表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第四章 再開するおばさん編
93/361

あるある092 「何かと疲れがち」

我に返った俺はシーボルト達を救うためにセリーヌに指示を出した。


「セリーヌ。俺にやったようにシーボルト達を目覚めさせてくれ」

「カイトさん以外の人に、そんな破廉恥なことは出来ません!」


セリーヌはキッと俺を恨めしそうに睨みながら断りを入れた。

それもそうだ。

自分の胸を相手の口の中に入れるなんてことは普通出来るものじゃない。

赤ん坊ならまだしも大の大人にそんなことは出来ない。

セリーヌも必死の思いでしてくれたのだろう。

ならば、美貌を持て余している適任がいるじゃないか。


「おい、エレン。お前がやれ」

「私を何だと思っているんだ?」

「お前の胸はこう言う時のためにあるんだろう。だったら今しか活躍出来ることがないじゃないか」


エレンはニップレスをパカリとハメると身なりを整えた。

そしてシーボルトの前までづかづか歩いて行って右手を振り上げる。

次の瞬間、バチンと激しい音が鳴り響いた。


「こいつらにはこの方が合っている。私の胸を頂こうなんて100年早いからな」


シーボルトは赤く腫れあがった左頬を摩りながら辺りを見回す。

自分でも何が起こっているのかわからないようだ。


「俺は……」

「お前はマーメイド達に操られていたんだ」

「そうか。そうだったな」


状況を把握したシーボルトはすぐさまマシューの頬を叩く。

そしてマシューを目覚めさせると船の上に寄り集まった。

マーメイド達は攻撃体制をとることもなく、こちらを見つめている。


「それで何か作戦があるのか?」

「いや、全くない。海の上じゃあ手の出しようがない」

「せめて足場があればいいんだけどな」


エレンの何気ない一言にあるアイデアが降って来た。

セリーヌの『シールズ』の魔法を使えばマーメイドの動きは止められる。

そうしたらマーメイドを踏み台にすればいいのだ。

これならば確実にマーメイドを打ち倒せる。

ただ、問題は魔法がマーメイドに効くかと言うことだ。

幻獣には魔法耐性を備えているものが多い。

とりわけ攻撃をして来ないマーメイドならば魔法耐性は相当高いと予想できる。

仮に『シールズ』をかけても弾き返される恐れがあるのだ。


「カイト、何か思いついたのか?」

「ああ、でも賭けでしかないけどな」

「この状況を打開できるなら何でもいい。やってみてくれ」

「わかった」


俺はセリーヌに耳打ちをしながら作戦の概要を説明する。

すると、セリーヌは両手を組んで静かに魔法の詠唱に入った。


「エレン。マーメイドの動きが止まったらマーメイドを足場にして攻撃をしてくれ」

「フッ。考えたな、カイト。それなら私にも出来そうだ」


エレンは大剣を引き抜くと空に掲げた。


「俺達は何をしたらいい?」

「シーボルトとマシューは出航の準備をしてくれ。逃げ道が出来たら一気に逃げるんだ」

「分の悪い相手とは戦わない。いい判断だ。よし、マシュー。出航の準備だ!」


シーボルトとマシューは操舵室に向かい出航の準備をはじめる。

辺りは霧に覆われているので正しい方角がわからない。

ただ、今優先するべきなのはこの海域から逃れることだけ。

後のことはその時に考えればいいのだ。

その間にセリーヌの詠唱が終わり、マーメイドに向かって『シールズ』を放つ。


「時の流れは永劫の調べ、縦横無尽の鎖となりて、かの者を封印せよ『シールズ!』」


セリーヌの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がると海中から幾重もの鎖が伸びて来る。

その鎖はマーメイド達の体に巻きついてキツク締め上げた。

しかし、その瞬間、鎖は弾かれて消滅してしまう。


「やっぱりダメだったか……ちくしょう」

「他に手はないのか、カイト?」

「マーメイドは魔法耐性を持っているからいくら魔法を放っても無駄だ」

「万策尽きるですね」


しかし、このまま手をこまねいても仕方ない。

非情に分が悪いけれど海中戦に持ち込むしかない。

海中戦はお化けイソギンチャクとツインヘッドシャークの時に経験済みだ。

だから一方的にやられることはないだろう。

ただ、それで勝てる保証もないが。


「よし、エレン。海中戦に持ち込むぞ」

「やっぱり戦いはそうでなくちゃ面白くない」

「カイトさん、大丈夫なんですか?相手はマーメイドですよ。また、マーメイドに魅了されてしまうのではないのですか?」

「何度も同じ手をくらうほど俺は馬鹿じゃない」

「それでも心配です。カイトさん、スケベですから」


セリーヌは疑るような目つきで俺を見つめる。

たしかに俺はスケベではあるが、幻獣にイってしまうほど愚かじゃない。

さっきのはマーメイドの幻惑に魅了されていただけだ。

素面の俺なら引っかかってはいない……はず。


「おしっ!あいつらを根絶やしにするぞ!」

「望むところだ!」


俺とエレンが武器を手にとり海に飛び込もうとした時に動きがあった。

マーメイド達が死者の頭蓋骨を抱えながら碧色の目を青く光らせたのだ。

攻撃色ではないので身構えはしなかったが警戒は怠らなかった。


「あいつら何をはじめるつもりだ?」

「わからない」


すると、後ろにいたセリーヌが叫んだ。


「カイトさん、あれを見てください。あのマーメイドが抱えているものってドラゴンオーブじゃありませんか?」

「ドラゴンオーブだと!」


セリーヌが指を指している方向を見やるとマーメイドのひとりが赤く光る宝玉を抱えていた。

その宝玉の中心には炎の揺らめきが見てとれて、それがドラゴンオーブだと言うことは一目でわかった。

しかし、何でマーメイドがドラゴンオーブを持っているんだ?

もしかしてドラゴンオーブを盗んだ盗賊がマーメイドの餌食になったのか。

そう考えれば納得が行く。

マビジョガ島から逃げる最中にマーメイドと出くわして死へと誘われた。

そしてドラゴンオーブはマーメイドに奪われてそのままになってしまったのだ。

だとするならばマーメイドからドラゴンオーブを奪い返すいいチャンスだ。


「おい、エレン。あのドラゴンオーブを持っているマーメイドを狙うんだ」

「あいつか」


エレンは狙いを定めると大剣の切っ先をドラゴンオーブを抱えているマーメイドに向ける。

俺も同じように小剣を構えて狙いを定める。

すると、ただならぬ気配を感じたのかマーメイド達が次から次へと海に逃げはじめた。

もちろんドラゴンオーブを抱えているマーメイドも同じだ。


「逃がすかよ!」


エレンは後ろ脚を踏ん張ると勢いよく海に向かって飛び上がった。

しかし、時はすでに遅くマーメイド達は海の中に消えてしまっていた。


「ちくしょう!逃したか」


ただ、ドラゴンオーブのありかはわかった。

それだけでも上々だろう。

どうやって奪いとるのかの課題は残っているが。


「エレン。船に戻れ。この海域から出るぞ」

「ちぃ、仕方ないな」


シーボルトは舵を大きく切って船を出航させる。

あれだけ深かった霧は晴れて青い海が広がっていた。

そして海洋地図を広げてこの海域に星印をつける。

また後でドラゴンオーブを回収する時に役立てるつもりだ。

今はこの海域から離れることを優先させた。





逃げて行ったマーメイド達の追従はない。

海中戦が出来ない俺達にとって幸いだった。

やはりまだまだ海で戦うには経験が少なすぎる。

近接攻撃がメインの俺達では手も足も出ない。

せめて遠距離戦が出来るアンナやミゼルがいてくれればよかったのだが。


「マーメイド達から逃れられるなんて運が良かったとしか言いようがない。普通だったら確実に死の世界へ引き込まれていたはずだからな」

「けれど、あのドラゴンオーブは惜しかったな。あれさえ手に入れれば借金なんて帳消しになっていたのに」

「まあ、マーメイドのいる場所がわかったんだ。おそらくドラゴンオーブを奪った盗賊達の船が底に沈んでいるはずだ」

「と言うことはあの海底にはお宝が眠っているってことか?」

「そう言うことになる」


シーボルトは満面の笑みを浮かべると星印をつけた海洋地図に目を落とした。

ただお宝を手に入れるにはあのマーメイド達をなんとかしないといけない。

沈んだ盗賊達の船を根城にしているようだから駆逐しない限り近づけはしないだろう。

そのためにはマーメイド達の幻惑を攻略する必要がある。

幻惑は魔法のようなものではなく、マーメイド達の特殊能力とでも言うべきもの。

だから詠唱もなく瞬時に発動させることとが出来るのだ。

唯一の救いは幻惑は男性に強くかかると言うことだろうか。

あの時もエレンとセリーヌは幻惑にはかからずに素面でいた。

今度、ドラゴンオーブの回収に来るときは女性がメインのパーティ編成にしておいた方が良さそうだ。


「盗賊のお宝なんて夢がありますね。きっと見たこともないお宝が沈んでいるはずです」

「マシューもお宝に敏感になって来たようだな」

「ドラゴンオーブを目の当たりにしたら誰でもそうなりますよ」


マシューは遠ざかる海域を見つめながら目をキラキラと輝かせていた。

船は北へ進路を変更してハーベイ王国を目指している。

海洋地図で確認すると星印をつけた海域はハーベイ王国から南南西に1500㎞進んだ場所にある。

なので今いる俺達の海域もその辺りになる。


「それでハーベイ王国まではあとどのくらいで着くんだ?」

「この速さで進めば3日で辿り着けるはずだ」

「なら、私は少し休ませてもらおうか。モンスターが出たら起こしてくれ」


エレンは気怠そうに大きく伸び上がるとひとり船室へ消えて行った。


「あいつはいつも呑気でいいよな。俺なんて作戦を考えたり、気を揉んだりしているから疲れるよ」

「エレンさんもエレンさんなりに気を使ってますよ」

「あれでか」


セリーヌの言葉に信ぴょう性は全くない。

ただ単に仲間だからと言うことでエレンを庇っているようにしか見えない。

それにエレンが気を使っているところなんて見たこともないからな。

おばさんが人のことを優先させて行動するなんてありえない。

世界は自分を中心に回っていると思っているから気をつかうなんてことはないのだ。


「カイトさん。またよからぬことを考えていましたよね?」

「べ、別にそんなことは考えていない」

「カイトさんがおばさんのことを毛嫌いしているのはわかります。けれど、私達はカイトさんが思っているほど自分勝手ではありませんわ。エレンさんはただ自由奔放なだけです」


それが自分勝手と言うんだ。

まあ、エレンに比べたらセリーヌはずっとまともな方だ。

気づかいは出来るし、品があるし、おまけに美人でたわわだ。

おばさんと呼ぶには惜しいほど立派な女性でもある。

だから俺の中でセリーヌはおばさんではないのだ。

ただ年の割に純情過ぎる所がたまに傷だが。


「まあ、仕方ないさ。カイトとエレンは倍も年が離れているのだからな。カイトから見たら立派なおばさんだ」

「元もこうもないことを言わないでください、シーボルトさん。確かに年は離れていますけれど、私達はおばさんだなんて認めていませんから」


そう言う頑ななところがおばさんだと言うのだ。

おばさんって生き物はこぞって「おばさん」って言葉に敏感になる。

おばさんと聞いただけで汚いとか年寄りだとか、そう言う悪いイメージを持っているからだろう。

女性はいつまでも美しくいたいって気持ちはわかるが「おばさん」と言う言葉に囚われ過ぎるのもよくない。

どんな美少女も年を取ればいずれ「おばさん」になるのだから。


「わかっているよ、セリーヌはおばさんじゃない。俺はおばさんだなんて思っていないからな」

「カイトさん」


俺の言葉にセリーヌは嬉しそうな笑みを浮かべて来る。

少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら上目遣いで俺の目を見つめた。

その瞳は俺の唇を求めているかのような眼差しで時折、チラチラと俺の口元を見ている。

すると、シーボルトが呆れたようにツッコミを入れて来た。


「おいおい、こんなところでおっぱじめるつもりか?そう言うのはギャラリーのいない暗い部屋でやってくれ。じゃれあっている姿を見せられてもこっちが困る」

「そうですよ。船長には目の毒になりますから隠れてやってください」

「おい、勝手なことを言うなよ。俺達は別にそんなつもりはない!」


慌てて否定をする俺の横でセリーヌは人差し指を捏ねくり回しながら恥かしそうに俯く。

おいおいおいおい。

セリーヌは催促して来ているのか。

いつからそんなに大胆になったんだ。

前はもっとつつましかったじゃないか。

これもそれもエレンの悪い影響を受けているのが原因だ。

セリーヌにつつましさがなくなったらエレン化してしまう。

これ以上、エレンが増えたらカイト軍団は崩壊するだろう。

これは早いうちに手を打った方がよさそうだ。


「おい、セリーヌ。お前はちょっと疲れているんだ。船室へ戻って休め」

「私は疲れてなんかいません」

「いいから、いいから。疲れはお肌の大敵だぞ。後は俺達に任せておけ」

「カイトさんがそう言うなら」


俺はセリーヌの肩をそっと抱いて船室へエスコートする。

少し納得していない様子のセリーヌだったが俺の押しにしぶしぶ足を進めた。

これで操舵室には俺とシーボルトとマシューの男3人だけになった。

まあ、男3人だけになったからと言って何をする訳でもないが。


「しかし、カイトはモテるよな。何でそんなにモテるんだ?」

「べ、別にモテてる訳じゃないよ。たまたまだ」


けっして特殊能力のせいだとは言えない。

『おばさんを惹きつける能力』だなんて言った日には目もあてられなくなる。

もし、この能力がなければ俺は今頃ひとりでいただろう。

『おばさん』ってところが引っかかるが『惹きつける』って部分は美味しい。

とりわけ特別なことをしなくても人が引き寄せられてくるなんて冒険者にとっては都合がいいからな。

どうせなら『美少女を惹きつける能力』にして欲しかった。


「カイトさんの頼りなさそうなところが大人の女性に引っかかるんですよ。”私がいなくちゃダメになっちゃう”って思っているんです」

「それは俺が幼いってことか?」

「そうです。カイトさんは弱いですからね」

「ハッキリ言うな、マシュー。喧嘩を売っているのか?」


俺はマシューの指摘にムキになって胸ぐらを掴みあげる。

すると、マシューは冷ややかな眼差しで図星をついて来た。


「そう言うところです。ちょっと図星を疲れたからって喧嘩に持ち込もうとするところが幼いんです」

「けっ、言ってやがれ」


バツが悪くなり俺は手を振りほどいてマシューを解放する。

そんな俺を尻目にマシューは襟を整えながら勝ち誇ったように胸を張った。

確かにマシューが言うようにこの程度の指摘で怒っているようでは幼いと言われてもしかたないだろう。

俺はカイト軍団のリーダーなのだ。

もっとどっしりと構えていなければならない。


「マシュー。そうカイトをからかうもんじゃない。誰でも最初は幼いものだ。俺だって駆け出しの頃は苦労したものだ」

「船長も、そんな時代があったんですね」

「あたり前だ。とかく俺が船乗りになった頃は新大陸を求めて大勢の船乗り達が大海原に出て行った」

「新大陸って?」


シーボルトはテーブルに広げてある海洋地図に目を落とす。

そして指先で地図をなぞりながら進めるとあるポイントで指を止めた。

そのポイントには島らしき図は描かれていなくて海そのものだった。


「ここに新大陸があったと言われている」

「あったって?」

「誰も見た者はいない。幻の新大陸だ」


シーボルトの指先はガナック地方のはるか北を指していた。

一番近い大陸でも西に広がるメルラン地方だけ。

そこは未開の地らしく詳しい情報は全くない。

なので誰も新大陸のことは知らないのだ。

ただ、シーボルトが船乗りを目指していた時代に噂話として広がったとのことだ。


「そんなのはただの噂話ですよ。この時代に新大陸なんてある訳ないじゃないですか」

「そう考ええるのがまともな人間の判断だ。ただ、俺は船乗りとして新大陸のロマンは捨てたくない。ドラゴンオーブがあったように新大陸もどこかにあるんだ」

「船長も意外と幼いんですね。新大陸を信じているなんて」

「これは男のロマンだ」


少し馬鹿にしたように呟くマシューの言葉を押しのけて断言する、シーボルト。

もしシーボルトの言うように新大陸があったのならばそれは凄い発見だ。

まだ見ぬお宝や生物、独自の文化を築いて来た種族がいるかもしれないのだから。

ただ、それはあくまで新大陸があったらの話だ。

現実に考えてもマシューの言う通り新大陸などないのが正しいだろう。

この世界の人間達は世界の隅々まで調べ尽くしているのだ。

だから新大陸はただの夢物語に過ぎないだろう。


「俺にはシーボルトの思いが痛いと言うほどわかるよ。俺だって勇者になると言うロマンを追い駆けているんだからな」

「わかってくれるか、カイト。やっぱりお前は男の中の男だ」


シーボルトは嬉しそうにしながらキャビネットに置いてあった酒瓶を手に取る。

そしてグラスを二つ取り出すと惜しみもなく酒を注いで行った。

その酒はシーボルトのお気に入りの酒で隠し持っていたと言う。

この酒は特別なルートで手に入れた高級品で世の中には出回っていない幻のブランド品。

口当たりは軽く、それでいてキレがあってコク深い。

無色透明で透き通るほど澄んでいいて少しトロミがあるのが特徴だ。

そんな貴重な酒を惜しみもなく振る舞うなんてシーボルトは上機嫌なようだ。

心を通わせる相手が見つかって嬉しいのだろう。

俺はシーボルトの気持ちに応えるように酒を煽った。


「くーぅ。こいつは美味いな」

「だろ。幻の酒だからな」

「船長。僕にもくださいよ」

「お前はダメだ。俺のロマンがわからないようだからな」

「大人げない」

「何とでも言え。この酒はロマンがわかるようになるまでお預けだ」


マシューはひとりムクれながら操舵室を後にした。

マシューが一般常識を持っているってことはわかる。

しかし、一般常識に囚われすぎてロマンを失っているのだ。

ロマンてのは掴めそうで掴めない所に追い求める価値があるもの。

新大陸にも勇者にもハーレムにも男のロマンが詰まっているのだ。

男達はロマンを求めて追い駆ける。

そうしている時間はこの上なく幸せな時間なのだ。

ただ、男のロマンは女にはわからない。

女はとかく現実に目を向けるものだからロマンを追い駆けている男は馬鹿者にしか見えないのだ。


「それで新大陸に関する情報はどこまで仕入れているんだ?」

「噂では白夜にしか現れないらしいんだ」

「じゃあ、普段は海の底に沈んでいるってことか?」

「そう言うことになるな」


新大陸があると言われているホワイトヘルの海域は地軸の関係で太陽の沈まない白夜がある。

その期間は3ヶ月ほど続くと言われている。

ただ北に位置しているだけに白夜の期間は豪雪に見舞われるらしい。

なので白夜の期間は誰もその海域に近づかないそうだ。

交易路にもなっていないのでほぼ未開拓の海域と言っても過言でない。

だから、噂話が後を絶たないのだ。


「そんな危険な場所ならばおいそれと近づけないな」

「まあ、覚悟を決めなければ辿り着けない場所さ」

「まさに男のロマンだな」


俺とシーボルトは再びグラスを合わせて乾杯をする。

同じロマンがわかる同士、分かち合えるのはとても嬉しいことだ。

俺とシーボルトの追い駆けているロマンは違うが気持ちは同じだ。

俺達は間違いなく同士なのだ。

ここにマシューがいないことは残念なことだが、そのうちマシューにもわかる時が来るだろう。





その頃、マシューはひとり船首に立って潮風にあたっていた。

ロマンで盛り上がっている俺とシーボルトをよそにひとり冷めていた。


「二人っきりで盛り上がっちゃってさ。船長も船長だよ」


僕だってロマンぐらいわかっているつもりだ。

ただ今は求めているロマンがないだけ。

船乗りになることは既に叶えているし、料理の腕も確かだ。

自分の船を持とうとは思っていないし、ずっと船乗りでいる訳でもない。

いずれ船を降りてどこかの料理店で働くだろう。

だから船長達みたいに人生をかけて追い駆けるロマンはないのだ。


「あーあ。僕も飲みたかったな。あのお酒」


すると、トイプーが足元にやって来て体をこすりつけて来た。


「何だよ、お前。僕の気持ちがわかるってのか?」

「ワン!」

「変な奴だ。犬のクセに」

「ワン!」


マシューはトイプーを押しのけると手すりに腰を下ろす。

そして目を細めて遠くを見やりながらひとり物思いに更けた。

その横でトイプーは頻りに吠えている。

体をこすりつけながらおねだりしていた。


そう言えばトイプーにエサをやるのを忘れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ