あるある094 「禁断の扉を開かれがち」
3日もするとほどなく俺達の順番が回って来た。
毎日、飲み比べ勝負をしていたので酒樽は残り2つになっていた。
誰が言うまでもない。
一番飲んでいたのはセリーヌなのだけれど一度も酔いつぶれることはなかった。
セリーヌの酒豪ぶりは最強だと言うことを思い知らされた3日間だった。
シーボルトは係員の誘導にしたがいながら船を港に横付けする。
係員はわかりやすいように赤く光る誘導俸を持ちながら指示を出して来る。
赤色は光の中でも目立つ色だから、この色が用いられている。
他にスイッチを切り替えれば青くも光るのだが、それは出航する時に使う。
係員は両手を上下に動かしながらスピードを緩めるように指示を出して来た。
「よし、マシュー。エンジンを切れ。あとは惰性で進めるんだ」
「わかりました、船長」
マシューはシーボルトの指示通りエンジンのスイッチを切る。
すると、ブルンブルンとエンジン音がなり響きエンジンが回転を止めた。
船は惰性でゆっくりと動きながら港に接岸する。
それを確認するとシーボルトが碇を海に投げ込んだ。
「桟橋をかけろ!」
検閲官の指示を受けて港に集まって来た係員達がシーボルトの船に桟橋をかける。
そして、検閲官は係員達を連れて桟橋を渡り船の甲板にやって来た。
桟橋を渡り終えた係員達はすぐさま俺達を取り囲むように並ぶ。
「この国への上陸目的は何だ?」
すこし太めの体系に口ひげを生やした検閲官がシーボルトに詰め寄る。
検閲官とは思えぬような革の胸当てを纏い腰には剣を携えている。
揉め事が起こってもすぐに対応できる準備は整えているようだ。
それは他の係員達も同じで軽めの装備に小剣を腰にさしていた。
「観光だ」
「嘘をつくとためにならないぞ」
太めの検閲官は疑るような眼差しで俺達のことをジロジロと見て来る。
とりわけ目に止まったのはまたしてもエレンだったようで、その格好に疑いをかけた。
もちろん言うまでもない。
エレンには娼婦疑惑が持ち上がったのだ。
「そいつは娼婦だろう。この国では商売は自由だが娼婦は処罰の対象だ」
「私のどこを見てそう言っているんだ。どこから見ても剣士だろう」
「その格好のどこが剣士なんだ。どこからどう見ても娼婦じゃないか」
これだけ疑われるのだからエレンの格好は見直した方がいいのかもしれない。
大剣を持っていなかったら間違いなく娼婦だ。
露出度の高い服?を着てたわわな胸をさらけ出して。
どこからもなく男達が誘われて声をかけて来るのは経験積みだ。
今も係員達がエレンを見て鼻の下を伸ばしている。
それを見て太めの検閲官がわかりやすく咳払いをする。
「まあいい。この国で娼婦の商売をしたらすぐにとっ捕まえるからな」
「誰がするかよ、そんなこと」
「それでは入港料の金貨3枚を支払え」
「金貨3枚だと!いつからそんなに値上がりしたんだ。前は金貨1枚だったじゃないか?」
「最近、この国の情勢が不安定なんだ。これは国が決めたことだから素直に従え。払えないのならば入港は禁止だ」
さすがに金貨3枚は持ち合わせていない。
ただでさえ多額の借金をしているのにそんな余裕などないのだ。
俺は財布の中の銅貨を握りしめ、そして力なく放した。
「どうするんだ、カイト。金貨3枚なんてないぞ」
「仕方がない。エレン、色仕掛けを使ってあいつを落とせ」
「またか。懲りないな、カイトは」
エレンは腰を揺らせながら太めの検閲官の所へすり寄って行く。
そして色っぽく体をくねらせながらたわわな胸を押しあてて誘惑する。
「お前の好きにしていいんだぞ」
しかし、太めの検閲官は顔色ひとつ変えることなくエレンを押し返す。
「私はおばさんに興味ないんだ。誘惑をするつもりなら美少女を連れて来い。そうしたら考えてやってもいい」
太めの検閲官は口元を緩ませながらスケベそうな顔を浮かべる。
きっと目の前にはセクシーなメイド服を着た美少女が浮かんでいるのだろう。
太めのオヤジにはロリコン好きが多いと聞いてはいたがこいつもそうだとは。
これではいくらエレンが色仕掛けで迫っても無駄だ。
エレンには色気はあるが若さがない。
「わかった。この酒樽を献上する。その代りに入港させてくれ」
「そんなもの担保になる訳ないだろう。担保にするならばその船にしろ」
「俺のイエローキャットを売れと言うのか?」
シーボルトは涙目になりながら驚愕の顔を浮かべる。
そして操舵室の壁に張り付きながら頬擦りをして大切そうに撫でていた。
イエローキャットと言えばシーボルトの家族のようなものだ。
それを担保に出せと言うなんて身が切られる思いだろう。
だけど、金貨3枚を払えるだけの余裕は俺達にはない。
ここは仕方ないがシーボルトには目をつぶってもらおう。
「わかった。この船を担保にしよう。その代り上陸させてくれよ」
「マジか、カイト!この船は俺の家族なんだぞ」
「シーボルト、諦めてくれ。クエストをこなして稼いだら船は取り戻せる」
「そんなこと言ったってカイトは弱いモンスターしか狩れないじゃないか!俺の船は戻って来ないぞ」
俺に縋りつきながら涙目で訴えて来るシーボルトの言葉は的を射ている。
確かにモンスター討伐で稼ぐためにはより強いモンスターと戦う必要があるのだ。
これまでの俺の戦歴を見ても強めのモンスターと戦えるほど経験は積んでない。
だから、おのずと戦う相手は弱いモンスターになってしまうのだ。
「だからダンジョン調査のクエストにしようってシーボルトが言ったじゃないか」
「あれはうまく行けばの話で必ずしもお宝に出会えるとは限らないだろう」
「それを言ったら何もはじまらないじゃないか。これは決定事項なんだ」
泣き縋るシーボルトを押しのけて俺は重い決断をする。
船がなくなるのは俺達にも当然のことながら困ることになる。
冒険は続けられなくなるし、移動にも支障を来す。
だから、何としてでも金貨3枚を稼いでシーボルトの船を取り戻す必要があるのだ。
すると、エレンがシーボルトの肩を叩いて約束をした。
「シーボルト、私に任せておけ。カイトは頼りないが、お前の船は私が必ず取り戻してやる」
「エレン……。任せたぞ、任せたからな」
まるで寸劇のような芝居をを繰り広げるエレンとシーボルト。
いつからそんな関係を気づいたのかわからないが様になっている。
それにしても俺ってそんなに頼りないのか。
カイト軍団のリーダーだぞ。
もっと信用してくれてもいいだろうに。
「それでは上陸を許可しよう。これは上陸許可証だ。出航する時に必要になるからなくすなよ」
太めの検閲官が差し出したのはハーベイ王国の紋章が刻印された正式な証書。
30㎝ぐらいの縦長の紙に入港を許可する文章と共に受付日付、滞在期限、注意事項が記されている。
ハーベイ王国の紋章は朱色のインクで刻印されていて通行手形にもなる。
これがあればハーベイ王国の中で自由に移動や商売が出来る優れものだ。
俺は上陸許可証を受け取ると大切に懐に仕舞う。
そして堂々と桟橋を渡ってハーベイ王国の港に上陸をした。
まず向かったのは銀行だ。
旅費が全くないし宿代すら持ち合わせていないのだ。
もちろん借りられたのは金貨13枚より下の金額。
ここでは一応、金貨5枚を借金した。
これで借金の総額は金貨42枚だ。
シーボルトは借金をして船を取り戻そうと言って来たが余計な出費は出来ない。
エジピア王国に辿り着くまでの旅費を計算しておかなければならいからだ。
「カイト、イエローキャットを取り戻せなかったら恨むからな」
「これも仕方のない出費なのだ。好きなだけ恨んでくれ」
シーボルトの辛辣な言葉を受けながら俺達は大通りを進んで行く。
街並みは木造りの建物がならぶ西部感溢れる景観を作っている。
さすがハーベイ王国だけあってそこら中で露店主達が所狭しと商売をしていた。
骨董品、武具、装飾品店、おまけに占いの館まである。
ハーベイは税金が安いので商売をはじめたがる人が集まりやすい。
犯罪をしなければ何でも出来るのがハーベイ王国のいいところでもある。
ハーベイ王国はそうした政策を打ち出してここまで発展して来たのだ。
「おい、カイト。ちょっとここで占って行こうぜ」
「しょうもなことに使う金はない。先を急ぐぞ」
「人生占いって書いてありますわ。カイトさん、私達のこれからを占ってもらいましょう」
「私達のこれからってどういう意味だよ」
俺の鋭い指摘に頬を赤らませて恥ずかしそうにする、セリーヌ。
掌で人差し指を捏ねくり回しながら上目遣いで催促してくる。
そんな目をしたってしないものはしないんだ。
とかくおばさんってのは占い好きが多い。
その日の占いのラッキカラーやラッキーアイテムをやたらと身に着けたがる。
そんなことをしたって何も変わらないと言うのに一向に学習しない。
自分で決断できない人生なんてないようなものと同じだ。
「カイト……俺のイエローキャットがどうなるか占ってもらおう」
シーボルトは暗い顔で項垂れながらゾンビのように俺に縋り寄って来る。
その目には覇気がなく死んだ魚のような目をしていた。
よほどイエローキャットを担保にとられたことがショックのようだ。
まあ、愛着していたものを取り上げられられればみんな同じ反応を返すだろうが。
この際だ、一層のことイエローキャットを手放して新しい船を購入したらどうかと思う。
イエローキャットは年季が入り過ぎていて今にも壊れそうだったし、これからの旅のことを考えたらワンランク上の船に乗り換えておくことも必要だろう。
「シーボルト。船は必ず取り戻す。占いなんかに頼らなくても大丈夫だ」
俺はシーボルトを励ますため思いとは裏腹なことを伝えた。
その言葉を聞いてもシーボルトの暗い顔は晴れずにガックリと肩を落としていた。
「マシュー。シーボルトを頼む」
「船長、しっかりしてください。船は大丈夫ですから」
マシューはシーボルトの肩に手を回すと支えるように抱きかかえる。
これじゃあ酔っ払いを介抱している店員と同じだ。
とりあえず今は宿屋へ向かうことを優先させよう。
このままシーボルトを連れてなんて行けやしない。
シーボルトとマシューには留守番を頼もう。
「それじゃあ宿屋へ向かうぞ」
俺は荷物を肩に担ぎながら意気揚々と先陣を切って歩みを進めて行く。
肩で風を切りながら得意気に、そして堂々と。
俺のオーラに気づいたのか通行人達は脇に避けて道を作ってくれる。
俺もまんざらでもなくなって来たな。
そんなことを考えながら後ろを振り返ると……。
エレン達の姿はなく、マシューとシーボルトが占いの館に入って行く姿が見えた。
「おい、何やってんだ。お前ら!」
「何って。占いですよ」
「占いはしないって言っただろう」
「占いでもしなければ船長は元気になりませんよ。それにエレンさん達はもうはじめていますよ」
マシューが親指を立てて合図を送ると、その先にエレンが占いをしている姿があった。
頭に紫色のフードを被り黒いベールで顔を隠した如何にも怪しげなおばさん占い師が水晶玉を撫でている。
手にはたくさんの指輪が輝いていて首には大きなダイヤをあしらったネックレスをつけている。
エレン達みたいに引っかかる客が後を絶たないから相当羽振りがよいのだろう。
すると、おばさん占い師が水晶玉を見つめながら浮かび上がったビジョンをエレンに伝える。
「見える。見えるぞ。そなたはこの先で劇的な再会するであろう」
「再会って誰とだよ?」
「ムムム。それはそなたがよく知っている者だ」
「よく知っているなんていっぱいい過ぎてわからないな」
エレンが興味のなさそうな態度をすると焦ったのかおばさん占い師はさらにツッコんだ事を告げて来る。
「その再会でそなたは大金を掴むであろう」
「大金?」
「そうだ。手にも届かぬような大金を掴むと出ている」
「本当か!それはどのくらいの大金なんだ?」
急に目の色を変えたエレンを見るなり掴みはOKばりにガッツポーズをする、おばさん占い師。
追い打ちをかけるようにズバリと切り込んだ。
「それはこの国を命運を左右するぐらいの大金だ」
「よっしゃー!やっと私の時代が来たんだな」
おばさん占い師の言葉に踊らされているエレンはすっかり夢の中。
頭の中に映る大金の山を見つめながらだらしない顔を浮かべる。
そんなしょうもない占いで踊らされてどうするつもりだ。
国の命運を左右するぐらいの大金を手に入れるだなんてそんなうまい話ないだろう。
石油でも掘り当てるとでも言うのか……砂漠で。
「エレン。そんなしょうもない話を信じるな。お前は騙されているだけだ」
「騙すとは失敬な。私はこれでもこの界隈では名の通る有名な占い師だぞ」
「何が名が通る有名人だよ。言っていることは眉唾ごとじゃないか。そんな子供でも分かる嘘をついて金をとろうだなんてふとどきにもほどがある」
俺のまっとうな言葉を聞いておばさん占い師の額に青筋が浮かび上がる。
そして顔を真っ赤にさせながらテーブルを叩いて勢いよく立ち上がると、テーブルの上の水晶玉がコロコロと転がって地面に落ちた。
「言わせておけば、生意気な小僧め!この私に暴言を吐くなんてどこぞの馬の骨だ。そなたのような失敬な奴にはお仕置きが必要だ」
おばさん占い師は纏っていたローブを脱ぎ捨てると女王様の格好に変身する。
馬の尻尾のような革の鞭を打ち鳴らしながら俺の傍まで詰め寄って来た。
そのあまりに怖い剣幕に押されて俺は思わず両手で身を覆い隠す。
それを見たおばさん占い師こと女王様は俺の膝を折って四つん這いにさせた。
「何をするつもりだ」
「口の利き方に気をつけなさい。私のことは女王様とおよび!」
そう言ってズボンをずり下げると馬の尻尾のような革の鞭で俺の尻を強くシバく。
痺れるような痛みが体を駆け巡ると何とも言えない気持ちが湧き起って来た。
こんな風に尻をシバかれるのは子供の時に怒られた時くらいだ。
あの時は俺が悪いことをしたから仕方ないと受け入れたが今は違う。
だけど何とも言えないこの感覚はいったい何なのだろう。
痛みが快感に変わって来てもっと欲しいとさえ思えるようになって来た。
「女王様だなんて呼ばないぞ」
「下僕のクセに生意気な。その口を聞けないようにしてあげるわ!」
遠慮のひとつも見せずに女王様は俺の尻を革の鞭でシバきあげる。
その度に俺の尻は真っ赤に染まり蚯蚓腫れが出来上がった。
すると見かねたセリーヌが止めに入る。
「カイトさんに何をするんですか!やるなら私にしてください」
そっちかい。
セリーヌは自らスカートを肌蹴て女王様にお尻を突き出す。
指を咥えて頬を少し赤らめている様子から見てもいかにも欲しそうだ。
セリーヌはそっちの気もあったのか。
「愁傷な心意気ですね。いいでしょう、そなたもシバいてあげます」
女王様と化したおばさん占い師は遠慮もなくセリーヌの尻をシバき上げる。
バチンバチンと激しい音が鳴り響く度にセリーヌの吐息がリズムよく漏れて行く。
セリーヌは恍惚とした顔を浮かべながら女王様のお仕置きを満喫していた。
どうやら女王様はセリーヌの開いてはならぬ扉を開いてしまったようだ。
女王様がシバくのを止めるとセリーヌは女王様の足にすり寄って催促する。
そんな繰り返しが小一時間続くと女王様のお仕置きが終わった。
「この辺で許してあげましょう。さあ、お代を払って帰りなさい」
「いくらでしょうか女王様」
「銀貨1枚です」
すっかり女王様の下僕と化した俺は財布から銀貨1枚を取り出し女王様へ献上する。
女王様はそれを見るなり満足そうに頷いて銀貨を手に取った。
俺とセリーヌは赤く腫れあがった尻を隠してお互いを見つめる。
そして気まずそうな顔をしながら身なりを整えて占いの館を後にした。
結局、いい思いをしたのはエレンだけで俺とセリーヌは禁断の扉を開かれてしまった。
セリーヌはもともとその気があったようだが、俺の場合は違う。
女王様にシバかれたことによって確実に目覚めてしまったのだ。
お互いにMだなんんてどうやって楽しんだらいいのか。
そんなくだらないことを考えているうちに宿屋までやって来ていた。
宿屋は三階建ての建造物で窓辺にテラスが設置されてある。
大きな真っ赤な三角屋根がトレードマークで遠目から見ても目立つ。
女性客を意識したような外観と内装は見る者を楽しくさせる。
小窓は丸く象られていていかにも可愛らしさを演出させていた。
設置されているテーブルも椅子も丸みが帯びていて子供にも優しい造りになっている。
「二部屋をとりたいのだが」
「すみません。生憎どの部屋も満席のため大部屋しか空いていません」
申訳なさそうに謝って来る宿屋の受付嬢はピンク色のメイド服のような可愛らしい服装をしている。
見た感じからまだ20代ぐらいの若い女性で短く切りそろえた栗色の髪がキュートな娘だ。
顔にはそばかすが散りばめてあるが、それが返って初々しさを醸し出している。
なんだかこんなやり取りは新鮮だ。
いつもはおばさんとしか顔を合わせていないから余計に新鮮に感じる。
俺はエレン達の確認を取らずに決断をした。
「それなら大部屋でいいよ」
まあ、そんなにも長く滞在するつもりはないから同じ部屋でも大丈夫だろう。
シーボルトは落ち込んでいるしマシューもいるから粗相はしないだろうしな。
さっそく受付をすませて前金として銀貨3枚を払った。
基本宿屋は後払いのところが多いがハーベイ王国の宿屋では前金を払う仕組みをとっている。
それは宿代を踏み倒す客が多いからあえて立てた苦肉の対策だ。
人民の自由を尊重している国だからこそ、いろんな人種が集まりやすいのだ。
俺達は宿屋のスタッフに案内されながら館内の廊下を歩いて行く。
途中、途中に宿泊客とすれ違ったが圧倒的に女性客が多い。
まあ、こんなに可愛らしい宿屋ならば男性客は近寄りがたいだろう。
俺達もエレンとセリーヌがいるからここにいれるようなものだ。
「ここが大部屋でございます」
宿屋のスタッフが大部屋の鍵を開錠して扉を開く。
すると目の前に想像していなかった光景が広がった。
部屋は30畳ほどある大きな部屋で壁際にキングサイズのベッドが二つ並んでいる。
大きく切り開かれた窓は3メートルほどあり、燦燦と太陽の光が差し込んでいた。
天上を見やると丸く切り取られた天窓が四方向に設置されている。
この天窓は方角とリンクしていて太陽の黄道とともに光が差し込む仕組み。
夜になると満天の星空が楽しめる豪華な造りとなっていた。
「豪華そうな部屋だな」
「これなら船長も寛げます」
「風呂は温泉か?」
「お風呂は室内に設置されています。けれど、温泉を引いているので楽しめますよ」
お風呂が温泉か湯沸しかは重要なところだ。
これまで温泉を堪能してきた身としては温泉は外せない。
体を温めることをとれば湯沸しタイプでも十分だと思うが、温泉は疲れがとれるのだ。
お湯に含まれている泉質にはいろんな効能があって体に良い。
シーボルトもひどく疲れているようだし温泉にでも浸かれば元気を取り戻すだろう。
「案内ありがとう。これはほんの気持ちです」
そう言って俺は財布から銅貨3枚を取り出して宿屋のスタッフに渡す。
宿屋のスタッフは丁寧にお辞儀をするとニコニコしながら扉を閉めて仕事に戻って行った。
チップを渡す慣習はどこの国の宿屋でも見られる。
相場は銅貨1枚から3枚の間だけれど、金持ちの貴族とかは銀貨を渡すそうだ。
宿屋のスタッフにはいい小遣いとなっていてお礼にサービスを手厚くしてくれるのだ。
俺はベッドの上にダイブをして天井を見上げる。
「このところ狭い船室で眠っていたから久しぶりに広いベッドで眠れるな」
「そうですね。ベッドなんていついらいでしょう」
何気なく隣を見やるとセリーヌがあたり前のように俺の横に並んでいて。
そして身をくねらせながらすり寄って来ると俺の腕を枕にする。
「おい、セリーヌ。くっつくなよ」
「いいじゃないですか。私達、お付き合いしているんですし」
「いつから付き合っているんだ俺達は!そんな馬鹿なことを言っていないで風呂にでも入って来い」
「そうですわね。やっぱり体をきれいにしてからじゃないとダメですよね」
セリーヌは意味ありげに呟くと目を潤ませながら俺を見つめる。
その目には”抱かれたい”と言う想いがありありと詰まっていた。
俺はビクッとするような悪寒が背中に走りセリーヌにそっぽを向く。
するとセリーヌは頬を赤らめながら風呂場にそそくさと消えて行った。
「セリーヌ奴、だんだんと行動が大胆になって来ているな。エレンの影響もあるだろうけれど、さっきの占いの館での出来事がそうさせているようだ」
このままだと俺はセリーヌとお付き合いすることになりそうだ。
まあ、嫌だと言う訳でもないけれど行動が制限されるのは困る。
それにやっぱり年の差が一番ネックだ。
二人並んでいたら母親と子供に見えてしまうのだから。
俺はマザコンではないし、とりわけ年上好きって訳でもない。
ただ、たまたまセリーヌが年上だっただけだ。
「まったく煮え切らない奴だな、カイトは。セリーヌが待っているんだ。迷わずに飛び込めばいいんだよ。お前だって抱いてみたいだろう、セリーヌをさ」
「だ、誰が抱いてみたいだ。俺はそんなことは考えていない」
「はじめては年上の方がいいんだ。セリーヌにいろいろと教えてもらえ」
「な、何を言っているんだ!俺はちっともそんなことを考えてはいないぞ」
エレンの不謹慎な言葉にすっかりと踊らされてしまう、俺。
ひとり動揺をしながら熱くなる顔を手団扇で冷ました。
するとエレンがベッドの上に突っ伏しながら茶々を入れて来た。
「今、セリーヌは無防備だ。襲うなら今だぞ」
「そ、そんなことするかよ!」
「いいのか。こんなチャンスは滅多にないぞ。私達は酒場で一杯やって来るから二人で楽しめ」
そう言ってエレンはシーボルトとマシューを連れて部屋を出て行った。




