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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第三章 帰郷するおばさん編
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あるある070 「ルール無用で戦いがち」

最後の扉を開けると中には九つの宝箱が並んでいた。

その宝箱は升目上に置かれている。

見るからに何か怪しげな雰囲気がある。

恐らくだがここにも盗賊避けの罠が仕掛けられているはずだ。


「どれが正解だと思う?」

「こればっかりは開けてみないとわかりませんわね」

「何をそんなに警戒しているんだよ。片っ端から開ければいいじゃないか」


と、エレンが一番右側の宝箱に手を伸ばす。

すると、宝箱の蓋が開いてエレンに襲いかかって来た。


「ミミックだ!」


ミミックは宝箱に擬態したモンスターのひとつだ。

ダンジョンでは定番とも呼べるほど出現率が高い。

その風貌から冒険者達は誘い込まれ犠牲になるのだ。

だからミミックの腹の中には冒険者達の遺骨が入っていることが多い。

今もエレンを飲み込もうと大きな口を空けている。


「そんなレベルで私を飲み込もうなんて考えが甘いぞ!」


エレンは刺突を食らわせてミミックから距離をとる。

すると、ミミックは普通の宝箱に擬態した。

どうやら近くまで接近すると襲いかかって来るタイプのようだ。

けれど、これで一番手前の右の宝箱はミミックだと言うことがわかった。

残るは八つだ。


「セリーヌはどの宝箱が正解だと思う?」

「順当に考えれば真ん中が正解のような気がしますけれど、私はくじ運がありませんからハズレかもしれません」

「俺も同じ考えだ。やっぱり真ん中に宝を隠すだろう」


四方をミミックが守る形になるから自然なのだ。

ただ欲を出したエレンは他にも宝が隠されていると踏んでいた。

その可能性もなくはないけれど可能性としては低い。

宝の入った宝箱を並べてあっても盗ってくださいと言っているようなもの。

それじゃあ盗賊の思う壺だ。

だからその線はないと考える。

そんな俺の考えを無視してエレンは次の宝箱に近づいた。

するとまたミミックに姿を変えて襲いかかって来た。


「こいつもハズレかよ。シケてやがるな」


エレンはミミックに動じることもなく軽くあしらうと距離をとった。

ここにいるミミックはその場所から動けないようだ。

索敵範囲は周囲5メートル。

その圏内に獲物が近づいたら襲いかかって来る。

宝箱が5メートル間隔で置かれているから死角はない。

なので真ん中の宝箱に近づけば前後左右のミミックが襲って来ることになる。


「エレン、むやみやたらと宝箱に近づくな。本物は真ん中だけだ」

「どの道、こいつらを倒すことになるのだろう。なら、片っ端から片づけるだけだ」


エレンは俺の注意を無視して一番手前の真ん中の宝箱に近づく。

例の如く、宝箱はミミックに姿を変えて襲いかかって来た。

すぐさま大剣を打ち下ろしてミミックに一撃を加えて距離をとる。


「こいつもハズレか」

「だから言ったろ。本物は真ん中だけだ」

「そのようだな」


やっとエレンも理解したのか攻撃を止めた。

ミミックは近づかなければ襲って来ない。

ならばセリーヌの『ホーリーランス』が有効だ。


「セリーヌ。『ホーリーランス』で正面のミミックを粉砕してくれ」

「わかりましたわ」


俺の指示を受けてセリーヌが魔法の詠唱に入ろうとすると急に止めた。

それは魔法の詠唱が出来ないからだ。

詠唱の言葉は無に帰されて何も発することが出来ないでいる。

これはこの部屋にかけられている結界が原因のようだった。

床を見ると大きな魔法陣が描かれていた。


「魔法を封じこめる結界が敷かれてあるようだ。これでは魔法が使えない」

「私の出番はここで終わりのようですね」

「あとは私に任せておけ」


エレンは一歩前に踏み出して大剣を構える。

最短ルートは真ん中のミミックを倒すことだ。

しかし、それでは左右のミミックを一度に相手しなければならない。

3体のミミックを同時に相手をするなんてエレンでも苦労するはずだ。

それは一番角を攻めても同じことが言える。

うまい具合に配置されているからミミックに死角はない。

仮にエレンが真ん中のミミックを対峙した場合は左右のミミックも同時に相手することになる。

俺が代わりに右のミミックを抑え込んだとしても後ろにいるミミックを相手にしなければならなくなるのだ。

同時に2匹のミミックを相手にするのは荷が重い。

俺が作戦の立案に悩んでいるとエレンが啖呵を切った。


「カイトはそこで見ていろ。こいつらは私ひとりで片づけてやる」


エレンは何を思ったのか一番真ん中の宝箱の上に飛び乗る。

すると前後左右のミミックが反応して襲いかかって来た。


「いきなり4匹を同時に相手するなんて無茶だ」


エレンは深く呼吸をすると両足を踏ん張って大剣を振り回す。


「あの構えは!」


エレンが火炎百足戦で見せた必殺技『大旋風』を放ったのだ。

『大旋風』は竜巻のように旋風を巻き起こすから周囲に敵がいる時に有効だ。

ミミックはその場から動くことが出来ないから余計に攻撃を受けることになる。

なのでミミックは今まさに『大旋風』の直撃を受けていた。


「お前らなど所詮、私の敵ではないのだ」


ミミックの体には『大旋風』の斬撃が刻まれている。

しかし、とどめを刺すまでには至らなかった。

さすがにエリア攻撃の『大旋風』では威力が弱いようだ。

するとミミック達は口の中からどす黒い霞を吐き出した。


「何だ、これは?」


どす黒い霞はエレンを包み込んで姿を隠してしまった。





エレンは暗闇の中で自分を見失っていた。

体の中に入り込んで来た霞がエレンの思考を支配してしまったのだ。

頭の中を蝕むように恐怖がエレンに襲いかかる。

同時に、これまで戦って来た強敵が幻となって現れた。


「お前はガイア。何でこんなところにいるんだ」


幻の黒騎士ガイアは答えることもなくエレンに襲いかかって来る。

『魔法剣』で炎の剣を作り出しエレンを焼き尽くそうとした。

すぐさま大剣で攻撃を受け止めるが飛び散った火の粉がエレンに振りかかる。

同時にエレンの体に炎が乗り移って燃やしはじめた。

たまらずにエレンは炎を振り払おうとする。

しかし、錆のようにこびりついた炎は消えることがなかった。


「ぎゃぁぁぁぁ!体が焼ける……」


激しい痛みがエレンの体を駆け巡る。

それはまるで生皮を剥がされるような痛みだ。

エレンはその場に倒れ込んで必死に痛みを悶えていた。


(何で勝てない)


『それはお前が弱いからだ』


エレンの頭の中にガイアの声が木霊する。


(確かに私はお前に負けた。だからと言って弱いって訳でもない)


『お前は弱いのだ。弱さを捨てよ。さすればお前は解放される』


(そんなことが出来るものか)


『お前に必要なのは強さだけだ。弱さはいらない』


瞬間にカイトの面影が目の前に浮かぶ。


(私の弱さはカイトだと言うのか。確かにカイトは何かと足を引っ張ってくれる。しかし、私にとってはかけがえのない仲間だ)


『弱さを捨てよ。弱さを捨てるのだ』


(私にカイトを捨てろとでもいうつもりか)


『弱さを捨てよ。弱さを捨てるのだ』


ガイアの声は呪文のようにエレンの頭の中に響きわたる。


(私は……)


『弱さを捨てよ。弱さを捨てるのだ』


(……そんなこと出来る訳がないだろう!私達は仲間なんだ!)


エレンが正気を取り戻すとガイアの幻が煙のように姿を消した。





「ハアハアハア。私は幻を見ていたのか」


エレンは大きく肩で呼吸をしながら辺りを見回す。

すると、4匹のミミックは大きな口を空けて構えていた。


「おい、エレン。大丈夫か?」

「ああ、何ともない。こいつらにはお礼をしないといけないな」


エレンは大剣を構えながら攻撃体制を整える。

とりあえずエレンは無事だったようだがピンチであることには変わりない。

前後左右をミミックに取り囲まれているのだ。

一度に4匹のミミックを相手にするのは骨が折れるだろう。

頼りの『大旋風』も決定打にはならないのだ。

だから1体1体確実に潰して行くことが必要だ。

エレンとミミック達は睨みあったままタイミングを見計らっている。


「エレン。ひとりで4匹のミミックを相手にするのは無理だ。いったん戻れ」

「カイトは私が負けるとでも思っているのか?」

「あたり前だろう。さっきもやられそうになったじゃないか」

「さっきのは不意を突かれただけだ。だが、今は違う」


どこからそんな自信が湧いて来るんだ。

この状況はどう見てもエレンに不利だろう。

エレンはピンチに追い込まれるほど燃えるタイプなのはわかっている。

けれど、それは勝ってこその主張だ。

それにこれは試合ではない。

殺るか殺られるかの命をかけた戦いなのだ。

すると、エレンは静かに大剣を鞘に納めて抜刀の構えをとる。


「抜刀の構えだと。シドの真似でもするつもりか?」


辺りの空気がピリピリとしはじめた瞬間、ミミック達が一斉にエレンに飛びかかった。

大口を空けて前後左右から襲いかかる。

エレンは回避行動をすることなくギリギリまでミミックを引きつける。

そして噛みつかれる瞬間に抜刀をして斬撃を加えた。

正面にいたミミックの横面に一撃が入るとミミックは粉々に破壊される。


「まずは一匹」


次いで左足を踏ん張って高く飛び上がると後ろのミミックの背後に回り込む。

そして落下のスピードと合わせて勢いよく大剣を振り下ろした。

後のミミックは真っ二つに裂けてバラバラに破壊される。


「二匹目」


エレンは着地すると同時に左側のミミックの側面に回り込む。

そして大剣を振り払って左側のミミックの横面に一撃を加えた。

左側のミミックは直撃を食らい蓋と箱が二つに裂ける。


「三匹目」


ラストは右側のミミック。

エレンは左側のミミックを踏み台にして一気に間合いを詰める。

そして大剣の切っ先を右側のミミックに向けると閃光の如く刺突を放った。

エレンの一撃は右側のミミックを捉えて風穴を開けた。


「四匹目」


この一連の動作はものの数秒で行われた攻撃だ。

抜刀の構えをとることで一撃目の破壊力を増した。

その勢いを押し殺すことなく流れるような動作で攻撃を仕掛ける。

その戦い方が功を奏したようで一度に4匹のミミックを撃破することに成功したのだ。

エレンはいつの間にこんな戦い方を身に着けたのだろうか。

コロセウムでの経験がエレンを大きく成長させたようだ。


「さて、お宝をいただくぞ」


エレンは真ん中の宝箱の上に腰をかけながら俺達に催促をする。


「それはいいけど、まだミミックが4匹も残っているんだぞ。これじゃあ近づけない」

「カイトの分を残してやったんだ。好きなだけやれ」

「好きなだけやれって言われてもな」


残りのミミックは真ん中の宝箱の対角線上にいる。

四隅にいるから1匹ずつ戦うことが出来る。

無駄な戦いを避けるためにも手前側の1匹だけを倒せばいい。

俺は小剣を構えて右手前のミミックに狙いを定めた。


「カイト。そいつの死角は背後だ。背後に回り込め」

「背後だな」


ミミックの背後に回り込むには右回りか左回りに一瞬で移動する必要がある。

素早さに定評のある俺にとっては簡単なことだ。

ただ攻撃力は低いから一撃で倒すことは難しい。

仮に反撃でもされたらひとたまりもないだろう。

ミミックの死角に回り込んで確実に仕留める方法が必要だ。

そのためには――。


「行くぞ!」


俺は一気に間合いを詰めると寸の所でミミックの頭上に飛び上がる。

そして空中で体を反転させて向きを変えるとミミックの背後に回り込んだ。


「これで終わりだ!」


落下のスピードを活かしながら小剣を突き立ててミミックの頭を突き刺した。

小剣はミミックを貫き地面に突き刺さる。

すると、ミミックはバラバラに崩れ去った。


「ふー。何とか倒せたぞ」

「カイトにしてはやった方だな」

「カイトにしてはは余計だ」


けれどこれで火炎百足に続いてミミックを討伐することに成功した。

僅かだが確実に戦闘経験を積めている。

この調子でいけば俺も強くなれるはずだ。

俺は落ちていた黄色の魔石を回収するとエレンに合流した。


「さて、お宝を見せてもらおうか」

「待て、エレン。もしかしたらこれにも罠が仕掛けてあるかもしれない」

「おいおい、カイト。警戒し過ぎだ。これはどう見たって宝箱じゃないか。罠なんて仕掛けられてないさ」


エレンは俺の制止を無視して宝箱の蓋を開ける。

すると、中から赤色に輝いている球体が姿を現した。


「何だ。たまっころひとつじゃないか。こいつがお宝だとでも言うのか?」

「これはレッドオーブですね」

「レッドオーブ?」

「レッドオーブと言うのはドラゴンが握りしめているオーブのことです。レッドオーブは炎の力が宿っており大地を焼き尽くすほどの力を秘めています。よく神話とかに描かれていますわ」


確かにセントルース騎士団学校にいた頃に図書館で見たことがある。

ドラゴンと言うのは神話で登場する聖獣でかつて大地を支配していたらしい。

神に次ぐ力を持っているため人間達から崇められていたそうだ。

そんなドラゴンのオーブがなんでこんなところにあるんだ。


「なら、これを売ったら相当な金になるな」

「お前はそれを売るつもりでいるのか?」

「私達が持っていても何の役にも立たないだろう」

「レッドオーブはドラゴンにしか扱えませんからね」


それにしても売るなんて勿体ないような気がする。

あのドラゴンが持っていたオーブなんだぞ。

そんな貴重なものを売るなんて俺には出来ない。


「こいつは俺達の家宝にしよう」

「何を言っているんだ、カイト。そんなたまっころを持っていても邪魔になるだけだ」

「そうですわよ、カイトさん。私達には多額の借金があるんですから、それを売って借金を返しましょう」

「お前達は本当にそれでいいのか?こいつはドラゴンの持っていたレッドオーブなんだぞ。見つけようと思っても見つからない貴重なものなんだぞ。それを売るなんて」


レッドオーブを見つめながら物欲しそうにする俺を見て、エレンが切り返す。


「なら、カイトは借金を背負ったまま冒険を続けるつもりなんだな」

「そ、それは……」


借金を背負ったまま冒険を続けるのは難しい。

冒険には何かと金がかかるしクエストをこなしても借金の返済にあてるだけなのだから。

クエストをクリアした喜びが感じられなくなる。

やっぱり苦労してクエストをこなしたら多額の報酬をもらわないと締まらないよな。

だけど、レッドオーブを手放すことも名残惜しい。


「カイトさん、諦めてください。これを売って借金を返しましょう」

「そうだぞ。私も酒が飲めないのは嫌だからな」

「うう……わかったよ。売るよ。売ればいいんだろう」


また冒険を続けていればもっと貴重なお宝に出会えるはずだ。

そうあってもらいたい。

でなければレッドオーブを売ることが無駄になってしまうから。


「それじゃあシーボルトの所へ帰ろうぜ」


そう言ってエレンが宝箱からレッドオーブを取り出すとカチっと音がした。


「何だ?」


そして宝箱がズリズリと競り上がって来て腰のあたりの高さで止まる。

すると地響きが聞えて来て壁が崩れはじめた。


「マズい。ダンジョンが崩れるぞ!」

「ちぃ。こんな罠も仕掛けていたのか」

「カイトさん。急ぎましょう!」


俺達は慌てて宝物庫から飛び出す。

来た道を引き返しながら全力で駆け抜ける。

ダンジョンの崩壊は止まることなく俺達を追い駆けて来る。

モンスター達も慌てて逃げ回っていた。


「あと少しだ。頑張れ」


俺達はダンジョンの崩壊と同時に外に飛び出す。

すると、ダンジョンの入口は跡形もなく消え去ってしまった。


「ふー。何とか助かったか」

「ギリギリだったな」

「けれど、もうダンジョンには入れなくなってしまいましたね」

「お宝は手に入れたんだからいいさ」


俺達が一息ついているとトイプーの鳴き声が聞えて来た。


「ワン、ワン!」

「トイプー。何でここにいるんだ?」

「大きな揺れがあったから気になって来てみたんだよ」

「シーボルト!」

「俺もいるぞ」

「キル!」


シーボルトとキルは水筒と僅かばかりの食料を持ってやって来た。


「で、お宝はみつかったのか?」

「もちろんだ。エレン、見せてやれ」


エレンはシーボルトにレッドオーブを差し出す。

すると、シーボルトは目を見開いて一瞬静止した。

そしてエレンの手からレッドオーブをはぎ取ると舐め回すように見つめる。


「こ、こいつはレッドオーブじゃないか!どこでこれを見つけたんだ」

「ダンジョンの最深部にあった」

「そうか……こんなものがこんなところにあるなんてな」


感慨深そうにシーボルトは唸りながらレッドオーブを眺めていた。


「それでこれをどうするつもりなんだ?」

「売るつもりだ」

「そうか。相当な値がつくだろうな」


シーボルトによれば金貨100枚の値がつくと言うことだ。

金貨100枚もあれば借金を返せて、かつマーベルの教会も建て直せる。

しばらくは遊んで暮らせるはずだ。

俺達はレッドオーブを持ってマビジョガ島を後にした。


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