あるある091 「大胆な行動に出がち」
俺達の船はハーベイ王国を目指して東北に進んでいた。
セレスティア王国からハーベイ王国を直線で結んだ航路の間に潮目はない。
なので予定よりも半日早めに進んでいた。
おまけに、これまでに500㎞ほど進んで来たが途中でモンスターに出くわすこともなかった。
「さすがに何もないと退屈だな」
「何を言っているんだ。何もないってことがどれだけありがたいことかわかってるのか」
「それにしてもだな」
俺は壁にもたれながら大欠伸をして伸び上がる。
操舵室には俺とシーボルトとマシューの3人きり。
エレンとセリーヌは甲板にパラソルを開き、その下にチェア広げてシーボルト特性のカクテルを飲んでいた。
「旅は長いんだ。エレン達を見習って日光浴でもして来い」
「呑気に日光浴なんてしていられるかよ。体が鈍ってしかたない」
「エレンみたいなことを言うじゃないか。モンスターでも探すか?」
「1日でも早く勇者になりたいからな。それもアリだ」
俺がこんなにも勇者になることを焦るのにはそれなりに理由がある。
セントルースから旅立ってはや半年になるが一向に強くなれていない。
それは弱いモンスターとばかり戦って来たこともあるが、エレン達が強すぎるのだ。
エレン達がモンスターをサクサクと狩ってしまうから俺におこぼれが回って来ない。
このままでは俺は一生勇者になれないのかもしれない。
だから打開策が必要なのだ。
打開策と言っても思い浮かぶのは自分よりちょっと強いモンスターと戦うことぐらいか。
エレンには控えていてもらって俺がメインで戦うのだ。
そうすれば否が応でもレベルは上がるだろう。
これは俺が主人公の冒険なのだ。
俺が活躍しなくて何があると言うもの。
おばさん達ばっかり目立っても何にもならないのだ。
「カイトさん。そんなに強がっていてもいいんですか。実際にモンスターが現れたら逃げたりしませんよね?」
「馬鹿にするなよ、マシュー。俺はカイト軍団のリーダーなんだぞ。モンスターを目の前にして尻尾を巻いて逃げるものか」
マシューまで生意気な口を聞くようになって来た。
今も半目で疑るような目つきで俺を見ている。
助けてやった恩を忘れやがって。
一度、シメめておいた方がいいかもな。
「心配するな、マシュー。カイトもカイトなりに歴戦を積んで来たんだ。出会った頃より確実に強くなっているよ」
「これでですか。よっぽど最初が弱かったんですね。ムフフ」
やっぱりこいつは一度シメないとダメだな。
誰がリーダーであるのかをはっきりと叩き込んでおく必要があるようだ。
でないとつけ上がるだけだからな。
こう言う善人面をしている奴ほど影で悪口を叩いているものだ。
マシューはカイト軍団の中でもモブなのだから端っこにいるべきなのだ。
「マシューも随分偉い口を叩くようになったな。助けてやった恩はどこへ行った?」
「別にあれはカイトさんだけに助けてもらった訳ではありませんからね。船長をはじめエレンさん達に助けれもらったと思っています」
「俺はどこへ行った?」
「ハハハ。カイト、マシューも悪気があって言っている訳じゃない。カイトに感謝しているんだよ」
さすがは船長と言わんばかりに羨望の眼差しを向ける、マシュー。
自分のことはシーボルトが一番よくわかっていると満足気な様子。
いつの間にやらこの二人の間には固い絆が生まれているようだ。
シーボルトは師匠って柄じゃなく、どこにでもいそうなちょい悪おやじ系。
それでもマシューからしたらシーボルトは間違いなく憧れの師匠なのだ。
「お前らだけズルいよな。師弟関係なんて築いてさ。俺に忠実なのはトイプーぐらいだ」
「ワン!」
小意気よく返事をする、トイプー。
尻尾を頻りに振りながら喜びの感情を表す。
俺はトイプーを抱きかかえて頭をこねくり回した。
トイプーはただの愛玩用のペットにしておくのは惜しい。
鼻は効くし、頭の回転も速いし、鍛えれば名犬になるはずだ。
俺の忠実な部下として名犬に仕立て上げたい。
ただ正式な主はセリーヌだから勝手なことはできないけれど。
セリーヌはあくまでトイプーを愛玩用の犬として捉えているのだから。
すると、空の彼方からゴロゴロと雷の音が聞えて来た。
「おっ、雷だ。マシュー、外の様子を確かめろ」
「はい、船長!」
シーボルトの指示を受けてマシューがテーブルの上にあった望遠鏡を手に取る。
そして進行方向のはるか彼方にある空を確かめた。
「船長、嵐です。前方に黒い積乱雲が迫って来ています」
「回避できそうか?」
「ダメです。辺り一面が積乱雲で覆われていて回避できそうにありません」
操舵室の窓から外を覗くと遥か彼方の空がどす黒い雲で覆われている。
時折、稲光が駆け巡り、空を紫色に染め上げる。
目視でもわかるくらいの大きさだ。
シーボルトはマシューから望遠鏡を受け取ると嵐の様子を確かめた。
「随分とデカい嵐だな。これは進路を変える必要がありそうだ」
シーボルトの見立てでは嵐は北東から南西へ流れているらしい。
なのでこのまま直進すれば間違いなく嵐に巻き込まれてしまう。
嵐を回避するルートは2つある。
ひとつは大きく北を回るルート。
もうひとつは大きく南に回るルートだ。
海洋地図上ではどちらのルートを通っても問題ない。
ただ北を回るルートは潮目にあたるので注意しないといけないそうだ。
「南を迂回するルートをとるぞ」
「それだとどのくらい時間がかかるんだ?」
「そうだな。嵐の大きさにもよるが2日ぐらいは遅れるだろう」
既に食料と水は2日分消費してしまっている。
残りは5日分だ。
迂回をして2日とられると残り3日でハーベイ王国に辿り着かなければならない。
海洋地図上では問題なく辿り着ける日数だが、海では何が起こるかわからないから注意する必要がある。
「カイト、そんなに心配するな。ハーベイ王国には無事に辿り着けるさ。俺に任しておけ」
ここでのシーボルトの言葉はありがたい。
海のことはからっきしわからないだけに、経験を積んでいるシーボルト任せっぱなしだ。
シーボルトは長年船乗りの経験を積んで来たし、何より『航海術』の特殊能力がある。
潮の流れを読んで最短ルートでハーベイ王国を目指せるはずだ。
ちょっとやそっとのことじゃ動じない確かな腕があるのだ。
「よし、マシュー。エンジンを最大限に噴かせ。進路を南にとって嵐を切り抜けるぞ!」
シーボルトが大きく舵を切ると同時にマシューがエンジンをフルスロットルにする。
すると、甲板で寛いでいたエレンとセリーナが不思議そうな顔で操舵室へ入って来た。
「おい、いきなりどうしたんだ?」
「この先に嵐があるんだよ。だから、嵐を回避するルートを通ることにしたんだ……って、それより何だよ、その格好は!」
「どうだ似合うだろう。新作の水着だぞ」
エレンはこれでもかって言うぐらいに新作の水着を見せつけて来る。
下はほぼ紐で、上は先っちょを隠すニップレスのみ。
これは水着と言うよりも裸そのものだ。
隠すところだけ隠して入ればいいって感覚のようだ。
一方でセリーヌはいつもどおりのビキニスタイル。
ただ、いつもと違うのは布の面積が狭いと言うこと。
エレンに感化されてセクシー路線に転向したようだ。
シーボルトは鼻の下を伸ばしながらいやらしそうに二人を見やる。
その横でマシューが鋭いツッコミを入れていた。
「カイト。随分と反応が薄いじゃないか?変な物でも食ったか?」
「お前達のビキニスタイルは見慣れているからな。何とも思わないよ」
「それは残念です。せっかくカイトさんのために選んだのに」
それよりいつの間に新作の水着なんて買っていたんだ。
セレスティア王国ではいろいろあってそんな暇がなかっただろう。
「支払いはどうしたんだ?」
「そんなの決まっているだろう。レオナルドのツケにしたんだ」
さすがはおばさんだ。
他人の金ならば遠慮なく無駄遣いをする。
買い物をして、ストレスを発散して、おまけに酒まで飲んで、やりたい放題だ。
おばさんほど自由に生きている生き物はこの世界にいないだろう。
「借金もすべてレオナルドに肩代わりさせておけばよかったな。惜しいことをした」
「で、結局、借金はいくら残っているんだ?」
「全部で金貨37枚だ。レオナルドが肩代わりした分があるからな」
「そんなにか!そいつは大変だな」
「他人ごとみたいに言うなよ。これは俺達の借金なんだから」
まあ、その借金の大半はエレンがコロセウムで負けた分なのだけれど。
あれさえなければ今頃、借金に怯えた生活をすることもなかった。
一番の問題はどうやって返済するかだな。
クエストをちまちまこなしいてもぜんぜん稼げないし、商売をするにしても元手もないし。
ドラゴンオーブのように高価なお宝でも見つけられたらな――。
いっそうのことトレジャーハンターを目指すのもありだな。
「カイト。知っているか?借金を出来る金額は金貨50枚までだぞ。それ以上は借りられない」
「マジか!なんでそんなルールがあるんだ?」
「限度額を決めておかないと踏み倒される恐れがあるからな。とくに初回の客には厳しいんだ」
「そんなルールがあるなんて……。あと金貨13枚しか借りられないじゃないか」
俺は空っぽの財布を眺めながら大きなため息を吐く。
少し前まではこの財布の中は潤っていた。
お金をどうやって使おうか迷っていたくらい。
それが今はすっからかん。
おまけに多額の借金を背負っているのだ。
どこかで稼がないと本当に首が回らなくなる。
「ハーベイ王国へ行ったらクエストを受けよう。ちょっとでも稼いで借金を返すんだ」
「そんな悠長なことをしている暇があるのか?レオナルドの追撃の恐れがあるだろう」
「そうです。私は一刻も早くレオナルドの手の届かない所まで逃げたいです」
「確かにその心配はあるけどな。金がないんじゃ何も出来ないぞ。せめて旅費ぐらい稼がないと旅は続けられない」
食料に水、それに船の燃料代。
ぎりぎり切り詰めても金貨5枚相当になるだろう。
いやエジピア王国まで逃げるつもりならば、それ以上になる恐れがある。
レオナルドから送られて来る刺客に襲撃される恐れはあるが、ここはクエストをこなして稼ぐのが一番だ。
「クエストをこなすつもりならばモンスター討伐よりもダンジョン調査のクエストの方がいいな。ダンジョンならばお宝と出会う確率があがる。以前、マビジョガ島でダグフォールを調査した時のようにな」
「あのドラゴンオーブは惜しかったけどな」
「ドラゴンオーブを見つけたんですか!」
「レプリカだったけどな」
マシューは信じられないような顔をしながら、レプリカだと知るとガックリと肩を落とした。
まあ、ドラゴンオーブと聞けば誰もが同じ反応をするだろう。
世界に二つとない唯一の宝玉なのだから。
あのレプリカが本物だったら、今頃、俺達は大金持ちだった。
借金を全て払ってもお釣りが来るぐらいドラゴンオーブは高価なのだから。
しかし、レプリカがあると言うことはどこかに本物があると言うことでもある。
「もしかしてドラゴンオーブを探しに行くつもりですか?」
「借金を返すならば、それが一番手っ取り早い」
「しかし、何の情報もないのに出かけても意味がないぞ」
「情報がないのならば集めればいいんだ」
今わかっていることはドラゴンオーブは盗賊によって盗まれたと言うこと。
それも100年ぐらい前にだ。
その時の盗賊はもう死んでこの世にはいない。
だから、ドラゴンオーブをどこかに隠したと考えられる。
「情報を集めるって言ったってそう簡単に手に入るものなのですか?」
「こればかりは地道にやらないといけないけどな」
俺の返事にマシューはやっぱりと言うような顔を浮かべる。
結局のところ何も情報がないと同じようなことだから仕方がない。
調査は足で稼ぐのが基本中の基本だ。
はじめから棚ぼたを期待してはいけない。
「あーあ。期待して損した。ドラゴンオーブなんて見つかりませんよ。それよりも地道に稼いだ方がいいんじゃないですか?」
「そのつもりだ」
ドラゴンオーブはあくまでおまけのようなものだ。
まずは目の前にある課題を越えることの方が大切だ。
そのためにも一刻も早くハーベイ王国に辿り着かなければ。
船は嵐をうまく回避して順調にハーベイ王国へ向けて航行していた。
甲板を駆け巡る風は冷たいが、雨脚は届いていない。
遥か彼方の北の空に嵐は広がっていて暴風と暴雨で海を荒立てていた。
あの嵐に巻き込まれなかったのは幸いと言えよう。
もし、嵐に巻き込まれていたら今頃、船は転覆していたはずだ。
「マシュー、海の様子はどうだ?」
「北の空に嵐が見えるだけで、海は穏やかです」
「そうか。ならば問題なくハーベイ王国まで行けそうだ」
すると、マシューが海で何かを見つけた。
「船長、前方に人の姿を確認!」
「海に人だと!漂流でもしたか。周りに船は見えるか?」
「船は見えません。ただ、海の上に人が漂っているだけです」
「どう言うことだ?」
シーボルトは不思議そうな顔をしてマシューから望遠鏡をはぎ取る。
そして人が漂っている場所を覗き込みながら状況確認に努めた。
マシューが発見した人は金髪の長い髪をした若い女性。
ただ海の上にふわりふわりと浮かびながら漂っているばかりだった。
「ここからじゃ生きているのか死んでいるのかわからないな。船を近づけるぞ」
「マシュー、辺りの警戒は怠るな」
「はい、船長!」
シーボルトから望遠鏡を受け取るとさっそく周辺の海を警戒する、マシュー。
その手には力が入り真剣な眼差しで望遠鏡を覗き込んでいた。
船が近づく度に浮かんでいる女性の様子がわかって来る。
服は身に着けておらず、たわわなおっぱいがプカプカと浮いている。
その状況だけ見たら男子は興奮しそうだが、そうはならない。
なぜならば腰からしたは魚のような尾ひれがついていたからだ。
「あいつはマーメイドだ!」
「マーメイド?」
「マーメイドは迷い人を死へと誘う悪魔と呼ばれている幻獣だ。船乗りの間ではマーメイドに会ったら地獄に連れ込まれると恐れられている。人の姿をしているが惑わされるな」
見る限りシーボルトが言うような恐ろしい悪魔のようには見えない。
キラキラと輝く金髪を引き立たせるような透明感のある白い肌。
幼さが残る顔立ちと澄んだ碧色の瞳から美少女であることは伺える。
そのくせ胸は発育していてエレンに次ぐほどのたわわさ。
見る者を魅了してしまうほどに美しい美貌で覆われていた。
「船長。僕には彼女が悪い人には見えません。僕達に助けを求めているんじゃないでしょうか?」
「何を言っているんだ、マシュー。あいつは悪魔だぞ」
マシューを見るとすっかり我を失っているようで瞳が暗くくすんでいた。
「マーメイドに魅せられたか。マシュー、しっかりしろ!」
「船長。僕は彼女のところに行きたいです。離してください」
「マシュー、しっかりしろ!」
シーボルトは右手を振り上げて強くマシューの頬を平手打ちにする。
すると、マシューは我に返りきょとんとした顔でシーボルトを見つめた。
「船長。僕は何をしていたんですか?」
「お前はマーメイドに魅せられて我を失っていたんだ。もうちょっとの所で天国へ行くところだったんだぞ」
「そうでしたか。ありがとうございます、船長」
「礼はいい。それよりもこの海域から離れるぞ」
そう思った時は既に遅かった。
あたりは深い霧で覆われていて方角を失っていたのだ。
すると、海の底から次々とマーメイドが現れて船を取り囲んで行った。
「マズい。マーメイドに逃げ道を塞がれた」
「僕達、どうなってしまうのですか?」
「魂を抜かれて死の国へと連れていかれる」
「そんな。僕は死にたくありません」
それは俺達だって同じだ。
道半ばで終わりだなんて受け入れられない。
まだまだやり残したことがあるんだ。
まずはこのピンチを逃れる方法を考えなければ。
マーメイドは海の上だ。
戦おうにも手が出せない。
向こうから攻撃をして来る気配もない。
マーメイド達はただ船を取り囲んで見つめているだけだった。
「あいつら何もして来ないな」
「何もする必要がないからさ」
「それはどう言う意味だ?」
マーメイドは武器を取ってたり炎を吐いたりと言った攻撃はして来ない。
ただ、迷い人に幻惑を見せて死の国へ引き込むのだ。
どんな幻惑を見るのかは、人によって変わる。
対象者が一番甘いと思う幻惑を見せられるのだ。
すると、ふとシーボルトがおもむろに歩き出した。
俺の言葉が届いていないようで魂が抜かれたようにふらふらと海へ近づいて行く。
俺は慌ててシーボルトの腕を掴んで引き留めた。
「シーボルト、しっかりしろ!」
「カイトもいっしょに行くんだ。あっちの世界は楽しいぞ」
「あっちの世界って……」
辺りを見回すと碧色だったマーメイドの瞳が赤く輝やきはじめる。
それは暗闇で夜行性の小動物が目を光らせて獲物を睨んでいるような姿で。
すると、俺の中にあった理性もぼんやりと薄れて行く。
そしてシーボルトと同じように魂を抜かれ操り人形のようになってしまった。
「みなさん、しっかりしてください!どうしたんですか!」
「カイト達は操られているんだ。何を言っても無駄だ」
「ならば目を覚まさせませんと」
そうは言ってみても方法が見つからない。
マーメイドは海の上だし攻撃しようがない。
魔法を使ったところで海に逃げられば終わりだ。
「目を覚ますにはこれが一番だ」
「エ、エレンさん。何を……」
エレンは水着を肌蹴て俺の顔にたわわな胸に押しつける。
そして両脇に挟み込んでこねくり回すように胸を動かす。
その柔らかな感触は俺の頬を伝い神経まで走って来た。
「ばふっ」
「カイト、目を覚ませ。お前の大好きなおっぱいだぞ」
「……」
意識の遠くから心地よい感覚だけが伝わって来る。
それが何んなのかわからないが毛布に包まれているような心地よさだ。
木漏れ日のような温かさがあってほっと安心できるような安らかさに包まれる。
もうしばらくの間、このままでいたいような感覚を覚えた。
その一方で心の底からマーメイド達の姿が浮かび上がって来る。
安らかな後光に包まれながら俺の手を取って天国へ誘おうとする。
まるで天使が舞い降りて来たような感覚だ。
このままマーメイド達と行けば俺は幸せになれる。
全てのしがらみから解放されて自由を手に入れられるはずだ。
そんな甘い誘惑が俺の心を支配して行った。
「私じゃダメか。おい、セリーヌ。お前がやれ」
「お前がやれっていわれましても、そんな破廉恥なことは出来ません!」
「カイトがこのまま死んでもいいのか?」
「それはダメです」
「ならばやれ!」
エレンに強く迫られて仕方なくセリーヌは水着を肌蹴る。
そしてエレンがしたようにカイトの顔に自分の胸を押しつけた。
「カイトさん、戻ってきてください!」
「……」
俺は何の反応も返さない。
その時、すでに天国の一歩手前まで来ていたからだ。
遠くからセリーヌの声だけは聞えて来る。
必死に俺を呼び止めるように叫んでいた。
しかし、俺の目の前にあったのはマーメイド達のたわわの山。
俺を誘うようにポヨポヨと揺れながら空に浮かんでいた。
あそこまで行けば俺はこの上ない幸せに包まれる。
毎日、たわわに戯れながらたんまりと遊べるのだ。
セリーヌのたわわも大好きだがたわわの山には敵わない。
二つのたわわよりたくさんのたわわの方が満足できるのだ。
「カイトさん……」
「セリーヌ。諦めるな。カイトを救えるのはお前しかいないんだ」
「わかりましたわ。ならば、これで戻ってきてください」
意を決したセリーヌはたわわを俺の口の中に放り込む。
口を塞がれた俺は鼻呼吸をしながら口の中に入って来たたわわに被りつく。
巨大なマシュマロを口いっぱいに入れたような感覚に襲われて。
何とも言えない心地よさが伝わって来る。
そして舌の先に感じるコロッとした感覚は刺激的だ。
飴玉のようでもありサクランボを口の中で転がしているようでもあり。
はじめての感覚に俺は我を取り戻した。
「ぐふっ。く、苦しい……」
「カイトさん!」
セリーヌは顔を赤らめながら恥かしそうに胸を隠した。




