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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第三章 帰郷するおばさん編
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あるある074 「肝心な時に酔いつぶれていがち」

近づいてみるとワントレッド号がただならぬ状態に陥っていたことがわかった。

船腹には大きな穴が開いて海水が浸水している。

そればかりか船べりは大きく捻じ曲げられて船体に亀裂が入っていた。


「これは嵐のせいなのか?」

「わからない。ただ、ただならぬ力がかかったことだけはわかる。乗船して船を調べてみよう」


シーボルトは船をワントレッド号に横付けする。

そしてロープをワントレッド号の甲板にかけるとスルスルとよじ登って行った。


「よし、いいぞ。上がって来い」


俺達はシーボルトが用意した縄梯子を登って行く。

エレンは眠っていたので船室に残して来た。


「酷い有様だな」

「海賊に襲われたのでしょうか?」

「これは人の力で成せる技じゃない。もっと強大なものによってだ」


シーボルトの見立てではクラーケンではないかと言う。

クラーケンは海に生息している巨大なイカのモンスターだ。

全長が50ⅿほどあり普段は海底に潜んでいる。

時々、海面に現れては航海している船を襲うらしい。

それはヤナックの街のギルドでも情報を得ていた。


「人のいる気配がないな。まさか全滅させられたのか?」

「わからない。カイト達は船室を探してくれ。もしかしたら生き残りがいるかもしれない。俺はエンジン室へ行って替えのパーツを入手してくる」

「わかった。セリーヌ、行くぞ」


俺達とシーボルトは別々の目的地へ向かった。

船室は船の中腹に設置されていて、エンジン室はその下にある。

船室まで海水が流れ込んでいて今にも沈没してしまいそうな状態だった。

俺とセリーヌは大声で呼びかけながら船室をひとつひとつ見て回る。


「おーい、誰かいるか!いたら返事をしろ!」

「誰かいませんかー!救助をしに来ましたよー!」


しかし、虚しくも俺達の声は廊下に響くばかりで返事は返って来なかった。


「誰もいないようですわね」

「これだけの大型船なんだ。誰かひとりくらい残っているだろう。もう少し探してみよう」


俺とセリーヌは船室の中をくまなく探し回った。

ベッドはシーツがめくれていて今まで人が眠っていた形跡が残っている。

タンスの中にも皺の入った制服が掛かっていて少し生温かかった。


「人がいなくなってからまだ時間が経っていないようだな」

「みなさんクラーケンに殺されてしまったのでしょうか」

「そう考えるのが妥当だな。50mクラスの化け物なんだ。みんな食われたのかもしれない」


大型船をへし折るだけの力を持っているんだ。

冒険者達が束になったって敵わないだろう。

あいにく貿易船には海賊対策のために冒険者が雇われている。

これだけの大型船になればおよそ30名ぐらいはいたはずだ。

けれど、ひとりも残っていないところを見ると全滅したと予測できる。


「これで船室は全部見たな」

「この奥は倉庫のようですよ」

「倉庫か。期待はしないが中を見てみよう」


俺は重い鉄扉を開けて中に入る。

倉庫の中には食料の入った木箱と小麦の入った袋が所狭しと並んでいた。

天上からは干し肉が塊のままぶら下がっている。


「おい、誰かいるのか?」

「……」


一応呼びかけてみるが返事は返って来ない。


「ここにもいないようだ。仕方がない食料を運び出すぞ」

「わかりましたわ。トイプーちゃんはどいていてください」


セリーヌは床にトイプーを置くとトイプーが倉庫の奥へ駆けて行った。

そして、「ワンワン」とけたたましく吠えながら俺達を呼ぶ。


「何か見つけたのか?」


俺達がトイプーの所へ向かうと倉庫の隅で震えている船員の姿があった。

船員は犬が嫌いなのか青い顔をしながらトイプーを追い払っている。


「お前は誰だ?」

「僕は船員のマシューだ。それよりそいつをどこかへやってくれ」


セリーヌはトイプーを抱きかかえると船員から遠ざかる。


「ふー。助かった」

「他の奴らはどうした?」

「みんなクラーケンに殺られたよ」

「やっぱりクラーケンの仕業だったか……」


はじめから予想はしていたが改めて聞くと恐怖が湧いて来る。

これだけの大型船を破壊して船員達を皆殺しにしたのだ。

恐怖を覚えない方がおかしいだろう。


「それでお前は何で生き残れたんだ?」

「僕は食事係でクラーケンに襲われる前に倉庫へ食料を取りに行ったんだ。そしたら急に倉庫の扉が閉まって閉じ込められたんだ。中は真っ暗だし扉は空かないしで困っていたら、他の船員達の悲鳴が聞こえて来た。それと同時に船が大きく揺れはじめて水が浸水して来たんだ。僕は恐ろしくなって倉庫の隅でひとり震えていたんだ」


マシューは運よく助かったと言う訳か。


「で、それはいつぐらいの話なんだ?」

「正確な時間はわからなけいど、あれから30分は経っていると思う」


だとするならばまだクラーケンはこの海域の近くにいることになる。

海の底に潜んで救助にやって来る船を待ち構えているのかもしれない。


「こうしてはいられない。マシューも食料を運ぶ手伝いをしてくれ」

「君達は救助にやって来たのか?」

「俺達はたまたま近くを通っただけだ」


俺の言葉にマシューはがっくりと肩を落とす。


「そうがっかりしないでください、マシューさん。あなたは助かったのですから」

「助かったって?あなたはそんな風に思っているのか。クラーケンはまだ近くに潜んでいるんだぞ。僕達だってクラーケンに殺されてしまうよ」

「グダグダ言っている暇があるなら手伝え」


マシューは倉庫の隅で小さく丸まりながら震えている。

その目には希望の光はなく絶望しか映っていないようだ。

まあ、それも仕方がない。

仲間達がクラーケンに殺されてしまったのだから。

俺だってマシューと同じ立場に立たされたら絶望に支配されていたはずだ。

だが、ここでしょ気ていても何も変わらない。

みすみすクラーケンに殺されるのを待っているようなものだ。

生き残ったのならば生き残った者として立ち上がらなければならない。

殺された仲間のためにも自分が生き残ることが大事なのだ。


「マシュー。お前は生き残ったんだ。ならば助かる使命がある」

「使命?」

「そうだ。殺された仲間のためにもお前は生き残る必要があるんだよ。生き残って無事に街へ戻って船員の家族達に報告するんだ。みんな勇敢に戦って亡くなったとな」

「……わかったよ」


俺の言葉に納得したのかマシューは頷いておもむろに立ち上がった。


「カイトさん、立派です。見直しましたわ」

「このくらいあたり前だよ。それよりも船が沈む前に食料を運び出すぞ」


俺達は運べるぐらいの食料を手にして甲板へ向かった。





エンジン室へ向かったシーボルトはパーツを手に入れた後、操舵室で調べごとをしていた。

ワントレッド号の航海記録を調べてどういうルートを通って来たのか割り出すために。

自分達と同じように嵐に巻き込まれていたのだから航路の変更は余儀なくされたはず。


「俺達の船よりもだいぶ北を通って来たようだな」


風速計から風向きと風の強さを。

羅針盤からは現在の方角を。

海洋地図に落とし込んで現在の位置を割出した。


「今いる位置はヤナックの街から直線で北東に500㎞行った海域だ。ここから北へ10000㎞進むとロコゴンドル王国の領海に入る」


予想よりもだいぶ北に流されていたようだ。

ワントレッド号のような大型船でも流されるくらいだから嵐の強大さがわかる。

今も殴りつけるような暴雨と暴風がワントレッド号を襲っている。


「セレスティア王国までは南東に1500㎞進まなくてはならない。今の嵐の中心がこの辺りだとするならば後、100㎞進めば嵐を切り抜けられるはずだ」


しかし、このまま進んで良いものか判断に迷う。

ワントレッド号はSOS信号を出したはずだ。

一番近いヤナックの街から救援隊が派遣される。

救援隊が到着する前にはワントレッド号は沈没してしまうだろう。

ならば第一発見者である自分達が残って報告をするのが筋だ。


「この嵐をやり過ごすことは難しい。ワントレッド号のような大きな船ならまだしも、イエローキャットは小型船なのだ。後ろ髪を引かれるが今は自分達の安全の方が大事だ」


シーボルトは苦渋の決断をするとカイト達と合流した。





その頃、エレンはひとり夢の中にいた。

すっかりアルコールが回って爆睡中。

それでも船は荒波にもまれて大きく揺れている。

右へ左へとエレンは寝返りをうつ。


「ううん……。うううん……」


そして一番の激しい揺れが押し寄せて来た。

船はバウンドするように上下に激しく揺れる。

その勢いでエレンは床に投げ出されてしまった。


「うぅぅ……何だ?」


虚ろ気な目で辺りを見回す、エレン。

だけど現状を理解できなくて困惑する。

これが現実なのか夢なのか判断できないでいる。

すると、激しい頭痛と吐き気が襲って来た。


「うぅぅ……頭が……。それに気持ち悪い」


エレンはもつれる足を前に踏み出して船室を出て行く。

それを遮るかのように船は大きく揺れる。

エレンは何度も壁に打ちつけられながらやっとの思いで甲板へ出る。

そして船べりを掴むと海へ向かって嘔吐をした。


「ウエーッ。ウエーッ。ゲホゲホゲホ」


胃袋の中にあったものがキラキラとなって海へ吐き出される。

疑似餌でも撒いたかのように海面にキラキラが漂っていた。

これをエサに魚が寄って来るかもしれないと頭の片隅で思いながら……。


「ふー。だるい……」


胃の中を空っぽにしたエレンは大きく息を吐く。

しかし、頭がすっきりせず気怠さに襲われていた。

それは高熱を出した時の風邪の症状に似ている。

気力がぜんぜん湧かなくて体には力も入らない。

ただぼーとする思考回路の中で何とか現状を理解しようとしていた。


「カイト―!セリーヌー!どこへ行ったー!」


力を振り絞って叫んでみるが雨音と風音にかき消されてしまう。

荒波にもまれて全身はすっかり海水まみれ。

冷たい雨と風で体温が徐々に奪われて行く。

エレンはその場で小さく丸まりながら、しきりにカイト達を呼んだ。

しかし、返事は返って来ない。


「あいつら私をおいてどこへ行きやがった……」


目の前には穴の開いた大きな船がある。

船の縁にかけられている縄梯子は風に揺れていた。

エレンは顔を上に上げて大きな船を見つめる。

そして縄梯子を掴むとよじ登りはじめた。


「捕まえて文句を言ってやる」


そんなエレンとは裏腹に叩きつけるような暴風が吹き荒れる。

その度にエレンは大きく舞い上げられて船腹に激しく叩きつけられた。


「くぅ……」


雨で縄梯子は滑りを増していてエレンの足をとる。

エレンは必死に両手で縄梯子に捕まりながら暴風をやり過ごす。

しかし、激しい突風に襲われて海に落下してしまった。


海の中は思いのほか穏やかに流れている。

海上の激しさを忘れさせるかのような状況だ。

それでも海流はいつもよりも増して激しく流れている。

エレンは必死に泳ぎながら海面へ顔を出した。


「ぶはっ。うぷっ。ハアハアハア」


荒波が容赦もなくエレンに襲いかかる。

その度に海水が口の中に入り呼吸が塞がれた。


「くっ。流されている」


海流はエレンを引きずり込むようにシーボルトの船から遠ざけて行く。

エレンは必死に泳ぎながら抵抗する。

だけど、もがけばもがくほど海流に流されて船から遠ざかってしまう。

そればかりでなく冷たい海水に体温を奪われてしまう始末。

このまま漂流していたら間違いなく低体温症で死んでしまうだろう。

エレンの頭の中に『死』と言う文字が横切る。

それは今までに感じたことのない恐怖と後悔が重なり合ってエレンを追い詰める。

同時にニケの笑顔が脳裏に浮かんだ。


「ニケ……。私はいい母親でなかったな。だが、世界で一番お前を愛していたぞ。それだけははっきりと言える。また会うことが出来たらしっかりと抱きしめよう。二度と離さないように……」


力を失ったエレンは徐々に海中へと沈んで行く。

そこへ浮き輪がひとつ投げ込まれた。


「おい、エレン!それに捕まれ!」


不意に船を見やるとカイト達が必死に叫んでいる姿が見えた。

大声を出しながらエレンに声援を送っている。

エレンは力を振り絞って投げ込まれた浮き輪に捕まる。

しかし、手が滑って浮き輪から離れてしまう。

すると、誰かが海に飛び込んだ。

その後のことは覚えていない。

気がついた時にはシーボルトの船のベッドに横になっていた。


「おい、エレン!大丈夫か!」

「うぅぅ……カイトか。私は助かったのか?」

「そうだ。お前は助かったんだよ」

「さ、寒い……」


体はすっかり冷え切っていて指先まで冷たくなっている。

代わりにセリーヌがエレンの体に掛けてある毛布の上から激しく撫でていた。


「エレンさん、もう大丈夫ですからね。カイトさん、温かいミルクをお願いします」

「ああ、わかったよ」


カイトが船室を出て行くとセリーヌは服を脱ぎはじめた。

そして裸になるとエレンの横に寝ころんでエレンを抱き締めた。


「お、おい。セリーヌ?」

「こうした方が早く温まるんです」


セリーヌの柔らかい肌から温かな体温が流れ込んで来る。

それは母親のお腹にいた頃に感じた穏やかな感触だ。

春の木漏れ日の中で居眠りをしている猫のような穏やかな気持ちで。

ついさっきまで感じていた死への恐怖はどこにも見当たらなかった。

今はただセリーヌの温もりに包まれながら穏やかに眠っていたい。

そう素直に思えるような幸せな時間だった。





「お、おい!お前ら何をやっているんだ!」


俺は目の前の光景に素っ頓狂な声を出す。

顔を真っ赤にさせながらあたふたと動揺していた。

見てはいけないものを見てしまった時のような驚きだ。


「人肌で温めた方が早くよくなるんです」

「だ、たけどな!そんな風に二人で裸で抱き合ってたら誤解するだろう!」

「カイトさん、お下劣過ぎますわ。私とエレンさんがそんな関係だなんてあり得ません」


セリーヌはムッとしながら強く否定する。

しかし、この光景を見たら誰もが誤解するだろう。

なんて言ったって裸になって抱き合っているのだから。

それだけではない。

セリーヌは激しく体を上下に動かして胸を押しつけている。

それに二人とも呼吸を荒げながら感じているじゃないか。

これを変態プレイと見ないヤツの方がおかしい。


「何だよ、カイトも交じりたいのか?」

「そんな訳あるか!二人とも服を着ろ!」


俺はエレン達に背を向けてキツク注意を入れた。

おばさんの変態プレイを見せられて誰が興奮すると言うのだ。

ここはラブホテルじゃないのだぞ。

場をわきまえろってんだ。


「おい、カイト。エレンの具合はどうなんだ?」

「シーボルト、こっちは大丈夫だ。もう、大丈夫だ」

「そうか。なら、よかったよ。それより急いでここから離れるぞ」


俺はシーボルトに見えないように船室を隠しながら誤魔化す。

その後ろでエレンとセリーヌは着替え中だった。


「エンジンはもういいのか?」

「応急処置に過ぎないがセレスティア王国までは持つだろう。マシュー、手伝ってくれ」

「わかりました」


シーボルトはマシューを連れて操舵室へ向かう。

いつの間にかマシューはシーボルトの弟子のようになっていた。

まあ、ワントレッド号の船員をやっていたのだ。

役に立たないことはないだろう。

すると船のエンジンがかかって動きはじめる。


「おい、お前ら着替えは終わったか?」

「大丈夫ですわ」

「問題ない」

「それじゃあ俺達も操舵室へ向かうぞ」


俺はエレン達を連れて船室を後にした。

船は荒波を受け大きく揺れながら進行方向を変えている。

その様子は打ちつける荒波からも見てとれた。

それはまで横に揺れていた船が前後に揺れるようになったからだ。


「シーボルト、状況はどうだ?」

「舵も効くし問題ない。ただ波が高いからワントレッド号から離れる時は注意しないといけない」


波の具合では船が流されてワントレッド号に衝突してしまう危険がある。

そうなったら元もこうもない。

だから出発は慎重に進める必要があるのだ。


「マシュー。俺が合図をしたらエンジンをフルスロットルにしてくれ」

「了解です」

「俺達は何をしたらいい?」

「カイト達は窓から外の様子を確認していてくれ。もし、ワントレッド号に衝突しそうになったら教えてくれ」

「わかった」


俺達はそれぞれの窓に張り付いて外の様子を確認する。

俺は右、エレンは後方、セリーヌは左だ。

見る限りでは何も問題はない。

ただ激しく波が打ちつけて飛沫が視界を塞いでいたくらいだ。


「よし、出発するぞ」


シーボルトは舵を大きく回して船首を南側に向ける。

次いでマシューに指示を出してエンジンをフルスロットルにさせた。

船は荒波を掻き分けながらワントレッド号から離れて行く。


「順調なスタートだ」


誰もがそう思った時、海中に巨大な影が浮かび上がった。

それはシーボルトの船の下に潜り込んでピタリと張りつく。

そして巨大な長い足を伸ばして進路を塞いだ。


「クラーケンだ!」


目の前に現れた巨大なイカは全長50mは有に越えている。

器用に手足を船に巻き付けて船の動きを止めた。


「ちくしょう。食いつかれた!」


船は頭上高く持ち上げられて海面から離れてしまう。

俺達は成す術もなくクラーケンのされるがままになっていた。


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