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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第三章 帰郷するおばさん編
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あるある086 「何でもひとりで抱えがち」

セレスティア王都の牢屋に収監されて数日。

俺達はまともな食事も出来ずに飢えていた。

牢屋は男女の区別はなく同じ牢屋に閉じ込められている。

ただし密輸船の船員達とは違う牢屋に入れられていた。


「腹減った……」

「あーダメだ。アルコールが切れて苛々する」

「せめて水ぐらい飲ませてくれよ。おーい、いるんだろう。返事をしろ」


牢屋の中から叫んではみるが返事は返って来ない。

あいつら俺達を飢え死にさせるつもりなのか。

セレスティア王国では裁判が行われるのだろう。

ならば俺達にも反論する権利はあるはずだ。


「カイト。諦めろ。騒ぐと体力を消耗するだけだ」

「そうだ。今は時間が経つのを待つ方がいい。いずれ弁護士がやって来るはずだ」

「シーボルト達はよく冷静でいられるな。俺は頭が狂いそうでどうにかなってしまいそうだ」


これではただの生き地獄だ。

出される食事はカビの生えたパンと薄い味のスープだけ。

これが囚人に対するセレスティア王国の対応ならば問題だらけだ。

法治国家とうたっていても結局は国王の力でねじ伏せられているに過ぎない。

無事にここから出られたら文句を言ってやろう。

すると、牢屋の鉄の扉が静かに開いた。


「セレスティア王国の領海で密輸犯を捕まえたと言うことだな」

「はい。密輸犯達は逃亡を図ったのですが全員捕まえました」

「そうでなくては困る。取り逃がしたとなればセレスティア王国の名に傷がつくからな」


やって来たのはレオナルドと警備隊長だった。


「おや、いったいこれはどう言うことかな?何でカイトさん達が牢屋に入っているのか」

「レオナルド!」

「おい、お前。ここから私達を出せ。お前の力を使えば簡単だろう」

「それは出来ない質問ですね。あなた方は密輸の現行犯で捕まったのですから」


レオナルドは冷ややかな目つきで俺達を見やりながら口元を緩ませる。

あの目は何かを企んでいる目だ。

レオナルドのことだからセリーヌに関する要求をして来るに違いない。

助ける代わりにセリーヌから手を引けとかな。

そんな要求をされたところで俺は首を縦に振らないけどな。


「弁護士を呼んでくれ。俺達にも反論する権利はあるはずだ」

「そうですね。セレスティア王国は法治国家ですから、その権利はあなたがたにもあります。しかし、あなた方を弁護しようとする弁護士がいるかどうかが問題ですけどね」

「野郎、はじめから裁判なんてする気はなかったんだな。俺達をどうするつもりだ」

「どうもしませんよ。カイトさんとは顔見知りですから条件付きで釈放させましょう」

「条件って何だ?」


レオナルドは薄気味悪い笑みを浮かべると俺達ひとりひとりに視線を送った。


「我がセレスティア王国では密輸は死刑の対象です。ですが、国外追放と罰金で勘弁してあげます。罰金はひとりあたり金貨3枚です。ですから4人で金貨12枚を収めてください」

「国外追放だって!」

「これでも温情を与えたつもりですよ。なにせ私達の好ですから」


はじめからこれが狙いだったのか。

俺達を国外追放すればセリーヌはひとりになる。

そうすればセリーヌとの結婚に弾みがつく。

セリーヌとて犯罪者となった俺達のところへ戻って来るのも難しくなるだろう。

なんて言ったってクリスタ家に傷がつくことになるのだから。

セリーヌはクリスタ家を守るためにレオナルドと結婚するつもりでいるのだ。


「ちくしょう。これじゃあ奴の思う壺じゃないか。俺はここから出ないぞ」

「カイト、冷静になれ。今はここから出ることを優先させるんだ」

「だが、金貨12枚だなんて持ち金がないぞ」

「それなら心配ありません。私が代わりに建て替えますから」


レオナルドの奴、とどめを刺して来たか。

保釈金まで建て替えることで俺達に何も言わせない気だな。

そんな手に乗るものか。

意地でも反対してやる。


「保釈金も俺が払ってやる」

「そんなこと言ったって金がないだろう」

「銀行で借金するんだ」

「それでもこちらは一向に構いませんけどね。おい、使いの者を走らせろ」

「すぐに」


レオナルドの指示で警備隊長が使いの者を銀行に走らせる。


「今日は何日だ?」

「5月の20日ですよ。もしかして結婚式を気にされているのですか?」

「セリーヌの一大イベントだからな」

「ですが、残念です。カイトさん達は国外追放になったのですから結婚式には参加できません」


この野郎、わかり切ったことを言いやがって。

結婚式まであと10日しかない。

俺達が投獄されてから5日も経っていたようだ。

窓もない牢屋だから曜日の計算も出来なかった。


「セリーヌに結婚をする意志はあるのか?」

「もちろんですよ。セリーヌも結婚式を楽しみにしてくれています」


レオナルドは満面の笑みを浮かべながらニタリと口元を緩ませる。

その顔から判断しても嘘であることは見え見えだ。

セリーヌはセレスティア王国に戻ることを拒んでいた。

それはレオナルドとの結婚があったからだ。

はじめからそれがわかっていたらセレスティア王国には来ていなかった。

これもそれも俺の判断ミスだ。

そこへ使いの者と銀行の職員が金貨12枚を持って戻って来た。


「レオナルド様。銀行の職員を連れて来ました」

「では、手続きをすませましょう。見届け人は私がやります」

「それではこの証書にサインをしてください」


銀行の職員は俺の前に借用書とペンを差し出す。

俺は震える手で借用書にサインをした。

怖くて震えていたのではない。

情けない自分に腹が立って震えていたのだ。

これで借金は総額、金貨37枚にもなってしまった。

そればかりでなく国外追放の罰を受けた。

もう、俺達に出来ることは残されていない。


「これでカイトさん達も晴れて自由の身です。ですが、3日以内に国外へ出てくださいね。でないと確実に処刑されすから」


レオナルドは高らかな笑い声をあげながら牢屋を後にした。


「カイト、どうするつもりだ?」

「とりあえずここを出よう。考えるのはそれからだ」


俺達は警備兵に見送られながらセレスティア王都の牢獄を出た。

すると、マシューが監獄の前で待っていた。


「船長、無事だったんですか?」

「ああ、心配かけたな」

「カイトさんもみんな無事でよかった」

「とりあえずここから離れよう」


俺達は今後のことを考えるため酒場に向かった。

もちろん見張りはしっかりと着いている。

俺達が確実に国外へ出るまで見張っているつもりのようだ。

今は好きにさせておこう。

それよりもこれからのことを考えなければ。





時を戻すこと2週間前。

セリーヌはカイト達とは別行動をとっていた。

久しぶりにゴーツォと再会したこともあり、親子水入らずの時間を過ごしていた。

それは黙って家を出てしまったことの償いの意味もある。

家を出たことを期にゴーツォの病状が悪くなったのも自分のせいだとセリーヌは自分を責めている。

失った時間を取り戻すことは出来ないが、せめていっしょの時間を過ごすことで隙間を埋めようとしていたのだ。


「お父様、紅茶が入りました。お茶にしましょう」

「ゴホゴホ。セリーヌが淹れてくれたお茶だね」


セリーヌはサイドテーブルに紅茶とクッキーを置いてゴーツォの体を起こす。

久しぶりに触るゴーツォの背中は以前よりも小さく感じられた。

ゴーツォは病気を患っているので普段から体を鍛えていた。

なのでしっかりとした筋肉で覆われていて背中が大きかったことを覚えている。

それが16年の月日を経たことですっかりと変わってしまったことは目を伏せたくなる現実だ。

これが老いると言うことなのだと改めて実感した。


ゴーツォは紅茶をひと口口に含んでワインように口の中で転がす。

そして鼻から息を吸い込み紅茶の香りで肺いっぱいにさせた。

癖のある紅茶の飲み方だがゴーツォは昔からそうしている。


「メアリーが淹れた紅茶と同じ香りがする。セリーヌもメアリーに似て来たな」

「そう言ってもらえると嬉しいですわ。お母さまも天国で喜んでますわ、きっと」

「メアリーが亡くなってから、もう22年になるな」


ゴーツォは目を細めて遠くを見やる。

その瞳は少し物悲しく、それでいて懐かしそうな微妙なニュアンスが込められていた。


「もう、そんなに経つのですね。お母さまがなくなったのは昨日のことのように思えますわ」

「それだけいろいろなことがあったからだろう」


その言葉にセリーヌは少し顔を曇らせた。

ゴーツォが言いたかったのはセリーヌが家を出たことではない。

これまでの時間の中であった楽しい出来事を思い出しただけ。

なのにセリーヌはなぜか後ろめたい気持ちでいっぱいだった。


「私、お父様の楽しい想い出に泥を塗ってしまいましたね」

「もう何も言うな。お前の決めたことだ。それなりに理由があるからだろう」


ゴーツォは優しく、だけど少し物悲しそうな目でセリーヌを見つめる。

その瞳は全てを見透かしているようでゾクッと背中が震えた。

決められたレールの上を歩かなくてはならないのはとても窮屈だ。

何もしなくてもどう生きようとも未来は決まっているのだから。

クリスタ家に生まれた以上、避けられない道だけれど、若いセリーヌには受け入れがたかったのだ。

未來を変えたくて、自分の道を歩きたくて家を出た。

だけれど、結局は何も変わらなかった。

レオナルドとの結婚は控えているし、ゴーツォの容態も悪くなってしまうし。

カイト達とずっと冒険を続けていられたら――。

セリーヌの心の中にやるせない気持ちがいっぱいになった。


「お父様、私は――」

「お前が何を言いたいのかわかる。けれど、ここでクリスタ家を終わらせることは出来ないんだ。メアリーと守って来たクリスタ家だからこそ守り続けたいのだ。わかるだろう、セリーヌ」

「……はい」


今のセリーヌにはただ頷くことしか出来ない。

レオナルドとの結婚を控えた今の状況では何も変えることが出来ないのだ。

プシュムル家は代々に渡りセレスティア王国に仕えて来た名門の家系。

レオナルドは成るべくして成ったセレスティア王国の参謀と言う立場にある。

どこの貴族達もプシュムル家に憧れを持っていて娘たちをレオナルドと結婚させたいと思っている。

しかし、許嫁であるセリーヌがいるため断念せざるを得ないのだ。

そのためクリスタ家を目の敵にしている貴族たちは多い。

ゴーツォの体調が芳しくない今、頼りに出来るのはセリーヌだけなのだ。


もし、セリーヌが普通の家庭に生まれたのならば、もっと違う生き方を選べただろう。

近所の子供達と泥だらけになるまで遊んで、びしょ濡れになるまで水浴びをして。

午後からはみんなとテーブルを囲んでおやつを食べる。

そんなごくありふれた日常がセリーヌの憧れだったのだ。


「ゴホゴホ。お前には苦労をかけるな」

「気になさらないでください、お父様。私は覚悟が出来ていますから」


幼い頃から避けられない道だとわかっていた。

あたり前のように隣にはレオナルドがいて、あたり前のようにエスコートしてくれた。

「セリーヌを守るのは俺の役目だ」なんてレオナルドが言っていたことを覚えている。

その時は普通に嬉しかったが今になってみればそれがレオナルドの覚悟だったと言うことがわかる。

レオナルドからしてみればクリスタ家の令嬢であるセリーヌと一緒になることは地盤を固めることになる。

クリスタ家は今でこそ衰退しているがかつてはセレスティア王国を下支えしていた名門の家系だ。

だからセリーヌとの結婚はレオナルドにとって人生における一大イベントなのだ。


「そうだ。お前に見せたいものがあるんだ。セバスチャン。セバスチャンはいるか」


ゴーツォがおもむろに立ち上がると執事のセバスチャンが部屋に入って来る。

すぐさまゴーツォの元へ歩み寄りゴーツォの体を支えた。


「セバスチャン。あれは用意できているか?」

「準備出来ております」

「そうか。セリーヌ、メアリーの部屋までいっしょに来てくれ。見せたいものがある」

「見せたいもの?」


ゴーツォは含み笑いを浮かべるとセバスチャンに連れられて部屋を出て行く。

セリーヌはその後に続いてメアリーの部屋へ向かった。

メアリーの部屋はメアリーが亡くなった時と同じ状態にしてある。

それはメアリーとの想い出をなくしたくないとのゴーツォの思いがあったからだ。

時々、部屋の掃除をして窓を開けて換気をして部屋をメンテナンスしている。

その甲斐あってか部屋には埃ひとつ積もらずにきれいなままだった。


「さあ、セリーヌ様。中へお入りください」


セバスチャンはメアリーの部屋の扉を静かに開けてセリーヌを案内する。

セリーヌは静かに、それでいて中を確かめるようにゆっくりと歩みを進める。

そして目の前に飛び込んで来た物に息を詰まらせた。


「これはお母さまのウエディングドレス!」

「そうだ。メアリーとの結婚式でメアリーが来ていたドレスだ。お前にはこのドレスを着て結婚式に出てもらいたい」


メアリーのウエディングドレスは色あせることもなく純白に輝いている。

今、下ろしたばかりのような新鮮さでほつれひとつ見えない。

そしてなによりメアリーの優しい香りがほのかにする。

この状態を保つためにどれだけの労力が注がれて来たのだろう。

考えただけでもゴーツォの愛情の深さが伺える。

このウエディングドレスはゴーツォにとっても想い出の品。

それをセリーヌに着せたいと言うのは親心からなのだろう。


「お母さま……」


懐かしいメアリーの香りに思わず涙を溢れさせる、セリーヌ。

それはまるでメアリーに優しく包まれているような安心感が広がったからだ。

セリーヌがもっと幼かったら、この状況を素直に喜べただろう。

だけど、今は複雑な感情が入り混じっていて気持ちを混乱させている。

カイト達との旅の中でセリーヌは新しい生き方を見出していたのだ。


「お父様、私は――」


そこまで言いかけた時、レオナルドがやって来た。


「これはみなさんお揃いで」

「レオナルドか。今、式の話をしていたところだ」

「これはゴーツォ様。ご機嫌麗しゅう」


レオナルドは丁寧に挨拶をするとセリーヌが手にしていたウエディングドレスを見やる。


「それはもしかしてメアリー様のウエディングドレスですか?」

「よくわかったな。結婚式にはこのドレスをセリーヌに着てもらうつもりだ」

「それはよかった。メアリー様もきっと祝福してくれるはずです」


レオナルドはセリーヌの肩に手を回してそっと抱き寄せた。

セリーヌの気持ちとは裏腹に話はどんどん進んで行く。

ここ数日はセバスチャンも駆け回り式の準備をしている。

結婚式には国王にも参列してもらう予定だから準備に手がかかるのだ。

名門の両家の結婚式だから参列する貴族達も名だたる名家ばかり。

けっして失敗は許されない式なので余計に力が入っているのだ。


「セバスチャン。式の準備の方はどうだ?」

「滞りなく」

「そうか。それはよかった。レオナルド、セリーヌを任せたぞ」

「お任せください、ゴーツォ様」


レオナルドは敬意を払うとゴーツォに約束をした。





事が急転したのはそれから2週間後のことだった。

いつものように食後のお茶を楽しんでいるとレオナルドがやって来た。


「セリーヌ。ここにいたのですね。探しましたよ」

「どうしたの、レオ?」

「フフフ。ちょっとしたニュースがありましてね」


レオナルドはセリーヌの向かいに座ると両手を合わせてテーブルの上に乗せる。

明らかにレオナルドが嬉しそうだからセリーヌにとっては良い報せではないのだろう。

セリーヌはティーポットを手に取りレオナルドの紅茶をカップに注いだ。


「それでニュースって何?」

「信じられないかもしれませんが、カイトさん達が捕まりました」

「えっ!カイトさん達が!」


予想のしていなかった告白にセリーヌは驚愕してテーブルのカップを倒してしまう。


「カイトさん達はどうして捕まったのです!」

「落ち着きなさい、セリーヌ」

「これが落ち着いていられるものですか。レオ、カイトさん達は無事なのですか!」

「カイトさん達の身柄はセレスティア王国で保護しています。安心しなさい」


セリーヌはレオナルドに窘められて冷静さを取り戻す。

とりあえずカイトさん達が無事であることはわかっただけでもよかった。

セレスティア王国で保護しているならば安心だろう。

ただ、何でカイトさん達が捕まったのかがわからない。

セリーヌは気持ちを落ち着けるとレオナルドに質問をした。


「それでレオ。カイトさん達は何をして捕まったの?」

「フッ。密輸です」

「密輸?」

「ロコゴンドル王国に武具を密輸しようとして現行犯で捕まりました」

「そんな……」


レオナルドの口から出た信じられない言葉に混乱をする、セリーヌ。

密輸だなんてセレスティア王国では重罪であることはわかっていたはず。

なのに密輸に手を出すなんてカイトさん達に何があったのだろうか。

カイトさんは危なっかしいところがあるけれど犯罪に手を染めるような人物ではない。

いつも冷静に状況を分析して的確な判断をするはずだ。

だから密輸をして捕まったなんて信じられない。

レオナルドがセリーヌをからかうために嘘を言っているのか。

セリーヌの中に不安と疑問が広がって混乱をさせていた。


「レオ。冗談はいいわ。本当のことを言って?」

「これは真実ですよ。カイトさん達はセレスティア王国の監獄の中にいます」

「じゃあ、何でカイトさん達は密輸に手を出したのかを教えて?」

「調書によればお金を稼ぐためだったようです。おそらくカイトさん達は私が立て替えた借金を返そうとしていたのだと思いますよ」


カイトさんならそう判断してもおかしくはない。

レオナルドに借りを作っていることが許せなかったのだろう。

だからと言って密輸に手を出すなんて――。


セリーヌは頭を抱えながら目の前の現実に絶望する。


「それでカイトさん達はどうなるの?」

「密輸は重罪です。処刑は免れないでしょう」

「レオ、お願い。カイトさん達を助けて」

「それは私でも出来ませんね。処分を緩めると他の者達に示しがつきませんからね」


自分が言っていることが無理なことであることはわかっている。

刑罰を緩めれば秩序が保たれなくなる恐れがあるからだ。

ただ、今のカイトさん達を救えるのは自分だけしかいない。

だから何としてでもカイトさん達を助けなければならないのだ。


「レオ。何でも言うことを聞くわ。だからせめてカイトさん達だけは助けてあげて」

「何でも?」

「レオの望むようにするわ」

「――わかりました。カイトさん達のことは私に任せてください。刑罰を軽くさせるように上の者にはたらきかけてみます」

「お願いよ」

「それより私が望むようにする約束は忘れないでくださいよ」

「わかってるわ」


レオナルドの要求はわかっている。

私と結婚をして服従を誓わせることだ。

レオナルドの良き妻としてレオナルドを支え、子供を作って立派に育てる。

すべてはプシュムル家の繁栄のため。

しいてはレオナルドの地位向上のためなのだ。

レオナルドの野心は深い。

ただの参謀だけで終わらせようとは思っていない。

願わくは国王の右腕となってセレスティア王国を影から支配するつもりでいる。

レオナルドの『知略設計』をもってすれば造作もないことだ。

ただその野心がセリーヌにとっては一番の恐怖だった。


レオナルドはいつかしくじって失敗するだろう。

その時にセリーヌは良き妻としてどう支えるのか。

クリスタ家を滅亡させないためにも自分が立ち上がらなければならない。

レオナルドが影からセレスティア王国を支配するのならば自分は影からレオナルドを支配する必要がある。

それがクリスタ家を守る最後の手段なのだ。


「セリーヌ」

「何?」

「式を楽しみにしていますよ」

「――わかってるわ」


レオナルドは優しい目でセリーヌを見つめると部屋を後にした。

その背中を見送りながらセリーヌはカイトさん達のことを慮った。

まずはカイトさん達の身の安全を確保することが必要なのだ。

自分のことはその後でも構わない。

カイトさん達が無事であるならば――。


それは愛する者を思う純粋な気持ちだった。

セリーヌは間違いなくカイトのことを愛している。

だからこそ身を削ってでも助けたいのだ。

セリーヌは大きな決意と小さな後悔を抱いたのだった。


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