あるある083 「おいしい話に乗っかりがち」
セレスティア王都の港に戻ると人だかりが出来た。
ツインヘッドシャークが港に上がるのは珍しいらしく一見しにやって来たのだ。
シーボルトはどうだと言わんばかりに得意気に振る舞っている。
こんなボロ船でもツインヘッドシャークを狩れるんだぞと言いたいみたいだ。
普通、ツインヘッドシャーククラスの大物を狙う場合は中型船を使う。
ツインヘッドシャークの馬力に対抗できる力と負荷に耐えられる強度が必要になるからだ。
それをイエローキャットでこなしたシーボルトの腕は確かと言うもの。
見物に来ていた人達もシーボルトの船を見て驚いていたくらいだ。
「重さは……1tか。なかなかの大物だな」
「で、この後、どうするんだ?」
「もちろん解体するのさ」
シーボルトは吊り上げたツインヘッドシャークを叩きながら軽く言ってのける。
しかし、解体するって言っても、こんな大物じゃあ苦労するだろう。
肉厚だし、剣を弾き返す皮を持っているんだ。
普通の解体包丁じゃ歯が立たないだろう。
もしかして電動のこぎりを使うのか?
俺の不安を消すようにマシューが告白をした。
「解体なら僕に任せてください。僕の特殊能力は『解体術』ですから、これくらいなんてことないですよ」
マシューは鼻を高くしながら得意気に胸を張ってみせる。
マシューの言った『解体術』とはその名の通りモンスターを解体する能力だ。
解体すると言っても出鱈目にするのではなく、魚を三枚に下ろすかのように鮮やかに捌くのだ。
それは海のモンスターに限ったことではなく、陸のモンスターにも対応している。
モンスターは綺麗に解体出来ると部位ごとに取引出来る。
なので、解体出来る人物を仲間に入れておくととても便利なのだ。
「それにしてもこんな硬い奴をどうやって捌くんだ?」
「これを使うんですよ」
そう言ってマシューが取り出したのは予想通り電動のこぎり。
頭と胴体を切り離す時に骨を切断しなくてはならないので必須のアイテムなのだそうだ。
電動のこぎりの出番はそれくらいで後は解体包丁を使って捌くらしい。
シーボルトは吊り上げていたツインヘッドシャークを地面に寝かせる。
すると、さっそくマシューが解体作業に入った。
「まずは頭を落とします」
マシューは電動のこぎりのスイッチを入れてツインヘッドシャークの後頚部に当てる。
そして勢いのままツインヘッドシャークの肉を裂いて行った。
切られた部分から細かくミンチされた肉が辺りに飛び散る。
その光景だけ見ていると死体を解体する危ない博士のようだ。
ウィーンと軽快な音を立てながら電動のこぎりは深く入って行く。
すると、ガガガと鈍い音を立てながら電動のこぎりが鈍くなった。
「今、ちょうど首の骨を切断しているところです」
音だけ聞いていると石を切っているかのようだ。
実際のツインヘッドシャークの骨も石のように硬いのだから。
まあ、それだけ硬いってことは武器や防具の素材としては一級品だと言うこと。
武器屋の店主から頼まれたのは牙と鰭だけど、骨も持って行ってみるのもいいだろう。
電動のこぎりの音が止まるとマシューがほっと安堵したように笑みを浮かべる。
「これで頭の切断は終わりです。では、次は鰭の切断をします」
背鰭も鰭も硬いので電動のこぎりを使うようだ。
まずはツインヘッドシャークの体に切れ目を入れて目印をつける。
背鰭部分はとくに固いので何度も解体包丁を入れながら溝をつくる。
そして、その後で目印に沿いながら電動のこぎりを入れるだけ。
マシューは手慣れたように鮮やかに鰭を削ぎ落して行く。
「うまいな」
「魚を捌く時と要領は変わりませんからね。これでよしっと」
ツインヘッドシャークの胴体から鰭と背鰭が取り除かれる。
これだけ見ると魚屋で見る姿と何ら遜色がない。
頭が着いていた時を考えればだいぶ違って見える。
「最後に胴体を三枚に下ろします」
まず、マシューは腹側に解体包丁を入れて切り込みを入れて行く。
一度では捌けないので重ねるように何度も包丁を入れながら切り離す。
ある程度まで切り開いたら背骨を感じるように解体包丁を入れて行く。
魚を捌く時のコツと同じようにするのがいいらしい。
マシューは繰り返し解体包丁を入れて片側の身を切り離した。
「身は白いんだな」
「ツインヘッドシャークはマグロのような回遊魚でないから身が白いんですよ」
マグロのような回遊魚は常に泳いでいるのでより酸素が必要になる。
そのため筋肉が発達して身が赤くなるそうだ。
詳しいことはよくわからないが仕組みは他の魚と同じだとのこと。
モンスターと言えども魚に部類されるから仕組みも似て来るのだろう。
その間にマシューはもう片側の切り身を捌いていた。
「これで三枚下ろしの完成です」
「見事な手捌きだ。さすがは俺の弟子だな」
「解体したのはいいけれど、これをどうするんだ?」
「切り身は市場に卸せばいい。頭は牙を外してから処分だ。骨は周りの肉を削いでから武具屋へ持ち込む。鰭と背鰭も皮を剥いでから武具屋行きだ」
「まだ下処理が残っているんだな」
「それは僕がやりますから安心してください」
マシューはなんていい奴なんだ。
自ら進んで大変な仕事をしてくれる。
報酬が少なくても文句も言わないし、よく働くし。
シーボルトの弟子にしておくのは勿体ないくらいだ。
後でマシューに仲間にならないか誘ってみるのも手だろう。
解体師がいれば何かと役立ちそうだからな。
「なら、マシュー。ここはお前に任せたぞ。俺達は切り身を市場に卸して来る。カイト、手伝ってくれ」
俺達は力を合わせて切り身を持ち上げ台車に乗せる。
さすがに5メートルもある切り身だ。
重さもそれなりになる。
台車は馬で引く特注のものを使って市場まで切り身を運んで行く。
一度に運びきれないのでもう片方は後で運ぶことにした。
市場は港の中にあってたくさんの仲買人達が競りをしていた。
並べられてある魚介類は今朝、水揚げされたもばかり。
どれもこれも新鮮でまだ生きているものまであった。
俺達がツインヘッドシャークの切り身を持ち込むと一同に視線を集めた。
中々、市場には並ばない代物だけに仲買人達の関心を惹きつけたようだ。
ツインヘッドシャークの切り身はさっそく目方を図り初値がつけられる。
初値は銀貨1枚にもなった。
そこから仲買人達が競りをして言って値がつり上がって行くのだ。
それで最終的に買い取られた値は銀貨5枚だった。
切り身ひとつで銀貨5枚だから2つで金貨1枚にもなる。
クエストの報酬よりも破格な値がついて十分満足出来るものとなった。
「マシュー、作業は終わったか?」
「見てください。この通り完成してます」
「さすがは俺の弟子だ。よくやった」
シーボルトの称賛の言葉にマシューは感無量な表情を浮かべる。
航海の時はシーボルトに怒られてばっかりいたから余計に心に刺さったのだろう。
俺の知らない間にシーボルトとマシューの間に深い絆が生まれているようだった。
いっしょにいる時間が絆を深めると言うがシーボルトとマシューは航海をはじめてからずっと一緒だったからな。
よりお互いを信頼し合えたのだろう。
「それじゃあ次は武具屋へ行くぞ。約束の品を届けないとな」
「牙と鰭はともかくとして骨は別売りした方がいいんじゃないのか?あの店主ならば買ってくれると思うぞ」
「それもアリだな。よし、骨は買いたたいてみよう」
俺達はツインヘッドシャークの牙、鰭、骨を持って武具屋へ向かった。
武具屋では話を聞きつけた店主が喉から手が出るように待ち構えていた。
港にツインヘッドシャークが上がった噂話を聞いて準備をしていたようだ。
俺達が武具屋に入ろうとするとわざわざ店主がドアを開けて出迎えてくれたぐらいだ。
「約束の品は持って来たぞ」
「ほう、こいつは素晴らしい。肉を食いちぎるような鋭い牙、鉄を弾き飛ばす堅牢な顎骨。どこをとっても見劣りしない。それに鰭もいい出来だ。これならばいい釣り糸が出来そうですね」
店主はカウンターに乗せられた牙と鰭を舐め回すように眺めながら満足気な顔を浮かべる。
それを確認するとシーボルトがマシューに合図をした。
「マシュー。あれを持って来い」
「何ですか?」
「ついでにこれを買い取って欲しい」
マシューが店主の前にツインヘッドシャークの背骨を差し出す。
すると、店主は目を輝かせながら背骨に釘付けになった。
「ほう、これは見事な背骨だ。これだけあれば上等な武具が作れますね」
「金貨3枚で譲ってやるぞ」
「随分と足元を見て来ましたね。ですがが、まだまだです」
「ふん。仕方がない。金貨1枚にしてやる」
「取引成立ですね」
シーボルトと店主の競りは店主に軍配が上がった。
まあ、背骨が売れるなんて棚ぼたなようなものだから金貨1枚に変わっただけでも上等だ。
俺達はツインヘッドシャークの背骨と金貨1枚を交換をすませて武具屋を後にする。
その時、武具屋の店主からちょっと待ったの声が掛かった。
「あなたがたの腕を見込んで頼みたいことがあるのですが」
「頼みって何だい?」
「実は今度、ロコゴンドル王国へ武具を卸すのですが、セレスティア王国の領海を出るまで護衛をして欲しいのです」
「ロコゴンドル王国への武具の納入は禁じられているはずだろう?それを何で?」
「これの為です」
そう言って武具屋の店主は手で金のマークを作る。
金のためなら何でもするだなんて死の商人のようだ。
ロコゴンドル王国とは経済的な協力はしているが武具類の取引は禁じられている。
武具を供給すればロコゴンドル王国の軍事力を強化させることに繋がるだけにどの国も避けているのだ。
とりわけ独裁国家であるロコゴンドル王国なら何をするかわからないからな。
それだけに武具屋の店主が薦めて来た依頼は密輸そのものだ。
そんな危険を冒してまですることでもない。
俺は断固として断りを入れた。
「密輸には協力出来ない。他をあたってくれ」
「そうですか。残念ですね。たんまりと報酬を用意していたのですが」
「報酬っていくらだ?」
報酬と言う言葉を聞いてエレンが武具屋の店主の胸ぐらを掴みあげる。
すると、武具屋の店主はニンマリと笑みを浮かべながら答えた。
「金貨10枚です」
「金貨10枚だと!マジか!」
金貨10枚と聞いてエレンの目が輝き出す。
そして俺を見つめながら訴えかけて来た。
確かに金貨10枚ももらえたらレオナルドの借りを減らせる。
しかし、密輸に手を染めるなどあってはならないことだ。
なにせ俺は勇者になる男だからな。
社会の秩序に反することはしてはいけない。
「エレン、諦めろ。俺は密輸なんてしないからな」
「何を言っているんだ、カイト。金貨10枚もあればたらふく酒が飲めるだろう。こんな美味しい話をみすみす捨てるつもりか?」
お前には酒しかないのか。
冷静になれ。
密輸で捕まったら処刑されるんだぞ。
お前にはニケがいるんだ。
そんなことで先だってどうするつもりだ。
「金はクエストをこなして稼げばいい。そんな危険を冒す必要はない」
「何か硬いことを言っているんだ。金貨10枚を稼ぐのにどれだけのクエストをこなせばいいと思もっているんだ。こんな美味しい話は他にはないぞ」
「お前が欲しいのは酒だろう。なら、セリーヌに頼んで上級の酒を用意してもらえばいいじゃないか」
「はー。わかっていないな、カイト。酒ってのはな自分で稼いだ金で飲むのが一番うまいんだよ」
エレンはおでこに手をあてながら呆れ顔を浮かべる。
エレンからそんな言葉が出るとは以外だ。
エレンのことだから”タダ酒が一番うまい”と言うかと思っていたぞ。
どう言う心境の変化だ。
この旅で改心でもしたと言うのか。
「お前にしてはまともなことを言うじゃないか」
「私は酒好きだが一番うまい酒を求めているんだ。同じ酔うにしても一番うまい酒を飲んだ方がいいからな」
「同じ酒好きとしては同感だ」
以外にもシーボルトがエレンの意見に賛同して来る。
シーボルトもエレンに負けずに酒飲みだ。
航海に出る時は欠かさず酒を用意している。
マシューが心配するほど酒を飲んでいる状況だ。
それだけどアルコール中毒にはなっていない。
ただ、エレンと同じように水がわりに酒を飲むってタイプだ。
「カイト。密輸船の護衛らならば俺が船を出してやってもいい」
「本気で言っているのか、シーボルト。犯罪を犯すことになるんだぞ」
「危ない橋を渡るのが俺のポリシーだ。平穏無事な航海ほどつまらないものはないからな」
「僕は反対です。船長が犯罪に手を染めることをみすみす見過ごすことは出来ません。僕は船長に憧れて弟子になったのです。いつまでも憧れられる船長でいてください」
「マシュー……」
マシューの涙ならぬ本音を聞いて我に帰る、シーボルト。
こんなにも慕ってくれる弟子の言葉を無視することは出来ないだろう。
無視でもしようものならば冷酷非道で大馬鹿者の船長となってしまう。
さすがのシーボルトもそこまで馬鹿ではないだろう。
それにマシューははじめての弟子なのだ。
初弟子をないがしろにすることは出来ないはずだ。
「シーボルトは折れたぞ。反対しているのはエレンだけだ」
「ったく根性のない奴だな。お前はどう思うんだ?」
エレンは傍で話を聞いていたマリーナに問いかける。
「私は依頼を引き受けていいと思っている。確かに密輸は犯罪だが社会の裏を知っておく必要もある。勇者を目指しているのならば、きれいごとばかりに気をとられていても仕方ないぞ」
「ほらみろ。こいつも賛成しているぞ」
「マリーナ。本気で言っているのか?」
「もちろんだ」
マリーナは真剣な眼差しで俺を見つめる。
その瞳からも偽りを言っているようには見えない。
確かに勇者を目指す者が表社会ばかりに気をとられても仕方ない。
世の中の裏を知ってこそ正しい道が選べると言うもの。
正義と言うのは立場によって変わって来るものだ。
仮に敵対する国同士があったとしてもどちらも正義を掲げて戦っている。
だからどちらの正義が正しいのかは誰にも決められない。
そんな中で勇者はより多くの民を救うために立ち上がる必要があるのだ。
「カイト、どうするつもりだ?」
「俺は……」
ここで俺がどう決断するかでみんなの運命も変わってしまう。
カイト軍団のリーダーとしてはみんなに危険な目を合わせられない。
かと言って裏の世界を知れるチャンスを逃すのも惜しい。
俺は勇者になる男だ。
ならば自然と答えが出て来る。
後は俺の決断次第だ。
「わかった。依頼を受けよう」
「マジか!ハハハ。さすがはカイトだな。そうでなくちゃ面白くない」
エレンは俺の肩に手を回して嬉しそうに笑みを浮かべる。
「話はまとまったようですね。密輸船は明日の早朝に出航予定です。他の船と見分けるために×印の旗を掲げています。ロコゴンドル王国の領海まで護衛をしてくれれば大丈夫です。任せましたよ」
「任しておけ。その代り報酬は用意しておけよ」
武具屋の店主の依頼を正式に受けて俺達は武具屋を後にした。
その日の夜。
俺はベッドの上で昼間の決断を後悔していた。
「あの時はエレン達に追い込まれていたし、マリーナのひと言で決断してしまったけど、早まった決断だったのかもしれない」
捕まれば間違いなく処刑だ。
とりわけセレスティア王国は密輸に目を光らせている。
港の警備も厳しいだろう。
もし、仮に俺達が捕まりでもすればセリーヌはどう思うだろうか。
セリーヌのことだから身を投げ出して俺達を助けようとするはずだ。
「やっぱり俺の決断は間違いだったかな……」
レオナルドに掛け合って助けるよう懇願するかもしれない。
そうなればレオナルドのいいようにされてしまう。
レオナルドのことだから結婚を条件にセリーヌに迫るはずだ。
そしてセリーヌはレオナルドの要求を受け入れる。
頭の中でシュミレーションしても悪い方向にしか考えが及ばない。
「今からでも遅くない。武具屋へ行って断って来よう」
俺はベッドから飛び起きて客間の扉を開ける。
すると、扉の前でエレンが酒瓶を持って立っていた。
「カイト、乾杯をしようぜ」
「俺、ちょっと用事があるから」
「こんな夜更けにどこへ行くつもりだ?」
「夜風にあたって来るだけだよ」
エレンは疑いの眼差しで俺を見つめると鋭いツッコミを入れる。
「まさか、依頼を断るつもりじゃないだろうな」
「俺なりに考えた結果なんだよ」
「ここまで来て逃げるつもりか。カイトは勇者になりたいんだろう?」
「勇者になりたいけれどお前達に危ない橋を渡らせる訳にはいかない」
これはリーダーとしての決断なんだ。
俺は間違った判断をしていない。
すると、エレンが俺の顔に顔を近づける。
そしてじっと俺の目を見つめながら本心を見抜いた。
「カイトはセリーヌのことを考えているだろう。もし、私達が捕まったとしたら仲間であるセリーヌの身も危うくなる。そうなったら間違いなくセリーヌも処罰されるはずだ」
「そうだよ。お前の言う通りだ。だから俺はセリーヌに迷惑をかけたくないんだ」
「馬鹿だな、カイトは。セリーヌは女なんだぞ。女ってやつは好きな者のためなら何でもするんだ。カイトの決断を否定はしないぞ。逆に応援してくれるはずだ」
「セリーヌはそんなに馬鹿じゃないよ。犯罪に手を染めようとする俺を止めるはずだ」
それに今は微妙な時期なんだ。
数週間後にレオナルドとの結婚が控えている。
そんな時に揉め事でも起こればセリーヌの立場が危くなるだろう。
噂によればクリスタ家はゴーツォがあんな状況だから立場が危いそうだ。
だから力のあるプシュリュム家と関係を持ってお家存続を狙っているらしい。
そのことはセリーヌも心得ている。
だから、レオナルドの要求を受け入れたんだ。
「これだからガキは困るんだ。屁理屈ばかりを並べて自分を正当化しようとする。そんなんじゃいつまで経ってもセリーヌといっしょになれないぞ」
「べ、別に俺はそこまで考えていないよ」
決めるのはセリーヌなんだ。
俺じゃない。
だから俺に出来ることはこれくらいなんだ。
セリーヌに迷惑をかけないようにするのが一番だ。
「素直じゃないな、カイトは。呆れるぜ。だけど依頼は受けるからな」
俺とエレンの口論は夜更けまで続いた。
時を同じくして。
マリーナは宿屋の一室で男達と密会をしていた。
テーブルの上には酒の入ったグラスが3つ並べられてある。
「その後の状況はどうだ?」
「明日の早朝、武器の密輸船の護衛をすることになった」
「ロコゴンドル王国行きか?」
「そうだ」
マリーナの正面に座っていた男はニンマリと笑みを浮かべる。
「これはチャンスだ。密輸ともなれば処刑は免れない。確実に拿捕しよう」
「私の身の安全は確保してくれるのだろうな」
「それは抜かりない。お前は私達の指示に従えばいいのだ」
「……」
正面に座っていた男の言葉に不信を抱いていたマリーナは黙り込む。
ただの使いっぱしりにさせられる恐れもあるからだ。
こいつらとの関係は金の繋がりでしかない。
だから、いつ裏切られてもおかしくないのだ。
「それよりこれまでの報酬をくれ」
「いや、まだ報酬はやれないな」
「あいつらに関する情報を与えたのだぞ。ならば、それに対する対価をよこせ」
「あの方からは暗殺を命じられているんだ。それを達成するまでは報酬は渡せない」
こいつらもただの馬鹿じゃないようだ。
密命としての役割は叩き込まれているらしい。
ここで粘って金を要求するよりも今はこいつらとの関係性を重視した方がいい。
あくまでこいつらの使者としての役割を信じこませなければ自分の立場が危くなる。
「まあ、いいだろう。出航は明日の早朝だ。場所はロコゴンドル王国領海。準備は怠るなよ」
「言われるまでもない」
男達はグラスの酒を一息で飲み干すと宿屋を後にした。
その背中を2階から見送りながらマリーナは覚悟を決める。
この作戦を遂行するためには非情になる必要があるのだ。
なんて言ったって人をひとり暗殺するのだから。




