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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第三章 帰郷するおばさん編
89/361

あるある088 「土壇場で迷いがち」

結婚式の当日。

会場はレオナルド達の結婚を祝福するために多くの貴族達が集まっていた。

最前列にセレスティア王国の国王や大臣達が並び、その後ろにプシュムル家とクリスタ家の親近者が並ぶ。

貴族達が座っているのはその後ろで両家と関係の深い順に並んでいた。

俺達が扮したイシュタル家は最後尾で、一番端っこだった。

イシュタル家は遠縁なので仕方ないが、それにしてもだ。


「返ってよかったんじゃないか、この場所で。目立たないし潜伏するにはちょうどいい」

「にしてもイシュタル家ってのはしょぼい貴族なんだな。一番端っこなんてよ」


ブーブー文句を垂れているエレンだったが似合わずもパーティー用のドレスを着ている。

イシュタル家の夫人に扮するために夫人のドレスを拝借したのだ。

一方でシーボルトは領主の正装を身に纏っていてとても似合っている。

傍から見たらイシュタル家の領主だと本気で間違えてしまいそうなほど。

切り揃えた顎鬚と引き締まった肉体が貫録を醸し出していた。


「それにしてもカイトの格好は笑えるな。それじゃあまるでどこぞの坊ちゃんだ」

「仕方ないだろう。使用人の服はこれしかなかったんだから」


イシュタル家の使用人の服は大人のサイズだったので俺が着ると丈がだいぶ余ってしまう。

なので袖を捲り、ズボンの裾も捲り上げてなんとかちょうどいいサイズになる。

まあ、一時的に着ているだけなので問題はないのだが。


「で、セリーヌ達はどこから登場するんだ?」

「事前調査によれば中央の通りから馬車で登場するはずだ」

「なら、その馬車が使えるな」


逃げる手段の見通しは立った。

結婚式用の馬車だから走りは心配だが海岸まで行ければ問題ない。

後は作戦を実行するだけだ。

そこへレオナルドが白馬に跨り入場して来た。

すると、会場から歓声と拍手が巻き起こる。

レオナルドはセレスティア王国の軍部の人間だから先に白馬で入場するのだ。

純白の軍服を身に纏い腰には立派な剣を携えている。

胸には国王から授かった勲章が煌びやかに輝いていた。

さすがはセレスティア王国の参謀だけあって貫禄が凄い。


「ちぃ、相変わらず気障な野郎だぜ」

「エレンは苦手なタイプだな」

「あの野郎がセリーヌと一緒になるなんで考えただけでもゾッとする」

「まあ、俺達が阻止するけどな」


レオナルドがいい気でいられるのもあと僅かだ。

俺達が結婚式をぶち壊しにすれば、その鼻をへし折れるだろう。

新婦を式場から連れ去られたなんて恥ずかしくて人には言えない。

レオナルドを大人しくさせるには良い薬になるはずだ。


レオナルドは登壇するとセレスティア王国の国王に敬礼をしてセリーヌの入場を待つ。

さすがにここまで来ると会場の緊張は一気に高まり、辺りは静まり返っていた。

すると、会場にセリーヌを乗せた白い馬車が到着をする。


「セリーヌが来たぞ」


白い馬車の扉が開くと中から正装を纏ったゴーツォが降りて来る。

次いで純白のウエディングドレスを纏ったセリーヌがエスコートされて降りて来た。

同時に式場にいたオーケストラが演奏をはじめる。


「きれいだ……」


俺の第一声がそれだった。

純白のウエディングドレスを纏ったセリーヌはまるで女神のようで。

顔にはベールがかけられていてはっきり見えないが真っ赤な唇が艶やかでいつものセリーヌとはひと味もふた味も違っていた。

セリーヌはいつも控え目なメイクをしているので気づかなかったがセリーヌは綺麗だ。

会場にいた貴族達もセリーヌの美貌に触れて心を奪われていた。


ゴーツォはセリーヌをエスコートしながら音楽に合わせて入場して行く。

その先ではレオナルドが満足そうな顔を浮かべて待ち構えていた。


「これが結婚式ってやつか。緊張するな」

「カイトが緊張しても仕方ないだろう。私達はこの後でセリーヌを浚うんだからな」

「わかってる」


それでもこの雰囲気に飲まれてしまう自分がいる。

背後に流れている厳かな音楽がそうさせているのか、はたまた最前列にいる国王がそうさせているのか。

とても神聖で厳かで間違いなど犯してはならないと暗に囁かれているようだった。

俺は腰につけていた小剣の柄を握り直す。

そうでもしないと現実へ戻れないような気がしたからだ。


ゴーツォはレオナルドのところまでやって来るとセリーヌを託して降壇して行った。

すると、袖から神父が登壇して来てレオナルドとセリーヌの前に立つ。

同時に参列者は立ち上がり式の様子を見守った。


「ここに参列した者達は汝レオナルドと汝セリーヌの結婚を見届ける証人です。二人の輝かしき未来のために祈りましょう」


神父の挨拶を終えると会場にいた全ての者達が神に祈りを捧げる。

俺達も目を閉じて周りの貴族達と同じように神に祈りを捧げる。

心中では神の怒りを買うようなことをしようとしているのだから複雑な気持ちであったことは他ならない。

ただ、たとえ神の怒りを買ったとしてもセリーヌのことが一番優先されるべきなのだ。

俺は改めて心の中で誓う。

絶対にセリーヌを助けると。


「それでは皆様、これよりレオナルドとセリーヌの結婚の儀をはじめます」


神父はレオナルドとセリーヌと目を合わせて軽く会釈をすると誓約を述べはじめる。


「汝レオナルド。ここにいるセリーヌを妻として病める時も憂う時も変わらずに愛を誓いますか?」

「誓います」


レオナルドは右手を上げて真っすぐに神父の瞳を見つめたまま誓約を示す。


「汝セリーヌ。ここにいるレオナルドを夫として病める時も憂う時も変わらずに愛を誓いますか?」

「……誓います」


セリーヌは少し躊躇っていたが右手を上げて神父に誓約を示した。


「それでは指輪の交換を――」


レオナルドとセリーヌは向き合ってお互いを見つめる。

そして用意された指輪をお互いの薬指にはめた。


「これで誓約はなされました。それでは誓いの口づけを――」


レオナルドはセリーヌのベールを上げるとセリーヌの瞳を見つめる。

そして吸い込まれるようにセリーヌの真っ赤な唇に口づけを――。


「ちょっと待ったー!」


寸前のところで俺は大声で叫んで飛び出した。

あいにくレオナルドの唇はセリーヌの唇には振れておらず誓いのキスは阻止出来た。


「セリーヌ。俺達といっしょに来い。お前は俺達の大事な仲間だ。だからここから逃げるんだ!」

「……カイトさん。手紙で私の気持ちは伝えたはずです。私はいっしょに行けません」

「本気で言っているのか、セリーヌ?これはお前の意志じゃないだろう。そんなことをしても幸せになれないぞ」

「これは決まったことなんです。もう変えられません」


セリーヌは涙を浮かべながら振りほどくように反論して来る。

俺が言ったことはセリーヌが一番よく理解していることだけに心に刺さったのだろう。

だけど、それでも反論して来るのはゴーツォの期待に応えるため、クリスタ家を守るために従っているからだ。


「変えられないのなら今から変えればいい。セリーヌは幸せになる権利があるんだ!」

「私の幸せはレオナルドと結婚することなんです。もう、帰ってください」

「セリーヌ……」

「そこまです、カイトさん。せっかくの結婚式をぶち壊しにしないでください。私とセリーヌは結ばれる運命にあるのです。カイトさんも私達の門出を祝福してください」


レオナルドは冷静に述べながら右手を上げて警備兵に合図を送る。

すると、会場を警備していた警備兵が俺の傍までやって来て抑え込んだ。

これ以上、正論を述べても今のセリーヌには届かない。

ならば本当の俺の気持ちを伝えるのがいいだろう。

神の前だから言える、俺のセリーヌに対する本当の気持ち。

それは――。


「俺はセリーヌが好きだ!俺といっしょに来てくれ!またみんなで冒険をしよう!」

「カイトさん……。私も愛しています。カイトさんと離れたくありません」


すると、セリーヌの肩を力強く掴んでレオナルドが告げた。


「今更何を言っているのです。また、ゴーツォ様を裏切るつもりですか?」

「それは……」

「ゴーツォ様の余命はあと僅かです。ゴーツォ様を傷つけて逃げるつもりですか?セリーヌには良心の呵責もないのですか?」

「止めてレオナルド。もう何も聞きたくない」


レオナルドの言葉にセリーヌは耳を塞いで膝から崩れ落ちる。

目は真っ赤に染まり溢れんばかりに涙がボロボロと零れ落ちていた。

その涙のひとつひとつがセリーヌの中の後悔であることは他でもない。

ゴーツォを再び裏切ろうとしている後悔。

メアリーの望みを挫こうとしている後悔。

カイト達といっしょに行けない後悔。

後悔が頭の中にいっぱい覆い尽して混乱に埋もれていた。


「私は……私はどうしたらいいの……」

「私の元に戻ってくればいいのですよ」

「セリーヌ。そんな戯言に惑わされるな!セリーヌのことを本気で思ってくれているならゴーツォ様も許してくれるはずだ!」

「そいつを黙らせろ!」


レオナルドが合図をすると警備兵が俺の腹を殴りつける。

激しい痛みが体に走ったがセリーヌに痛みに比べたら小さいもの。

俺は足を踏ん張って崩れ落ちるのを止めた。


「おい、動くんじゃねえ」

「ひぃ。お助けを」


すると、エレンが素早く神父の背後に回り込んで神父の首元に大剣の刃を当てる。


「これはこれは。人質のつもりですか?」

「つもりじゃねえ。動けばこいつの首を刎ねるぞ」

「私は構いませんよ。代わりの者などいくらでもいますから」

「レオナルド様。そんな殺生なことを言わないでください。私はまだ死にたくはありません」


レオナルドの非情な言葉にすっかりと怯えてしまい、神父は涙ぐみながらガクガクと膝を震わせていた。

ここで神父を見捨てようだなんてレオナルドは冷酷過ぎる。

神父の命など虫けらのようにしか思っていない様子だ。

今も顔色ひとつ変えることなく冷淡な目で俺達を見ていた。


「こんな奴にセリーヌを任せたら、どうなるのかわからない」

「おい、セリーヌ。立て。ずらかるぞ」

「……」


エレンの呼びかけも聞こえないくらいセリーヌは狼狽している。


「カイト、代われ」

「おう」


俺は警備兵を押しのけてエレンと交代する。

その隙をついて神父が逃げ出そうとするが、素早く小剣を首元にあてて大人しくさせた。

武器はこう言うことに使うものではないが今は仕方ない。

警備兵達の動きを止めるにはこの方法しかないのだ。


「セリーヌ、しっかりしろ!」

「……」

「いい加減に目を覚ませ、セリーヌ!」


エレンは勢いよく右手を振り下上げてセリーヌの頬を強く叩いた。

パチンと乾いた音が辺りに鳴り響く。

その瞬間、時が止まったような気がした。

セリーヌは真っ赤に腫れた頬に手をあてながらエレンを見つめる。

そしてじわじわと込み上げて来る痛みと共に大粒の涙を溢れさせた。


「セリーヌ。甘ったれるのもいい加減にしろ!お前の人生を決めるのはお前自身だ。誰が何と言おうが関係ない。お前はゴーツォの期待に応えようとしているけどな、それは自分から逃げようとしているだけだ。いい加減に逃げるのは止めろ」

「……エレンさん」


エレンの心からの叫びが届いたのかセリーヌは涙を拭って立ち上がる。

そしてゴーツォと向き合うと心の中で渦巻いていた想いを吐き出した。


「お父様。私はレオナルドと結婚は出来ません。私には大切な仲間がいるんです。私を待ってくれている仲間が。この結婚を破棄すればクリスタ家はなくなってしまうかもしれません。ですが、私が生きている限りクリスタ家の血筋は残ります。ならば、私が立派なプリ―ストとなったあかつきにはクリスタ家を再興させてみせます。ですから、お父様。私の決断をお許しください」

「今更何を言っているんです、セリーヌ。また、ゴーツォ様を裏切って逃げるとでもいうのですか。ゴーツォ様がどれだけ心を痛めていたのかあなたにわかるのですか?メアリー様を亡くし、ひとり娘であるあなたまで失い。ゴーツォ様は病に伏せながら毎日のようにあなたの無事だけを祈っていたのですよ。そんなゴーツォ様に再び傷をつけるつもりですか?」


確かにレオナルドの主張は間違ってはいない。

ゴーツォを近くで見ていたからこそ言える言葉だ。

だけど、そもそもこの結婚はお家を守るためだけに結ばれた契約。

そこに当人の気持ちなど微塵も入る隙間もない。

だからこそ、矛盾が生まれる。

結婚は形式ではなく当人同士の気持ちが何よりも大切なのだ。

セリーヌはレオナルドのことは愛していない。

大切な幼馴染のひとりではあるが、それは愛ではないのだ。

すると、それまで黙って話を聞いていたゴーツォがおもむろに口を開いた。


「セリーヌ。大人になったんだね。まだまだ少女だと思っていたが私の知らない間に遠くへ行ってしまった。それは親としては喜ぶべきことなのだが、素直には喜べない私もいる。これは私の我が儘になるが、セリーヌはいつまでも私の可愛い娘であってほしいのだ」

「お父様……」

「お嬢さま。私からもお願いします。ゴーツォ様の傍にいてやってください」


セバスチャンは白いハンカチで涙を拭いながら必死になってセリーヌに頭を下げる。

誰よりも近くでゴーツォを支えて来たセバスチャンだからこそ言える言葉だ。

言葉の端々に感じる重みは16年と言う長き時間の積み重ね。

生まれた赤ん坊が成人になるくらい長い時間だ。

その時間の中でセバスチャンはゴーツォを支え続けて来た。

悲しみに打ちひしがれるゴーツォを支え、自分を責めるゴーツォを励まし。

ゴーツォに笑顔が戻るまで身を切らせて仕えて来たのだ。

だからこそ、セバスチャンの言葉は重い。


「お嬢さま。ゴーツォ様はけっしてお嬢さまの決断を責めておりませんでした。お嬢さまのとこだから思うことがあったのだろうと――。片時もお嬢さまのことを忘れたことはありません。朝起きてから夜眠るまで。いや、夢の中でもお嬢さまの身を案じておりました。ゴーツォ様にとってお嬢さまはかけがえのない存在なのです。メアリー様の面影を残すお嬢さまだからこそ失いたくないのです。もう、二度とゴーツォ様が涙する姿は見たくありません」

「セバスチャン……」


周りにいた参列者達も言葉を失いセリーヌ達のやり取りを見守っていた。

誰もこの悲劇に口を出すことは出来ないだろう。

ここで繰り広げられているのはドラマではなく現実なのだから。

俺も話に割って入ろうと思ったがタイミングを見失ってしまった。

すると、レオナルドが強かにセリーヌに迫る。


「セリーヌ。わかったでしょう?この結婚式は皆が祝福してくれているのです。私とあなたが結婚をすることでゴーツォ様をはじめ、みんなが幸せになれるのです。ですから我が儘はもうおよしなさい」

「……私は」

「セリーヌ、騙されるな。お前が幸せにならなくて誰が幸せになるって言うんだ。確かにゴーツォ様やセバスチャンの気持ちはわかるけど、お前の気持ちをないがしろにしてまですることじゃない!俺達といっしょに来い!」


俺の言葉に戸惑いを見せるセリーヌは判断に迷う。

もし俺達といっしょに行ったらもう二度とゴーツォとは会えなくなるだろう。

ゴーツォもそんなに長く生きられないし、二度も裏切った親に合わせる顔などないからだ。

俺達は凄い決断をセリーヌに迫っているのかもしれない。

どちらの愛をとるか答えは二つに一つ。

どちらを選んでも傷つくことには変わりない。

俺がもしこの選択肢を迫られたらセリーヌと同じように迷うだろう。

セリーヌと同じように悩み苦しみ、最後は答えを選べすに終わる。

だからセリーヌがどんな決断をしたとしても俺達は受け入れるつもりでいる。


「私は……私には決められません。カイトさん達も大切だし、お父様達も同じように大切なのです。だから、どちらかを傷つけるなんて私には出来ません」

「ちぃ。全くお前って奴はどうしようもない我儘な奴だ。純粋で真っすぐで誰よりも優しくて。そんなお前は嫌いじゃないけどな」

「エレンさん……」

「憎まれ役は私が買ってやる。だから、しばらくの間眠っていてくれ」


そう言うとエレンはセリーヌの腹にキツイ一発をお見舞いする。

すると、セリーヌは一瞬で気絶してしまった。


「何をするんだ、エレン?」

「このままずらかるぞ。どうせセリーヌには答えを出せないからな」


エレンはセリーヌを担ぐとシーボルトがいる馬車へと足を向ける。

神父を人質にとって警備兵達をけん制する俺にシーボルトが声をかける。


「よし、カイト。馬車に乗り込め。出発するぞ!」


シーボルトは混乱に乗じて馬車の運転手達を片づけて馬車を奪っていた。

まあ、馬車と言っても結婚式用に装飾された馬車だから早くは走れないのだが。

逃げられる時間が稼げればそれでいい。

人質はそれまでの保険だ。


「お願いです。お嬢様を返してください」

「悪いなジイさん。セリーヌは大事な仲間なんだ。悪く思うなよ。よし、シーボルト、出せ!」

「しっかり捕まっていろよ!」


シーボルトは馬に鞭を入れて馬車を出発させる。

その後を追うようにセバスチャンが駆け出すが馬車には届かない。

そして膝から崩れ落ちて縋りつくような目で走り去る馬車を見つめていた。

その瞳に16年前の光景が重なってより深い悲しみでいっぱいになっている。

それはゴーツォも同じで目を潤ませながら消えて行くセリーヌの影を追っていた。

しかし、それでも心の奥からは僅かばかりの安堵の気持ちが湧き出していただろう。

こうなることはゴーツォも覚悟していた。

16年前にセリーヌが家を出て行った時からわかっていた。

セリーヌはいつも自由になれることを夢見ていたからだ。

クリスタ家の令嬢として生まれ、避けられない使命を与えられ、いつもがんじがらめで生きて来た。

だからこそ自由をより強く求めて外の世界に目を向けるようになった。

それがクリスタ家から飛び出すことに繋がったのだ。

これは成るべくして成った結果でもある。


「セバスチャン。セリーヌは大人になったな」

「ゴーツォ様?」

「子供が親の元から離れて行くことはごく自然なことだ。ならば、私達は見守ろうじゃないか。セリーヌが立派に人生を歩んで行くのを」

「そうですね」


ゴーツォとセバスチャンはお互いに手をとりながら走り去っていく馬車を見つめる。

その顔は雨上がりの青空のように晴れやかですっきりと輝いていた。

そんな二人の様子を遠目で見ながらレオナルドは小さく舌打ちをする。


「これだから老人ってのはダメなんだ。まんまと戯言に乗せられやがって」


レオナルドは白馬に跨ると警備兵達に指示を出す。


「お前達、セリーヌを浚った奴らを逃がすな。奴らは犯罪者だ。取り逃がしたとあってはセレスティア王国の名に傷がつく。私に続け!」

「「はっ!」」


レオナルドを取り囲むように警備兵達が整列をすると声を揃えて返事をする。

右手には鋭い槍を持ち、胸には真っ赤な鉄製の頑丈な鎧を身に着けている。

赤い色はセレスティア王国の騎士団のシンボルカラー。

炎のように熱く激しい頑強な意志を表している。

だからなのか警備兵達の意志はレオナルドに呼応していた。


「奴らを捕まえた者には報奨金をやろう。首を取った者には昇格を約束しよう!」


レオナルドが飴を差し出すと警備兵達の士気が一気に高まった。

こう言う人心掌握の手段はレオナルドの得意とするところ。

人がどうすれば思い通りになるのかを経験から学習しているのだ。

伊達にセレスティア王国の参謀の地位にいる訳ではない。

ただ、愛に関しては誰よりも疎かったようだ。

『知略設計』を使えばセリーヌとて自分のものになるのだと思っていたのだから。

己の特殊能力を過信し過ぎた結果が今なのかもしれないのだがレオナルドは認めないでいる。

まだ、レオナルドには奥の手が残されていたからだ。





カイト達はマシュー達が待つ海岸を目指して進んでいた。

後はマシュー達と合流してセレスティア王国を離れるだけ。

ただ、心残りはセリーヌの同意を得ていないことだ。

セリーヌが目覚めた時、どう思うだろうか。

勝手なことをした俺達を責めるかもしれない。


「エレン。これでよかったのか?」

「これしか方法はなかったんだよ。あの状況で私達かおっさんか、セリーヌは決められないだろう」

「それはそうだが……」

「カイト、心配するな。責任は私が負う。セリーヌとは付き合いが長いからわかってくれるさ」


エレンの責任感のある言葉にほっと胸を撫で下ろす。

いつもは自分勝手なことばかりしているエレンからは想像も出来ない姿だ。

おばさん同士だから心通わすものがあるのだろう。

とりあえず今はこれでいいと思えた。


「それにしても遅いな、この馬車」

「仕方ないだろう、結婚式用の馬車なんだから。走れるだけでもありがたいと思え」

「あなたがたはレオナルド様に逆らってどうなると思っているのですか?」


人質になっていた神父は顔を青くさせながら訴えかけて来る。


「どうなろうと私達には関係ない」

「関係ないだけでは済まされませんよ。レオナルド様はセレスティア王国でも影で”死神を貪る悪魔”と呼ばれるほど恐ろしい人なのですから」

「あいつがどんな奴でも私達の前に立ちはだかるならば倒すだけだ」

「そんなことを言っていられるのは今だけですよ。レオナルド様はけっして諦めない人ですから。あなた方は捕まって殺されるでしょう」

「やれるものならやってみろってんだ。あんな三下野郎にやられるエレン様じゃない」


人質になった神父の心配を吹き飛ばすようにエレンが強がって見せる。

確かに剣の腕ではエレンに分がある。

たとえ30人がかりでエレンを襲ったとしても跳ね返してしまうだろう。

エレンは対人戦にはめっぽう強いのだから。


「レオナルド様の怖いところは頭脳です。剣の腕も確かだけれど、それ以上に知略に長けているのです。セレスティア王国の参謀の地位まで3年で登りつめたのも特殊能力の『知略設計』があったからと言われています。ですからあなた方は間違いなく殺されるでしょう。それはセリーヌ様もしかりです」

「俺達はわかるが、何でセリーヌまで殺す必要があるんだ?」

「失敗を消すためですよ。自分のものにならないのならば存在すら消してしまうんです。そうやって何人もの人間が殺されてきました。だから私も殺されるでしょう」


人質の神父はがたがた震えながら死んだ魚のような目をする。

その瞳には暗い絶望しか映っていないようだ。

人質の神父の話でレオナルドが冷酷非道な人物であることはわかった。

だからと言って、そうやすやすと殺される俺達じゃない。

セリーヌを助けて俺達も生き残るのだ。

すると、シーボルトが急に馬車を止めて告げた。


「あんたはここで降りろ。俺達といたら殺されるだけだろう。だから、レオナルドの手の届かない所まで逃げるんだ」

「助けれくれるんですか?」

「俺達は殺人犯じゃないからな」


それに人質を連れていても足手まといになるだけだからな。

ここで逃がしてやった方が俺達にとっても都合がいい。

人質の神父は馬車から降りると深々と頭を下げてお礼を言った。


「この御恩は忘れません。ありがとうございました」


シーボルトは道を変えてマシュー達の待つ海岸へ足を向ける。

そんな俺達を見送りながら人質の神父は口元を緩ませた。


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