を感じとって獲物の位置を把握しているんだ。だから、糸にさえ捕まらなければ戦いようがある」

「そうか。それはいいことを聞いたぜ」


しかし、サンドバイパーはすでに巣の真ん中まで移動している。

ここから巣に引っかからずに近づくことはほぼできない。

間接攻撃が出来ない今、セリーヌの『アシットレイン』でサンドバイパーの糸を溶かすことが効果的だ。

『アシットレイン』は酸の雨を降らせて防御力を落とす魔法だけれど物を溶かすこともできる。

魔法の特性を十分に生かした戦い方だ。

その後で俺とエレンでとどめを刺す戦術だ。

先手を取られなければこの作戦は成功する。

俺はセリーヌが戻るとすぐさま指示を出した。


「セリーヌ。『アシットレイン』でサンドバイパーの糸を溶かしてくれ」

「考えましたね、カイトさん。わかりましたわ」


セリーヌは両手を胸の前で組むと魔法の詠唱に入る。

その間にエレンに作戦の概要を伝えた。

エレンはまたかと言わんばかりの顔をしていたが素直に受け入れてくれた。

さすがのエレンもサンドバイパーの手強さを敏感に感じとったのだろう。

何もないところでゴウ達がもがいていることを見れば誰でも納得が出来る。

エレンもしきりに辺りを見回しながらサンドバイパーの巣の位置を確認していた。


「大地を潤す恵みの雨、今は麗しき聖水となりて、悪しきものを浄化せよ『アシットレイン!』」


セリーヌを包み込むように巨大な魔法陣が浮かび上がると空が暗黒色に染まる。

黒い雲が立ち込めて来るとひんやりとした風が辺りを駆け巡り、そして酸の雨が振り注いだ。

暴雨のごとく激しく降り注ぐ酸の雨はサンドバイパーの糸を溶かして行く。

同時にサンドバイパーの肌を爛れさせ防御力を著しく落とした。

しかし、酸の雨の犠牲になったのはサンドバイパーだけではない。

巣に引っかかっていたゴウ達も『アシットレイン』の犠牲になった。

ゴウとマークニットの鎧は溶けてしまい形をなくしている。

その一方でルミウス三世の紫色の服は溶けずにそのままだった。

それは魔法の加護を受けているからだそうである程度の魔法は弾き返せるのだと言う。


「よし、エレン。総攻撃をしかけるぞ!」

「望むところだ!」


俺とエレンは剣を掲げながらサンドバイパーに切りかかる。

『アシットレイン』のおかげでサンドバイパーの巣はズタボロになっていてその体を制していなかった。

おかげで俺とエレンの侵入を許してしまい、目前まで詰め寄られていた。

エレンは大剣の切っ先を天に向けると高く飛び上がってサンドバイパーの頭上に迫る。

そして落下の勢いを活かしながら力任せに大剣を振り下ろした。


「これでも食らいやがれ!」


エレンの大剣はサンドバイパーの頭を捉えてざくりとめり込んで行く。

すると、緑色したドロッとした血が滲み出して来て辺りを緑色に染めた。

それを確認するなり俺はサンドバイパーの横に回り込んで小剣を突き刺す。


「横ががら空きだぞ!」


俺の小剣もサンドバイパーの横腹を捉えてズブリと沈み込む。

そして勢いよく引き抜くと傷口から緑色の血が溢れ出来た。

サンドバイパーは苦しそうにもがきながら手足を振り回して俺達を遠ざける。

その度に傷口から緑色の血が飛び出して来て辺りを緑色に変えて行った。


「たいしたことのない奴だな。これじゃあ肩慣らしにもなりやしない」

「エレン。油断はするな。まだ奴は生きている」

「私がこんな奴にやられるかよ……てっ」


エレンが油断して構えを解いた時を狙ってサンドバイパーが糸を飛ばして来た。

糸はエレンの右足に絡みつきエレンの動きを封じこめる。

同時にサンドバイパーが溢れる緑色の血を気にすることもなく高速移動をして吐き出した糸をエレンの体にグルグル巻きにして行く。

さすがのエレンもサンドバイパーの反撃を予想していなかったため隙を突かれてしまった格好だ。


「野郎、まだ動けるのか」

「おい、エレン。大丈夫か?」

「大丈夫も何もこれじゃあ動けない」


エレンの意識ははっきりしているが体は繭玉のようになってしまっている。

これでは力自慢のエレンでも手も足も出せない。

力任せに動こうものなら糸でキツク締め上げられてしまうのだから。

だけど、サンドバイパーの体力の消耗も激しいようで体を大きく揺らせながら呼吸をしていた。


「カイトさん、どうしましょう?」

「エレンが捕まった以上、俺がやるしかない」


剣の切っ先をサンドバイパーに向けながら頭を高速回転させて作戦を組み立てる。

サンドバイパーは既に手負いだからこれ以上、早くは動けないだろう。

ただ気をつけなければならないのは口から吐き出す粘液と糸だ。

粘液をかけられたら体が解かされてしまうし、糸を絡ませられたらエレンの二の舞だ。

こちらの戦力は俺とセリーヌの二人だけ。

再び『アシットレイン』で糸を溶かそうものならば捕まっているゴウ達のダメージが大きくなってしまう。

ならば『シールズ』でサンドバイパーの動きを止めることが有効か。

動きの鈍くなっている今ならば『シールズ』をかわせないはず。

その後で『チャクラ』で俺の身体能力を一時的に上げてとどめをさす作戦もありだ。


「よし、セリーヌ。『シールズ』でサンドバイパーの動きを止めてくれ。その後で『チャクラ』をかけて俺の身体能力を上げるんだ!」

「『シールズ』に『チャクラ』ですね。わかりましたわ」


セリーヌはその場で両手を組んで魔法の詠唱に入る。

その動きはサンドバイパーも捉えていて今度はセリーヌに向かって攻撃を仕掛けて来た。

こういう反応から見てもサンドバイパーはある程度知力が高いことがわかる。

ただのモンスターならば能動的に反応するだけで戦略的な攻撃など出来ないのだから。

俺はセリーヌの前に立ちはだかりサンドバイパーの攻撃からセリーヌを守る。


「そう簡単にやらせるかよ!」


致命的な攻撃をあてることを目的とせず、小剣を振り回してけん制する。

それを受けてサンドバイパーは後退しながら攻めあぐねていた。

激しく動けば傷口が広がってしまうから、なるべく最小限の力で応戦をしている。

持っている力の半分も出せないでいるようだ。


「時の流れは永劫の調べ、縦横無尽の鎖となりて、かの者を封印せよ『シールズ!』」


タイミングを見てセリーヌが『シールズ』を発動させるとサンドバイパーを取り囲むように緑の鎖が伸びて来る。

危機感を感じたサンドバイパーはすぐさま反応して逃げようとするが、緑色の鎖はサンドバイパーの動きを止めるように絡みついて行った。


「よし、セリーヌ。次は『チャクラ』だ!」


魔法は基本、ひとりの者が魔法を同時発動をすることは出来ない。

ただ、魔法の種類によっては持続時間が違うので同時に発動させることも理論上では可能だ。

『シールズ』は魔法を発動させてから5分ほど効果が持続する。

だから、すぐさま別の魔法を発動させれば同時にかけたことになるのだ。

続いてセリーヌは『チャクラ』を発動させる。


「深淵の種子より芽吹きし力。流れる血潮となりて、かの者に力を与えよ『チャクラ!』」


俺の周りに無数の金色の粒子が湧き上がると俺を包み込むように取り囲んで行く。

そして体に染み込むように溶け込んで行くと俺の中の運動神経を刺激した。

溢れるような力が体の奥底から沸き上がって来る。

それは枯れることを知らない湯水のようで全身を駆け巡るように力が漲った。


「よっしゃー!これならイケるぜ。エレン、今助けてやるからな」


俺は小剣の切っ先をサンドバイパーに向けると右足を踏み出す。

その瞬間、俺の体はサンドバイパーの目の前まで移動し攻撃圏内まで入り込む。

そして勢いのまま動けないサンドバイパーに向かって小剣を振り下ろした。

鋭い一撃はサンドバイパーの胴体を捉えて真っ二つに切り裂くかのように小剣がめり込んで行く。

普通の攻撃ならば胴体の体表で止まっていただろう。

『チャクラ』で身体能力が増しているだけに一撃の強さも半端じゃない。

すぐさま小剣を引き戻して二撃目を加えるため間合いをとる。


「いい感じだ。これなら俺でもとどめをさせるぜ!」


今度は刺突を加えるべく小剣の切っ先をサンドバイパーに向ける。

動けないサンドバイパーは回避するすべもなく俺の攻撃の餌食になる。

サンドバイパーの横腹に突き刺さった小剣は柄の部分までめり込んで行く。

その切っ先はサンドバイパーの心臓を貫き、その鼓動を停止させた。

確かな手ごたえを感じてからおもむろに小剣を引き抜く。

すると、小さな傷口から緑色の血液が溢れ出した。


「ふう。終わったか」

「カイトさん、やりましたね。さすがですわ」


セリーヌは感激しながら勢いよく抱き着いて来て俺の勝利を褒め称えてくれる。

俺自身、こんな強敵をひとりで倒せるなんて自分でも信じられないくらいだ。

これもそれもセリーヌと協力して戦えたおかげだ。

俺の肩に抱き着いて回っているセリーヌを止めて目を見つめる。

そして腹の底から込み上げる喜びを笑い声に変えた。


「ハハハハ」

「キャハハハ」


俺とセリーヌは後ろに倒れ込んで空を見上げる。

俺達の勝利を称えるかのように空には雲一つなく青く染まっている。

照りつける太陽は暑いが俺達の喜びほどではなかった。


「俺達やったんだな」

「ええ、やりましたわ」

「これでまたひとつ勇者に近づいたな」

「そうですね。もうすぐです」


二人で勝利の余韻に浸っていると捕まっていたエレンが大きな声をあげた。


「おい、カイト!私達を忘れてはいないだろうな!」


あっ、すっかり忘れていた。

エレン達もいたんだな。

俺はムクリと起き上がりエレン達の方を見やる。

すると、エレンは団子状になりながら地面に転がっていた。


「とりあえずエレンは、しばらくこのままにしておこうか……」


セリーヌにゴウ達の回復を任せて俺はエレンのことろへ向かった。


「おい、カイト。早くこれを何とかしてくれ」

「どうしようかな……」

「何を考えている?」

「いや、なに。こんなにエレンが大人しいならしばらくこのままにしておうかと思ってな」


俺の心無い言葉にエレンの顔が急に青くなって行く。

そして縋るような目で俺を見つめながら助けを求めた。

どうせ起きていても酒を飲むだけだから、このまま放置しておくのもいいだろう。


「カイト。もしかして新しいプレイか?」


エレンの言葉に俺は静かに首を縦に振った。


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